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作品ID:1490
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第六章「死闘」:第23話「防衛」

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第6章.第23話「防衛」



 氷の月、第四週日の曜(二月十六日)。

 グンドルフは一昨日の焼き討ちの成功で自信を深めていた。



(城壁の無いシュベルツェンベルクなんざ、いつでも襲える。後は奴(タイガ)を追い詰めていけばいい)



(騎士団の連中は五十人以上になったはずだ。まともに殺りあえば、奴は殺せねぇ。夜襲か森の中で奇襲を掛けるかのどっちかだろうな)



 彼は騎士団が増強されたことから、街の中での奇襲は捨てていた。



(奴を追い詰めれば、この街から出て行く。その時、街道沿いで奇襲を掛ければ、奴一人なら充分殺せる)



 残忍そうな笑みを浮かべ、



(だが、それじゃ詰らねぇな。もっと甚振らねぇと面白くねぇな)



 彼は大河を殺すだけでは飽き足らず、更に精神的に痛めつけようと考えていた。



(奴が迷宮から出てこねぇと話にならねぇが、ギルドの連中の話じゃもうそろそろ出てくるはずだ)



(奴の女どもを殺してやるのが一番おもしれぇが、守りが堅ぇ。奴はじじい(ミルコ)や娼婦(エルナ)が死んだだけで泣き叫んでいたそうじゃねぇか)



 そして残忍な笑みを浮かべ、



(奴の心は弱ぇ。関係ない奴らを殺されれば、それを非難されれば、奴の心は壊れていく。奴が迷宮から出てきたとき、街の連中が白い目で見ていたら……これはおもしれぇな……クックックッ)



 彼は大河を痛めつけるという目的だけのために、罪の無い住民を殺すことを計画する。





 午前十時頃、朝、街を出発した手下が隠れ家に戻ってきた。



 その男は、グンドルフに昨日の出来事を報告して行く。



「代官が緊急事態を宣言したそうで。冒険者を緊急召集するって話でさぁ。一日大体五十人くらいが夜警に立つそうで。それもCランク以上だけだそうですぜ」



 グンドルフは手下の報告を聞き、



「まあいいだろう。どうせそんなに長くは続けられねぇはずだ。他に何か言ってなかったか」



(さすがにCランク以上になると厄介だ。だが、いつまでそんなことができる。ここの冒険者は人のことなんざ考えねぇ奴ばかりのはずだ。精々一週間(五日間)だろう)



「へい、とりあえず五日間だけと言ってやした」



(まあ、そんなところだろうな。こっちには十日分くらいの食いもんはある。向こうが値を上げるのを待てばいい)



 彼は鷹揚に頷くと、他に情報が無いか先を促す。手下はその仕草を見て、大河に関する情報を報告する。



「それとタイガに関する話を聞いてきやした」



 緊急召集の話の時には冷静に聞いていたグンドルフがタイガという名を聞き、急に身を乗り出してきた。



「どんな噂だ! 早く言え!」



「へ、へい。奴は五十一階辺りに篭っているって話なんですがね、昨日奴を殺そうとした冒険者がいたそうで。何でも毒入りのパンで殺そうとしたって……」



 グンドルフはいきなり手下の胸倉を掴み、



「俺に断りもなく、奴に手を出しただと!」



 手下は慌てて、続きを話そうとする。



「落ち着いてくだせい、頭! 奴はそいつらを返り討ちにしたって話で。奴からそいつらの装備を貰った冒険者が言うには奴は半分狂っていたから、今日にでも迷宮から出るんじゃないかって話でさあ」



 彼は手下の話を聞いて、やや落ち着く。



(奴は焦っている。そうだろう、もうそろそろ限界だ。早く出て来い、タイガ。雑魚に殺されるなよ。俺がじっくりと殺してやるからよ、クックックッ)



 グンドルフは暗い笑顔を浮かべ、酒をあおっていた。



 そして、手下たちにいつでも動けるよう指示を出していく。



 グンドルフは、潜入させた手下の報告を聞き、大河が出てきた時のため、シュバルツェンベルクの街の近くの森に移動することを決める。

 彼は大河が迷宮から出た後、すぐにクロイツタールに出発されることを恐れたためだ。



(奴は半分狂っているから、大丈夫だが、騎士団の連中がいる。あいつらが奴を無理やりクロイツタールに連れて行かないとも限らねぇ。そうなると厄介だ)



 いつ出てくるとも判らない相手を待つのは厳しいが、今日か遅くとも明日には出てくるだろうと彼は考えていた。



(迷宮に入ってすでに七日。確かに普通の神経じゃ、もう狂ってもおかしくねぇ。遅くとも明日だろうが、念のため、今日も待機しておくか。どうせ、夜襲を掛けるついでもあるしな)





「聞け! 奴が出てきたら、奇襲を掛けられるよう準備しておけ! 今日出てこなきゃ明日も明後日も毎日、街に夜襲を掛ける。今日からは火をつけ、街の住民を殺すだけだ。手筈は……」



 彼は手下たちにいつでも奇襲を掛けられるよう過度の飲酒を禁じ、装備類を着けたままでいることを指示する。

 そして、隠れ家にいる十七人の手下たちを三つの班に分け、シュバルツェンベルクの外縁部の住居を焼き討ちするよう指示した。



 午後八時、グンドルフら十八人の盗賊は隠れ家を出てシュバルツェンベルク近くの森に移動した。



 街は警備が強化され、篝火が煌々と焚かれている。冒険者の緊急召集により数名の巡邏隊が頻繁に街の外周部を巡回していく。



(くそっ! ここまで警備を強化してくるとは思わなかったぜ。守備隊だけならまだしもクロイツタール騎士団とCランク以上の冒険者相手が相手だ。俺以外まともに立ち向かうのは無理だ)



 彼は巡回の密度がバラバラで奇襲を掛けることが難しいと判断した。



「巡邏隊を襲うぞ。弓使いたちは篝火の明かりが届かない位置から狙撃しろ。他の奴らは森の中で待機だ」





 次の巡邏隊は召集されたCランクの冒険者たちだった。

 二十代前半の片手剣使いがぼやきながら歩いている。



「何時間、こんなことをやらなきゃいけないんだ。早く交代の時間になってくれねぇかな」



 リーダーらしき二十代後半の弓使いが、



「ピエール! 黙って警戒していろ! 奴らはいつ襲ってきてもおかしくないんだ。迷宮とは違うんだぞ!」



 その時、ヒュッヒュッという音とともに十本近い矢が冒険者たちに降り注ぐ。



「へい、へい、判りましたよ。真面目に……ガァハッ!」



 そのうちの一本がピエールと呼ばれた若い冒険者の喉を貫き、彼は血を吐きながら、倒れていく。

 リーダーの弓使いは、呼子を吹き鳴らしながら、パーティメンバーたちに次々と指示を出していく。



「ピーピー! 全員伏せろ! 盾で防げ! ピーピー!」



 更に十数本の矢が降り注ぐが、伏せたことと盾で防御したことにより、大きなダメージは受けていない。



「すぐに応援が来る! 身を守ることに専念するぞ! ピエール! 返事をしろ!」



 更にもう一度矢が降り注ぐが、それを最後に攻撃は止まった。

 そして、約十分後に二十名近い守備隊が現場に到着した。

 その時、襲撃者の姿はなく、ピエールの遺体を囲むパーティだけが残されていた。





 グンドルフは冒険者たちを襲った後、どの程度の時間で増援が来るか確認していた。



(十分くらいか。まあ、そんなところだろうな。だが、襲撃中に見付かれば撤退することは難しいか……どうする)



(陽動を掛けても乗って来ないだろうな。だが、弓で奇襲を掛けて、ちまちま殺すのも面白くねぇ。今日は出直すか)



 彼は手下たちに撤収を命じていた。







 冒険者の一人が犠牲になったという報告がホフマイスターに上がってきた。

 ホフマイスターはラザファム・フォーベック隊長とロベルト・レイナルド隊長を呼び、今後の方針について、協議していた。



「フォーベック殿、レイナルド殿、巡邏隊が襲われた話は聞かれましたかな。今後の方針をどうすべきだろうか」



 その問いに対し、ラザファムが、



「変える必要はありませんな。一人の冒険者が犠牲になったとはいえ、今のところ、街が襲撃されたという報告が入っておりません。警備強化が功を奏していると考えて良いと思われますな」



 レイナルドも同じ意見であるようで、大きく頷きながら、



「グンドルフは弓を使わせることが多いようです。巡邏隊に大型の盾を持たせることを提案します」



 ホフマイスターは守備隊にある大型の盾の貸与を了承した。

 ラザファムが更に



「我が騎士団が急行する班になりましょう。夜間の騎乗訓練も行っておりますので、街の中でも移動が早くできますから」



 ラザファムの考えは、巡邏隊の呼子の音を頼りに急行する班を騎馬隊にすることでタイムラグを最小限にしようという作戦だ。

 クロイツタール騎士団は夜間の騎乗訓練を受けていることから、街の外周部へのルートさえ何ルートかに限定し、篝火を焚かせておけば、充分に対応できる。

 町の中央部から外周部までは最長で一マイル(一・六km)くらい、そこから襲撃場所までの距離を考慮しても十分以内で現場に到着できる計算だ。

 なおかつ重要なのは、他の巡邏隊を持ち場に残すことが出来る点だ。これにより、陽動作戦にも対応できる。

 彼は所謂、機動防御を提案したのだった。



 ホフマイスターはその策を採用した。



 その後、襲撃もなく、静かな夜は更けていった。





 翌朝、ギルド支部は騒然としていた。

 緊急召集された冒険者が死亡したこと、巡邏隊は持ち場の警戒を第一とし、襲撃されている味方の救援にいけないことが発表され、冒険者たちの不満が爆発していた。



「俺たちは捨て駒か! 騎士団の連中は安全な場所で待機だと!」



 クラウス支部長は、



「うるせぇ! 黙れ! 嫌なら冒険者を辞めろ! さっさと冒険者カードを返納して出て行け!」



 普段温厚な支部長が大声で怒鳴ったことで、ギルド内は静かになる。そして、



「緊急召集が危険なことは判っていたはずだ。魔物が多いオステンシュタットじゃ、こんなことは珍しいことじゃない」



 そして、静かに話を続ける。



「二十年前の黒竜討伐の頃を知っている奴は判っているだろう。冒険者はこういう時に一番に犠牲になるんだ。ギルドはそのために冒険者に便宜を図っている。そこのところを勘違いしないでくれ。シュバルツェンベルクにいると迷宮に入るだけが仕事だと勘違いしてしまう。だが、冒険者の仕事はそれだけじゃないんだ」



 ギルド内の冒険者たちは互いに顔を見合わせ、冷静になって行く。

 支部長、守備隊の騎士から、今夜からの警備の手順が説明され、落ち着きを取り戻していった。







 その日の午前中にグンドルフは手下から昨日と同じく、大河が今日にも出てくるという話を聞かされる。

 隠れ家にいる手下を数人、街道の見張りに着け、大河が出てきたという連絡があり次第、街道に向かう準備をしていた。

 だが、夜になっても大河は迷宮から出てこず、彼の準備は空振りに終わった。





 その夜、日付が変わった午前〇時頃、グンドルフは再度街を襲撃するため、手下たちと森に潜んでいた。



(警備は昨日と変わらねぇか。いや、昨日より警戒の度合いが強ぇ。盾も持っていやがるし、ちょっかいだけ出して、さっさと引上げるしかねぇな)



(しかし、毎日夜襲を掛けているとこっちの体がもたねぇ。守備隊の奴らをびくびくさせるだけなら、今日だけで充分だな)



 彼は今日の夜襲の成否に関わらず、明日の夜襲を行わないことを心に決めた。



 そして、巡邏隊が彼らの前を通過すると、昨日と同じように弓使いたちに奇襲を掛けさせた。

 予め、盾で森側を防御していた巡邏隊は二人が足に軽い怪我を負っただけで、致命傷は受けていない。

 呼子を吹き鳴らすと、十分も掛からずに馬蹄の音が響いてきた。



(騎士団が馬を使ってやがるぜ。徒歩(かち)の連中は寄ってこねぇし、陽動を防ぎに掛かってやがる。一人二人で街に潜り込んで火を着けるしかねぇかもしれねぇな)



(だが、手下の誰かが捕まると厄介だ。今の隠れ家が使えなくなると碌な所がねぇ)



 グンドルフは情報が漏れることを恐れたことと、手下たちの間に不満が溜まって来つつあることを理由に、大河が出てくるまで大人しく隠れ家で英気を養うことを決めた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/31 22:46
更新日:2013/01/31 22:46
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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作品ID:1490
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