作品ID:1541
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さよならメモリー
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
3 ○月×日 午後
前の話 | 目次 |
目を開ける。
映る景色は0.3秒前と同じく学校内の教室のままだった。クラスメートのポージングがやや変化しているが異常と見なすべきものはみられない。昼間と比べややその熱量を下げた日光が、窓から僕ならびにクラスメートを照らしていた。
まばたきという行為は自動で行われる設定になっているので、一定時間ごとに僕はまぶたを開閉する。
身体の機能調節のために人間にこの行為が必要とされることは理解しているが、なぜこの動作に彼らは恐怖心を覚えないのかとよく考える。
一瞬でも視界がすべて遮断されることは喜ぶべきことではないはずだ。外界からの情報に遅れをとり、なんらかの攻撃をされた場合の反応が劣る。
まばたきという行為を当たり前に受け入れるのは、危機感が無いと考えることが適切なのか。それともこの国が平和であるからこそなのか。
僕の脳となる部分で思考を働かせているうちにHRは終了した。
手をふり別れの挨拶をする田中くんに僕も挨拶を返し、鞄を持って、教室を後にする。
同方向に進む生徒たちの流れとともに、校舎を出る。校門を出る。
正面に女性の尻を認識した。
「……」
これまでの僕の生活サイクルの中には無かった目撃に足を止める。
校門を出てすぐの茂みから生えるように人の下半身が伸びている。裾の広がったチュールスカートがゆらゆらと左右に揺れていた。
まだ明るい時間帯のなか、その光景は異様と判断されるべきものだった。同じく学校から帰路につく他の生徒もその光景を目にしたが、驚きの表情を浮かべながらも関わることを避けるように足速に去っていく者ばかりだった。
かすかに茂みから唸るような女性の声が聞こえる。
「…届かないー…」
茂みから下半身が生えているのではなく、おそらく女性が上半身を茂みの中につっこんでいるのだと予想された。地面に膝をつけ、時折上体を動かしているのか尻部が揺れる。蝶が描かれた衣服がひらひらなびいていた。
異様ではあるが、危険物ではない。そう判断を下して、僕はその茂みを他の生徒と同様に通過した。だが、数歩進んだとき、背後の茂みはそれまでの3.5倍の音を出して揺れた。耳がそれを感知した瞬間、僕の身体は音の原因を確認するべく振り返った。他の生徒と同様と形容するには格段に素早い反応となった。
振り返った視界に、先程の下半身が上半身を伴った状態で映りこんでいる。茂みからつっこんでいた身体を抜いたらしい。ウェーブしたミルキーブラウンの髪は葉を大量につけており、その髪が揺れる。輪郭が現れる。ゆっくりとこちらを向く。
スローモーションのその光景は僕の視界の一部分である。僕の眼は、女性が身体を抜いた後も止まらない茂みの揺れを確認していた。0.7秒後、茂みから物体が飛び出してきた。僕の中にインプットされている情報と照らし合わせるに、猫という生物だ。女性の眼は走る猫を追っていた。四肢を活用し駆け抜ける猫の、方向は僕の立つ位置に向かっていた。
猫は僕を認知するまでに少々時間を要したため、僕の足元に衝突する寸前に驚いたように方向転換をした。その拍子に、猫が口に咥えていた何かが僕の足元に落下する。猫はもうこちらを見ずに走り去っていった。
猫の後姿を眺めただ立っていた僕のもとに、さらに足音が続く。地面に響く高音は靴のかかとが高いことを知らせる。
「あのっ、すみません!」
猫より大分おぼつかない足取りで近づいてきたのは、茂みに身体をつっこんでいた女性だった。
映る景色は0.3秒前と同じく学校内の教室のままだった。クラスメートのポージングがやや変化しているが異常と見なすべきものはみられない。昼間と比べややその熱量を下げた日光が、窓から僕ならびにクラスメートを照らしていた。
まばたきという行為は自動で行われる設定になっているので、一定時間ごとに僕はまぶたを開閉する。
身体の機能調節のために人間にこの行為が必要とされることは理解しているが、なぜこの動作に彼らは恐怖心を覚えないのかとよく考える。
一瞬でも視界がすべて遮断されることは喜ぶべきことではないはずだ。外界からの情報に遅れをとり、なんらかの攻撃をされた場合の反応が劣る。
まばたきという行為を当たり前に受け入れるのは、危機感が無いと考えることが適切なのか。それともこの国が平和であるからこそなのか。
僕の脳となる部分で思考を働かせているうちにHRは終了した。
手をふり別れの挨拶をする田中くんに僕も挨拶を返し、鞄を持って、教室を後にする。
同方向に進む生徒たちの流れとともに、校舎を出る。校門を出る。
正面に女性の尻を認識した。
「……」
これまでの僕の生活サイクルの中には無かった目撃に足を止める。
校門を出てすぐの茂みから生えるように人の下半身が伸びている。裾の広がったチュールスカートがゆらゆらと左右に揺れていた。
まだ明るい時間帯のなか、その光景は異様と判断されるべきものだった。同じく学校から帰路につく他の生徒もその光景を目にしたが、驚きの表情を浮かべながらも関わることを避けるように足速に去っていく者ばかりだった。
かすかに茂みから唸るような女性の声が聞こえる。
「…届かないー…」
茂みから下半身が生えているのではなく、おそらく女性が上半身を茂みの中につっこんでいるのだと予想された。地面に膝をつけ、時折上体を動かしているのか尻部が揺れる。蝶が描かれた衣服がひらひらなびいていた。
異様ではあるが、危険物ではない。そう判断を下して、僕はその茂みを他の生徒と同様に通過した。だが、数歩進んだとき、背後の茂みはそれまでの3.5倍の音を出して揺れた。耳がそれを感知した瞬間、僕の身体は音の原因を確認するべく振り返った。他の生徒と同様と形容するには格段に素早い反応となった。
振り返った視界に、先程の下半身が上半身を伴った状態で映りこんでいる。茂みからつっこんでいた身体を抜いたらしい。ウェーブしたミルキーブラウンの髪は葉を大量につけており、その髪が揺れる。輪郭が現れる。ゆっくりとこちらを向く。
スローモーションのその光景は僕の視界の一部分である。僕の眼は、女性が身体を抜いた後も止まらない茂みの揺れを確認していた。0.7秒後、茂みから物体が飛び出してきた。僕の中にインプットされている情報と照らし合わせるに、猫という生物だ。女性の眼は走る猫を追っていた。四肢を活用し駆け抜ける猫の、方向は僕の立つ位置に向かっていた。
猫は僕を認知するまでに少々時間を要したため、僕の足元に衝突する寸前に驚いたように方向転換をした。その拍子に、猫が口に咥えていた何かが僕の足元に落下する。猫はもうこちらを見ずに走り去っていった。
猫の後姿を眺めただ立っていた僕のもとに、さらに足音が続く。地面に響く高音は靴のかかとが高いことを知らせる。
「あのっ、すみません!」
猫より大分おぼつかない足取りで近づいてきたのは、茂みに身体をつっこんでいた女性だった。
後書き
作者:柑子 |
投稿日:2013/03/14 12:50 更新日:2013/05/17 18:06 『さよならメモリー』の著作権は、すべて作者 柑子様に属します。 |
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