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作品ID:1464
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第六章「死闘」:第6話「帰宅」

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第6章.第6話「帰宅」



 氷の月、第一週水の曜(二月四日)の午後。

 年明け二日目に出発してから、ほぼ一ヶ月。俺はシュバルツェンベルクに帰ってきた。



 出発の日も寒い日だったが、今日も負けず劣らず寒い。

 午前十時、太陽は厚い雲に隠れ、寒風には雪が混じり始めている。



 開放型の馬車を操る俺は、正面から受ける雪交じりの風に、手綱を握る手の感覚が徐々に失われていくほどの寒さを感じている。だが、ようやく家に帰れるという思いが強く、辛くはない。



 正午の時鐘が遠くから聞こえ、シュバルツェンベルクの町が近いことを教えてくれる。



 午後一時、雪が強くなり始めた頃、第四大隊の騎士たちとともに町の中に入ることができた。



 町は出発時と何も変わっていないように見え、帰ってきたという実感が湧いてくる。

 最初にノーラたちが訓練をしているギルドの訓練場に行きたかったが、シュバルツェンベルク行政庁と守備隊に状況を説明する必要があるため、行政庁の庁舎に向かう。庁舎は守備隊詰所の横、俺の屋敷のすぐ近くにある。

 屋敷自体はほとんど住んでいなかったから、懐かしいという感じは無いが、とりあえず、アマリーとシルヴィア、騎士団の従騎士以下を屋敷に案内し、ラザファム、アクセル、テオの三人を引き連れ、庁舎に向かった。



 シュバルツェンベルク行政庁は、騎士階級の行政官が代官として取り仕切っており、その代官にまずは挨拶に行くことにした。



 シュバルツェンベルクの代官は、モーゼス・ホフマイスターという五十代の騎士で、長く王国騎士団に所属していたが、堅実な行政手腕が評価され、現在シュバルツェンベルクの代官を務めている。

 ホフマイスターはシュバルツェンベルクの特殊性をよく理解しており、基本的にはギルド長らで構成する町の自治組織に行政を分担させ、この世界では珍しい民主的な行政運営に任せている。



「モーゼス卿、私はクロイツタール騎士団副長代理、タイガ・タカヤマ准男爵です。この度は我が騎士団の訓練のため、ここを訪れました。守備隊の諸兄に迷惑を掛けないよう指導いたしますので、ご助力いただけると助かります」



 俺はホフマイスターに挨拶を行うが、あえて准男爵位を告げ、情報の入手を容易にしようと考えた。



 ホフマイスターは挨拶を返した後、准男爵位について質問してきた。



「准男爵位をお持ちですか。いつ受けられたのですかな」



「先日、雪の月第五週日の曜(一月二十一日)に陛下より准男爵位を授けられました。何分、経験がございませんので、ご指導よろしくお願いします」



 准男爵位を受けた理由なども説明し、話が盛り上がったところでウンケルバッハ守備隊について話を振ってみる。



「我々の前にウンケルバッハ領の守備隊が同じ理由でこちらに来たと思いますが、どのような状況でしょう。我が騎士団は何とも思っておらんのですが、先方はどうも我々を眼の敵にしておりまして。こちらとしては揉め事を起こしたくありませんから、情報があればご教示いただきたいのですが」



 ホフマイスターもウンケルバッハ守備隊については、バルツァー副長からの連絡を受けており、独自に監視をさせていた。

 監視を行っている部下からは、傭兵としても質が悪すぎるし、到着して既に四日目に入ったのに迷宮に入るどころか、迷宮の情報をギルドに調べにすら行っていないという報告も上がってきている。

 彼らの目的は何かというのが、シュバルツェンベルク守備隊の関心事になっているとのことだった。



 ホフマイスターの元を辞し、守備隊詰所に向かう。



 守備隊詰所でも同様にウンケルバッハ守備隊の動きに疑問をもっており、動向を注視しているとの話があった。



(何をしに来ているんだ? あからさまに怪しまれる行動を取る理由が判らないな)



 疑問を抱えながらも守備隊詰所を後にして、一旦屋敷に戻ることにした。



 ラザファム、アクセル、テオの三人に兵士たちの部屋割りなどを頼み、俺は一人でギルド支部と訓練場、エルナのいる娼館に行くことにした。



 ラザファムから護衛を連れて行くように言われたが、



「この町の中なら一人の方が動きやすいですから。ラザファム殿、奴らが何をしてくるのか判りません。アマリーたちをよろしくお願いします」



 そう言って護衛を断る。



(娼館に行くのに部下を連れて行くわけにもいかないしな)



 午後二時、まずギルド支部に顔を出し、すぐに訓練場に向かう。



 いつもの場所にミルコが座り、酒を飲んでいた。



「よう、相変わらず酒浸りかよ」



「早かったじゃねぇか。剣は手に入ったのか?」



 ミルコは俺を認めると、いつも通りの口調で返してきた。



「ああ、凄ぇのが手に入った。こいつだが、今日は時間がないんだ。明日にでも見せるよ」



 俺は背中のタイロンガを叩きながら、土産に買った酒を渡す。



「土産だ。酔っ払いにはもったいない酒だが、たまにはいいだろ。ところでシュバルツェンベルク(こっち)はどうだい?」



「特に変わりねぇな。おめぇんとこの嬢ちゃんたちも変わりねぇ」



 他にも回らないといけないところがあるので、明日の朝、顔を出すと言って、ノーラたちの方に向かう。



「ただいま。元気そうだな」



「あっ! お帰りなさい! アンジェ、みんなを呼んできて!」



 ノーラは訓練の手を止め、うれしそうな顔で俺を迎え、アンジェリークに他の三人を呼びに行かせた。



 呼びに行ったアンジェリークがカティアたちを連れて走って戻ってきた。



 四人は並んで「「お帰りなさい!」」と頭を下げている。



「みんなも元気そうで良かった。訓練の調子はどうだい?」



 そう俺が聞くと五人は口々に訓練が順調に進んでいることを説明してくる。

 周りに人だかりが出来始めたので、



「今日の夜にゆっくり聞くよ。それから、屋敷にはクロイツタールの騎士二十四人とアマリーとシルヴィアという女性が二人いるから」



 俺はノーラたちに簡単に事情を説明する。他にも寄る場所があるから、夕食の材料を買って先に帰って欲しいと頼んでおく。



 五人は女性二人が屋敷にいることは想定内だったようだが、騎士たちがいることに驚いている。



「ご主人様がクロイツタール公爵様にお仕えすることになったことは聞きましたけど、どうして騎士様が一緒なのですか?」



 クリスティーネが不思議そうにそう聞き、他の四人も同意するように頷いている。



「ちょっと怪しい連中が、シュバルツェンベルクに入り込んでいるみたいなんだ。いきなりどうこうするような話じゃないと思うんだが、得体の知れない連中なんだ。みんなも気を付けてくれ」



 五人も何となく理解したようで、「判りました」と声を揃える。



「土産の甘い菓子があるから楽しみにしておいてくれ」



 そう言いながら俺は訓練場を後にした。







 午後二時半を少し回った頃、雪が本格的に積もり始めた色街の中をエルナのいる娼館に向かった。

 しかし、いつも娼婦たちが客を待っている待合室にエルナの姿がない。



(今日は客を取っているのかな? 娼婦が客を取るのは当たり前なんだが、無性に腹が立つ)



 俺のことを見てビックリしている女将に、「エルナは仕事中か」と聞くと、首を横に振りながら、奥のほうに走っていった。

 奥からエルナがやってくる。いつものような濃い化粧はしておらず、着ている服も扇情的なものではない。



「こんな格好を見られちゃったじゃない。来るなら来るって言ってくれないと……すぐに準備してくるね」



 恥ずかしそうにそう言いながら、奥に向かおうとする。



「そのままでいいよ。今日はあんまり時間がないし。第一、この方が好きだ」



 彼女はビックリした顔を見せるが、俺は彼女の手をとり、いつもの部屋に向かう。



 部屋に入り、土産だと言って小さな箱を手渡す。

 エルナは目で開けていいと聞いているようだったので、俺は黙って頷く。

 中にはドライセンブルクで買った小さな花を象った金のトップの首飾りが入っている。

 エルナはその首飾りを取り出し、うれしそうに眺めている。



「つけてやろうか」



 俺がそういうと、彼女は小さく頷く。

 首飾りをつけてやると、うれしそうにターンをして、「似合う?」と聞いてきた。



 俺は黙って口付けをしてから、エルナをベッドに座らせる。



「もう一度聞きたい。俺のところに来てくれないか」



 俺はエルナの瞳を見つめながら、身請けの話をする。

 エルナは小さく頷き、「よろしくお願いします」と消え入りそうな声でそう囁いてきた。



「そ、それは了解ってこと! 良かった。また駄目って言われたらどうしようって思っていたんだ!」



 俺はうれしさのあまり、エルナを抱きしめながら、叫んでいた。



 エルナは涙を浮かべた顔で俺を見つめ、俺がドライセンブルクに出発してから、後悔していたこと、貴族になったから、もう来てくれないんじゃないかと心配していたことなどを話していく。



 俺は喜んでいるエルナに「言っておかないといけないことがある」と断り、アマリーを引き取ったこと、抱いたことを告白する。

 エルナはニコニコしながら、



「仕方ないわ、タイガはもてるんだから。私のことを忘れなかったから許してあげるわ」



 明日の朝、身請けに来るので準備して欲しいこと、しばらくシュバルツェンベルクを離れ、クロイツタールの城に入ることなどを説明していく。

 クロイツタール城に入ると聞き、エルナの表情が曇っていく。奴隷で娼婦に過ぎない自分が公爵家の立派な城に入ることに気後れしているようだ。



「お城に入るって、私、どうしたらいいの?」



「何も心配は要らないよ。別に何かしなくちゃいけないわけでもないし」



 それから、土産に買った菓子を食べながら、少し話をするが、ギラー商会に行かないといけないと部屋を出ようとした。

 エルナは突然後ろから抱きつき、



「もう少しだけ居て。お願い」



 涙を堪えるようにそう言うと、俺の背中に顔を付けてすすり泣き始めた。



「どうした? 明日からずっと一緒にいられるのに」



 そう言ったもののエルナの様子が気になったので、「あと一時間だけいるよ」といって、エルナに向き直りもう一度確りと抱きしめ、そのままベッドに倒れこんでいった。



 そして一時間後の午後四時にエルナと共に部屋を出る。

 女将に明日の朝、エルナを身請けしに来るので準備しておくようにいい、いくら必要か確認する。



「金貨百枚になりますが……」



 女将も俺がエルナを気に入っていることを知っており、かなり吹っかけてきている。だが、あまりに高すぎて俺が身請けを止めると言わないか窺っているようにも見える。



「判った。明日の朝までに用意しておく。今日はもう客を取らせないでくれ」



 俺が了承したことに女将も気を良くしたのか、笑顔で大きく頷いている。

 エルナは俺にもう一度抱きつき、キスをしてから俺の体から離れていく。



 俺は「じゃあ、明日の朝」と言って娼館を後にした。







 外は薄暗くなり始めている。雪に覆われた町を歩くと、家や店から漏れる光が雪に反射して、幻想的な表情を見せ始めている。



 当初の予定より少し遅くなったので、俺は足早にギラー商会に向かった。



 ギラー商会に入るとすぐにギラーが現れた。

 ギラーにいつもの余裕が無く、俺の姿を見てホッとしているようだ。



「タイガ殿、ご無事で良かった」



「何かあったんですか?」



 俺は嫌な予感がする中、ギラーに事情を確認して行く。



「四日前に現れたウンケルバッハの守備隊の連中がタイガ殿ことを嗅ぎ回っておりましてな。ウンケルバッハ家とは揉めておったので、もしやと。念のためミルコ殿にも連絡しておきましたが、無事でよかった」



(ウンケルバッハ守備隊の目的は俺なのか? それにしては行動に一貫性が無いような気がするが……)



 ギラーに他の情報が無いか聞くと、俺の准男爵叙任の話とクロイツタール公を救った話はシュバルツェンベルクでも噂になっている。

 ウンケルバッハ守備隊は四日前にここに入ったが、酒場や宿などで俺の噂を聞き漁るだけで迷宮に入る素振りが無い。森に入っていったものもいるらしいとの情報も入ってきているとのことだっだ。



 シュバルツェンベルク守備隊の話とも整合性がある。



(俺の噂を聞き漁るというのもおかしいが、森に入るのはなぜだ?)



 ギラーに新しい情報が入ったら、最優先で教えて欲しいと頼み、午後四時半頃、暗闇に包まれ始めたシュバルツェンベルクの町に出て行った。



 ギラー商会を後にした俺はギルドの訓練場に向かうが、既にノーラたちは帰った後で、ミルコもいなかった。

 だが、訓練場には落ち着きが無く、近くのギルド職員を捕まえて、事情を聞いてみた。



「二十分ほど前に若い冒険者が駆け込んできてね。女冒険者のノーラって言ったけ?が襲われているって叫んでいたんだ。ミルコさんがそれを聞いて、さっきすっ飛んでいったよ。ギルドの方でも何人か集めて現場に……」



 俺は話を最後まで聞かず、すぐに訓練場を飛び出して行った。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/20 15:57
更新日:2013/01/20 16:00
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1464
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