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作品ID:1412
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第6話「ウンケルバッハ伯爵」

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第5章.第6話「ウンケルバッハ伯爵」



 午後一時過ぎ、雪中での戦闘が終わり、ジーレン村での惨劇の後始末をしている最中、突然、煌びやかな馬車と百名以上の兵士たちが村にやってきた。



 兵士たちは村の中に入り、馬車を守るように陣形を整える。

 兵士の配置が完了したあと、馬車の中から無駄に豪華な服を着た肥満体の四十がらみの男が現れた。



「儂はアウグスト・ウンケルバッハ伯爵である。わが領地で狼藉を働く武装集団がおるとの報告を受け討伐に来た。狼藉ものたちよ、直ちに降伏せよ!」



 思ったよりも張りのある声で降伏を呼びかけてきた。

 今まで見たことがないくらい不機嫌な顔をしたクロイツタール公が前に進み、



「ウンケルバッハ伯よ。これはどういうことか。何ゆえ王国騎士団総長コンラート・クロイツタールに剣を向ける!」



 公爵は不機嫌さを隠すことなく、伯爵を譴責するように声を上げる。

 伯爵の手勢がにわかにざわつき始める。どうやら騎士団総長である公爵を相手にすることを知らなかったようだ。



「これは、これは、クロイツタール公爵ではありませんか。閣下自らわが領地で何をしておいでですかな?」



 伯爵は慇懃無礼を絵に描いたような態度で問いかける。

 公爵は一瞬不快そうな顔をするが、すぐに笑顔を伯爵に向ける。



「儂のことはともかく、伯自ら討伐とは珍しいこともあるものよのう。いつここに狼藉者がおるという情報を得たのだ」



「今朝、この村の者が命懸けで知らせてくれましての。すぐに兵たちを招集し、急行してきたのですよ」



 伯爵はおぞましい笑顔を顔に貼り付けたまま、さも当然と言う顔で公爵に答える。

 公爵は伯爵の兵たちを見渡し、



「ほう、その者はここに連れてきておるのかな」



「もちろん。道案内を兼ねて連れてきておりますぞ。あの者をこれへ」



 伯爵はにやりと笑い、後ろに控える騎士に指示を出すと、すぐに村人の格好をした30代の男が現れる。

 現れた男はみすぼらしい服を着ているが、農民にしては目付きが鋭い。

 公爵はその自称村人に対し、



「直答を許す。その方の名は」



「ヤンと申します」



 ヤンという男は緊張も動揺もなく淡々と公爵の問いに答えていく。



 俺はただの村人が公爵に対して堂々と受け答えしている姿と家族が殺されたのに淡々と答える姿に違和感を持つが、どうやら公爵も同じ考えのようだ。



「ヤンよ。その方はいつ、何を見て、どう伯爵に伝えたのか」



「はい。今朝、完全武装をした兵が村にやって参りました。盗賊を追ってきたと言っておりましたが、いきなり村のものを殺し始めました。私は命からがら村を抜け出し、走りに走ってウンケルバッハのご領主様に村が襲われているので助けてくださいとお願いしました」



 伯爵は余裕の笑顔で公爵を見ている。

 俺は伯爵の姿を見て、ずさんな計画と想像力のなさ、カリスマ性の低さを感じ、この計画の立案者が伯爵ではないような気がして仕方がなかった。



(この伯爵は抜けているのかな。これを仕組んだのは本当にこの伯爵か? どうも違和感が残るな)



 公爵の尋問は続いている。公爵はヤンに襲撃の時間について確認している。



「今朝とは夜明けからどの程度経った頃か」



「夜明けの二時間後くらいかと」



 公爵はにやりと笑い、伯爵に向かって話しかける。



「ウンケルバッハ伯。済まぬが、その者を拘束して、儂に引き渡してくれんか」



 伯爵はさも理由がわからないという顔をして、公爵に理由を尋ねる。



「何故でございますかな。閣下はこの者にどのような用があるのですかな」



 公爵はいきなり口調を変え、



「たわけ! この者がこの村の者のはずはないわ!」



 伯爵は公爵が罠に掛かったと思ったのか、笑顔を隠そうともせず、強い口調で公爵を弾劾する。



「何ゆえこの村を襲ったのです! 更に唯一の証人を引き渡せとは。王国の重鎮といえども、わが領民を殺害した罪からは逃れられませんぞ。すぐに武器を置いていただきたい!」



 伯爵の手勢は、伯爵が最初から公爵を相手にするつもりであったことが、ようやくわかったようだ。

 相手に罪があり、こちらの数が二倍以上であることに自信を持ち、最初に起こった動揺は収まっている。



 伯爵は、武器さえ取り上げてしまえば何とかなるとでも考えているのか、この状況でも強気にでることをやめない。



 公爵はその様子を見て、再度笑顔で伯爵とその手勢を見渡した後、



「伯よ。何を勘違いしておる。タイガ、アマリーをここへ」



 突然呼ばれた俺は一瞬反応できなかったが、家の中で休んでいるアマリーを公爵の横に連れて行く。

 アマリーを見た公爵は、



「アマリー。済まんが、そこにいるヤンという男に見覚えがあるか。ヤンという名のものはこの村にいたかな」



「み、見たことがありません……この村にヤンという人はいません」



 彼女は公爵に話しかけられたこと、大勢の兵士の前で話すことに緊張しているようで、微かに声が震えている。



 公爵は彼女に頷いたのち、伯爵に向い、



「伯よ。この村の唯一の生き残りのアマリーがその男はこの村のものではないと申しておる。さ、早ようこちらに引き渡せ」



 伯爵は生き残りなどいないと思っていたようで、かなり動揺している。まだ、諦めきれないのか、



「閣下。どこで拾ってきた女か知りませんが、その女がこの村の者という証拠はないではないですかな」



「ほう、まだ言うか。儂が夜明け直前にファーレルの街を出たこと、ここでそなたの甥コルネリアスと戦ったことは、このファーレルの騎士が証言してくれるわ」



 伯爵は顔をゆがめ、ファーレルの騎士を睨みつけている。



 公爵は更に言葉を続ける。



「夜明けの二時間後といえば9時頃であろう。ここからウンケルバッハまで十マイル(=十六km)ある。この雪の中、二時間で走りぬけ、十一時に伯に注進したとしよう。伯はこの手勢を集めるのにどの程度の時間をかけた? まさか襲撃があるのを予想して準備しておったのか? 我がクロイツタール騎士団といえども最前線の砦はともかく、百名の騎士に召集を掛け、完全武装で出撃するのに一時間は掛かるぞ。それとも伯は常日頃から準備しておるのか?」



 ここでクロイツタール騎士団から笑い声が漏れる。怠惰なウンケルバッハ伯爵が常日頃から襲撃に警戒しているはずはなく、公爵の言葉が皮肉であることがわかっているからだ。



「更に伯の乗って来た馬車であれば、この十マイルの雪道、三時間は掛かるであろう。そのヤンというものの言葉を信じるなら、雪の中を二時間で駆け抜け、常日頃から準備を怠っていない伯が即断し、馬車が壊れることをものともせず、二時間でジーレン村に駆け抜けてきたということだな。その割に兵たちはすこぶる元気だが、伯の手勢は我が騎士団以上に訓練が行き届いておると見える」



 更にクロイツタール騎士団から笑いが上がり、ウンケルバッハ伯は顔面が紅潮していく。



 伯爵は失敗に気付き、この場をどういい逃れようか考えている。



「この者は私をたぶらかした極悪人。我が方で処罰いたします」



「伯よ。儂は引き渡せと言った。もう一度言う。その者を引き渡せ」



 公爵は声を張り上げるわけでもなく、低い声で再度引渡しを要求する。



 伯爵は往生際悪く、周りを見渡すが、精強なクロイツタールの騎士を見て、更に言い募ろうとする。



「しかし、この……」



「黙れ! 王国騎士団総長として命ずる。その者を即刻引き渡すのだ」



 それまでの口調から一変、公爵がそう一喝すると、伯爵の手勢に更に動揺が走り、伯爵はついに折れる。



 ヤンが前に引き出された瞬間、伯爵の手勢の中から数本の矢が放たれ、ヤンに背中に突き刺さる。



 クロイツタールの騎士たちは公爵を守るように前に飛び出し、伯爵の手勢も伯爵を守るように取り囲んでいる。



 俺は矢の飛んできた方を見ながら、ヤンに駆け寄り治癒魔法を掛けようと傷の具合を鑑定で確認する。



(ケガは大したことはない。うん? 毒矢か! 解毒が間に合うか!)



「閣下、毒矢です! お気をつけ下さい!」



 俺は毒矢であることを公爵に伝えると共に、クロイツタール騎士団の方にヤンを引きずっていく。



 公爵は伯爵に向かい、



「ウンケルバッハ伯! 謀反を起こし、わが騎士団と一戦交えるつもりか!」



 公爵の声にクロイツタールの騎士たちは一斉に抜剣、数十本の剣が日の光を浴びて煌いている。



 その統制の取れた動きを見て、伯爵は腰を抜かさんばかりになっている。

 伯爵の手勢に至っては逃げ出そうとするものさえいた。



「かっ閣下。わ、私に、むっ謀反の心など、ごっ、ございませぬ!」



 伯爵は腰を抜かし、無様にへたり込むと、途切れ途切れに釈明している。



「矢を射掛けたものを即刻引き渡せ。ロベルト。伯爵の手勢の武装を解除せよ」



 伯爵は観念したのか、武器を置くように兵たちに指示し、自らも剣を置く。

 矢を射掛けた三人の兵士は毒をあおったのか、すでに事切れていた。



「ウンケルバッハ伯爵。王国騎士団総長として伯爵の謹慎を命ずる。謹慎中はロベルト・レイナルドが代官としてウンケルバッハ領を差配する。伯よ、この続きは陛下の前できっちりと付けさせてもらうぞ」



 脱力している伯爵の横で公爵が、俺に向かって、



「そなたの予想通りであったな。礼を言うぞ」



 その瞬間、伯爵が憎しみを湛えた目を俺に向ける。



 “この者がおらねば“という怨嗟の言葉が滲み出てくるような伯爵の目を見て、少し不安を感じている。



(閣下もこんなところで言わなくても。逆恨みじゃないけど、俺まで恨まれてるよ。まあ、ここまでの証拠があれば伯爵も処分されるだろうけど)



 この時俺は、伯爵さえ処分されれば、黒幕たちも当分仕掛けてこないだろうと楽観的に考えていた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/07 21:19
更新日:2013/01/07 21:19
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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