作品ID:1447
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Silly Seeker
小説の属性:ライトノベル / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
シーン10 大説教、前篇
前の話 | 目次 | 次の話 |
セイアと出会ってから数日が経ったある日、私はティシィやタークたちと一仕事を終えてギルド前の大通りを歩いていた。
そこでふとガルフの姿を見かけた私はそのまま彼を追うようにチームの溜まり場へと足を進めた。
溜まり場について周囲を見回すガルフの様子は普段とどこか違っているような気がした。
「師匠、どうかしたんですか?」
「リエナか」
声をかけ、振り向いたガルフはやはりいつもとは違っていた。
表情や身に纏う空気に違和感を抱く。ぱっと見では判別がつかないが、肩を並べて何度も戦場に立ったことがある私には、何かあると思えてならなかった。
見れば、溜まり場にいるマイルがこちらに気付いて視線を向けていたが、何かを察しているかのように黙り込んでいる。こちらの動向に注目してはいるが、声をかけてくるつもりはないようだ。
ただ、ガルフと目が合うと、マイルは一度小さく頷いて、視線をある方へ向けた。
マイルの視線の先には、ベンチに腰を下ろしてどこかつまらなさそうにパンを齧るクライスがいた。
「……これからあいつと少し話すが、ついてくるか?」
クライスの姿を認めたガルフは、私の方を見ずにそう告げた。
そのひどく静かな声音に、私は彼の意図を察した。
どうするか一瞬悩んだが、答えは決まっていた。
「私も行きます」
私は静かに、だがはっきりとそう答えた。
意図は理解した。見届けたい、と。
「分かった」
ガルフはそれ以上何も言わず、クライスの方へ向かって歩き出した。私は一歩遅れてその後に続く。
「クライス、ちょっといいか」
「ん? 師匠? 何?」
丁度パンを食べ終えたクライスはだるそうに背もたれに寄りかかった姿勢のままガルフを見上げた。
師匠、とは言う割に口調や態度に敬意が感じられない。
「ちょっとこっちにこい、話がある」
そう言ってガルフはクライスを促し、歩き出した。
すぐ近くにある大きな門を通って首都バルアから外へ出る。バルア近辺はのどかな草原地帯が広がっており、少し歩けばなだらかな丘陵や森林地帯が見えてくる。首都近辺はギルドによる強力な結界と自警団やシーカーたちの巡回によって魔物の気配はなく、のどかな景色が広がっている。
バルアを取り囲む壁に沿ってやや歩き、人気の無い平原でガルフは足を止めた。
「で、話って?」
クライスの問いに、ガルフは無言で視線を返す。
「リエナも黙ったままで、何なんだ?」
「まぁ、とりあえず座れ」
クライスが私を振り向くのを遮るように、ガルフはその場に腰を下ろした。
私もその場に座り込み、クライスは釈然としないようだったが指示に従って腰を下ろす。壁に背中を預けるようにして座ったクライスと向き合うようにガルフが座る形となり、私は一歩引いたところで二人を見るような位置にいる。
「何から話すかな……」
組んだ足の片方に片肘を乗せて頬杖をつき、ガルフは小さく唸るように呟いた。
クライスは何が始まるのかまだ分かっていないようで、何も言わずにここへ連れ出したことに少し不機嫌そうに眉根を寄せている。
どうして分からないのだろう、と私はクライスに気付かれないように小さく溜め息をついていた。
いや、それがクライスなのだ。
これから始まるのはガルフによる説教だ。
ガルフがクライスに説教をするのは始めてではない。私はガルフ、クライスの二人と共に仕事をこなしたこともあるが、その後は決まってガルフがクライスに対して説教をしていた。と言っても、仕事中のクライスのミスや欠点、教えたことを忘れていることなどについての改善を求める説教がほとんどだ。
ただ、今日これから始まる説教が、これまでのようなものでないということは私にも分かる。
「……お前さ、自分に非があるって分かってるか?」
考えがまとまったのか、ガルフはまずそう切り出した。
「何が?」
「お前、昨日俺のチームが居心地悪くなったとか言ってたよな」
全く分かってない素振りのクライスに、ガルフはやや目を鋭くさせてそう言った。
その言葉は初耳だった。私は僅かに驚いてガルフとクライスを見る。
ガルフがバルアに戻ってきたのはつい二、三日前だ。戻ってきたガルフにはマイルから何があったのか説明がなされているはずだが、それとは別にクライスがそう言いにきたらしい。
「その原因が自分にあるって、理解できてないよな?」
ガルフの言葉に、クライスはようやくこれが説教の始まりだと気付いたようで、顔を顰めた。
「だって俺悪くねぇし」
露骨に嫌そうに、だるそうに、クライスはそう答える。
私はただ黙って二人を見る。
「お前はいつもそうだな。自分が原因だって本気で思ってない」
「そりゃそうだろ、俺のせいじゃねえ」
ガルフの表情は一切変わらず、それに怯む様子もなくクライスは平然と即答する。
クライスと出会ってしばらくになるが、彼と行動を共にしたり話をしていたりして私は、クライスとはこういう人物なのだと認識した。付き合いが浅いから私は割り切っていられるが、同じチームで毎日のように顔を合わせていたらどうなるかは分からない。
「フラストとのことは聞いた。一方的な認識にならないよう、見ていた他の奴にも話を聞いた」
戻ってきて直ぐに説教、とならなかったのは、ガルフは自分で状況を調べ直したからのようだった。マイルの話を聞いて、私は十分客観的だと思っていた。ガルフもマイルを信頼しているはずだ。それでも、ガルフはマイルが知っている以上に状況を精確に把握しようとしたのだろう。
「あれはフラストが原因だ」
クライスは頑なにそう主張した。
「いいや、原因はお前だ」
ガルフは冷たく言い放つ。
「何度言えば分かる。お前の動きを把握しているのはお前だけだ。事前に作戦の相談や提案や説明もなくお前の動きに合わせられる奴なんていねえんだよ。ああしたらいい、こうしたらいい、って言ってもそれにお前が合わせなきゃ意味がないだろ」
まして、初めて同行する人や、その場所に慣れていない者ならば特に。
「仮にフラストが原因だったとしてもな、居心地を悪くしたのはお前の態度だ」
ガルフの目が更に鋭くなる。表情には怒りや敵意といったものは見えないが、それらの感情を抑え込んでいるのがその目から分かる。
「はぁ? あいつが原因ならあいつのせいだろ」
「お前をチームに入れてからメンバーに何度も言われてんだよ、お前の態度が気に食わない、ってな」
不服そうなクライスに、ガルフは言い放つ。
「何でそんなにお前は偉そうなんだ。お前はそんなに偉いのか? あぁ?」
僅かにガルフの眉間に皺が寄り、苛立ちが漏れる。
「初対面だろうとなかろうと、一切敬語を使わない。態度は横柄、自信過剰で周りを引っ張り回して疲れさせても困らせても謝りもしない。皆辟易してんだよ」
ガルフの言葉に、クライスは顔を顰めた。
それは叱られて不満そうな子供の顔ではなく、心底めんどくさいと思っているような顔だった。
「別に俺に対してだけならいいさ。俺が我慢すりゃいいだけの話だし、気に障るほどならわざわざついて行く気はないからな」
この辺り、ガルフの人間性が見える。
自分が扱き下ろされるのは構わない、そこまで高尚な人間ではないと思っている。敬われ、慕われる器ではないと自覚している。だからこそ、自分を律して努力と鍛錬を惜しまず、自分にないものを何かしら持っている他者には敬意を払う。そうして得た実力や名声と人柄こそが周りを惹きつけるのだろう。
故に、ガルフはクライスの言動も態度も自分に対してのみなら文句を言わない。馴れ馴れしい奴だと思いはしても、表には出さない。他の人よりも不快感を抱くこともない。
「どうせお前は自分がそんな態度だから、他人がそういう態度でお前に接しても何も感じないんだろうさ。だけどな、普通はお前みたいな奴は嫌われるんだよ」
クライスは自分自身が他者に対してそういう態度であるがために、他者が同じような態度で接してきても気にならないのだろう。
「馴れ馴れしい、口が悪い、態度が悪い、自分のことしか考えない、そういうとこ直せって何度も言ってるよな?」
恐らく、ガルフはクライスをチームに入れた時からそう言い続けている。他者には失礼のないよう振舞え、親しくなるまでは敬語を使え、人の迷惑を考えろ。
何一つクライスは改善していない。
それどころか、悪いことだと思ってすらいない。他人も同じように振舞えばいいと本気で思っている。
「今までは皆俺の顔を立てて我慢してくれてたけどな、この前のフラストとの件で皆我慢の限界を超えたんだ」
ガルフがいる場では、表立って不満を言う者はいなかった。クライスの暴走はガルフが抑えていたし、他の者もそれをしているガルフの苦労を察していたのもある。ただ、何よりもガルフがクライスをチームに加えて指導する、と決めたことに対してその意志を尊重しようとしてくれていたのだ。
いつも世話になっているチームリーダーの我侭ぐらい何てことはない。誰もがそう思っていたはずだ。
それでも不満が表に出てくるほど、クライスは酷かった。
「彼女に振られて気が立ってたのかもしれないがな、それを理由に他人にあたるってのはただの八つ当たりだ」
セイアと別れてから、フラストとの喧嘩があったらしい。確かに落ち込んだり、気が立ったり、滅入ったりはするだろう。だからといって、他人にその感情をぶつけて発散していいはずがない。
恐らく、クライスに自覚はない。
「だから言ってるじゃねぇか、俺は悪くない」
平然と言い放つクライスに、ガルフの眉がぴくりと動く。
「……ねぇ、クライス」
今まで黙っていた私は、そこでようやくクライスに声をかけた。
向き合っていた二人がこちらを見る。
「例えあなたが原因でなかったとしても、周りにいる人皆があなたを原因だと思うってことは、皆にあなたはそういうことをする人だって思われてるってことなんだよ」
私は静かにそう告げた。
仮に原因がクライスになかったとしても、周りがクライスを原因だと言うのなら、それが周りの認識ということだ。クライスならば原因を作る人間性であると皆に思われている。そこに、実際にはどうだったかは関係がない。
「あなたが言っていることが嘘じゃなくても、本当は悪くなかったとしても、周りがあなたの言うことを信じないっていうのはあなたの人間性に問題があるってことなんだよ」
普段の言動や態度から、クライスはまったく信用されていない。
「何だよリエナまで……」
クライスは私に対しても不服そうに唇を尖らせた。
「マイルから聞いたよ。自分でチームでの仕事を主催しておいて遅刻してきて、謝りもしなかった、って」
「はぁ? 謝ったぞ?」
「あなたは謝ったつもりかもしれないけど、それじゃあ皆には謝ったって思われてないってことなんだよ」
クライスがどういう言い訳や謝り方をしたのかは実際に見ていない私には分からない。
「私はあなたがごめん、とかすまん、とか謝ってるところを見たことないし」
ただ、クライスが周りにも明確にはっきりと分かるぐらい謝罪の言葉を口にしたことはない。
「いい加減、自分に非がないと思うのをやめろ。お前の気分や事情でチームの空気を壊すな」
ガルフはそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
「悪い、リエナ、暫くこいつを見ててくれ。便所に行ってくる」
大きく溜め息をつくと、ガルフはそう言って場を離れていく。
用を足すのと同時に、少し頭も冷やしたい。そう言っているような気がした。
そこでふとガルフの姿を見かけた私はそのまま彼を追うようにチームの溜まり場へと足を進めた。
溜まり場について周囲を見回すガルフの様子は普段とどこか違っているような気がした。
「師匠、どうかしたんですか?」
「リエナか」
声をかけ、振り向いたガルフはやはりいつもとは違っていた。
表情や身に纏う空気に違和感を抱く。ぱっと見では判別がつかないが、肩を並べて何度も戦場に立ったことがある私には、何かあると思えてならなかった。
見れば、溜まり場にいるマイルがこちらに気付いて視線を向けていたが、何かを察しているかのように黙り込んでいる。こちらの動向に注目してはいるが、声をかけてくるつもりはないようだ。
ただ、ガルフと目が合うと、マイルは一度小さく頷いて、視線をある方へ向けた。
マイルの視線の先には、ベンチに腰を下ろしてどこかつまらなさそうにパンを齧るクライスがいた。
「……これからあいつと少し話すが、ついてくるか?」
クライスの姿を認めたガルフは、私の方を見ずにそう告げた。
そのひどく静かな声音に、私は彼の意図を察した。
どうするか一瞬悩んだが、答えは決まっていた。
「私も行きます」
私は静かに、だがはっきりとそう答えた。
意図は理解した。見届けたい、と。
「分かった」
ガルフはそれ以上何も言わず、クライスの方へ向かって歩き出した。私は一歩遅れてその後に続く。
「クライス、ちょっといいか」
「ん? 師匠? 何?」
丁度パンを食べ終えたクライスはだるそうに背もたれに寄りかかった姿勢のままガルフを見上げた。
師匠、とは言う割に口調や態度に敬意が感じられない。
「ちょっとこっちにこい、話がある」
そう言ってガルフはクライスを促し、歩き出した。
すぐ近くにある大きな門を通って首都バルアから外へ出る。バルア近辺はのどかな草原地帯が広がっており、少し歩けばなだらかな丘陵や森林地帯が見えてくる。首都近辺はギルドによる強力な結界と自警団やシーカーたちの巡回によって魔物の気配はなく、のどかな景色が広がっている。
バルアを取り囲む壁に沿ってやや歩き、人気の無い平原でガルフは足を止めた。
「で、話って?」
クライスの問いに、ガルフは無言で視線を返す。
「リエナも黙ったままで、何なんだ?」
「まぁ、とりあえず座れ」
クライスが私を振り向くのを遮るように、ガルフはその場に腰を下ろした。
私もその場に座り込み、クライスは釈然としないようだったが指示に従って腰を下ろす。壁に背中を預けるようにして座ったクライスと向き合うようにガルフが座る形となり、私は一歩引いたところで二人を見るような位置にいる。
「何から話すかな……」
組んだ足の片方に片肘を乗せて頬杖をつき、ガルフは小さく唸るように呟いた。
クライスは何が始まるのかまだ分かっていないようで、何も言わずにここへ連れ出したことに少し不機嫌そうに眉根を寄せている。
どうして分からないのだろう、と私はクライスに気付かれないように小さく溜め息をついていた。
いや、それがクライスなのだ。
これから始まるのはガルフによる説教だ。
ガルフがクライスに説教をするのは始めてではない。私はガルフ、クライスの二人と共に仕事をこなしたこともあるが、その後は決まってガルフがクライスに対して説教をしていた。と言っても、仕事中のクライスのミスや欠点、教えたことを忘れていることなどについての改善を求める説教がほとんどだ。
ただ、今日これから始まる説教が、これまでのようなものでないということは私にも分かる。
「……お前さ、自分に非があるって分かってるか?」
考えがまとまったのか、ガルフはまずそう切り出した。
「何が?」
「お前、昨日俺のチームが居心地悪くなったとか言ってたよな」
全く分かってない素振りのクライスに、ガルフはやや目を鋭くさせてそう言った。
その言葉は初耳だった。私は僅かに驚いてガルフとクライスを見る。
ガルフがバルアに戻ってきたのはつい二、三日前だ。戻ってきたガルフにはマイルから何があったのか説明がなされているはずだが、それとは別にクライスがそう言いにきたらしい。
「その原因が自分にあるって、理解できてないよな?」
ガルフの言葉に、クライスはようやくこれが説教の始まりだと気付いたようで、顔を顰めた。
「だって俺悪くねぇし」
露骨に嫌そうに、だるそうに、クライスはそう答える。
私はただ黙って二人を見る。
「お前はいつもそうだな。自分が原因だって本気で思ってない」
「そりゃそうだろ、俺のせいじゃねえ」
ガルフの表情は一切変わらず、それに怯む様子もなくクライスは平然と即答する。
クライスと出会ってしばらくになるが、彼と行動を共にしたり話をしていたりして私は、クライスとはこういう人物なのだと認識した。付き合いが浅いから私は割り切っていられるが、同じチームで毎日のように顔を合わせていたらどうなるかは分からない。
「フラストとのことは聞いた。一方的な認識にならないよう、見ていた他の奴にも話を聞いた」
戻ってきて直ぐに説教、とならなかったのは、ガルフは自分で状況を調べ直したからのようだった。マイルの話を聞いて、私は十分客観的だと思っていた。ガルフもマイルを信頼しているはずだ。それでも、ガルフはマイルが知っている以上に状況を精確に把握しようとしたのだろう。
「あれはフラストが原因だ」
クライスは頑なにそう主張した。
「いいや、原因はお前だ」
ガルフは冷たく言い放つ。
「何度言えば分かる。お前の動きを把握しているのはお前だけだ。事前に作戦の相談や提案や説明もなくお前の動きに合わせられる奴なんていねえんだよ。ああしたらいい、こうしたらいい、って言ってもそれにお前が合わせなきゃ意味がないだろ」
まして、初めて同行する人や、その場所に慣れていない者ならば特に。
「仮にフラストが原因だったとしてもな、居心地を悪くしたのはお前の態度だ」
ガルフの目が更に鋭くなる。表情には怒りや敵意といったものは見えないが、それらの感情を抑え込んでいるのがその目から分かる。
「はぁ? あいつが原因ならあいつのせいだろ」
「お前をチームに入れてからメンバーに何度も言われてんだよ、お前の態度が気に食わない、ってな」
不服そうなクライスに、ガルフは言い放つ。
「何でそんなにお前は偉そうなんだ。お前はそんなに偉いのか? あぁ?」
僅かにガルフの眉間に皺が寄り、苛立ちが漏れる。
「初対面だろうとなかろうと、一切敬語を使わない。態度は横柄、自信過剰で周りを引っ張り回して疲れさせても困らせても謝りもしない。皆辟易してんだよ」
ガルフの言葉に、クライスは顔を顰めた。
それは叱られて不満そうな子供の顔ではなく、心底めんどくさいと思っているような顔だった。
「別に俺に対してだけならいいさ。俺が我慢すりゃいいだけの話だし、気に障るほどならわざわざついて行く気はないからな」
この辺り、ガルフの人間性が見える。
自分が扱き下ろされるのは構わない、そこまで高尚な人間ではないと思っている。敬われ、慕われる器ではないと自覚している。だからこそ、自分を律して努力と鍛錬を惜しまず、自分にないものを何かしら持っている他者には敬意を払う。そうして得た実力や名声と人柄こそが周りを惹きつけるのだろう。
故に、ガルフはクライスの言動も態度も自分に対してのみなら文句を言わない。馴れ馴れしい奴だと思いはしても、表には出さない。他の人よりも不快感を抱くこともない。
「どうせお前は自分がそんな態度だから、他人がそういう態度でお前に接しても何も感じないんだろうさ。だけどな、普通はお前みたいな奴は嫌われるんだよ」
クライスは自分自身が他者に対してそういう態度であるがために、他者が同じような態度で接してきても気にならないのだろう。
「馴れ馴れしい、口が悪い、態度が悪い、自分のことしか考えない、そういうとこ直せって何度も言ってるよな?」
恐らく、ガルフはクライスをチームに入れた時からそう言い続けている。他者には失礼のないよう振舞え、親しくなるまでは敬語を使え、人の迷惑を考えろ。
何一つクライスは改善していない。
それどころか、悪いことだと思ってすらいない。他人も同じように振舞えばいいと本気で思っている。
「今までは皆俺の顔を立てて我慢してくれてたけどな、この前のフラストとの件で皆我慢の限界を超えたんだ」
ガルフがいる場では、表立って不満を言う者はいなかった。クライスの暴走はガルフが抑えていたし、他の者もそれをしているガルフの苦労を察していたのもある。ただ、何よりもガルフがクライスをチームに加えて指導する、と決めたことに対してその意志を尊重しようとしてくれていたのだ。
いつも世話になっているチームリーダーの我侭ぐらい何てことはない。誰もがそう思っていたはずだ。
それでも不満が表に出てくるほど、クライスは酷かった。
「彼女に振られて気が立ってたのかもしれないがな、それを理由に他人にあたるってのはただの八つ当たりだ」
セイアと別れてから、フラストとの喧嘩があったらしい。確かに落ち込んだり、気が立ったり、滅入ったりはするだろう。だからといって、他人にその感情をぶつけて発散していいはずがない。
恐らく、クライスに自覚はない。
「だから言ってるじゃねぇか、俺は悪くない」
平然と言い放つクライスに、ガルフの眉がぴくりと動く。
「……ねぇ、クライス」
今まで黙っていた私は、そこでようやくクライスに声をかけた。
向き合っていた二人がこちらを見る。
「例えあなたが原因でなかったとしても、周りにいる人皆があなたを原因だと思うってことは、皆にあなたはそういうことをする人だって思われてるってことなんだよ」
私は静かにそう告げた。
仮に原因がクライスになかったとしても、周りがクライスを原因だと言うのなら、それが周りの認識ということだ。クライスならば原因を作る人間性であると皆に思われている。そこに、実際にはどうだったかは関係がない。
「あなたが言っていることが嘘じゃなくても、本当は悪くなかったとしても、周りがあなたの言うことを信じないっていうのはあなたの人間性に問題があるってことなんだよ」
普段の言動や態度から、クライスはまったく信用されていない。
「何だよリエナまで……」
クライスは私に対しても不服そうに唇を尖らせた。
「マイルから聞いたよ。自分でチームでの仕事を主催しておいて遅刻してきて、謝りもしなかった、って」
「はぁ? 謝ったぞ?」
「あなたは謝ったつもりかもしれないけど、それじゃあ皆には謝ったって思われてないってことなんだよ」
クライスがどういう言い訳や謝り方をしたのかは実際に見ていない私には分からない。
「私はあなたがごめん、とかすまん、とか謝ってるところを見たことないし」
ただ、クライスが周りにも明確にはっきりと分かるぐらい謝罪の言葉を口にしたことはない。
「いい加減、自分に非がないと思うのをやめろ。お前の気分や事情でチームの空気を壊すな」
ガルフはそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
「悪い、リエナ、暫くこいつを見ててくれ。便所に行ってくる」
大きく溜め息をつくと、ガルフはそう言って場を離れていく。
用を足すのと同時に、少し頭も冷やしたい。そう言っているような気がした。
後書き
作者:白銀 |
投稿日:2013/01/15 21:38 更新日:2013/01/15 21:38 『Silly Seeker』の著作権は、すべて作者 白銀様に属します。 |
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