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作品ID:1477
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


第六章「死闘」:第15話「包囲網」

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第6章.第15話「包囲網」



 大河が迷宮に入った氷の月、第二週水の曜(二月九日)の夕方、クロイツタール第6大隊長ロベルト・レイナルドは、一個中隊三十名の騎士と共にシュベルツェンベルクに到着した。



 彼らは大河たちがシュバルツェンベルクに到着した日、氷の月、第一週水の曜(二月四日)に降り始めた雪により、街道の中間地点で足止めを食らっていた。

 二日前にようやく雪が弱まり、通常三日掛ける行程を二日で走破し、出発から七日目、ようやく目的地に到着した。



 レイナルドはシュバルツェンベルクに到着するとすぐに大河の屋敷に向かい、第四大隊長ラザファム・フォーベックと面会した。



「副長代理はご無事ですか!」



 レイナルドは開口一番、大河の安否を確認してきた。



「無事だ。だが、タイガ殿の剣の師と恋仲の女性が亡くなられた。他にもアマリー殿、シルヴィア殿も重傷を負われた。我が隊でも……」



 ラザファムは淡々と事実を説明していく。



「状況は判りました。副長代理は今、どこにいらっしゃるのか。ご指示を仰ぎたいのですが」



 ラザファムは少し困ったような顔をして、



「タイガ殿は迷宮に入っておられる。恐らく数日間は戻って来られんはずだ」



「迷宮ですか? なぜ、迷宮などに?」



 レイナルドが疑問を呈すると、ラザファムはこれまでの経緯とグンドルフ討伐計画を説明していく。



「し、しかし! それはあまりに無謀では! 自ら囮になるなど……なぜお止めしないのですか?」



「卿の言うことは全くもってもっともな事。私も最初はそう思った。だが、タイガ殿のお考えを聞くとお止めすることが良いことなのか判らなくなってな。迷宮からお戻りになってからもう一度冷静になって話をしようと……」



「何とか副長代理に連絡を取ることは出来ないのですか? 我々が加われば我が騎士団だけでも五十名以上。盗賊の二倍以上の戦力です。副長代理なら新たな策を考えることも可能でしょう」



「そうなのだが、恐らく迷宮の五十階辺りにおられる。我々ではすぐに行くことができんし、冒険者も信用できるかどうか判らん。タイガ殿を信じるしかないだろう」



「判りました。それでは、とりあえず我々はフォーベック殿の指揮下に入ります。さすがにこの屋敷でも手狭でしょうから、守備隊の宿舎を間借り出来ないか交渉してきます」



 レイナルドはすぐに守備隊詰所に向かう。

 彼は歩きながら、これからのことを考えていた。



(先任のフォーベック殿の指揮下に入ることは問題ないのだが、タイガ殿は一体どうしたというのだ? あの冷静な方がなぜ? 確かにフォーベック殿の説明を聞けば、なるほどと思うところは多い。だが、他にやりようがあるのではないか?)



 彼はジーレン村での戦闘を思い出していた。大河は常に冷静に敵情を見ていた。そして最も被害の少ない方法を選んでいたように思う。



(今回もそうなのか? そうだとすれば、何を考えておられるのか?)



 直接話を聞いたわけではないが、何かいつもと違う気がして仕方が無かった。

 そして、あることに気が付き、戦慄する。



(もしかしたら、ご自分が犠牲になることで、被害を最少にしようと考えておられるのでは? もしそうなら……ここであの人を失うわけにはいかない。命令違反、規律違反をしてでも止めなければ……)



 ロベルト・レイナルドはここにいる騎士団関係者の中で、唯一大河と共に死線をくぐっている。愛する者を失ってからの大河を見ていないが、この違和感を拭い去るまで、慎重にことを進めるべきだと考えていた。







 ラザファム・フォーベックは、追加の一個中隊が到着したことに安堵していた。



 シュバルツェンベルク守備隊には、町の警備を強化する命令が来ている。

 この屋敷だけ守るわけには行かない状態だった。まともに動ける十五名では夜間の警備に不安があったが、追加の三十名のおかげで警備を強化することができる。

 これで、二十名程度の盗賊の夜襲などほとんど恐れる必要は無い。



 もう一つの安堵の理由は、同じ大隊長のレイナルドが来てくれたことだ。

 大河の命令を遵守するだけなら、迷うことはない。命令に従って屋敷を死守すれば良いだけだからだ。

 だが、大河と過ごし、あの論理的な考え方に接した今、本当にそれだけで良いのかと思い始めている。



(タイガ殿がいない状況では私が責任者になる。そのこと自体はいい。だが、残された命令を守ることが最善なのか考えてしまう。以前なら命令には絶対服従、自らの死も許容するのは当たり前だったのだが……)



(レイナルド殿が来てくれて良かった。彼はタイガ殿と共に戦ったことがある。彼の意見を聞けば、ある程度問題は解決できるだろう)



 ラザファムはアクセルを呼び、当直体制の見直しを指示した。







 アクセル・フックスベルガーはフォーベック隊長からの命令を受け、当直体制の見直しを行っていた。



 見直し自体はすぐに終わり、一人屋敷内で待機している。



(怪我はほぼ完治した。あとは体力を回復させるだけ。完全に回復するには十日は掛かるが、任務に支障がでない程度なら、あと数日というところだろう)



 彼は食堂の椅子に座りながら、襲撃の時のことを思い出していた。

 あの時、自分は最善を尽くしたのか、油断は無かったのかと自問していた。二人の女性の安全を託されたが、瀕死の重傷を負わせたことに負い目を感じていた。



(まさか到着早々、罠をかけてくるとは……それも街中で堂々と襲撃するなど思いも寄らなかった……)



(あの配置でよかったのか。もっと二人の周囲を固めておけば奇襲を受けても対処できたのではないか。そもそもなぜ誰かを先行させなかった……)



(後からなら、いくらでも考えが浮かんでくる。それでは駄目なんだ。今までの俺は……)



 彼は十二歳で騎士団に入ってから九年。今まで何度も戦闘に参加してきたが、すべて無難にこなしてきた。

 従騎士になってから四人の部下を持つこともあったが、部下を失ったことも重傷を負わせることも無かった。正騎士になってからはすぐに王都勤務となり、危険な任務には就いていない。



(結局、俺は何をしていたんだ? 騎士になって国を守る、確かにそう誓った。だが、それは子供が夢物語を語っているのと同じに過ぎなかったのか?)



(強く。もっと、強くなりたい!)



 彼はここまで考えて、ふと気付いた。

 今、自分のことばかり考えていたのではないかと。



(まずはこの状況を何とかすることだ。あの方を失うわけにはいかない。そのために俺に出来ることは……)



 彼は大河を守る方法を考えるべく、大河にゆかりある者たちの話を聞きに行くことにした。







 同じ日、第二週水の曜(二月九日)の昼頃、グンドルフの潜む隠れ家に町へ情報収集に行っていた手下が帰ってきた。



「お頭、討伐隊はもう来ませんぜ。守備隊が渋ったみてぇで。あと、エルナって娼婦とミルコって男の葬式をやってました。他の連中はまだ生きてるみてぇですが」



「そうか。奴の様子は」



「へい。冒険者連中が話してたんですが、葬式の時はそりゃ荒れていたそうで。 ”絶対にかたきはとる”とか言ってたそうですぜ。それから、討伐隊をもう出さねぇって話のときも、かなり荒れてたって話で。一人でも行くって言うのをクロイツタールの騎士が必死に止めたって話でさぁ」



「よし、もう一度、街に行け! 奴の様子、騎士団の動き、守備隊の動きも探って来い!」



 グンドルフは数少ない自由に動ける手下、手配書が回っておらず、ドライセン王国内の傭兵ギルドの登録を受けている手下に再度シュバルツェンベルクに潜入するよう指示を出した。



 ウンケルバッハ守備隊に偽装している時は、念のため守備隊標準装備のショートボウを装備していた。そのため、重装備の騎士たちに致命傷を与えることが出来ず、重傷を負わせただけで終わってしまった。

 ロングボウを持たせれば、住民や守備隊に不審に思われ、奇襲を掛けられなかったと思っているが、何人かは殺せていると思っている。



(奴は焦っている。もう少し焦らせば、クロイツタールの騎士だけで動くはずだ。今度はショートボウじゃなく、ロングボウだ。罠もたんまり用意してやろう。早く来い! くっくっくっ)





 その日の夕方、グンドルフは商家を襲うつもりで街に潜入していた。

 だが、守備隊の警戒が思いの外強く、思うような動きが取れない。

 仕方なく、物資を調達しようとするが、店でもギルドカード等の提示を求められ、物資の調達すら、思うようにいかない。



(どうなってやがる。こんなこと一度も無かったぞ。くそっ!)



 彼は数名の手下に僅かな物資の調達を指示し、仕方なく隠れ家に戻っていく。



(まあいい。明日は街道で商人を襲えばいい。奴らも全部の商人を守ることはできねぇ)





 翌日(第二週土の曜(二月十日))、シュバルツェンベルクと十五マイル=約二十四km西にあるベルクヴァイラー村の間で隊商を待ち構えるが、通常の護衛の他に守備隊が護衛についているため、手が出せない。

 半日待ち続けるもその後に来る商人たちは大規模な隊商を組んでおり、護衛の冒険者も三十名近くになるため、こちらも迂闊に手が出せない。



(くそっ! ここまで徹底的に護衛をつけるとは。ベルクヴァイラーを襲うか)



 森の中に夜まで潜んでいたグンドルフたちはシュバルツェンベルクより警備の緩いベルクヴァイラー村を襲うことにした。



 ベルクヴァイラー村に向かった手下から、思わぬ報告が来る。



「お頭。ベルクヴァイラーも無理ですぜ。守備隊が三十人はいたと思いますぜ」



 グンドルフは手下の報告を疑い、怒鳴りつける。



「本当か! そんなはずはねぇ!」



「嘘じゃありませんぜ。確かにこの目で見やした」



(どういうことだ? 守備隊の人数は百人くらいだったはずだ。ここに三十人も来てるってことは街の警備が減るはずだ。だが、街にもかなりの守備隊が巡回していた。判らん。くそっ! どうなってやがる!)



 グンドルフは先回りされるかのように警備が強化されていることに苛立ちを募らせていた。



 大河が指示したのは、街の警備に七十人と臨時に雇った冒険者五十人を使う警備方法だ。

 冒険者は二十階くらいで停滞している、比較的低レベルの者を雇っており、実力はあまり期待できない。

 だが、守備隊の制服を着せておけば、それだけで抑止力になると判断し、十日程度の長期間雇ってもそれほどコストが掛からず、守備隊標準装備でも文句を言わない低レベル冒険者を雇うことにした。

 ある程度レベルが高い冒険者の場合、戦闘が想定される任務で、自分の装備を変えることを嫌がることは、目に見えている。だが、低レベル冒険者には逃げてもいいと言ってあるので、特に忌避されることはない。



 そして、残り三十名の守備隊はシュバルツェンベルクとベルクヴァイラー村の間を警備させる。漫然と警備しても効果が無いため、ベルクヴァイラーで商人たちに隊商を組ませ、なおかつ守備隊が護衛につく。

 商人たちも守備隊が無料で護衛につくことから、嫌がるものは少なかった。そして、シュバルツェンベルクに到着後、交替の守備隊がベルクヴァイラーに向かっていく。

 翌日からは大規模な隊商を強制的に組ませ、護衛の数が少ない場合は守備隊がサポートする体制を整えさせていた。



 グンドルフたちがベルクヴァイラーの警備に驚いた事情は以上のような大河の計画に基づいていた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/26 15:50
更新日:2013/01/26 15:50
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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