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作品ID:1422
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第11話「奴隷商グロスハイム商会」

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第5章.第11話「奴隷商グロスハイム商会」



 夕方まで自由時間があるので、ノイレンシュタットに向かうことにした。



 アマリーの気分転換を兼ね、連れ出そうとしたが、ドレスの寸法合わせなどがあり、連れ出すことができない。

 仕方がないので、護衛のアクセルとテオフィルスの二人を引き連れ、馬でノイレンシュタットに向かう。



 ノイレンシュタットでは、ラングニック地区にあるオルトヴィーンの店と、屋敷の管理をする人材を探すため、商業ギルドも訪ねてみるつもりだ。

 商業ギルドで駄目なら、奴隷商グロスハイム商会も訪ねてみようと思っている。



(グンドルフの噂が途切れたのが不安だな。今の屋敷は守備隊詰所の横だから安全だと思うんだが、人を雇うのは悩ましいな)



 ノイレンシュタットの北側、エーベ河の船着場近くにある商業ギルドを訪ねる。

 ギルドの職員らしい男を捕まえ、シュバルツェンベルクで屋敷の管理ができる人材を探していると言うと、



「シュバルツェンベルクですか……多分無理だと思いますよ」



と言いながらも人材斡旋を行っている商会を教えてくれた。



 その商会で聞いてみても、商業ギルドの職員と同じ反応だった。



「シュバルツェンベルク? 堅気の家政婦でしょ、そりゃ無理ですよ。奴隷を買った方が安いし、確実だと思いますよ」



 理由を聞いてみると、



「シュバルツェンベルクは荒くれ者の冒険者の行くところってイメージが染み付いていますからね。普通の家政婦なんかは、恐ろしくてどんなにお金を積まれても行きたくないって思ってますよ。よっぽどジャルフの帝都だって言った方が見つかりますよ」



 鍛冶師のダグマルが言っていたことは大げさではなく、ギルドの情報操作が効いているようだ。



(しかし、敵国の首都より恐れられるなんて、どんな情報操作をしているんだろう?)



 仕方なく、ラングニック地区に足を向ける。



 三十分ほどでオルトヴィーンの店に着く。今回オルトヴィーンは子供の姿ではなく、最初から三十代の人間の姿をしていた。



 タイロンガの魔法回路のことを聞くと、古い魔法剣に使われていた魔石をそのまま嵌めただけで、詳しいことは判らないと言われる。

 後ろの二人を警戒しているのかなと思い、奥でこっそり聞いてみても同じ答えしか返ってこない。

 取り扱いの注意だけでも聞きたいというと、一般的な注意事項だと断った上で、魔力の補給のため、週(五日間)に数時間身につけている必要があること、魔力回路に負荷を掛けすぎると焼き切れるので、着火の魔法以上の魔法は魔石に通さないことなどを教えてもらえた。



 何の気なしに、「何か面白いものは入っていないか?」と尋ねると、裏に行き、大きめのペンダントを一つ持ってきた。

 トップは、ヒスイのような緑色の半透明の石、それにくすんだ銀色のチェーンが掛かっている。言っては悪いが、それほど高価なアクセサリーには見えない。



「これは変身の首飾りだそうだ。使用回数制限があるそうなのだが、あと何回つかえるのか判らん」



 鑑定で見てみると、確かに“変身のアミュレット”とあり、使用回数は三回となっている。

 オルトヴィーンに値段を聞くと、



「買取は三十Gだった。何回使えるのか、そもそも使えるのかも判らんから、そっちの言い値を言ってくれ」



「五十Gでどうだ?」



「と言うことは何回か使えるわけだな。しかし、どうして判るんだ?」



 どうやら、オルトヴィーンにカマを掛けられたようだ。前回、ガラクタと本物を見分けたことや彼の変身を見破ったことが原因のようだ。



 正直に言うわけにもいかないので「何となくかな?」と誤魔化しておくが、世話になっているので、こっそり「今度一人で来たときに」とだけ言って、アミュレットを購入した。



 後ろの騎士二人は魔道具のことは良く判らないようで、俺とオルトヴィーンの話は聞いてもポカーンとしている。



 オルトヴィーンの店を出て、更に南にあるノイエンハウス地区のグロスハイム商会に向かう。



 騎士二人を連れた冒険者が奴隷商に行くというのも、なかなか不思議な光景だが、二人が離れてくれることはないので、気にしないようにしている。



 グロスハイム商会に入り、若い従業員を捕まえ、



「シュバルツェンベルクのギラー殿の紹介で来た。ノーマン殿を呼んでもらいたい」



 騎士二人を引き連れた冒険者が偉そうに店主を呼び出すので、若い従業員は大慌てで中に入っていった。



 すぐに三十代後半のさわやかな笑顔の温厚そうな紳士がやってきた。



「ようこそお越しくださいました。当商会の代表ノーマンでございます」



 見た目と同様、柔らかな口調で、俺たちを応接室に案内する。



(俺の奴隷商のイメージが悪いのか、とても奴隷商とは思えないな。貴族相手に宝石とかを売っていると言われたほうが、よっぽど違和感がない)



 応接室に通された後、ギラーからの紹介状を渡し、用件を伝える。



「屋敷の管理に必要な奴隷を探しているんです。人数は三、四人くらいは必要です」



 ノーマンといろいろ条件を確認し合うと、奴隷のいる部屋に案内される。



 緊張しながら、ノーマンの後に着いていくと、十代前半から三十代後半までの女奴隷が十人ほど並んでいた。



 俺のオーダーどおり、家事ができることを優先したようで、目を見張るような美女は一人もいない。

 反応を確かめるため、シュバルツェンベルクに行くこと、家事をしてもらうこと、夜伽は強要しないこと、働きが良ければ十年くらいで解放することなどを話していく。

 シュバルツェンベルクと言う言葉で五人くらいが怯えた顔になり、解放するとの話で三人が一瞬明るい顔をした。



 シュバルツェンベルクに行くといっても特に怯えなかった五人を残し、他は下がらせる。

 五人に俺が命を狙われていることと一緒にいると危害を加えられるかもしれないことを話すと、解放と聞き明るい顔をした三人を含め全員が怯えた顔になる。



(やはり駄目だな。グンドルフの件が解決するまで諦めるか)



 ノーマンに向かって首を振り、五人を退出させる。



「タイガ様は変わっておられますね。奴隷を買うのにあのようなことをおっしゃる方を初めて見ました」



 ノーマンは笑顔を崩さず、そう俺に話しかける。



 結局駄目だったなと思いながら、応接室に戻るため、ノーマンの後を歩いていくと、従業員の男に連れられた一人の女奴隷とすれ違う。

 すらりと背が高く、銀色の髪にほっそりとした顔、グレイの瞳、白い肌が美しい20歳くらいの女性。エルフの女性に見えるが、どうも違う気がする。



(耳だ。耳の先がない!)



 切り取られたのか、エルフの特徴である尖った耳の先がない。



「ノーマンさん、今すれ違った女性は?」



「ああ、エルフの女のですが、前の持ち主が加虐趣味だったようで、耳の先を切り取ったようです。服の下は鞭で打たれた傷が酷いんですよ」



 ノーマンは俺が買う気がないと思って、傷があることまで話してきた。



 俺はノーマンの話を聞きながら、すれ違いざまに見た彼女の目が気になって仕方なかった。

 視線が合ったときの印象は、奴隷と言う境遇を感じさせない、誇り高い野生の狼を思わせた。



(そう、あの目はゴスラーの西の森で見たフェンリルの目だ)



「さっきのエルフの女と話しさせてもらえませんか」



「構いませんが、タイガ様のご希望とは随分違いますが」



 ノーマンは首を傾げるような仕草をするが、すぐに先ほどのエルフの女性を呼びにやらせる。



 すぐに女エルフは応接室に連れてこられ、ノーマンがシルヴィアという名前であることを教えてくれた。



 シルヴィアを改めて見ると、娼館で見たエルフの娼婦のような女性らしい美しさはないが、引き締まった体は抜き身の剣を思わせる美しさを見せている。



 俺は単刀直入に「何ができる」と聞くと、シルヴィアは一言、「弓と剣」とだけ答えてきた。



(エルフなのに魔法は?)



 気になったので、鑑定で確認すると、レベル二十二で弓二十八(狙撃)、片手剣二十(連撃)、罠や追跡といったフィールド系のスキルも結構高いが、魔法は治癒魔法も属性魔法も才能がないようだ。

 ちなみに年齢は二十六歳、長寿命のエルフにしては若い方なのだろう。

 俺が「魔法が使えないのか」と独り言を呟くと、

 シルヴィアは「出来損ないだからな。私は」と淡々と答えてきた。



(出来損ない?)



 意味は良く判らなかったが、エルフで魔法が使えないと、騎馬民族なのに馬に乗れないような感じでいじめとかがあったのだろうか。



 シルヴィアの目がどうしても気になる。

 何を見ようとしているのだろうか。ただ達観しているだけにしては目に力がありすぎる。

 俺はシルヴィアに「自由になりたいか」と馬鹿な質問をしてしまう。



 シルヴィアは鼻で笑い、



「ふん。お前が何者か知らないが、自由の意味を知っているとは思えん」



「否定はしないよ。俺も自由に生きているとは言えないしな」



 生きていくためには、どうしても束縛が生まれる。好きなように生きようと思っても、食料を確保するため、自分を守るためなどいろいろな制約で好きなようには生きられない。

 シルヴィアの言う自由と俺の考えている自由の意味は多分違うのだろうが、俺の言葉を聞き、シルヴィアは少しだけ表情を変える。



「俺と一緒に来ないか」



 自分でも唐突に感じたが、俺はシルヴィアにそう話していた。



 シルヴィアは目を瞑り、何も答えない。



「彼女はいくらですか?」



「あまりお勧めしませんが」



 俺は「なぜですか?」と理由を尋ねると、



「彼女は野生の動物のようなものです。隷属の首輪で言うことは聞きますが、態度が反抗的です。タイガ様は奴隷をお持ちになったことがないようですので、止めておいた方がよろしいかと思いますが」



 俺が奴隷を買ったことがないことは、さっきの奴隷たちに話をしたことで判ったのだろう。初めての奴隷なのに難易度が高すぎると言いたいわけだ。



 ノーマンは、シルヴィアに服を脱いで背中を見せるよう命じている。

 シルヴィアはその場で何の恥じらいもなく服を脱ぐ。



(うっ! 惨い)



 シルヴィアの肩から背中にかけては、赤黒いチェック模様のような惨たらしい鞭の痕《あと》が残されていた。

 普通の治療では一生消えないほど深く傷付いており、思わず目を背けてしまう。



「タイガ様。お判りになられましたか」



「どうしてここまで酷いことができるんだ?」



「前の持ち主が加虐趣味(サディスト)と言いましたが、このような趣味の方は相手が泣き叫ぶ姿を見て興奮するそうです。この娘は鞭で打たれても呻き声すら上げず耐えていたそうで、持ち主が意地になった結果がこれだそうです」



 更にノーマンは、



「三ヶ月間毎日鞭で打たれたそうですが、持ち主の方が根負けし、遂に売りに出したようです。同情で購入するのはお止しになった方が……エルフの冒険者でしたら、何人か取り揃えておりますので、そちらをご覧になられますか?」



 ギラーの紹介状にどのようなことが書いてあったのかは知らないが、ノーマンは自分が勧められないシルヴィアを諦めさせようと別の奴隷を紹介してきた。



 信頼関係が築けない相手を買うなど、どう考えても無意味だ。だが、どうしてもシルヴィアを諦めることができない。



「ノーマンさん、ありがとう。シルヴィア、いつ来るか判らない襲撃者に怯えなければいけないが、耐えられるか」



 俺はノーマンの気遣いに礼を言い、シルヴィアに向かってグンドルフの脅威について話しておく。



「襲われたら戦う。それだけだ。だが、私が恩を感じ、なびくと思ったら大間違いだぞ」



(一筋縄では行かないようだな)



 俺は「迷宮に入るが、背中を任せられるか」とシルヴィアに問うと、シルヴィアは一言「それが命令なら」と答える。

 満足行く答えとは言えないものの、約束は守るタイプのようだし、信用は出来そうだ。



「俺はある不幸な少女の世話をしている。その少女の護衛をして貰いたいのだが、出来るか?」



 シルヴィアは「護衛なら」と答え、すぐに「世話はしないぞ」と付け加えてきた。

 ノーマンは何か言いたそうだったが、何も言わずに俺たちの会話を聞いている。



(奴隷とする交渉じゃないよな。ノーマンさんもそう思っているんだろうな)



 ノーマンに改めて値段を聞くと、ギラーの紹介なので七十Gでいいとのことなので、値切りもせず、そのまま購入手続きを行う。



 ノーマンは呆れ顔で、シルヴィアはほぼ無表情のまま、アクセルたちは興味深げに俺を見ている。



 ノーマンにまた来ると伝えると、「家政婦の件はこちらでも探してみます。ご予算だけ伺っておきます」ということなので、俺は「最大200Gで」と伝えておく。



 グロスハイム商会を出て、シルヴィアの装備を揃えに行く。



 商会を出てすぐに、後ろからシルヴィアが声を掛けてきた。



「何と呼べばよい。“ご主人様”か、それとも“旦那様”か」



「ご主人様も旦那様は止めてくれ! タイガと呼び捨てでいい。敬語も要らない」



「判った。タイガと呼んでいいのだな」



 俺が心底ホッとしたような顔をすると、シルヴィアは少しだけ眉を顰め、“変な奴”とでも思っているようだ。



 シルヴィアの武器防具はドライセンブルクで購入するとして、服や小物類はノイレンシュタットで買っておく。

 さすがに大陸西部域最大の商業都市ということもあり、服も出来合いのものが多く売られていた。

 俺と同じような冒険者用の服を買い、アマリーへの土産に菓子を買い、ドライセンブルクに向けて出発する。







 大河たちがグロスハイム商会にいた頃、グンドルフは商会からわずか五百m南にある一軒の宿に潜んでいた。

 ノイレンシュタットは城壁がない自由商業都市であるため、入市に際してはカードの提示などは一切不要である。更にこの宿は宿泊の際の身分証明などが不要であり、後ろ暗い連中が良く利用する宿である。



 グンドルフは、ドライセン王国で身元の割れていないプルゼニ、グロッセート出身の手下を使い、大河の情報を探っていた。



「お頭が探している野郎かどうか判りやせんが、一つ噂を聞きやした」



「どんな噂だ?」



「四日前にクロイツタール公爵が暗殺されそうになった話は既にご存知かと思いやすが、その時に公爵を救った冒険者の名前がタカヤマと言うそうで。何でも剣の達人で魔法を使うとか」



「奴は確か苗字持ちだったはずだ。それもタカヤマとか言っていた気がするな……おい、その話、もっと詳しく探って来い!」



 更にその後、



「タイガという野郎を見つけましたぜ、頭!」



「ど、どこだ! どこにいやがる!」



「クロイツタール公爵の部下になっているようですぜ。今は王都の公爵の屋敷にいるって聞きました」



「よし、よくやった。褒美だ」



 グンドルフは気前良く金貨を数枚放り投げる。

 遂に大河の居場所を見つけたグンドルフは、



(ドライセンブルクか。今は手が出せんが、公爵の手下になったんなら、やりようはいくらでもある)



 グンドルフは手下5名にクロイツタール公爵の行動を見張らせ、更に大河の情報を探らせるよう手下に命じる。



「何でもいい! タイガという奴の話を拾って来い!」



(ようやく見つけたぞ、タイガ。じっくり追い詰めてやる。くっくっ)



 グンドルフは暗い笑みを浮かべ、この後の計画を考えている。







 ノイレンシュタットの用事が終わったので、シルヴィアを俺の馬に同乗させ、行きよりゆっくりとしたペースでドライセンブルクに戻っていく。

 午後二時頃、ドライセンブルクに到着。クロイツタール公爵の家臣が一緒なので、比較的早く城門を通過できた。



 シルヴィアに武器について聞いてみると、「ロングボウとロングソード」という答えが返ってきた。

 駄目元でデュオニュースの工房に行くが、やはり剣は打ってもらえない。その代わり、質の良いロングボウを置いてある武器店を紹介してもらえたので、その店でロングボウとロングソードを購入する。

 防具については、俺の防具を取りに行くついでにダンクマールに相談してみると、中古の革鎧を売ってもらえた。

 武器と防具を合わせ、装備類の総額は百八十G。

 今日一日で、二千八百Gも使ってしまった。ちなみにギルドカードの残高は千二百G、手持ちの現金三十G、随分使い込んだ感じがする。



 クロイツタール公爵家の屋敷に向かう途中、シルヴィアを連れて行ってもいいのか確認していないことに気付く。

 アクセルに大丈夫だろうかと聞いてみると、隷属の首輪を着けた奴隷なので多分大丈夫だろうとのことだが、念のため、先に戻り上司に相談してくれると言ってくれた。



(宿に泊まっているんじゃなかったんだよな。迂闊だったよ……)



 自分の迂闊さに少し落ち込みながら、公爵の屋敷前に到着。

 アクセルの出迎えを受け、心配していたシルヴィアも一緒に連れて行けるとのことで、ホッとする。

 アマリーはドレスの寸法合わせも終わり、既に部屋に戻っていた。



(ほったらかしにした上に知らない女性を連れていくのも気まずいな)



と思いながら、二人に互いのことを紹介した。



「えっと、彼女はシルヴィア。君の護衛をしてもらうことにしたから。シルヴィア、彼女がアマリーだ。君が護衛する娘だ」



 アマリーはシルヴィアの真直ぐに見つめる目に少し怯えるが、それ以上の反応はなかった。

 シルヴィアもアマリーを見つめるものの特に声を掛けることもなく、立っている。



 気まずい雰囲気が流れたので、アマリーにノイレンシュタットで買った土産を渡す。

 アマリーは少しだけ微笑み、「ありがとう……」と小さく礼を言ってきた。

 控えているメイドに菓子を渡し、三人分のお茶の準備を頼む。



 アマリーと俺はテーブルに着いたが、シルヴィアは立ったまま座ろうとしない。



「シルヴィアも座ったら?」



「私は護衛なのだろう」



「ここは安全だから、座って」



 シルヴィアもようやく席に着き、お茶の時間になったが、やはり会話がない。



 少し重苦しい空気が流れているが、二人ともあまり気にしていないようだ。



(この空気を何とかしないと。うーん、どうしよう?)





 アマリーは困惑していた。



(タイガさんは何を考えているの? どうしてドレスがいるかも教えてくれないし、突然、この人(シルヴィア)を連れてくるし……)



 彼女は採寸の時に女官らしい女性に何のために採寸が必要か聞いてみたが、「公爵様のご命令ですから」としか答えてくれなかった。

 ドレスは公爵の娘の物のようで、触ったこともない優しい手触りの美しい生地でできていた。

 ドレスの調整のときにも担当の女性に理由を聞くが、前日と同じく公爵の命令としか答えてくれない。



(きれいなドレスを着れるのはうれしいけど、どうして私なんかに……)



 そんな疑問が彼女の頭の中に渦巻いていた。



(タイガさんが帰ってきたら、聞いてみよう)



 そう思って大河を待っていたら、美しいエルフの女性を伴って大河は帰ってきた。



(首輪? 奴隷なの? どうして?)



 ドレスのことを聞くことも忘れ、シルヴィアを紹介されても言葉が出てこない。



(私の護衛ってどういうこと? タイガさんがどこかに行くってことかしら)



 彼女は大河が自分のもとを去るのではないかと思い、寂しさに似た感情が込み上げてきた。



 大河が土産に買ってきた菓子を食べても、味を感じられない。



(どうして、私に何も言ってくれないの?)



 彼女は込み上げてくる感情を無理やり抑えながら、沈黙を保っていた。





 シルヴィアは表情には出さなかったものの、クロイツタール公の屋敷に来たことに内心驚いていた。



(騎士らしい護衛がついていたから、理由(わけ)があって冒険者のなりをしているのだろうとは思っていたが、三公家の関係者だったのか)



 屋敷の中で出会う使用人たちは大河を見ると、一様に頭を下げ、賓客のような扱いをしている。



 大河が使っている部屋に通され、その豪華さに更にその思いを強めていった。



(よく判らないが、この部屋は貴族が泊る部屋ではないのか? 調度品など素人の私が見ても一級品だということが判る。あの商人=豚の屋敷も金が掛かっていたようだが、この部屋の方が数段上だろう。この男はどういった素性の男なのだ?)



 部屋に通されるとアマリーという少女を紹介される。

 ほっそりとしたその少女は無表情のまま、自分を見つめてくる。



(この少女が護衛対象? どこかの姫君というわけでも無さそうだし、見た感じはただの町娘にしか見えない。事情はどうでもいいが、どういった相手に狙われているのかくらいは教えてほしいものだ)



 自分はただの護衛で、それも奴隷なので部屋の隅に立つことにしたが、すぐに座るよう命じられる。



(なぜだ? 私は奴隷だぞ? この男の考えることは全く判らない。私を買うときからおかしかったが、何を考えているのだ……)



 シルヴィアもこの状況が理解できず、自分の考えに沈んでいった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/09 22:33
更新日:2013/01/09 22:33
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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