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作品ID:1460
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第六章「死闘」:第3話「シュバルツェンベルク派遣部隊選抜」

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第6章.第3話「シュバルツェンベルク派遣部隊選抜」



 雪の月第六週火の曜(一月二十七日)の午後四時頃、俺たちはクロイツタールに到着した。

 すぐに城に入り、ダリウス・バルツァー副長の出迎えを受ける。



「申し訳ございません閣下。してやられました」



 バルツァー副長は公爵を見るなり、いきなり頭を下げ謝罪してきた。



「長い間、城を空け苦労をかけた。此度のことは仕方がなかろう」



 公爵は副長に労いの言葉を掛けている。



「伝令で伝えたとおり、タイガには副長代理として儂の傍らに置く。そなたは今まで通り、儂の代理を頼む」



 バルツァー副長は公爵に目礼した後、俺に向かって、



「ようやく決心してくれたか。君が閣下についていてくれれば安心だ。無茶をさせぬようよく見張っていてくれ」



(副長も意外と茶目っ気のある人だったんだ。本人が目の前にいるのに“見張ってくれ”とは。まあ、言いたい気持ちはわかる気がするが)



 俺は片目を瞑りながら、「了解しました。注意します」と返す。



 公爵は何か言いたげだが、ここで何か言ってもやぶへびだと思ったのか、苦笑いしているだけだ。



 アマリーたちを宿泊場所に案内してもらい、早速、ウンケルバッハ守備隊に対する協議のため、隊長クラス以上が会議室に集合する。



 隊長クラス十人と副長、公爵、俺の十三人が会議室に集まる。



 公爵より、俺に関する伝達があった。



「皆も聞いていると思うが、この度わが騎士団の副長代理に任じたタイガ・タカヤマだ。魔法剣士でありながら、策も講じられる知恵者だ。今後、儂の腹心として働いてもらうつもりでおる。部下たちにも伝達しておくように」



 隊長たちは、表情を変えず「「はっ!」」とだけ答え、特に質問もなかった。



(知恵者って言われると困るんだが。今のところ不平不満は見えないが、野心のない騎士たちばかりじゃないだろう。俺の存在が騎士団の亀裂にならないよう注意しないと……)



 俺がそんなことを考えていると、公爵が今回のウンケルバッハ守備隊対策会議の開始を宣言する。

 副長が現状を説明し始める。



「ウンケルバッハ守備隊を名乗る集団は、総勢二十八名。隊長はグロッセート出身のグイド。レイナルドが確認したところ、数年前からウンケルバッハ伯爵領にいた傭兵であることが確認されている。装備は守備隊標準装備だが、ショートボウを携行している弓兵が十名近くいたという情報がある」



 副長は一旦言葉を切り、レイナルドに補足させる。

 レイナルドは守備隊の印象を「ならず者集団のようだ」と語る。

 更に副長は、規律が緩いことなどケシャイト守備隊のフィードラー隊長の報告を読み上げていく。



 俺は副長の声を聞きながら、ウンケルバッハ伯爵家の思惑を考えていた。



(フィードラー隊長の帝国の罠、陽動という線もあり得るが、このタイミングで仕掛けてくる理由が判らないな)



 確かにウンケルバッハ領の治安担当がクロイツタール騎士団から第三騎士団に変更になったタイミングだから、混乱に乗じるという点では合理的だ。

 だが、言っては悪いがケシャイトの検問責任者に看破される程度の偽装で、送り出す理由が判らない。

 特に気になるのは、ケシャイトで看破されたことを感づいたのに、クロイツタールをバイパスしたことだ。これでは疑ってくれと言っているようなもので、行動に一貫性が無い。



 俺が物思いに耽っている間に副長の報告が終わっており、公爵が意見を求めている。



「ダリウスの報告の通り、疑わしい集団であることは間違いない。誰か意見のある者はおらんか」



 公爵の声に反応し、何人かが発言を求めている。

 一人の隊長が、



「早急にシュバルツェンベルクに部隊を派遣して、その者たちを拘束、尋問すべきではありませんか」



 それに対し、公爵は首を横に振りながら、



「シュバルツェンベルクは王室直轄領ゆえ、緊急性が無くば、騎士団総長の権限をもってしても迂闊に兵は動かせん」



 別の隊長から、



「ウンケルバッハ伯爵家に、守備隊の召還を命じてみてはいかがでしょうか。ならず者ゆえ領内で再訓練させよなどの理由があれば可能かと思われますが」



「それも良いかもしれんが……錬度が低いから訓練させると突っぱねられれば実効性は薄いといわざるを得んな」



 他にも何人かの隊長が意見を出すが、情報が少なすぎて有効な意見は出てこない。

 公爵は俺のほうを見て、



「タイガ。そなたの考えはどうじゃ」



 俺は考えをまとめるように話を始める。



「状況を整理しますと、ウンケルバッハ守備隊を称する者たちの問題点は、帝国又は伯爵家、若しくは双方が王国及びクロイツタール公爵家に害をなす可能性があるということです。現状では情報が少なすぎ、目的、目標、手段のすべてが不明です」



 俺はここで一旦話を切り、全員の認識を合わせる。



「また、怪しいというだけでは我が騎士団の兵を派遣すること、シュバルツェンベルク守備隊に拘束させることは無理でしょう。伯爵家に守備隊を召還させることについても確かな証拠も無く、要請という形の命令を出すことは伯爵家との関係を更に悪化させることになります。ここまではよろしいでしょうか」



 公爵以下、全員が俺の話に頷いている。



「取り得る対応策ですが、領内の警戒レベルを上げ、帝国の仕掛けてくる策を未然に防ぐことと、第三騎士団に情報を提供し、帝国からの侵攻の可能性があることを認識させることが第一の対応策になります」



 隊長たちは「何を当たり前のことを」と思っているようで、反応が薄い。



「次に取り得る策ですが、シュバルツェンベルクに我が騎士団を早急に派遣することです。理由はウンケルバッハ守備隊と同じ理由で訓練を称せば問題は無いでしょう。我が騎士団が派遣されれば抑止力として作用するため、迂闊には動けなくなるでしょう。その間に帝国、伯爵家の思惑を突き止めれば、どのような策を考えているにせよ、未然に防ぐことができると思われます」



 俺が言葉を切ると、公爵がどの程度の規模、行動方針で行くのか確認してきた。



「うむ。我が騎士団を派遣するのはよい。では、どの程度の規模を派遣する? 抑止力と言っても迷宮に入っているだけでは抑止にならん。奴らに対してどういった行動に出るのだ?」



「彼らの人数が二十八人ですから、あまり多すぎるとどこかに潜伏してしまう可能性があります。よって、規模は二十名程度で充分でしょう。行動方針は現地についてから再検討することになるでしょうが、あからさまに彼らを監視することが有効かと思われます」



 公爵は俺の考えを咀嚼するように、ゆっくりと疑問点を確認してくる。



「”密かに”ではなく、”あからさまに”監視する目的は?」



「既に彼らは我が騎士団が疑っていることに勘付いております。密かに監視しても気付くでしょう。それならば”あからさまに”監視した方が彼らの行動を掣肘することになるはずです」



 公爵は更に疑問点を挙げてくる。



「しかし、二十名で足りるのか。奴らが強引な行動を起こせば、かなり不利になるが……」



「強引な行動を起こせば、シュバルツェンベルク守備隊が動きます。守備隊は百名前後いたはずですから、油断さえしなければ対応は難しくないと考えます。レイナルド殿、フィードラー殿の見立てでは規律の緩いならず者ですから、精鋭である我が騎士団がその程度の戦力差で後れを取ることはないと考えます」



 本当のことを言えば、三十名以上の派遣を提案したかったのだが、ここで”半”部外者の俺がならず者相手に同数以上の派遣を要請すると、俺がクロイツタールの騎士を信用していないと思われてしまう可能性がある。



(いきなり上席者になると変な気を使わないといけないから面倒だな)



 俺の意見が呼び水になり、その後、積極的な意見交換がなされたが、特に目を見張るような意見は無かった。

 公爵は副長と簡単に相談した後、方針を決定する。



「副長代理の意見を採用し、明日、シュバルツェンベルクに向けて訓練部隊を派遣する。責任者はタイガ・タカヤマ。補佐にラザファム・フォーベックを当てる。タイガ、元々シュバルツェンベルクに行く予定だから問題無かろう。ラザファム、そなた以外の十六名を今日中に選んでおけ」



 公爵はクロイツタール領の警戒レベルを戦時並に引き上げることと、ドライセンブルクに隊長クラスの使者を派遣することもあわせて決定した。



(何とかなりそうだな。うまく行けばグンドルフの行動も制限できるし、ウンケルバッハで暗躍した帝国の工作員も炙り出せるかもしれないな)



 公爵は会議の終了を宣言し、公爵、副長、俺、フォーベックの四名が残った。



 ラザファム・フォーベック隊長は三十代半ばの赤銅色の髪をした長身でがっしりとした体格の武人で、立派な口髭と眉間に刻まれたしわが真面目そうな雰囲気を醸し出している。



(俺と並ぶとフォーベック隊長の方が絶対、上官に見えるんだよな)



 俺はフォーベックに、「よろしくお願いします」と握手を求めると、彼も「こちらこそ」と力強い手で握り返してきた。



 公爵から、改めてフォーベックを紹介される。



「ラザファムは我が騎士団でも有数のバスタードソードの使い手だ。不屈の闘志と命令の遵守に関しては我が騎士団でも随一と評価しておる」



 公爵はフォーベックに



「タイガのことは聞いておろうが、こやつは剣の腕だけではなく柔軟な考えの持ち主でもある。そなたも学ぶところが多かろう」



 公爵は真面目で頭の固そうなフォーベックに対し、柔軟な対応が出来るよう教育を施すつもりのようだ。



(今回はレイナルド隊長が良かったんだがな。まあ、彼も公爵のお供で王都に行っていたから、久しぶりにクロイツタールでゆっくりさせる必要があるのだろうな)



 フォーベックを鑑定で見てみると、年齢は三十六歳。レベル三十七で、スキルは両手剣四十二(連撃二、強撃一、複撃一)、片手剣三十八(連撃一、狙撃二)、回避二十五(予測一)、小盾二十二(防御力向上一)、重装鎧三十七(防御力向上三)でこの他に騎乗と体術が高い。

 典型的な前線指揮官タイプのようだ。



(確かにバスタードソードの使い手らしいスキルだな。回避が比較的低いから防御力重視っていうスタイルか)



 四人で明日以降の打合せをするが、フォーベックは一切発言しない。

 俺が百人いる彼の部下から十六人をどうやって選定するのか聞いてみると、



「若手中心に志願者で編成するつもりです」



とだけ、答えてくる。



 俺はそれぞれの特性を確認しなくていいのか気になり、



「今回は監視、追跡などが主な任務になります。その辺りの配慮はどうされるおつもりですか?」



「特に配慮しません」



 俺が更に理由を問うと、



「戦場では欲しい時に欲しい人材がいることは滅多にありません。訓練にちょうどいいでしょう」



(相手がならず者というなら、気配絶ちや欺瞞行動なんかが得意なはずだが、大丈夫なのだろうか?)



 公爵も副長も特に口を出すつもりが無いようで、出発時間と装備類の調整で打合せは完了した。



 俺は不安に思ったので、フォーベックの選抜に立ち会うことにした。



(閣下から隊長に直接命令があったものだから、横から口を出すのは権限の問題も絡むし、よくないんだけどなぁ……)



 隊長は特に嫌な顔もせず、俺が立ち会うことを了承してくれた。



 クロイツタール騎士団の編成は、隊長(大隊長=佐官クラス)、正騎士(士官=尉官クラス)、従騎士(下士官クラス)、従士(兵士クラス)の三つの階級から成り、正騎士、従騎士に四名の従士が付き、これが最小単位の一個小隊に当たる。

 一個中隊は六個小隊三十名、中隊長には正騎士がその任に当たる。一個大隊は三個中隊プラス大隊長直属の二個小隊で構成され、一個大隊は百名の兵で構成される。

 これが平時の編成ですべて騎兵である。

 よって、従士も含め、一般には“騎士”と呼ばれることが多い。



 戦時には義勇兵や傭兵など歩兵が編入されるため、都度、編成が変わってくる。

 連隊は五個大隊で編成されるが、常設の連隊長は置かれず、公爵と副長がそれぞれ連隊長として率いることが多い。



 クロイツタール騎士団は総勢二千名であり、クロイツタール城に十個大隊が常駐し、残りの十大隊分は各砦、主要な町の守備隊として別途編成されている。



 なお、従士は正騎士、従騎士たちの使用人ではなく、あくまで兵士階級を示しているだけであるため、郷士や平民だけでなく、十代前半の騎士階級出身者も含まれている。





 フォーベックは、クロイツタール城駐在の第四大隊長だ。

 俺とフォーベックは、城の一角にある第四大隊の兵舎に向かっている。



 兵舎に着くと夕食時の午後六時前ということもあり、城の警備などの任務があるものを除いた全員が食堂に集まっていた。



 フォーベックが食堂の騎士たちの前で会議での決定事項を通達している。

 そして、シュバルツェンベルク派遣部隊の志願者を募るというと、全員が志願してきた。



(結局、こういう場合、全員志願するんだよな)



 フォーベックは年齢の条件を二十歳以下とすると、候補者が半数に減る。

 更に未婚者に限定すると、三十人程度になるが、十代前半の子供までが候補に入っている。



(十三歳だと! ゴスラーのアントンたちと同い年じゃないか。そんな子供連れて行けるかよ!)



 フォーベックが三十名の部下を俺の前に整列させると、



「この度、副長代理に就任されたタカヤマ准男爵だ。今回の派遣部隊の指揮を執られる」



 フォーベックが俺のほうを見たので、



「タイガ・タカヤマだ。今回の任務は非常に困難を伴う任務だが、危険という点では比較的安全だろう」



 俺はここで言葉を一旦切り、志願者たちを見る。



「しかし、君たちの働き如何ではここクロイツタールのみならず、王国の命運にも関わってくるかもしれない。そこをよく考えて再度志願して欲しい。志願者には私と立ち会ってもらいフォーベック隊長に合否を確認してもらう予定だ」



 俺は十代半ばの少年たちを引き連れていくつもりが無いので、フォーベックに再考を促すため、強引に試験の話をねじ込んだ。



 フォーベックを見ると特に感慨も無く、頷いているだけだった。



(大丈夫なのか、この男で。閣下の考えがよく判らないな)



 三十名の候補者の中からとりわけ若い十九名が辞退したため、再度候補者を募ることになる。



 フォーベックが、俺にどうすべきか確認してきたので、



「今回の任務で最も重要なことは、ウンケルバッハ守備隊を称する者たちの監視と牽制です。隊長であるフォーベック殿がある程度候補を選んでいただき、私が実力を確認するというのでどうでしょうか?」



 フォーベックはただ「了解しました」とだけ言うと、志願者たちを席に戻し、自ら部下の間を歩き、指名していく。



 およそ三十名の部下を選抜し、俺の前に連れてきた。

 今度は十代後半?三十代前半のもので十代前半の子供は含まれていない。



(試されたのかな? どうも行動原理の判らん人だ)



 俺は夕食前だが、三十名の兵を引き連れ、訓練場に向かう。



(ざっと見たところ、武器スキル二十五程度のアクセル、テオクラスがほとんどで武器スキルが三十五を越えているのは五人のみか。これならすぐに終わるな)



「夕食前にすまないが、簡単な手合わせだからすぐに終わる。各自、俺を殺す気で打ち込んできてくれ」



 兵たちは俺の指示に驚くが、フォーベックが命令だと言うとすぐに動揺が収まる。



 最初の兵との手合わせが始まる。

 鑑定で見ると年齢は俺と同じ二十三歳、レベルは二十五、スキルは片手剣三十が一番高く、探知、追跡のスキルも持っている。



「従騎士のイェンスです。よろしくお願いします」



 イェンスはそういうと一礼した後、剣を構える。

 フォーベックの合図と共に気合の篭った声を上げながら、鋭い踏み込みで斬りかかってくる。

 俺は軽く回避しながら、突き出された剣を打ち据えて、試験を終了させる。そして、「右に並べ」といって下がらせる。



 その後もほとんど同じように立会いをし、狩猟系のスキルを持っているものを右、持っていないものを左に並ばせる。



 三十人を三十分掛けて対応し、右に十六人、左に十四人に選別した。



 すべての候補者と立ち会った後、フォーベックに向かい、



「フォーベック殿に異存が無ければ、右の者を合格とします。左の者で不服がある者は一歩前にでるように」



 そういうと左の列から五名が前に進み出てきた。



「不服があるようなので、再度立会いをする。次は五人同時に掛かってくるように。私の膝を地面に付けることが出来たら、全員合格とする」



 五人は五対一という形態にプライドを傷付けられたのか、口々に一騎打ちを申し出てくる。



 フォーベックが、



「副長代理の命令だ! 直ちに立会いを開始せよ!」



と怒鳴ると、五人は互いの顔を見回している。



「そちらから来ないなら、こちらから行こう」



 俺はそういいながら、五人に突っ込んで行く。

 彼らは俺の先制攻撃を回避すべく散開し、すぐに攻撃を掛けてくる。



(同じ小隊でもないようだし、連携はできていない。複撃でさっさと片付けるか)



 彼らは自分の攻撃のみを考え、味方の攻撃の邪魔をしていることに気付いていない。もう少し、時間があれば連携することもできたのだろうが、俺もそこまで付き合うつもりは無い。

 タイミングを見計らい、手加減なしの複撃を繰り出す。



 三人がもろに攻撃を受けて膝をつき、二人は何とか回避するものの、次の攻撃を掛ける余裕が無い。

 俺はその隙を突いて、一人ずつに攻撃を加えて五人を沈黙させる。

 二人の腕にひびが入っていたので、治癒魔法で回復させる。

 その後に、五人に「全員合格とする」と宣言し、フォーベックに確認の視線を送る。



 五人は完膚なきまでに敗れたのに、なぜ合格なのだという顔をしている。



(人数は多くなるけど、やる気のある奴を腐らせるのはかわいそうだし、武術系に限れば能力的には問題ない。後は残留組に影響が出ないことの確認だな)



「フォーベック殿。二十一人になりましたが、残留組の任務に支障はでませんか?」



「閣下からは十六名選抜せよと命じられておりますが……任務には支障ございません」



「閣下には私から人数が増えた旨、報告いたします。それでは後は頼みます」



 俺は選抜がうまく行ったと思い、帰ろうとした時、



「副長代理。私にも稽古を付けていただけないか」



 後ろからフォーベックが声を掛けてきた。



「訓練のつもりは無かったのですが……どうしてもやりますか?」



 フォーベックは深々と頭を下げ、「よろしくお願いします」と言っている。



(やる必要は無いんだけどな。まあ、実力的には俺の方が少しだけ有利だが、実戦経験がありそうだから、勝敗はどちらに転ぶか判らないな)



「判りました。それでは一本だけ」



 フォーベックは模擬剣を選び、俺の前に進んでくる。



 審判がいないので、俺が「いつでもどうぞ」というと、一言「参る」と叫び、フォーベックは攻撃を掛けてきた。



 フォーベックはバスタードソードを右手に持ち、急所を狙って的確に攻撃を掛けてくる。俺は回避しながら、カウンターを狙うが、両手持ちに変えたり、片手持ちに変えたりと変幻自在の攻撃に、カウンターの出し所が掴めない。



 フォーベックも自らの攻撃が尽く回避されるのを見て、攻撃のパターンを変えてくるが、少し焦りを感じたのか、片手での突きの直後に、一瞬だけ動きが単調になった。



 俺はその隙を見逃さず、見切りで回避した後に相手の手首目掛けて、小手の要領で斬り付ける。



 フォーベックの右手のガントレットに模擬剣が当たり、カーンという硬い音がしたあと、剣が落ちる音が重なる。

 彼は満足そうな顔をして、一言、「参りました」と言って、頭を下げてくる。



(ふぅー。何とか勝てたな。しかし、今日模擬戦をやらなくてもいいのに……)



 俺もフォーベックに一礼し、これで立会いは終了。俺は自分に宛がわれた部屋に向かった。







 フォーベックは大河との模擬戦を終え、満足感に包まれていた。



(最初に閣下より紹介があったときは、このような者がなぜ閣下に認められたのかと悔しい思いをした。閣下から副長代理の下に付けと言われたのは更に屈辱だった)



 フォーベックは大隊を指揮して既に五年。年齢も三十六歳で副長のダリウス・バルツァーと三歳しか違わない。

 自分が副長の任に堪えられるかと問われれば、バルツァー副長のようにはできないと即座に否定するのだが、まだ二十代前半、それもあまりとりえの無さそうな、小柄な男が副長代理になると聞けば、自分にも出来ると答えたくなる。



 シュバルツェンベルク行きの人選の時にはあえて不適正なものを入れていた。ここで何も言わないのであれば、再度人選し直すつもりであったが、その後の人選は見事だった。



(自分の部下だから三十人までは簡単に絞り込めたが、その後の絞込みはかなり悩んだだろう。だが、副長代理は初めて会った私の部下を、剣を交えるだけで瞬時に選んでいった。それも私が選ぶであろう人材とほぼ同じ人材をだ)



 大河が鑑定で能力を確認できるとは想像も出来ないので、フォーベックは大河の人を見る目に驚きを隠せない。

 そして、大河の剣の腕を思い出し、珍しく笑みを浮かべていた。



(更にあの剣の腕の冴え。私の部下たちも弱いわけではない。むしろ、騎士団の大隊の中でも上位に位置していると自負していた。”赤子の手を捻るように”という言葉がこれほど相応しいと思ったことはない)



 フォーベックは自らが敗れたことにも思いを馳せていた。



(模擬戦で破れたのはいつ以来だろう。閣下に稽古をつけてもらったのは二年ほど前か。それ以来だ。あのグリュンタールを破ったという話を聞いたとき、誤報だと思ったが、そうではなかったのだな)



 フォーベックは面白い上司に出会えたと明日からのシュベルツェンベルク行きが楽しみになっていた。







 第四大隊の兵舎では選抜試験の話で盛り上がっていた。



「副長代理はあれだけの人数を三十分も掛けずに相手にしたって言うのか?」



「ああ、そうだ。五人相手でも二分も掛かっていなかったよ。公爵閣下が気に入られるのもわかる気がするわ」



「最後の隊長殿との模擬戦はどうだったんだ?」



「隊長のあの変幻自在の攻撃を尽くかわし続けた上に、最後は簡単に手首を打ち据えて勝利していたよ。どんな修行をしたらあんな動きが出来るんだろう」



「くそっ! 飯なんか食っていないで見に行けばよかったぜ。しかし、言っちゃあ悪いけど副長代理って体も小さいし、強そうにも見えないんだよな。両手剣がまともに振れるのかって思ってたぜ」



「俺も同じだよ。最初にイェンスが軽くあしらわれた時には目を疑ったからな」



「そう言えば、副長代理の直属ってフックスベルガー様とフェーレンシルト様しか決まっていないんだろう。これ以上、正騎士クラスを入れるとは思えんから、従騎士、従士クラスから選ばれるんじゃないのか。今回の派遣部隊は直属になるチャンスじゃないか。いっちょ目に止まるように頑張るとするか」



 そこにフォーベックが現れ、武人らしい大音声(だいおんじょう)で指示を出す。



「シュバルツェンベルク派遣部隊に選抜された者は午後九時までに準備を整え、隊長室に集合! 無駄口を聞いている暇は無いぞ!」



「「はっ! 準備を整え、午後九時に隊長室に出頭いたします!」」



 選抜された二十一人は、直立不動の姿勢で命令を復唱し、すぐに準備に取り掛かっていった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/19 17:29
更新日:2013/01/19 17:31
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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