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作品ID:145
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ゴーストファミリア

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


プロローグ 欠片

目次

プロローグ 欠片





か細い炎が、闇の中で燃えている。

幾つもの、今にも消えそうな光は、黒い世界で赤く輝く。

パチパチと燃える炎。その音に混じる、人の足音。



一歩、また一歩と暗闇を進む姿を、まるで歓迎するかのように照らし出す光。誰もいないはずの世界に映し出される、たったひとつの影。



それは、一人の若者だった。



年は十六程だろうか。赤色の髪留めを付けた短い黒髪。僅かに隠れる端整な顔立ち。鋭くも紅色をした、どこまでも澄み渡った瞳――中性的な雰囲気を漂わせる



その姿は、あまりにもこの場に似つかわしくなかった。



ただひとつ、赤黒い液体が身体中に付着していることを除けば。



しかし、若者はそれを気にしている様子は無い。まるで、この状況が日常的に繰り返されているかのような。そう、これが当然のことだと言わんばかりに。



ふと、地を踏む音の代わりに、ガラスが割れる音がした。



それに気付いたのか、若者は自らの片足を一歩下げる。そこには、亀裂の入った写真立てが落ちていた。



写るのは男性と女性。そして、その子供と思われる一人の子供。満面の笑みで、コミカルながらも可愛らしい恐竜の人形を抱えていた。



若者はそれを拾う。



しばらくの間、その拾い物を見つめていたが、再び地面にそっと置いた。

瞬間、それは炎に包まれた。



「良いのか。燃やしちまって」



誰かが言った。少し若い、青年のような声だった。しかし、そこに姿は存在しない。



「……ああ。もう必要ない」



若者が返した。低めの、少女のような声だった。間を置いた後、若者は続ける。



「何故、多くの人間はその手で勝ち取った幸せを、その手で壊そうとするのだろ

う。それを手にするまでの苦労は、誰よりも自分が分かっているというのに。手にした幸せの価値がどれだけの物か、誰よりも自分が分かっているというのに」



写真立ての中の、三つの笑顔が燃えていく。灰になる。塵になる。そして、消える。



思い出が、人の幸福が、成す術もなく燃え尽きる様を静かに見つめる若者。表情は、暗い。



「その答えを求めているのはお前自身か?……それとも、その写真の人間たちか」



姿無き声は問う。若者の声は返ってこない。そっとしゃがみ込み。燃え続ける笑顔を見つめたまま動かない。



しばらくの沈黙の後、ひとつの溜息。姿無き声は続ける。



「お前だって分かっているはずだ。いくら幸せを手に入れるまで苦労したとして

も、いくら努力したとしても、何らかの衝撃で偶然壊してしまった幸せは、簡単には直せないことくらい。ましてや、幸せを手に入れた人間が既にいない場合は話にもならない」



その言葉に、若者は自らの手を見た。自分の物ではない血液がべっとりと付着している。



燃える炎に照らされ、その光景が残酷に映る。



「……もう少し早ければ、きっと助けられた。過ちを犯さなかった。私が、もう少し早ければ」



「どうしてお前はネガティヴに物事を考えちまうんだよ。例え遅かろうが、お前がいなければ規模は更に大きくなっていたはずだ。被害レベルだって低かったんだぜ。犠牲者だって」



「黙れ!」



若者の怒鳴り声に驚いたのか、姿無き声は瞬時に言葉を遮る。



炎が燃える音のみが、響く。その静寂を破ったのは、若者の一言だった。



「犠牲者が一人の時も、十人の時も、犠牲が出たことには変わりがないだろう」



再び訪れる沈黙。その中で燃え続けていた炎。だが、全ての生き物に終わりがあるように、永遠に燃え続ける炎など存在しない。



――黒い世界の命が、一斉に燃え尽きた。









「人間だからだろ」



暗闇の中、姿無き声が言った。



「自分で手に入れた幸せを壊す理由の答え。意味もなく壊しているわけじゃない。ひとつひとつの行動には、自らの欲望という名の理由がある」



若者は立ち上がる。そっと、姿無き声に耳を傾けながら。



「それを手にする苦労よりも、努力よりも。自らの欲望の価値が上回った。ただそれだけのことだ。案外、人間は幸せを壊すことを日常的に行っているかもしれないぜ。自分では気付かないだけで」



唐突に、若者は自らの右手を、空間を横薙ぎにするように振り払った。一瞬の

うちに炎が放たれる。若者の行動が、再びこの地に命を与える。同時に、荒々しい炎はかつてそこにあったはずの物全てを焼き払っていく。生きた者の証を塵にする。



「人間は欲望の塊だ。少しでも気に入らないことがあれば、目の前の幸せを壊すことだってする」



強い光に照らされた若者の表情は、あまりにも儚く、悲しいものだった。



姿無き声は、最後に言った。







「人間は愚かで、それでいて脆く、だからこそ美しい。……そう思わないか」









広がり続ける地獄。しかし、若者の姿は既に見えなくなっていた。

後書き


作者:Ryuna
投稿日:2010/02/06 09:28
更新日:2010/02/06 09:28
『ゴーストファミリア』の著作権は、すべて作者 Ryuna様に属します。

目次

作品ID:145
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