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作品ID:1405
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第3話「ウンケルバッハの闇」

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第5章.第3話「ウンケルバッハの闇」



 クロイツタールに午後三時に到着。

 ホラーツのギルドカードを商業ギルドに届ける。

 簡単に事情を聞かれるが、特に何事もなく事情聴取は終わった。ギルドカードの回収報酬を提示されたが、遺族に渡してほしいと頼み、ギルドを出ていった。



 その後、騎士団本部に向かう。



(個人的にはあまり行きたくないんだけどなあ。閣下はいつでも顔を出せと言ってくれていたから出向かないわけにはいかないよな。社交辞令ってこともあるけど、バルツァー副長にでも会えれば十分だろう)



 クロイツタール城の正門で騎士団のエンブレムを出し警護の二十歳くらいの若い騎士に見せる。

 最初胡散臭そうに見ていた彼は、エンブレムの裏を見ると急に直立不動の姿勢になり不敬を詫びる。



「団長付と知らず失礼いたしました。自分は従騎士のカールハインツ・ネールバウアーと申します。タイガ殿を副長室にご案内させていただきます」



 いきなり変わった態度に困惑しながら従騎士のネールバウアーの後を付いていく。



(”団長付”ってそんなに偉いのかね?そういえば、配属直後のあいさつ回りで”支社長付”っていう年配の人は顧問みたいなもんだって先輩が言っていたなぁ。そんな感じに勘違いされているのかな?)



 黙って歩いているのは間が持たないので、ネールバウアーに公爵がいるか聞いていみる。



「ネールバウアー様、閣下はご不在ですか」と一応下手に出ながら聞いてみる。



「閣下はドライセンブルクで新年祝賀の行事にご出席されております。聞いているご予定では一週間後にお戻りになるはずです」



 副長室に通されるとダリウス・バルツァー副長が笑顔で迎え入れてくれた。



「良く来られた、タイガ殿」



「ご無沙汰しております」



「せっかく来られたのだが、閣下は生憎ご不在だ……」



 バルツァー副長から、時間があるなら閣下が戻られるのを待ってはどうかと提案される。



「大変心苦しいのですが、急ぎの用がありドライセンブルクに行かなければなりません。帰りにはご挨拶に参りますので今回は失礼させていただきます」



「了解した。クロイツタール街道を南下するならウンケルバッハ辺りで閣下とすれ違うだろう。目通りを願い出れば閣下も喜ばれると思う」



 副長は真面目な顔でそう言ってきた。

 俺は社交辞令にしては押してくるなと思いながら、



「判りました。機会があればそのように致します」と答えておく。



 副長と対等に話し、公爵が会うと喜ぶとの話を聞き、後ろで見ているネールバウアーが興味深そうにしている。

 とりあえず、義理も果たしたので、クロイツタールの町に戻り、以前泊った「煮込み鍋と暖炉」亭に宿泊する。

 名前の通り、暖炉がある食堂で食べる自慢の煮込み料理――今日はビーフシチューっぽい――は、真冬の冷えた体がよく温まる。マックスがお勧めな理由はこの辺りにありそうだ。



 翌日も気持ちがいいほどの冬晴れ。クロイツタールを出発し二十五マイル先のケシャイトの町に何事もなく、無事に到着した。



 ケシャイトに宿泊した翌日は、冬のどんよりとした曇り空が広がっている。

 宿の主人に聞いてみると、今日は一日曇り、明日から天候が崩れるとの予報だった。ウンケルバッハ伯爵領にはあまりいい思い出がないので少し無理をしてウンケルバッハの町を飛ばし、三十マイル=四十八km先のファーレルの町を目指すことにした。

 出発後、十五マイルを四時間で移動し、午前十一時頃ウンケルバッハの町を通過する。



(この調子で行けば午後四時にはファーレルに入れるな)



 だが、ウンケルバッハを過ぎると次第に雲が厚くなっていく。俺は空を見上げ、雪が降らないことを祈りながら馬を急がせる。

 祈りも空しく午後一時頃、雪がちらつき始めた。



(どうもウンケルバッハ領とは相性が良くないな)



 念のため、ウンケルバッハとファーレルの間にあるジーレンという名の村の位置を聞いていたので雪の中で野宿ということはない。その安心感もあり、



(あと二時間でファーレルに到着できる。このくらいの雪なら行ってしまおう)



 そう考え、ジーレン村を素通りする。午後二時頃ジーレン村を通過したころから、雪は少し強くなっているが、その時はまだ移動に支障はなかった。



 ジーレン村を通過してから三十分ほどで急に雪が酷くなる。マントのフードを深くかぶるが、前が見えなくなり始め、ファーレルに進むかジーレンに戻るかの選択を迫られる。



(ファーレルまであと八kmくらいか。ジーレンへの分岐までは三km。段々進むスピードが落ちているから、ファーレルには三時間以上掛かるかもしれない。ジーレンに戻る方が賢明か)



 雪の状況を見てジーレン村に戻ることを決断。馬首を巡らしジーレン村に向かう。

 雪は更に酷くなり、馬に乗っての移動が難しくなってくる。馬を引きながら歩いていくが、マントの隙間から雪が吹き込み、寒さが堪える。

 三十分で来た道を一時間以上掛けて戻っていく。ジーレン村への分岐点を危うく見落としそうになったが、無事ジーレン村への道を見つけ、更に一時間ほど歩くと、ようやく十軒ほどの小さな集落が見えてきた。



 村を見たとき、なぜか違和感を覚えた。近づいていくにつれ違和感は次第に鮮明になっていく。自分の直感を信じ、慎重に村に近づいていった。



(雪が降っているとはいえ、人の気配がなさ過ぎる。煙突からも煙はほとんど出ていない)



 感じていた違和感の原因が判り始めた時、風の音に紛れながら悲鳴のような声が聞こえてきた。

 俺は村から少し離れた場所に馬を繋ぎ、村の入口を迂回して悲鳴のした方に慎重に歩を進めていく。

 

 悲鳴が聞こえたと思しき一軒の家の周りには、革鎧を身に着けた屈強な男が一人周囲を警戒している。

 革鎧の男は村の入口側を睨むように見ながら、時々家の周囲を巡回している。

 革鎧の男に見えないように慎重に家に近づくと中から血の匂いと悲鳴が漏れてきている。女の悲鳴の中、指示を出している甲高い男の声が聞こえてくる。



「さっさと処分しろ。明日には公爵が街道を通る。まだやることが山ほどあるんだ」



(公爵? クロイツタール公爵のことか? 何をするつもりなんだ?)



 更に家に近づき、隙間から中を覗いてみると、服を引き裂かれ泣き叫ぶ女性たち、彼女たちに剣を振るう傭兵らしき男、その手前には革鎧を着た男たちと貴族らしい服を着た若い男が話しをしている。



「客人たち、後をお願いしてもよいかな。北の方々はこの程度の吹雪はどうということもないだろうが、僕には寒すぎる。暖かい部屋に行くよ」



 皮鎧を着た男は恭しい態度で、「畏まりました閣下」と深々と頭を下げる。

 その貴族らしい若い男はまんざらでもないという表情をしながら、



「閣下はまだ早いよ。まだ僕は伯爵家の穀潰しに過ぎないんだからね。この計画が成功して初めて僕も閣下と呼ばれる立場になるんだから。それにあの伯父上が上手く動いてくれることが前提だからまだまだ油断できないよ」



(伯爵家? 伯父上? なにかやばい感じがするぞ。確かクロイツタール公はここを明日当たりに通過する予定だったな。どうもきな臭いな……)



 あまり長居をすると不味いと考え、静かにその家を離れ、ジーレン村を出て行った。



(どちらにしてもここに泊まることはできない。雪の中で夜営するにしてもさっきの口振りだと罠を仕掛けに街道まで来るかもしれない……)



 ファーレルまでは約十五km。馬を引き暗闇の雪の中を進むことを考えると五時間以上掛かる。



(留まっていても襲われるリスクがあるなら、雪の夜道を歩くリスクに掛けてみるしかないか……)



 馬のところまで戻り、既に日が落ちた暗闇の中を松明もつけずにクロイツタール街道まで戻っていく。

 クロイツタール街道に出てから森の中で拾った枝を松明にし、街道を南下して行った。



 何度か雪に足を取られながら雪の街道を歩いていく。真っ暗な雪の森の中を小さな松明の火を頼りに歩いていくため、一歩一歩に神経を使い、身を切る寒さと疲労で徐々に気力が落ちていく。



(段々感覚がなくなってきた。休憩を取るとそのまま動けなくなりそうだ。しんどいがファーレルまで行ってしまわないと明日の朝に凍死体になって発見されるかも……)



 ただひたすら、前に進むことだけに集中し、雪の街道を進んでいく。幸運なことに魔物が現れることはなかった。もし、魔物との戦闘になっていたら、狼程度が相手でも敗れていたかもしれない。



 ジーレン村を出てから五時間以上、十時頃にファーレルの町に到着する。

 疲労困憊で倒れこみそうになるが、当然、ファーレルの町の門は閉まっている。

 俺は残っている気力を振り絞り、門を叩く。



「クロイツタール騎士団のものだ! 至急公爵様にお伝えすることがある。開門してくれ!」



 すぐに門番らしき男の声が門の向こうから聞こえてきた。



「こんな時間に何だ? クロイツタール騎士団の方なら証明するものを見せていただこう」



 言われたとおり、門番に騎士団のエンブレムを見せるが、騎士には見えない冒険者姿に門番は本物か判断できない。

 既に休息を取っている騎士団の関係者を呼び出すのも躊躇われるようだ。



 やりとりをすること十分。埒が明かないので強引に騎士団関係者を呼び出させる。



「公爵様にタイガが至急お伝えしたいことがあるとお伝えしてくれ! 急を要するんだ! 騎士団のものを誰でもいいから連れてきてくれ!」



 更に十分がすぎ、公爵の護衛隊長のロベルト・レイナルドが現れ、騎士団のエンブレムを確認、ようやく町に入れてもらえた。



 足を引き摺るように公爵の泊る宿に向かいながら、レイナルド隊長にジーレン村で見たことを簡単に伝えておく。



「閣下に直接お伝えしなければ……」



「閣下は既にお休みになっておられる。今聴いた話では確かなことは何もわかっておらん。閣下には明日の朝一番でも良いと思うのだが……」



 レイナルド隊長はエンブレムこそ本物であるものの、面識のない冒険者姿の俺の言葉を素直に信用できないようだ。



(確かに確定的な話じゃないが、閣下ならすぐに話を聞きたいはずだ。団長付に権限があるかどうかわからんが、ここは正面突破をさせてもらう)



「団長付として閣下のご判断を仰ぐことが必要だと判断しました。閣下からのお叱りは私が受けます。早く閣下にお伝え下さい」



 レイナルド隊長もあやふやな団長付の権限というより、俺の鬼気迫った物言いに折れ、五分後、クロイツタール公に目通りが許される。



「話はロベルトより聞いた。危険を顧みず、よく伝えに来てくれた。大儀であったな」



 公爵は睡眠を邪魔されたことはおくびにも出さず、労ってくれた。



「お褒めのお言葉はまだ早いと思われます。ただ単にお騒がせしただけかもしれません。危険についてはあの場に留まるわけには行きませんでしたら、お褒めいただくようなことではございません」



「まあよい。ロベルト。正騎士以上のものを至急集めよ。タイガ、そなたも来てくれ」



 すぐにレイナルド隊長の他、正騎士八人が食堂に集まる。



 公爵から俺の持って来た情報が伝えられ、明日の方針について話し合いが始まる。一人の正騎士から俺の判断の根拠を尋ねられた。



「タイガ殿は罠だと判断された。その根拠は」



「憶測が多く入りますが、ウンケルバッハ伯爵領で”伯爵家”、閣下が領地に戻られるタイミングで”公爵”、そしてこの北部という土地で”北の方々”。このキーワードから導き出されるのは、閣下を排除したいと言う点で一致するジャルフ帝国とウンケルバッハ伯爵家が結託し、閣下に何かを仕掛けてくるということではないかと」



「それはそうだが、もし閣下を亡き者にしようとする企みであれば、我々を排除する必要がある。ウンケルバッハの騎士や傭兵如きに遅れは取らんぞ」



「相手にどの程度の戦力がいるかは確認できておりません。相手は閣下の護衛の数を把握しているのでしょう。いかに精強なクロイツタール騎士団の方々とは言え、狭い街道で奇襲を掛けられた上に数倍の戦力で襲い掛かられれば、もしもということもありえます」



 更にその騎士は俺に疑問をぶつけてくる。



「その首謀者らしき男が話していることが罠ではないのか。自らの領民を殺害するというのも理解できん」



「若い伯爵家の親族は慎重さに欠ける性格と見ました。普段なら誰も来ない小さな村、私のように聞き耳をたてているものがいるとは考えなかったのでしょう。村人の殺害については私にも理由がわかりません」



 議論を続けていると公爵が武人らしい決断をする。



「確かにどのような罠かは判らん。だが少なくとも王国の民が害されたのだ。この罪は償わせねばならん。明日の朝、夜明けとともに馬で現場に急ぐ。部下たちにそう伝えよ」



 騎士たちは公爵の決定に不満を持つことなく従い、それぞれの部下に伝えに行く。

 俺は腑に落ちないことがあり、考えていた推論を公爵に話しかてみる。



「ジーレン村の民を殺害した件ですが、閣下を犯人に仕立てるためにウンケルバッハ伯が仕組んだとは考えられないでしょうか。念のため、第三者のファーレルの守備隊からも人を連れて行ってはいかがでしょう」



「うむ。奴めならその程度のことはやりかねん。ロベルト、ファーレルの守備隊はノルトハウゼン伯の配下だったな。騎士を一人同行させるよう話を付けておいてくれ」



 レイナルド隊長は守備隊の詰所に向かうため、部屋を出て行く。

 部屋には公爵と二人の護衛だけが残り、



「明日はそなたにも一緒に来てもらうぞ。今日はゆっくり休め」



 いつの間にか公爵の宿泊所に部屋が用意されており、疲れ果てた俺はすぐに倒れこむように眠っていった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/05 17:18
更新日:2013/01/05 17:18
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1405
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