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作品ID:1503
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第六章「死闘」:第28話「焦慮」

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第6章.第28話「焦慮」



 氷の月、第四週水の曜(二月十九日)の午後五時二十分

 クロイツタール騎士団第6大隊長ロベルト・レイナルドは仮眠をとっていたシュバルツェンベルク守備隊詰所から大河の屋敷に戻ってきた。



 未だに大河の帰還の連絡がないことに疑問を感じていたが、まだ午後五時ということもあり、もうそろそろではないかと思っていた。



 屋敷の前に着くと、いつも以上に厳しい警戒を敷かれている。不審に思ったレイナルドは、屋敷の門を守る従士に状況を確認することにした。



「警備を厳しくしたようだが、副長代理がお戻りになったのか?」



「はっ! 午後二時過ぎにお戻りになられ、三時頃に再び街に出て行かれました!」



「なに! そのような報告は受けていないぞ! フォーベック隊長は如何されたのだ!」



「詳しくは聞いておりませんが、フックスベルガー様、フェーレンシルト様とともに報告書を作成しているそうです。副長代理より邪魔はするなと命令を受けております」



 レイナルドは再び大河が出て行ったことに加え、自分に連絡が来なかったことに不安を感じていた。

 そして、フォーベックらがいる食堂に走っていった。



(おかしい。フォーベック殿がお止めしなかったことはいい。だが、私に連絡が全く無いというのが気になる……)



 レイナルドが食堂に入ると、ラザファム・フォーベックら十人がテーブルに突っ伏して寝入っていた。



「フォーベック殿、起きて下さい! フックスベルガー、フェーレンシルト!」



 ラザファムが目を覚ますと、他の九人も次々と目を覚ましていく。



「フォーベック殿、これは一体どういうことですか!」



「タイガ殿が戻られて、眠り薬と睡眠の魔法で……レイナルド殿、今何時だ!」



 まだ、頭が回りきっていないラザファムは外が暗くなっていることにようやく気付き、時間を聞いている。



「五時三十分くらいです。副長代理が屋敷を出てから既に二時間以上経っているとのことです」



「くっ。レイナルド殿、タイガ殿を探すぞ!」



 焦るラザファムに対し、レイナルドは手掛かりが無いか確認する。



「落ち着いて下さい! 探しに行くと言ってもこの暗闇、闇雲に探すわけには行きません。何か手掛かりはありませんか」



「私に思いつくことは無い。フックスベルガー、フェーレンシルト、何か思いつくことはないか」



 ラザファムは頭を振りながら、アクセル、テオの方を見るが、二人も首を横に振り、途方に暮れている。

 その時、騎士たちの会話にクリスティーネが恐る恐る割り込んできた。



「あのー、手掛かりになるのか判らないのですが……」



 ラザファムは、一縷の望みを託してクリスティーネの方に身を乗り出していく。



「クリスティーネ殿。何でもいい、教えてくれないか」



「はい、ご主人様、いえ、タイガ様は罠を張ると仰っていました。罠を張るには道具が必要になると思います。その道具をどうやって揃えたのか考えていたんですが、一箇所だけ思い当たるところがあります……」



 ラザファムはさらに身を乗り出し、



「そ、それは!」



「ギラー商会です。タイガ様は会長のギラーさんと取引をよくされていましたから……、多分そこで準備をしたと思うんです……」



 クリスティーネは四人の騎士に食い入るように見つめられ、語尾が小さくなっていく。



「そのギラー商会というのはどこに」



 ラザファムが焦った声で聞いている。



「ギラー商会は商業地区にあります。案内します!」



 ノーラは自分にできることがあると一瞬喜び、クリスティーネから引き継ぐ形でラザファムらを案内すると提案する。



「いや、まだこの街は危険だ。我々だけでいく。場所はどこですかな」



 レイナルドが冷静な口調でノーラの提案を断り、ギラー商会の場所を聞いた。



「うっ、判りました。商業地区の真ん中辺りにある立派な建物です、近くに行けばすぐ判ります」



 レイナルドの言葉にノーラも渋々納得し、場所の説明だけをしていった。



「そこなら、私が知っている。ラザファム殿、私が行って来るので、ここの警備とホフマイスター代官への説明をお願いできないだろうか」



 レイナルドは巡回中に何度も商業地区に足を運んでいるため、大きな建物というノーラの言葉で目的地が判ったようだ。



「了解した。レイナルド殿、とりあえず何でもいい、情報を集めて欲しい。フックスベルガーはレイナルド殿と共にギラー商会に行け!」



 ラザファムの一言でレイナルドとアクセルはギラー商会に向かう。



 ラザファムはテオに



「すぐにレイナルド隊に出立準備をさせよ!」



「はっ!」



 テオは守備隊詰所にいるレイナルド隊に向かった。

 ちょうどその時、大河の命により街に出ていたイェンスとボリスの二名が屋敷に戻ってきた。



 ラザファムは直ちに両名から報告を受ける。



「副長代理の命で後をつける不審な者がいないか、確認しておりました。不審者は発見できませんでした」



「うむ。タイガ殿は如何された?」



「副長代理は西の森に入り、二時間ほど森の中に潜むと仰られていましたが、戻ってこられる様子はありませんでした」



(やはり、一人で行かれたか……)



 二人を下がらせ、ラザファムはノーラたちとシルヴィアに勝手に動かないよう釘を刺してから代官のホフマイスターに報告に行った。

 屋敷を出る前に、従騎士に屋敷の警備の強化とノーラたちを屋敷から出さないように念を押していく。





 残されたノーラたちとアマリー、シルヴィアは、今後、どうするかを話し合っていた。

 シルヴィアが、ノーラに大河を探しに、騎士団についていくつもりがあるのか確認している。



「ノーラ殿たちは、どうするつもりだ」



「……私はここで待ちます。私たちがついて行っても足手纏いですから……」



 ノーラは悔しいというより寂しそうにそう答え、シルヴィアに同じ質問を返した。



「シルヴィアさんはどうするんですか?」



「私は騎士団についていく。夜の森の中なら私の目は役に立つ」



「でも、タイガ様に命令されているんじゃ……」



「構わない。少々の苦痛には慣れているからな」



 シルヴィアは自嘲気味にそう言ってから、準備のため部屋に戻っていった。



(私にも力があったら、せめて邪魔にならないだけの力が……)



 ノーラの目には涙が浮かんでいた。そして、他の四人に、



「みんなも我慢して! 私たちが行けば、それだけご主人様のところに行く時間が遅くなるの。お願い!」



 更にアマリーに向かって、



「アマリーさんも我慢してください。お願いします。あの人のために……」



「はい。私がタイガさんについていくって言ったから、お二人が亡くなられ、ここについてからも無理に外に出たから、騎士様たちやシルヴィアさんに大怪我を負わせました」



 アマリーはエルナとミルコの死とシルヴィアやアクセルら騎士たちが自分を守るためにケガを負ったことに責任を感じていた。



「本当は今すぐ飛んでいきたい。でも、ここで待ちます。皆さんと一緒に彼の無事を祈ります……」



 アマリーは崩れ落ちるように椅子に座り、テーブルに伏し、泣き始めていた。







 レイナルドとアクセルの二人は商業地区に向け、暗い道を馬で駆けていた。

 五分ほどでまだ人通りの多い商業地区に着き、すぐにギラー商会に入っていく。



「ギラー殿はおられるか! クロイツタール騎士団のものだ! タイガ卿のことで話がしたい!」



 レイナルドが大声でそう叫ぶとギラーが店の奥から現れた。



「クロイツタールの騎士様が何用ですかな? ここでは話も出来んでしょう。奥へどうぞ」



 ギラーはレイナルドとアクセルを奥の応接室に案内する。



 レイナルドは焦りから、すぐにでも問い詰めたいと思っていたが、アクセルに腕を掴まれ、思い止まる。



「レイナルド様、短慮は禁物です。彼から情報を得なければ何も始まらないのですから」



 レイナルドは素直に頷き、「すまなかった」と小さな声で彼に謝罪する。



 奥に通された二人は、早速大河の情報を得ようと話を始めるが、



「“タイガ”殿とは年明けのドライセンブルクに出発する際に会ってからは、お会いしておりませんな。ですので、“タイガ”殿に関する情報を仰られても、お話しすることはありませんな」



 ギラーの言葉にレイナルドはカッとなるが、横からアクセルが、



「ギラー殿、私はタイガ卿の部下、アクセル・フックスベルガーを申します。少しお話をさせてもらってもよろしいですか?」



 アクセルは無理やり笑顔を作り、ギラーに話しかけていく。



「フックスベルガー! 今はそのような時ではない! 一刻を争うのだぞ!」



「レイナルド隊長、ここは私にお任せいただけませんか。お願いします」



 アクセルはレイナルドに深々と頭を下げる。

 レイナルドはアクセルに何か考えがあると考え、



「判った。任せる。だが、時間が無いことに変わりはないぞ」



 アクセルはレイナルドに黙礼した後、ギラーに、



「昨日、ロープ、杭、弩などを手配されませんでしたか?」



「確かに手配はしましたぞ。だが、既に昨日のうちに出発しておりますがの」



「では、その方の名前を教えてもらえませんか? ただとは言いません」



 アクセルは懐から貨幣の入った皮袋を取り出す。



「ほう。しかし、客に関する情報は信用に関わりますからな。お教えすることはできませんな」



 ギラーは興味深げにアクセルを眺めながら、情報提供については拒否した。



「では、護衛に関する情報では? 誰が護衛についたかご存知ですか?」



 アクセルは護衛の情報ならと思い、再度ギラーに問い掛けた。

 ギラーはそれでは教えられないという顔で、



「儂が手配したのでもちろん知っておりますがの。これも信用に関わることなのでお教えできませんぞ」



 アクセルは更にギラーに食い下がり、



「ですが、その護衛が既に完了しているとすれば、聞いても問題ないのでは? 過去の護衛の話を漏らしても特に危険はないかと」



「なるほど。ですが、契約期間はまだ有効でしての。じゃが、時々、護衛が逸れることもありますな」



 アクセルは必死に考えを巡らせているようで、数秒間黙ってしまった。そして、



「では、その護衛が良く使う宿はご存知ありませんか? それなら問題ないでしょう?」



「うむ。そうですな。情報料はおいくらですかな」



「金貨一枚でどうですか?」



 アクセルは金貨を一枚取り出し、テーブルの上に置く。



「ほう、お若いのに……さすがタイガ殿の下におられるだけのことはありますな。情報の重要性を良くご存知だ」



 ギラーは目を細めながら、金貨を懐に入れ、



「山シギ亭に行きなされ。ギルドの近くで聞けばすぐに判るでしょう。今の時間なら食堂で同じ事を聞けば、何か判るかもしれませんな」



 アクセルはレイナルドに目配せをしてから、立ち上がる。レイナルドはまだ納得できないが、アクセルが話を切り上げたのを見て、必要な情報が手に入ったと直感した。



 アクセルはギラーと握手をし、外に駆け出していく。

 後ろから、ギラーの声が聞こえてきた。



「今日は街道沿いで火柱が上がるかもしれませんな。そうそう、エルフを連れて行くと良いでしょうな。まあ、年寄りの独り言ですがの……」



 ギラーは昨日、大河がアルフォンスと街に戻ってきたことを彼の情報網を使って掴んでいた。





 アクセルはギラーの声を聞きながら、足を止めることなく、馬に飛び乗る。

 二人は馬を走らせながら、



「レイナルド様、差し出がましく口を挟み、申し訳ございませんでした。罰は後でいくらでも受けます、今は山シギ亭に」



「気にしておらん。そなたの方が早く情報を手に入れられた。さすがタイガ殿の直属だな」



 レイナルドは、アクセルがギラーと交渉していた姿を思い出し、



(フックスベルガーが直属になってまだ一月も経っておらんはずだが、今の商人との交渉はタイガ殿を思い出すほどだ。やはりタイガ殿には騎士団にいてもらわねば……)



 アクセルは大河がノイレンシュタットやドライセンブルクのギルドで情報を手に入れるときのことや彼が作戦を語る姿を思い出し、情報の重要性について徐々にだが、認識し始めていた。

 更に相手の考えを想像しながら対応することの重要性にも気付いていた。ギラーという男のことは良く判らなかったが、大河が懇意にしているということは、かなりやり手であることは想像できる。

 そうであるなら、大河は自らの情報を出さないように依頼しているはずだから、ストレートにその情報を要求しても出てくる可能性は低いと思っていた。



(護衛の名前くらい教えてくれると思ったんだが、それも教えられないと言われた時は目の前が真っ暗になりそうだった。“逸れる”という言葉を聞かなければ、気付かなかったかもしれない。もし一緒に罠を設置しに行ったのなら、宿に戻っているはずだと……案外、ギラーという男もタイガ卿を気に入っているのかもしれないな……)



 山シギ亭に着くとすぐに食堂に向かう。

 食堂で主人のモリッツに事情を話すと、カスパーという冒険者と飲んでいるところ見たことがあると教えてくれた。

 カスパーは昨日からクエストに出ており、明日戻ってくる予定だが、パーティメンバーの一人が戻っていることも教えてくれた。



「アルフォンスという男です。カウンターの奥に座っているエルフですよ」



(ギラーが言っていたエルフとは彼のことか? そうか、グンドルフの手下ということも考えられるから、俺たちが疑わないように、わざわざエルフと教えてくれたのか……)



 レイナルドとアクセルはアルフォンスのところに行き、



「アルフォンス殿か? 私はクロイツタール騎士団のアクセル・フックスベルガー。タイガ卿の直属の部下だ。少し話を聞かせて欲しいのだが、いいだろうか」



 レイナルドも名乗ると、空いているテーブルに腰を掛ける。



「昨日、タイガ卿と罠を設置しに行ったのではないか?」



「ああ、罠の設置まで一緒にやったが、それが?」



 アルフォンスは、騎士たちがなぜそんなことを聞くのかと、不思議そうにそう答えた。



「タイガ卿が今、そこでグンドルフらと戦っているんだ。たった一人で。すぐにでも駆けつけたいんだ。その場所を教えてくれ」



「やはり一人で行ったのか……判った。あそこには訳の判らん罠を含めて、大量の罠が設置されている」



 そして、徐に立ち上がり、



「俺が案内しよう。騎士だけでは被害が出るからな。五分だけ待ってくれ、準備してくる」



 彼はそういうとすぐに自分の部屋に戻り、装備を整えにいった。





 午後六時一〇分

 レイナルド、アクセル、アルフォンスの三名は屋敷に到着した。

 屋敷の前にはレイナルド隊が夜戦の準備を整え、整列していた。



 ラザファムが、



「レイナルド殿、タイガ殿を頼む。私はここでアマリー殿たちを守る。フックスベルガー、フェーレンシルト。シルヴィア殿も同行する。二人でお守りしろ!」



 レイナルドはラザファムに軽く頭を下げた後、部下たちに向かって、



「場所はここにいるアルフォンス殿に聞いた。街から西に三マイル(四・八km)行き、森の中を半マイル(九百m)ほど南に入ったところだ。暗闇の森の中だが、騎乗したまま急行する。脱落した者はその場にとどまるか、街に戻るかを各人の判断に任せる。騎乗!」





 午後六時二〇分

 レイナルド隊三十名とアクセル、テオ、シルヴィア、アルフォンスの計三十四名はシュバルツェンベルクの街を出て、街道を西に向かった。





 午後六時四〇分

 森の中の街道を行く彼らの耳に爆音が届いた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/02/04 22:57
更新日:2013/02/04 22:57
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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