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作品ID:1461
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第六章「死闘」:第4話「届かぬ情報」

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第6章.第4話「届かぬ情報」



 第四大隊での人選も無事終え、人数が多くなったことを公爵に報告に行く。



「ご指示では十六名とのことでしたが、五名追加の二十一名となりました。フォーベック隊長に確認したところ、残留組の任務に支障は出ないとのことですので、許可を頂きに参りました」



「良かろう。許可する。ところでどういう基準で選んだ?」



 俺は鑑定の話をするつもりはないので、



「フォーベック殿が選んだ三十名と手合わせをして、実力を計りました。その中で今回の任務に最適な者を選抜しました」



「三十人と立ち会ったのか。その割には息が上がっておらんが」



「一太刀程度しか交わしておりませんので」



「ふっはっはっ! 相変わらず無茶苦茶なことをさも普通のように言う」



 公爵は豪快に笑った後、急に真剣な顔になる。



「今回の派遣についてだが、そなたの考えをもう一度聞いておこうと思ってな」



 俺は既に話していることなのだがと思ったが、



「ウンケルバッハ守備隊がどう出るかで変わってくると思われます。我々を見て過剰反応してくれば良し、反応しなければ少し時間が掛かるかもしれません」



「うむ。どうも嫌な予感がしてならん。何がと言われると困るのだが……」



 公爵にしては歯切れが悪い。武人としての勘なのか、虫の知らせという奴なのか、明確な根拠は無いようだが、いつもの豪快な公爵からは想像できない表情をしている。



「どちらにしても行かねばならんのだから、仕方あるまいな。だが、できるだけ早く戻って来い。無理もするな。判ったな」



「了解しました。しかし、私は閣下と違い、いつも無理などしておりませんが」



と心配そうな公爵に向かい、軽口を叩いておく。



 公爵の部屋を後にし、自分の部屋に戻るとアマリーが食事を取っておいてくれた。



 既に七時を過ぎ、かなり空腹になっていたので、多少冷めていてもすぐに食べられるのがうれしかった。



「まだ食べていなかったから、助かったよ。今から用意してもらうともっと遅くなっただろうし、ありがとう」



 アマリーは褒められたのが嬉しいのか、はにかんだ顔をしている。



 明日から難所が多いシュバルツェン街道に行く。それにシュバルツェンベルクには怪しい集団が待ち構えている。

 俺はアマリーにここに残らないか再度確認する。



「明日から危険なシュバルツェン街道だし、その先には怪しい奴がいる。できればクロイツタール(ここ)に残って欲しいんだが……」



 アマリーはそれまで浮かんでいた笑顔が消え、泣きそうな表情で「嫌です。一緒に連れて行ってください」と懇願してくる。



 シルヴィアも「クロイツタールの騎士が二十人も同行するのだろう」と俺が何を懸念しているのか判らないという表情を見せる。



 確かに騎士二十四人に俺とシルヴィアがいれば、同数の傭兵如きに遅れを取ることはないだろう。



 公爵の言葉ではないが、どうも嫌な感じがする。

 一番近い感じは、ゴーストが後ろから寄ってくるような”ゾワッ”とした感じだ。



(心の中でエルナやノーラたちに会わせたくないと思っているのだろうか?)



 俺は無理やりこの話を打ち切り、明日の準備の状況を確認する。



「判った。一緒に行こう。ところで明日の準備は大丈夫?」



「防寒服は用意してもらいましたし、明日からは馬車で移動と聞いていますから大きな荷物は馬車に積み込むようにお願いしてあります」



 アマリーがそう答えると、シルヴィアも「私のほうも問題ない」と言ってきた。



 明日は天候の崩れも無さそうなので、午前八時に出発する予定だ。

 ドライセンブルクから移動が続いているので、今日は早めに就寝し、ゆっくり休むことにした。



 翌朝、雪の月、第六週風の曜(一月二十八日)の午前八時、バルツァー副長らに見送られ、クロイツタールを出発する。



 ラザファム・フォーベック隊長以下二十二名の第四大隊の騎士たちとアクセル、テオの二名は騎乗で、俺とアマリー、シルヴィアは公爵家の用意した馬車で街道を進んでいく。



 グライスヴァイラーには午後二時頃到着。

 ウンケルバッハ守備隊を追跡した騎士からの伝言が残されており、ケシャイトから追跡した兵は行方不明。ウンケルバッハ守備隊は一日先行した形でシュバルツェンベルクに向かっているそうだ。

 宿で一昨日泊ったウンケルバッハ守備隊について聞いてみるが、夜遅くにやってきたが、特に問題は起こしておらず、柄の悪い傭兵たちとの印象が残っているだけとのことだった。



(ケシャイトの兵にはかわいそうなことをしたが、本当に遭難したのだろうか? 彼らに見付かり、処分されたということは考えられないか?)



 そこまで考えて、ここで下手に騒ぎを起こすことは彼らにとっても得策では無いだろうと思い直した。



(人数も変わっていないし、更に目を付けられるようなことはしないか。今のところ街道で何かをしようというわけでは無さそうだし、あまり無理をせずに進むことにしよう)



 俺は村の長老に明日以降の天気を確認した。

 明日はこの天候は持つが、それ以降は強い吹雪がいつ来てもおかしくないとのことだった。そして、この季節は吹雪が来ると三日くらいは続くそうだ。



(行きに吹雪で足止めを食らったし、足止めはともかく、クロイツタールとの連絡が難しくなるのが問題になるかもしれないな)



 グライスヴァイラーで情報収集を行うが、街道で特に大きな変化があるという情報は無かった。



 四日目までは天候も安定しており、二〇数名の武装集団ということもあって盗賊、魔物の襲撃もなく、順調に行程をこなしていった。

 四日目の宿泊地でクロイツタールからシュバルツェンベルクへの使者五人とすれ違う。

 シュバルツェンベルク守備隊と代官に今回の件を報告したこと、ウンケルバッハ守備隊が到着していることを確認したことを伝えられる。

 すぐにとんぼ返りしたため、ウンケルバッハ守備隊の情報は少ないが、何軒かの宿に分宿していることは確認したそうだ。





 この旅程の中、クロイツタールであれほど取っ付きにくかったフォーベックの態度が、軟化していることに驚いていた。

 話を聞くと、やはり俺が公爵に気に入られたことが納得できなかったので、あのような態度を取ってしまったと謝罪される。

 俺のほうも予想していたことなので、正直に話すフォーベックに好感を持ち、非公式の場では「ラザファム殿」、「タイガ殿」と呼び合うようになっていった。

 各宿泊地への到着時間が早いこともあり、その他の兵たちとも打ち解けることができ、かなりいい雰囲気で街道を進んでいる。



 ここまで順調だった天候も、明日はシュバルツェンベルクという五日目の夕刻、空に黒い雲が広がり始めてきた。



 宿の主人に天候を確認すると、明日の午前中は多分大丈夫だが、明日の夕方以降は大雪になりそうだと村の長老が言っていたと教えてくれた。



 俺はラザファム・フォーベックと協議し、夜明けと共に出発し、ここベルクヴァイラー村からシュバルツェンベルクまでの十四マイル=二十二・五kmを一気に進み、午前中にシュベルツェンベルクに入ることにした。



 六日目、氷の月、第一週水の曜(二月四日)の早朝は、山に黒い雪雲が垂れ込め、チラチラと雪が舞っていた。

 ラザファムと再度協議したが、このまま進んだ方がリスクは少ないだろうと判断し、懐かしいシュバルツェンベルクに歩を進めた。



 幸いなことにシュバルツェンベルクに入るまで天候はもち、俺たちは午後一時にシュバルツェンベルクの町に入ることが出来た。

 その後、午後四時頃には本格的な雪が降り始め、道には雪が積もっていった。







 大河たちシュバルツェンベルク派遣部隊が出発した三日後の、氷の月、第一週日の曜(二月一日)の夜、クロイツタールに第三騎士団所属の早馬が到着した。

 直ちに公爵に謁見を許され、第三騎士団長グローセンシュタイン子爵からの情報が伝えられた。



「去る雪の月第六週風の曜(一月28日)、グンドルフらしき男が首魁の集団がノイレンシュタット南部の宿に潜んでいたとの情報がありました。更にその男らはグロッセート王国出身を示すカードを所持していたとの情報も入っております」



 公爵は伝令のそこまでの話を聞くと、声を荒げている。



「グロッセートだと! くっ! ダリウスどう思う」



 バルツァー副長は、「最後まで聞いてから判断すべきでは」と伝令にその先を促す。



「宿の主人の話では、”タイガ”という言葉がよく聞こえたこと、北に向かうという話も聞こえてきたとのことでした。第三騎士団長閣下は、このことを総長閣下にお伝えすると共に、クロイツタール街道およびシュバルツェン街道の警備強化をお命じになられました。更にシュバルツェンベルク行政庁にも、警戒を強めるよう指示を出されております」



「うむ。ご苦労であった。ゆっくりと休め」



 伝令が執務室から出て行くと、公爵は軽く上を向いて目を瞑り、バルツァー副長に声を掛けている。



「シュバルツェンベルクに向かったウンケルバッハ守備隊の正体は、グンドルフ一味とは考えられんか。だとするとタイガが危険だな。フォーベックらが守ってくれれば良いが……」



「私が一個大隊を率いてシュバルツェンベルクに赴きます。この状況下であればグローセンシュタイン閣下も問題視しないでしょう」



「うむ。いや、それはならん。帝国の罠という線が消えたわけではない。一個大隊の派遣もそなたが出向くことも認められん」



「しかし、この時期、帝国の侵攻の可能性は低いと思われます。閣下がクロイツタールにおられれば帝国への牽制にもなりましょう」



 公爵はバルツァー副長に向き直り、



「ダリウス、そなたが儂のことを思って自ら出向こうと言ってくれるのは嬉しい。だがな、この状況でそなたが動けばどうなるか、そのことはそなたが一番判っていることではないのか」



 バルツァー副長は何も言わず、表情を硬くしている。



「ロベルトを派遣しよう。あの者ならタイガの指揮下に入っても問題なかろう。早速手配してくれんか」



 公爵は力なくバルツァー副長にそう言うと、再び目を瞑り思考の渦の中に身をおいていった。



 バルツァー副長は直ちにロベルト・レイナルド隊長にシュバルツェンベルク派遣を指示、合わせてウンケルバッハ領の治安責任者ペテルセンに再度情報の照会を行うべく手を打っていった。



 翌日の氷の月第一週火の曜(二月二日)の早朝、ロベルト・レイナルド率いる追加一個中隊三十名はシュバルツェンベルクに向けて出発した。

 だが、その二日後の氷の月第一週水の曜(二月四日)、シュバルツェン街道の中間地点、あと二日でシュバルツェンベルクに到着する位置で雪に閉じ込められていた。

 これにより、大河が最も必要な時期にレイナルド隊は間に合うことが出来なかった。



 同様にグローセンシュタイン子爵の伝令も、シュバルツェン街道で身動きが取れなくなり、グンドルフに関する情報も大河が必要な時期に届くことは無かった。







 クロイツタールにグローセンシュタインの伝令が到着する前日の雪の月、第六週土の曜(一月三十日)の夕方、グンドルフ一行はシュバルツェンベルクに到着した。



「よし、宿を探しておけ。俺は守備隊に挨拶に行って来る。傭兵経験のある五人は俺について来い」



 グンドルフは盗賊の自分が守備隊に挨拶に行くことにおかしさを感じ、にやついた顔をしていたが、守備隊詰所に近づくと表情を引き締めて、傭兵らしい表情を作っている。



 守備隊ではシュバルツェンベルクに来た目的を簡単に説明した上で、何件かの宿に分宿することを伝える。

 守備隊からは、ここに訓練に来る兵士たちは冒険者とよくトラブルを起こすので、注意するよう言われるが、それ以上何か言ってくることはなかった。



(馬鹿野郎が。その冒険者を殺しに来たんだ。まあ、問題になる前にはトンズラするからてめぇらの世話にはならねぇがな)



 詰所を後にし宿に戻ると、タイガに関する情報を集めるよう次々と指示を出す。



 ギルドに近い酒場と色街に手下たちは散っていき、グンドルフはどうやって罠を掛けるか考えていた。



(ようやく尻尾を掴んでやったぞ。クロイツタールの城に篭るならそれでもいい。おめぇの知っている奴を片っ端から血祭りに上げて、嫌でも引きずり出してやる)



 その夜、タイガの噂は思ったより多く集まった。



 剣鬼と呼ばれるミルコの弟子になっていること、五人の女冒険者を囲ったこと、守備隊詰所の横に立派な屋敷を買ったことなどが報告された。



「女はその冒険者だけか。他に浮いた話は聞かなかったか」



「色街でエルナって娼婦に入れ込んでいるって聞きやしたぜ。それが大した娼婦じゃねぇそうで、どんな趣味してんだって噂になってやした」



 グンドルフは手下たちすら、怖気をふるうような笑みを浮かべると、手下たちに明日は大河に関係する連中の居場所、行動パターンを探るように指示を出す。



(女が六人だと。好き放題してくれてるじゃねぇか。楽しみに待っていろよ)



 翌日の氷の月第一週日の曜(二月一日)にウンケルバッハ守備隊を称する面々は迷宮にも入らず、ギルドにすら顔を出さずに情報収集に明け暮れていた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/19 17:30
更新日:2013/01/19 17:30
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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