小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説投稿室

小説鍛錬室へ

小説情報へ
作品ID:1453
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」へ

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(63)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(277)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)


ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第23話「帰宅準備」

前の話 目次 次の話

第5章.第23話「帰宅準備」



 シャルロッテ姫との模擬戦を終え、そのまま、アマリーとシルヴィアを連れてノイレンシュタットに向かう。

 今回は馬で陸路を進むのではなく、俺が初めて来た時のように水路を使って、のんびり移動する。



 冷たい風が甲板を吹き抜けていく。

 俺はアマリーのプレゼントのマフラーを締め直しながら、アマリーに微笑みかける。



 シルヴィアからの視線を感じ、今日も護衛についたアクセルが冷やかしてくる。



「それってアマリーさんのプレゼントですよね。ああ、私も誰かから貰えないかなぁ」



 イケメンのアクセルに言われると嫌味にしか聞こえない。



「お前はもてそうだから、一杯貰ってるんじゃないのか?」



「そんなことないですよ。第一、騎士団にいたら出会いなんてほとんどないんですから」



 あまり見たことはないが、女騎士がいると聞いたことがある。

 そのことについて聞いてみると、



「いるにはいるんですが、気合が入った人が多いですし、こういったものをくれる人なんていませんよ」



 俺は話しをしながら、シュバルツェンベルクに残してきたアンジェリークのことを思い出していた。

 アンジェリークはクロイツタール騎士団に憧れていたから、女騎士のイメージは彼女しか思い浮かばない。



(なるほどね。確かにアンジェリークがマフラーを編んでいる姿は想像できないわ)



 そんな話をしながら、船に揺られていると、黙って俺とアクセルの話を聞いているテオフィルスが目に入った。

 俺の部下になったから、一緒にいることが多くなる。テオフィルスという名が呼びにくいなと思っていたので、



「テオフィルスでは呼びにくいから、“テオ“と呼ぶけどいいか」



 俺がそう言うと、テオフィルスはなぜかうれしそうに頷いていた。



 その後、アクセルから聞いたところでは、家族や親しい友人からは「テオ」と呼ばれているようで、俺が親しくしてくれるということがうれしかったのではとのことだった。



 船着場に着き、ゆっくりと買い物を始める。

 ノイレンシュタットでは衣類と小物類を中心に、半日くらいかけて買い物をしてから、家政婦として使う奴隷を依頼していたグロスハイム商会に向かう。



 応接室に通されると、すぐに代表のノーマンが現れるが、やはりシュバルツェンベルクに行きたいという積極的な奴隷はいないとのことだった。

 今回は断るつもりだったから、ちょうど良かったと思っていると、ノーマンはシルヴィアの耳に気付いたのか、驚きの表情を見せている。



「彼女の耳が治っていますが、高位の治癒師にお診せになったのですか。購入費用より高かったのではありませんか?」



「まあ、そんなに高くはなかったですけど……」



 俺は治癒魔法の話をあまり広めたくなかったので、曖昧に答えておく。

 俺は近いうちにドライセンブルクを出発するので、奴隷の件はとりあえずキャンセルすると伝え、グロスハイム商会を後にした。



 最後にグンドルフの情報を探るため、冒険者ギルドのノイレンシュタット南支部に向かう。

 南支部はヴェルス、スヘルデ方面行き、すなわちグンドルフの昔の活動地域が担当だ。護衛の斡旋する関係上、グンドルフに関する詳しい情報を持っている可能性がある。



 南支部に入ると、相変わらず慌しい雰囲気だが、空いている受付カウンター見付け、受付嬢に事情を話すと、担当者を呼んでくれた。



 担当者の話では、ヴェルス王国北東部で双剣使いが率いる盗賊団が徐々に西に向かって活動場所を変えていたことが確認できたが、半月くらい前から突然消息が判らなくなったそうだ。

 それらしい男たちの噂はないかと聞くと、三十人くらいの集団の場合、傭兵に化けられると噂にも上らなくなるそうで、ドライセンブルクのギルド本部で得た情報以上の手掛かりは得られなかった。



(ドライセン王国に近づいたから、盗賊稼業を手控えたというところだろうな。土地勘のあるヴェスターシュテーデ辺りから王国に潜入したのなら、既にノイレンシュタットにいてもおかしくない)



 俺は背中に冷たいものが流れるのを感じ、周りを見回してしまう。

 特に視線を感じたわけではないが、すぐ近くに奴が来ているかもしれないと考えると冒険者たちが盗賊に見えてしまう。



 更にグンドルフの戦闘スタイル、性格について聞いていみるが、聞かなければよかったと思わせる内容だった。

 一言でいえば、王国でも一、二を争う双剣の使い手、残忍にして狡猾、まさに悪役になるために生まれてきたような人物像だった。

 グンドルフに襲われて生き残った人は少なく、護衛はほぼ皆殺しで冒険者や傭兵など武術に心得のあるものはほとんど生き残っていない。

 そのため、詳しい戦闘スタイルなどの情報はほとんどなく、闇に包まれたままだ。

 一方、残忍性については耳を塞ぎたくなる話が多く、なぜ手下が多く集まるのか不思議なくらいだった。





 ギルドを出て、北の船着場に向かう途中、俺は歩きながら、これからのことを考えていた。



 ノイレンシュタットは自由商業都市。誰でも入れるし、情報も集められる。

 クロイツタール公爵暗殺未遂事件と俺の准男爵授爵のニュースは大きな話題だったようだから、奴の耳に入っていると考えるべきだろう。



 これから進むクロイツタール街道は、第三騎士団に加え、ノルトハウゼン、クロイツタールの両騎士団も警備に関わっていることから、どんなに偽装しても堂々と通過することは難しいだろう。

 当然、城塞都市であるクロイツタール市への入城も難しい。

 そうなると、森の中の間道を通過して進むしかないから、移動速度は遅くなるし、クロイツタール領に入れば、不審者として発見できる可能性もある。



(こちらから先手を打つべきか、それとも奴の動きを待つべきか悩ましいな)



 俺が考え込んでいると、アマリーが心配そうに声をかけてきた。



「やっぱり心配事? 私では駄目だけど、一人で悩まないで、皆さんに相談してください」



 アマリーは俺の顔を覗き込みながら、薄いブルーの目に憂いの色を浮かべ、アクセル、テオ、シルヴィアに相談することを勧めてくる。



「ありがとう。帰ったらみんなに相談するよ。うん、本当にありがとう」



 俺は礼を言いながら、アマリーを軽く抱きしめる。

 俺自身気付いていなかったが、相当深刻に悩んでいるように見えたようで、シルヴィアたちが心配そうにチラチラ見ていたことすら気付かなかった。



 帰りの船に乗ってドライセンブルクに戻る。

 ダンクマールの工房で防具類を受け取る。

 隣のデュオニュースの工房が目に入ったので、アクセルとテオに剣は頼んだのか、聞いてみた。

 アクセルはバスタードソードをすでに頼んでおり、実家に金を工面してもらうための手紙も出しているそうだ。

 一方、テオの方はバスタードソードにするか決めておらず、金策もしていないそうだ。



「なんでバスタードにしないんだ? 今使っているのはバスタードだろ?」



「剣を変えようか悩んでいます。副長代理のように両手剣専門で行こうかと……」



 テオは本気で悩んでいるようだ。



(騎士団正式装備を変えてもいいのか? 俺のこともあるから、例外はあるのかもしれないが)



「何にせよ、金策で困ったら相談に乗るぞ。さすがにタイロンガ並の金額は貸せないがな」



 テオの実家はアクセルと同じく郷士階級だが、農村部の地主ということもあり、数百Gもの金をすぐに工面することは難しいようだ。

 まだ、千二百Gくらいあるし、准男爵の俸給もある。

 そこまで考えて気付いたことがあった。



(准男爵の俸給っていくらか聞いていなかったし、どうやって支給されるんだろう。副長代理の給料は? まあ、当分大きな買い物もないし、いいか)



 ゴスラーに着いた頃は金のことで頭を悩ませていたこともあったが、さすがにこれだけの大金を持っていると余裕を持って考えられる。





 その後、デュオニュースの工房には行かず、そのまま公爵邸に帰っていった。



 夕食までの一時間、アマリー、シルヴィア、アクセル、テオの四人と今後の方針について話し合った。

 俺は既にアマリーたちには話していることだが、シュバルツェンベルクにノーラたちがいること、エルナを身請けするつもりであることを伝え、それぞれに意見を求めた。



 シルヴィアは俺の方針に従うとだけ発言し、以降は沈黙を保つ。



 アクセルはクロイツタール城に入り、騎士団と共に討伐に向かい、討伐完了後にシュバルツェンベルクに向かうことを提案。テオもアクセルの提案に黙って頷いている。



 アマリーは、自分が口を挟める話ではないと一切発言しない。



 意見らしいのはアクセルの提案だけだが、常識的に考えれば、俺個人にとってはこれが一番安全な策だ。



 アクセルにノーラたちの安全について意見を求めると、困ったような顔をして「そこまで考えていませんでした」と答えてきた。

 ノーラたちの安全とエルナの身請けを考えると、俺自身がシュバルツェンベルクに行く必要がある。

 俺個人の事情で騎士団に護衛を依頼するわけにはいかないので、クロイツタールで冒険者を雇う必要があるだろう。

 冒険者についてもマックスたちやカスパーたちのような信用できる連中でないと、グンドルフの手下を懐に招き入れることになるので、精査が必要だ。

 少なくともアマリーはクロイツタールで待ってもらう必要がある。



 そこまで話すと、アマリーが普段からは考えられないような強い口調で、



「タイガさんがシュバルツェンベルクに行くなら、私も連れて行ってください! 一人で待っているのは嫌です。もし、タイガさんが帰ってこないと……」



 最後の方は涙声で訴えてくる。

 正直、アマリーを連れて行くのはリスクが大きい。自分の身を守れるシルヴィアはともかく、冬のシュバルツェン街道はグンドルフのことがなくても危険が多い。



(アマリーは家族を失ったばかり。俺までいなくなったら本当に壊れてしまうかもしれない)



 シュバルツェンベルクから、すぐにクロイツタールに戻って来るつもりだが、往復を含め、半月は掛かるだろう。

 今のアマリーの状況では半月も離れていたら、心が壊れてしまう可能性が高い。



(やはり連れて行くしかないか。問題は護衛だな)



 アマリーに「判ったよ。一緒に行こう」と言うと花が咲いたような笑顔になる。



 俺とは話せるようになってきたが、まだまだ心の傷は癒えていないようで、情緒不安定な状態はあまり改善していない。



 夕食後、公爵に面会を求め、ノイレンシュタットでの情報と共に今後の俺の方針について、相談する。



 俺の方針は、

・クロイツタールまでは公爵一行に同行する

・シュバルツェンベルクへは、アマリーとシルヴィアも連れて行かざるを得ない

・クロイツタールからシュバルツェンベルクまでは冒険者を護衛として雇う

・シュバルツェンベルクでエルナを身請けする

・ギラーの情報を確認、危険があれば守備隊に協力を仰ぐ

・まだ、グンドルフの手が及んでいなければ、ノーラたちとエルナを引き連れ、クロイツタールに帰還

・帰りも冒険者を護衛として雇う

・クロイツタールでグンドルフの動向を探り、俺自身を囮にして討伐する

というものだ。



 不確定な情報が多いこと、守るべき対象が多いことが問題だが、今の段階でこれ以上の方針は立てられない。



 公爵は一頻り俺の話を聞いた後、



「護衛は騎士団から連れて行け。フックスベルガーら二名に加え、二十名付けよう」



「それには及びません。これは私事、グンドルフがクロイツタールに害をなす可能性があるなら、領内に少しでも多くの戦力を残した方がよろしいかと」



「そなたが標的なのだぞ。そこに護衛を付けずして何とする」



「下手に大勢で動く方が標的になりやすいかと。今回は商人にでも化けて行きます」



「駄目だ。これは命令だ! 直属二名を含め最低でも護衛二十名を連れて行かねば、シュバルツェンベルクに行くことは許可できん」



 俺はここまで俺のことを考えてくれる公爵に感謝しながら、その命令に従うことにした。



 明日クロイツタールに向けて出発する。

 俺は皆に公爵の言葉を伝えたあと、明日の出発準備を行っている。



 シュバルツェンベルクを出るときは、デュオニュースの剣と家政婦を得るためだけに、ここドライセンブルクに来たはずだった。



 公爵暗殺未遂事件、国王への謁見、御前試合、准男爵位の授爵。

 いろいろあったドライセンブルク最後の夜は静かに更けていった。









 大河の准男爵位授爵式の前日。

 ノイレンシュタットの南の宿に潜んでいたグンドルフは、大河が准男爵位を得るという噂を耳にする。



「俺の財宝(おたから)を掠めておいて貴族様だと! いいだろう、たっぷりと後悔させてやる……」



 その後、クロイツタール公暗殺未遂事件についても情報が入ってきた。

 王国もさすがに帝国に唆されて王国貴族が起こしたとは公式には言えず、コルネリウス個人が立案し実行したと発表を出した。

 コルネリウスの公開処刑がドライセンブルクで行われ、ウンケルバッハ伯爵が強制的に隠居、謹慎を命じられたことも噂に上がっていた。



「ウンケルバッハ伯か。あの馬鹿伯爵なら使えるかも知れねぇな……」



 グンドルフは手下たちにウンケルバッハ領に向かうよう命じ、その日のうちにグンドルフ一味はノイレンシュタットから消えていた。









 その八日後、グンドルフたちが潜んでいた宿に第三騎士団所属の騎士たちが踏み込む。

 宿の主人にグンドルフらしき人物が泊っていなかったか尋問する。

 最初、客の素性は詮索しないから判らないと、突っぱねていた主人も拷問紛いの尋問に折れ、グンドルフらしき人物の情報を漏らしていく。

 五日前に宿を発ったこと、泊っていた仲間は十五人くらいだが、入れ替わっていたようで実数は判らないこと、聞こえてきた声の中に「タイガ」という単語があったことなどが判明した。

 更に尋問を続けると北に向かったらしいこと、グロッセート王国の身分証を持った手下がいることなどが判明し、上司であるグローセンシュタイン子爵に報告された。



「すると、グンドルフらしき者たちが北に向かったことは間違いないのだな。うむ……」



 グローセンシュタイン子爵は暫し目を瞑り、考えを整理すると、次々と部下たちに命令を発していく。



「クロイツタール公に至急この情報をお伝えせよ。クロイツタール街道の警備強化およびノルトハウゼン騎士団への協力依頼を出せ。シュバルツェンベルク行政庁に警戒情報を伝達せよ」



 命じられた騎士たちは足早に子爵の執務室から立ち去り、それぞれの任務に向かう。



(帝国にこの状況を利用されなければよいが……最悪、タカヤマを犠牲にすることも考えねばならんか……)



 大河が知らないところで、事態は急速に動き始めていた。







後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/16 21:31
更新日:2013/01/16 21:31
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

前の話 目次 次の話

作品ID:1453
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」へ

読了ボタン


↑読み終えた場合はクリック!
button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS