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作品ID:1421
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第10話「デュオニュースの名剣」

前の話 目次 次の話

第5章.第10話「デュオニュースの名剣」



 デュオニュースは一振りの両手剣を手に戻ってきた。

 長さは百五十cmくらい、鞘に入った状態は柄頭の黒い石以外、どこにでもある両手剣のようだが、鞘から抜くと、銀色に輝く剣身(ブレード)には虹色の美しい波紋が浮かび、芸術品の趣すら感じさせる。



「銘は”タイロンガ”。東方の伝説の竜の名を付けた」



 そう言うと俺にタイロンガを差し出してくる。

 俺はタイロンガを”鑑定”で見てみる。



 ツーハンドソード(銘:タイロンガ)

  攻撃180、命中70、必要STR400、レンジ6ft、長さ5.0ft、重量6.0lb

  火属性魔法付加可能。アンデッドへの攻撃+20%



(火属性魔法付加可能? アンデッドへのプラス効果はミスリル製だからかな?)



 デュオニュースは俺が見入っているのを無視し、



「これまで打った剣の中で最高の出来だ。ちょっとした仕掛けもある」



 デュオニュースの説明では剣身(ブレード)の部分はミスリルとアダマンタイトの張り合わせたものだそうだ。

 デュオニュースは詳しく説明したそうだったが、詳しく聞くと大変なことになりそうだったので、頷くだけにとどめておいた。



 デュオニュースは弟子たちに新たな木偶人形(今度は普通のもの)を三体並べさせている。試し切りをさせるつもりのようだ。



「軽く振って、違和感がなければ、試し斬りをしてくれ」



 俺は軽く剣を振り、違和感を確かめる。

 手に吸い付くような感じで、全く違和感はない。



 ゆっくりと木偶人形に近づき、一体目を袈裟懸けにする。

 ”シュッ”という音と共に剣を振り抜くと、木偶人形が切り口から斜めにずれていき、上半分が静かに地面に落ちる。

 あまりの感触のなさに、紙細工を切ったようだと思ったほどだ。



 次は二体を同時に斬ってみる。流れるように胴薙ぎ、逆袈裟で人形を斬ってみると、一体目と同じように時間差で人形の上半身が落ちていく。



「デュオニュースさん! こいつはすごいです! こいつなら何でも斬れそうですよ!」



 俺はうれしくなってそう叫ぶと、デュオニュースは満足そうに頷き、



「剣に向けて”着火”の魔法を掛けてみろ」



 俺は鑑定で見た火属性魔法付加のことかなと思ったが、とりあえず何も言わず、言われたとおり、魔法を掛けてみる。



 着火の魔法は最大四十cmくらいのガスバーナーのような炎を出せる魔法だが、剣に魔法を掛けるとブレードの部分が白い炎に包まれ、まぶしい光を放っている。



「デカぶつが、斬り損なった鉄製の木偶を斬ってみろ」



 言われたとおり、炎を纏わせた状態で鉄製の木偶人形を上段から縦に斬り下げてみる。

 さすがに藁人形を斬るより抵抗はあるが、バシュッという音と共に人形が真っ二つになる。

 俺は魔法を解除するのも忘れ、人形を見つめている。



「お前の魔法だと制限時間は一分だ。それ以上長いと剣身(ブレード)がやられる」



 デュオニュースの言葉に慌てて魔法を解除し、ブレードに手を近づけてみると、かなり高温になっている。



(魔力消費が大きいし、使いどころが難しいけど、すごい攻撃力だ!)



 後ろのギャラリーを見ると、アクセルとテオフィルスは口を開けたまま固まり、ターボル伯は面白いものが見られたと楽しそうにしている。



 ターボル伯は笑いながら、俺に話しかけてくる。



「タイガといったかな。クロイツタール公から噂は聞いている」



 俺はどう答えていいのか判らず、目礼だけすると、



「ダンクマール師に騎士団の鎧のことで相談に来ただけなのだが、今日は面白いものが見られて良かった」



 少し噴出すように付け加える。



「ぷっ、閣下は、最初に見るのが自分ではなかったことを悔しがるだろうな。ふふっ」



(ドライセン王国の武人ってこんな人ばかりなのだろうか?)



 俺は見なかったことにし、礼儀正しく目礼だけしておいた。



 火属性魔法を纏わせる原理が気になり、デュオニュースに聞いてみるが、



「柄頭の魔石が魔力回路になっているんだが、詳細は判らん」



 魔法の付与についてはノイレンシュタットのオルトヴィーンが手掛けたそうで詳細は判らないから、知りたければオルトヴィーンに聞けとのこと。

 魔石の交換の目安を聞いたところ、魔石は、所有者の魔力を少しずつ取りこんでいくので、交換は不要だそうだ。



 デュオニュースはディルクの剣の修理を弟子の一人に言いつけると、俺一人を手招きする。



「おめぇグンドルフに追われているって言ってたよな」



「そうですが、なにか」



「オステンシュタットの騎士から聞いたんだがな……」



 デュオニュースの話は、グンドルフらしい盗賊がプルゼニ王国西部に現れたという話で、四ヶ月前くらいに突然現れ、一ヶ月くらい荒稼ぎした後、忽然と消えたそうだ。

 プルゼニから消えて三ヶ月以上経つが、王国(ドライセン)ではグンドルフの噂を聞かない。

 プルゼニから南か北に向かったんじゃないかというのが、オステンシュタットの騎士の予想だそうだ。



(欺瞞情報作戦は一応成功したんだ。しかしどこに行ったんだ?」



 この世界の地理がいまいちわかっていないが、プルゼニ王国から北に行けばジャルフ帝国、南に行けばグロッセート王国だったはずだ。

 俺のことを忘れてくれればいいが、忘れていないとすれば、北回りか南回りでドライセン王国を目指すのだろう。

 ジャルフ帝国とドライセン王国は慢性的な戦争状態。国境を越えるのは難しいだろう。



(南回りの可能性が高いな。元々南に抜けるつもりだったんだから、土地勘もある程度あるだろうし)



 頭の中で地図を思い出すが、距離感が掴めない。



(後で調べてみるか……)



 グンドルフのことを考えていると、ダンクマールが声を掛けてきた。



「デュオのところの用事は済んだな。次はこっちだ」



「えっ?」



 ダンクマールは俺の意向は無視して、引っ張っていこうとする。



(相変わらずこの鍛冶師たちは……)



 諦めにも似た思いで立ち上がり、新しい愛剣:タイロンガの値段を聞く。



「二五〇〇Gだ。火属性魔法の魔力回路分五〇〇Gが追加分だ」



 新しい愛剣:タイロンガの調整とディルクの剣の修理を合わせても昼前に終わるそうで、ダンクマールの工房の帰りに寄ればいいと言われる。

 剣の引取り時に支払いをすることにし、ダンクマールに引き摺られるようにデュオニュースの工房を出る。

 

 ダンクマールの工房は、デュオニュースのすぐ隣にあり、二階が店舗、一階が工房とデュオニュースの工房と同じつくりになっている。

 二階の店舗部分に入ると、金属製のプレートアーマー、ブレストプレート、チェインメイルや革製の軽装鎧などがずらりと並んでいる。

 後で聞いたところ、並んでいるのは商品見本ではなく、納品待ちのものだそうだ。



 ダンクマールがいきなり、防具にいくら出せるか聞いてきた。



「デュオに聞いた話じゃ、剣に三〇〇〇Gは出すっていったそうじゃねぇか。てことは、五〇〇Gは出せるんだよな」



 俺は話がよく見えていないが、とりあえず頷いておく。



「金属製の重装鎧はスタイルじゃねぇと思ったから、これを作っておいた」



 ダンクマールは濃いグレーの革鎧、篭手、脛当を出してきた。



「こいつは南方にいる鎧犀の皮を使っている。そこいらのプレートメイルより防御力があるはずだ」



 鑑定で見てみると、



  鎧犀の革鎧

   防御力120、耐久力4000、重量10ポンド(4.5kg)

   隠密行動時のペナルティなし。



 今使っている革鎧が、防御力五〇、耐久力一四〇〇、重量七ポンド( 三・二kg)だから、重量は増すものの、かなりの防御力アップに繋がる。篭手、脛当も今のものより 五割増しの性能だ。



 俺が”これを貰いたい”と言う前にダンクマールが、



「あと一〇〇〇G出せるなら、これもある」



と言って、銀色のチェインメイル風の防具を出してきた。



 長さは腰くらいまでで、半袖のTシャツのような形状。頭部を守るフードはない。



「ミスリル製のチェインシャツだ。静音性は保証する」



  ミスリルのチェインシャツ

   防御力60、耐久力1800、重量6ポンド(2.7kg)

   対魔法防御力60

   他防具との重複着用可。隠密行動時のペナルティなし



(対魔法防御力がある! さすがミスリル!)



 鑑定を見て、すごいと思っていたら、更に



「あと五〇〇Gでこれも付けられる」



(ドンだけ出て来るんだよ! TV通販のおまけじゃないんだから、最初から出してくれよ!)



 革製の兜を出してきた。普通の革兜に見えたが、内側が金属製になっている。



「内張りはミスリル製だ。少し重くなるが、ミスリルだけだと目立つからな」



  革兜(ミスリル補強)

   防御力30、耐久力1800、重量3ポンド(1.4kg)

   対魔法防御力30、精神攻撃ダメージ半減



(精神攻撃ダメージ半減!)



 これがあれば、精神攻撃で苦労しているゴースト戦が楽になる。

 ゴーストのせいで、四十九階で停滞しているが、これがあれば五〇階突破も見えてくる。



 重量的には防具だけで二十二ポンド=一〇kg。剣の六ポンドと合わせると二十八ポンド。その他の装備品は一〇ポンド以下に抑えないと行動制限が掛かる。

 費用も防具全部で二〇〇〇G。剣の追加費用と合わせて二五〇〇G。

 正直、かなり高いと思うし、重さも結構痛いが、命には代えられない。

 手持ちが四〇〇〇Gくらいだから十分買える。ここは大人買いだと思い、全部買うことにした。



「全部下さい」



 そう言うと、後ろにいるアクセルとテオフィルスが”すげぇ”と騎士らしからぬ声を上げる。

 ただの冒険者らしい個人が二五〇〇G=二億五千万円をポーンと払う買い物に付き合うというのはなかなか出来ない経験だろう。

 俺が付き添いでも声を上げていると思う。



 俺は防具をすべて身に着け、体の動きを確認する。多少違和感があるが、ダンクマールが調整していくと違和感はほとんど消えた。



(思ったより重くないな)



 今まで着けていた防具に比べ、倍くらい(今までの防具は一一・五ポンド)になったが、フィットしているからなのか、バランスがいいからなのか、それほど重さを感じない。



 調整は今日一杯かかるということなので、ダンクマールの工房を出て再びデュオニュースの工房に向かう。



 剣の調整と修理は完了しており、追加費用の五〇〇Gをギルドカードで決済する。



(カード決済は楽でいいけど、金銭感覚が麻痺するなぁ)



 支払いも終わったので、ディルクの剣をいつものように背負い、タイロンガを手に持って、公爵邸に戻る。



 午後からはアマリーと話をして過ごそうと思っていたら、服を作るため採寸させて欲しいと使用人らしい女性が現れた。

 国王との謁見のための衣装作りかと思い、一人で行こうとしたら、アマリーまで採寸するとのこと。

 理由を聞くが、命じられただけとしか答えが返ってこない。



(まさか、アマリーまで謁見の場に連れて行く気じゃないよな?)



 後で公爵からの呼び出しがあるだろうから、その時聞いてみることにし、おとなしく採寸に付き合う。

 二時間ほどバタバタと過ごしていたら、公爵からの呼び出しが来た。



 午前中、護衛をしてくれたアクセルが現れる。



「閣下より部屋にお連れするようにと命じられました。ご同行願えますか」



 思ったより早い時間にクロイツタール公からの呼出しだ。

 

(どうせ、タイロンガを見たがるんだろうな)



 部外者の俺が剣を持って行くわけにはいかないと考え、俺はアクセルに愛剣タイロンガを預ける。



 アクセルの表情はなぜか明るく、スキップしそうな感じで前を歩いていく。



「何かいいことでもあったのですか?」



「はい、あの後、デュオニュース師のところに行き、剣を打って欲しいとお願いし、了承していただきました」



(なるほど、それでご機嫌なわけだ)



 その後、楽しそうに話すアクセルの話を聞きながら、公爵の執務室の前まで歩く。

 アクセルは一呼吸置いて、真剣な表情を作り、扉をノックする。



「タカヤマ様をお連れしました」



 中から、「入れ」との声が掛かり、アクセルと共に執務室に入っていく。



 執務室内はクロイツタール城内の執務室と同じく、華美ではないが、磨き上げられた机、クロイツタール騎士団の紋章をあしらったタペストリーなど、素人の俺が見ても一流品と判る品々が並んでいる。



 公爵は執務用のいすに座ったまま、



「伯爵への陛下のご裁定の日が決まった。明日の朝だ」



 公爵はアクセルの持つ剣に視線を奪われながらも、



「そなたにも同行してもらう。その場で証言する必要はないと思うが、陛下よりご下問があれば答えてもらわねばならん」



 俺は「はい」とだけ答え、公爵の言葉を待つ。



「対象が伯爵家現役当主だからな。重臣たち数十名の前になるだろう。宮廷の作法は今夜にでも誰かに説明させる」



 俺は頷き、疑問に思っていたことを確認する。



「閣下。私が登城するのは致し方ないと思うのですが、先ほどアマリーまで服の採寸をしておりました。アマリーまで裁定の場に行かねばならないのでしょうか?」



 公爵は渋い顔をしながら、



「儂もそのつもりはなかったのだがな、宰相のヴィース公と宮廷書記官長のウンターヴェルシェン伯から証人が必要になるかも知れんから、控えの間に準備して置くようにと指示があったのだ」



「しかし、アマリーはただの村娘です。しかも、家族を失ったショックからまだ立ち直っておりませんが」



「判っておる。謁見の間に行かなくても済むよう可能な限り努力はしよう」



 公爵も不本意なようなので、これ以上突っ込みようがない。



(アマリーをどう説得しよう)



 公爵は突然話題を変え、アクセルが持つ剣を見ながら、目を輝かせている。



「フックスベルガーが持っている剣は、そなたの新しい剣か?」



(新しいおもちゃを見るような目で見ているよ)



「はい。デュオニュース師に打っていただきました“タイロンガ”でございます」



 公爵は剣から視線をはずさず、「見せてくれんか」と言ってきたので、「どうぞ」と了承する。



 俺は、そんな目で見ているのに駄目とは言えないよと思いながら、アクセルに目配せする。



 公爵はタイロンガを手に取り、剣を引き抜くと、「ウッ!」と声を上げたあと、矯めつ眇めつ剣を眺めている。

 一分ほど見た後、独り言のように



「何とも凄い力を感じる剣だ。儂のクヌートもなかなかと思っていたが、これは……」



 声を掛ける雰囲気でもなく、大人しく見ていると、



「この宝玉は何なのだ? この造りにはそぐわぬ気がするが」



「魔石だそうです。着火の魔法を発動させると、剣身(ブレード)に炎を纏わせることができます」



「魔法剣なのか……タイガよ、見せてくれんか」



 公爵に懇願され、炎を纏わせる。

 公爵とその後ろの騎士は、「オッ!」という感嘆の声を上げている。



「試し切りはしたのか。何を斬った。切れ味は……」



 公爵は興奮気味に次々と質問を投げかけてくる。



(子供じゃないんだから……マニアというか、オタクいうか……)



 俺は呆れながら、質問に答えていく。



「悔しいが、儂の愛剣クヌートより数段上のものだ。政務が終わった夕刻にでも試し切りを見せてくれんか」



 “この状況で断る選択肢はないよな“と思いながら了承する。今日の夕方、公爵から連絡があり次第、第一騎士団の錬兵場で試し切りをすることになった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/09 22:32
更新日:2013/01/09 22:32
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1421
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