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作品ID:1407
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第4話「雪中の戦闘」

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第5章.第4話「雪中の戦闘」



 翌朝、雪はまだ降っているが、動けないほどではない。特に北部で活躍するクロイツタールの騎士にとっては大した障害にはならないようだ。



 騎士は総勢四十名ほど、さすがに訓練が行き届いている騎士団だけのことはあり、武装を整え、夜明けの三十分前には既に整列している。



 使用人や物資を積んだ馬車はファーレルに待機させることにし、騎乗の騎士のみでジーレン村に向かうようだ。



 夜明け直前にファーレルを出発。

 昨日の疲れが残り、正規の訓練を受けていない俺は騎士団の移動速度についていくのがやっとの状態。



 それでも一時間ほどでウンケルバッハ伯爵領内に入る。

 ウンケルバッハ領内に入ると騎士たちの表情が一気に引き締まる。まるで敵地に向かう面持ちだ。



 クロイツタール公は罠を警戒し、騎士五名を先発させる。自らは隊列の中央部に陣取り護衛の騎士を左右に従え粛々と馬を進めていく。



 ウンケルバッハ領内に入ってから三十分。前方から戦闘の音が聞こえてきた。

 先発した騎士が何者かと戦っているようだ。



 公爵の指揮の下、抜き身の剣を持ち、駈足(キャンター)で現場に急行する。



 前方では狭い街道で五名の騎士が二十名ほどの徒歩(かち)の襲撃者と戦っている。



 公爵の号令で騎士二十名が救援に向かい、残りは周囲を警戒している。



 襲撃者は二十名からなる騎士の出現に算を乱して森の中に逃げ込んでいく。森は雪に覆われているため、騎乗で乗り込むことは危険と判断し、騎士たちも徒歩で襲撃者たちを追いかけていく。



 公爵も馬を降り、噂のデュオニュースの名剣、“クヌート”を手に徒歩で襲撃者の追撃を開始する。



(おかしい。クロイツタール公の護衛の数はわかっていたはずだ。襲撃者の数が少なすぎる。この先に罠でもあるのか)



 公爵もレイナルド隊長も同じ疑問を持っているようで、猪突せず慎重に追撃を行っていく。



 突然、公爵が俺に「この状況をどう思うか」と問いかけてきた。



「襲撃側の数が少なすぎます。クロイツタール騎士団を襲撃しようとするほどの手練にしては逃げっぷりも良すぎると思います。この先に伏兵若しくは罠があるのではないでしょうか」



 公爵は少しうれしそうに



「そなたもそう思うか。やはり我が騎士団にほしいの。まだ入る気にならんか」



「はい、今しばらくお時間を。しかし、今はそのようなことを言っている場合ではないかと」



 戦場慣れしているのか緊張感がないだけなのかわからないが、こんな状況でのんきなことを言ってくる公爵に一言、言ってしまう。



(この程度の考察で嬉しがられるのはおかしくないか? それとも騎士たちはみな脳筋なのか?)



 公爵は一向に気にする様子も無く、突然話題を変えてくる。



「ここからジーレンの村までどのくらいの距離だ」



 森の中を移動しているため、距離感が掴めない。頭の中で地図を描き、



「正確な距離は判りませんが、およそ二マイルほどではないかと」



「いやもっと近い。地図を見る限りあと一マイルもないだろう。どうやらジーレン村に招待してくれるようだな」



 ジーレン村に入る道は街道に対して九〇度に接続しているわけではなく、斜めに繋がっているようで森の中をショートカットする形で進んでいるとのことだ。



(さすがに歴戦の武人だね。ただの戦闘狂だ、脳筋だとか思っていてすいませんって感じだ)



 追撃を開始して一時間。公爵の予想通りジーレン村に到着する。



 公爵は追撃している騎士たちに追撃を止めるよう指示を出し、村の入口で隊列を整え直す。

 数名の従騎士を偵察に出したため、俺も偵察に出ることを申し出る。



「閣下。私も偵察に行かせてください。罠などを見つけるのは冒険者である私の方が得意かと思います」



「許可する。だが無理はするな」



 従騎士たちとは離れ、森の中を大きく迂回し村の奥が見える場所まで移動する。鑑定が使えるアドバンテージを生かすため近くの木に登り、村の中と奥の森を見渡す。



 村の中には家の屋根の上に数名の弩(クロスボウ)を持った狙撃兵が配置され、森の奥にも長弓や弩を持った弓兵が二十名以上、レベルは低いが魔術師も二名隠れている。

 その他にも先ほど逃げ込んだ二十名の兵士が森の中で待機しており、村に入ったところで狙撃と強襲を掛けるつもりなのだろう。



 公爵のところに戻り、状況を報告する。

 先に戻った従騎士は数名の伏兵しか確認できていないため、強襲する案も出されていたが、俺の報告を聞き、作戦を変更する。

 公爵自らが率いる部隊とレイナルド隊長が率いる部隊に兵を分け、公爵が村から森へ、レイナルド隊長が森の奥から挟撃する作戦を取ることに決まった。



「ロベルトの部隊は森の中を迂回してタイガが見つけた弓兵を蹴散らせ。儂が率いる部隊が村に入って囮になる。タイガ、お前はロベルトの部隊に入って魔法で支援してやってくれ」



 標的になっている公爵自らが囮になる作戦だが、騎士団からは全く異論が出ない。



(閣下の判断を信じているのか命令に忠実なだけなのか判らないが、この無謀な作戦に異論が出ないのはどうかと思う。バルツァー副長辺りが閣下の手綱を握っていたのかな?)



 部外者の俺が言うことではないが、一応公爵に具申してみる。



「閣下自らが囮になることはないのではありませんか。森の中の伏兵の人数も最低それだけいるというだけです。更に伏兵がいた場合、兵力の分散はあまりよい考えとは思いません」



「はっきりという。だが、倍の兵力がいようと我が騎士団が遅れを取ることはない。儂のことは心配せんでも良い」と笑いながらだが、明確に言い切られる。



 こう言われてしまうと言い辛いが、更に俺が言い募ろうとすると、公爵も思うところがあったのか多少妥協してくれた。



「儂の部隊はロベルトの部隊が戦闘になったら突っ込む。合図はタイガの魔法だ。これならよかろう」



 簡単な打合せが終わり、俺はレイナルド隊長の部隊と共に森の中を大きく迂回して伏兵のいるところに向かう。

 大きく迂回したことと重装備の騎士たちを引き連れているため、一時間掛けて伏兵に気付かれない位置まで移動できたが、騎士たちの板金鎧の音が大きく奇襲効果は期待できない。そこでレイナルド隊長に俺が先行することを提案する。



「レイナルド様、私が先行して魔法で奇襲を掛け、伏兵が混乱しているところに突撃を掛けてはいかがでしょう」



 レイナルド隊長も自らの装備では奇襲効果が見込めず、接近中に弓で戦力を削られることを懸念しており、俺の提案に乗ろうか悩んでいる。



「私は第五階位までの魔法が使えます。任せてください」



 レイナルド隊長は第五階位まで使えるとの話を聞き驚くが、公爵が買っている俺を信じて提案に乗ってくれた。



 レイナルド隊長と簡単な打合せをし、静かに伏兵たちの背後に移動する。



 作戦は射程の長い風属性魔法のトルネードを伏兵たちの打ち込み、強風で地面や木々に積もった雪を巻き上げることで弓兵を混乱させ、その隙にレイナルド隊が突撃を掛けるという大雑把なものだ。



 トルネードは第四階位の魔法で俺の実力では発動までに約二分掛かる。射程は長いといっても約三十mでかなり接近しなければならない。

 敵にも魔術師がいることからマナの流れを感じられると事前に察知される可能性があり、かなりギャンブル性の高い作戦だ。



 幸い敵兵は反対側の村の方しか警戒しておらず、森の奥に注意を払うものはいない。

 慎重に進んでいくが、歩くたびに発する雪を踏みしめる音や雪に隠れた枝を踏み折る音が普段より大きく思える。



 敵兵たちとの距離をできるだけ縮めるため、最後は雪の中を匍匐前進で進み、ようやく所定の攻撃地点に到着した。



 レイナルド隊長に手を挙げて合図をし、呪文を唱え始める。



 トルネードは竜巻による強力な風に加え、エアカッターのような空気の刃で敵を攻撃する魔法だ。今回はダメージより混乱をもたらすことが重要なので可能な限り広範囲に発動するように調整する。

 

 敵の魔術師が気付かないか戦々恐々としながら、長い二分間に耐える。

 遂に呪文が完成し、敵の弓兵たちが混乱する位置にトルネードを発動させる。

 

 突然、森の中に強烈な風が吹き、轟という低く重い音と共に白いパウダースノーが巻き上がる。その白い竜巻は徐々にスピードを上げながら、敵兵に向かって進んでいく。



 後ろから不気味な音が聞こえた敵兵たちは一斉に振り返り、白い逆円錐状の塊が近づいてくることに驚いている。



 数秒後、竜巻に巻き込まれた弓兵たちは持っている弓や番えた矢を手放し、身を沈めて竜巻から身を守ろうとしている。



 敵兵の指揮官らしき男は後ろからの攻撃に驚きながらも部下に命令を下していく。



「後ろに回られたぞ! 後ろに警戒しろ!」



 しかし、竜巻の轟音で部下たちに命令が行き渡らない。一部の兵に至ってはパニックに陥っており逃走しようとするものさえいる。



 公爵はトルネードの発動を確認するや、すぐに村の中に突撃を開始した。

 混乱している伏兵からの攻撃は弱く、屋根の上からの弩(クロスボウ)の狙撃も護衛の騎士の盾(カイトシールド)で防いでいく。

 伏兵たちは急速に接近してくる敵を見つめているばかりで積極的に動くことができない。

 一方、レイナルド隊も伏兵の混乱を確認する間も惜しんで突撃を開始し、弓兵たちに向け怒涛の如く襲い掛かっていく。



 敵は魔法による混乱と前後からの挟撃で指揮系統が寸断されており、兵力を生かした有効的な反撃ができていない。

 

 俺はレイナルド隊と合流し、敵の弓兵隊の中に斬り込み、次々と敵を葬っていく。



 数人の敵を倒したあと、俺の目の前に弓兵の中にいた指揮官らしき男が現れる。



 指揮官はハーフプレートを身に着け、やや長めのロングソードにカイトシールドを手に持ち、周りの兵士たちに指示を飛ばしている。



(この指揮官は捕えて、真相を吐かせないといけないな。この混戦の中、殺さない程度にダメージを与えるなんて器用なことができるかな)



 提案した奇襲が成功し、余裕が出てきた俺はそんなことを考えながら、敵の指揮官に近づいていく。



 俺との戦闘が避けられない距離に近づいたとき、指揮官もようやく俺に気付く。

 一頻り悪態を吐いた後、剣を構えて襲い掛かってきた。

 実戦から離れている期間が長いのか、その構えからは脅威はさほど感じない。鑑定で見たわけではないが、剣の腕はそれほどではないようだ。

 

 二、三合打ち合った後、わざと隙を作る。俺の脇腹を狙ってきたロングソードを、体をひねってかわし、伸びてきた敵の利き腕をガントレットごと切り落とす。



 唸るような声を上げた指揮官は右腕を抑えて蹲る。



 その指揮官を生け捕りにしようとした瞬間、横から突っ込んできた敵兵の斬撃を右足に受けてしまう。

 幸い防具でほとんど防げたため、大したケガではなく、更に切りかかってきた敵兵を一刀の下に切り捨てる。



(ここは戦場なんだな。数十人単位の戦いは初めてだったんだ。余裕ぶちかまして流れ矢なんかで死んだらそれこそ浮かばれない……)



 油断したことに少し反省したあと、蹲った敵指揮官を生け捕りにするため、顎を思いっきり蹴飛ばし気絶させる。



 周りを見ると公爵隊が街道で襲ってきた兵士たちを圧倒し、レイナルド隊も弓兵たちをほぼ制圧し終わっている。



(戦闘はほぼ終了だな。後は黒幕がどう出るかだが……)



 そう考えながら討ち漏らしがないか周りを確認する。数十m離れた場所で森の奥に這って逃げようとしている煌びやかな服を着た男を見つける。



 昨日、革鎧の男たちと話していた若い男かもしれない。



 俺は雪の中を走り、這って逃げようとしている男に追いつくと剣を突きつけて降伏を迫る。



「降伏してもらおうか。それとも腕の一本でも切り落としたほうがいいかな」



「こ、降伏する。い、命だけは助けて……くれ」



 男は声を震わせ、涙と鼻水を流して命乞いをしてくる。よく見ると昨日村人を殺すよう指示を出していた男に間違いない。



 村人の命を虫けらのようにしか思っていないことを知っている俺は頭を雪に擦り付けて懇願している男の顔を思いっきり蹴飛ばしてから武装を解除する。



(胸糞が悪い! それにしてもこの男なんでここにいるんだろう? 捨て駒か? それとも罠の一環か? まさか単に無用心なだけということはないだろう)



 仮にウンケルバッハ伯爵家の関係者であるとすると失敗した時のリスクを考えれば切り捨てられる部下にすべてを任せるはずだ。この男が指揮官と優秀なら話は別だが、指揮官としても兵としても役に立たないことは間違いない。



(そう言えば、昨日見た革鎧の男たち、この男が北の友人と称した奴らを見ていないな。村の中で閣下の部隊に倒されたのか、それともすでに逃げ出しているのか……)



 男を無理やり立たせ、戦闘を終え残敵を掃討している公爵のところに引き摺っていく。



 敵の死者は約四十名、捕虜にしたものは約二十名。死者の中にも捕虜の中にも昨日見た革鎧の男たちはいなかった。

 一方、騎士団の損害は三名が死亡し、五名が重傷、軽傷は十名程度。重傷者は治癒魔法により動ける程度まで回復し、軽傷者は既に完治している。俺も足の傷を騎士団の治癒魔法の使い手に治療してもらった。



 公爵はレイナルド隊長に、



「タイガがおらねば、この程度の損害では済まなかったな。さすがに遮蔽物のない村の真ん中で狙撃されれば苦戦は免れまい……」



「はい、弓兵はおよそ三十名。これだけの弓兵に奇襲されればかなりの損害を負ったかと。今回はこちらが奇襲を掛けられたおかげで弓兵と接近戦が行え、有利になったのでしょう」



「そうじゃな。わが方はタイガ以外、遠距離攻撃の手段を持たん。偵察の重要性は常々考えておるが、今回ばかりは危うかった」



 公爵とレイナルド隊長は、タイガが命懸けで注進に及んでくれねば、全滅の危機もあり得たと話し合っている。

 

 二人は騎士団の損害が少なかったことに安堵しながらも、村の広場に散乱している村人の遺体を目にしているため、勝利の高揚感はない。

 二人の表情からは、村人を救えなかった悔恨の念が窺えるだけだった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/06 15:55
更新日:2013/01/06 15:55
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1407
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