作品ID:179
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アルバイト軍師!
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
第六話 命を賭けるに値するモノはある……と思います!
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第六話 命を賭けるに値するモノはある……と思います!
ハオル山の惨敗から、エーベルン将兵の士気は著しく低下していた。
寡兵の敵に惨敗しただけでは無く、元々何の為に戦うのか。戦争の目的が当初から個人の欲から発生しただけに、戦う必要性それ自体に疑問を持ち始めたのが原因だった。
個人の欲にしても、それが国王で絶対的な指導の元、征服などであればまだ士気も上がりもするが、ただ鉱山を手に入れるため、という小さな目的であるが故に、士気が上がり難いというのは必然と言えた。
この状況を打開すべく、バッカス大公爵は側近達、各下士官、アルト、エドガー、フェニル、リューネを集め、演説を始めた。
「諸君! 我等は何の為に遥々ここノートリアムに攻め入ったのか!? 国王陛下の領地を増やし、鉱山を手に入れ、エーベルンが千年王国となる礎の為である!」
……お前の都合だろ。
口には出さないが、下士官達はそろって同じ言葉を頭に浮かべた。
そもそも何故戦う必要性があるのか。遠征までして手に入れる必要性があるのか。
疑問は尽きない。
「愛国の勇士諸君達が獅子奮迅の働きをすれば、ノートリアムなど恐れぬに値せぬ! しかも、敵はノートリアムの王女、エイシア=レンダーク! 齢二十歳にも満たない小娘だ! 何を恐れる事があるだろうか!? 我等は五万、敵は増援が到着したとは言え、僅か三万五千という。ハオル山では、卑怯な敵の奇襲攻撃にて惜しくも敗れたが、未だに兵力は圧倒的である! 我等は敵陣にエーベルンの誇りと武威を持って攻め立て、ノートリアムの陣営を蹂躙する事、疑う余地が無い! 我等は必ず勝利するだろう!」
バッカス大公爵が高々と右手を上げると、天幕の者達は形だけではあったが、大きく叫びながら右手を上げた。
僅かでも理性と知識があれば、何を根拠に勝利できると言っているのか疑問に思う。
兵力が勝っているから勝てると叫ぶが、すでに寡兵の敵に惨敗していて何故それが根拠になるのか?
「我本隊はこれよりエーベルン軍へ攻める。先陣はノードン男爵! 先日の汚名を返上せよ!」
「はっ! 父上と国王陛下のご威光を轟かせてご覧に入れましょう!」
ノードン男爵は大袈裟に喜ぶと、バッカス大公爵に恭しく頭を下げる。
これで兵を見捨てて逃げ出した行為を帳消しにするつもりなのだろうが……。
「エドガー、フェニル、アルト、リューネの四名は後方にて待機。我等の凱旋を待て」
『はっ!』
四人の指揮官は同時に頭を下げた。
「いざ、決戦だ! 皆に神のご加護を!」
バッカス大公爵の号令の下、エーベルン軍は進撃を開始した。
一方の援軍が到着したノートリアム陣営は、勝利の余韻は微塵も無く、異常なまでの静けさであった。
兵士一人一人が、丹念に鎧や兜、剣や槍、弓と矢の手入れ。馬を黙々と丹念に世話する者も居れば、自らの武勇を高める為に訓練に励む者も居る。
それは、ただ一人の将軍が到着した直後、勝利の余韻に浸り、浮ついた将兵を怒鳴りつけたからである。その瞬間、ノートリアムの将兵から勝利の余韻は一瞬にして消え去り、次の戦いに向けて、各自準備を始めていた。
「……さて、姫様。言い訳を聞きましょう。簡潔に願います。三十文字以内で」
ノートリアム軍本営に到着早々、ノートリアム軍政及び軍監統括責任者にして、次席将軍ダルト=シャムシエルは、その鋭い眼差しで指揮官を見つめた。
ノートリアムが誇る四人の名将の内、一番大柄な男である。四十六になるノートリアムの『歩く秩序と規律』は、畏怖をもってエイシア以下、全将兵達を統括している。彼が部隊の視察に訪れる時、その部隊の兵士達は、指揮官に対して『葬送曲』を口笛で鳴らすとまで言われるほど厳しい。個人にここまで権限を与えられるのは稀である。しかし、一切の私心が無く、公平で知られる彼だからこそ、その信頼故に任じられている。だが、それだけが理由では無い。
「え? さ、三十文字!? えーと……。迎撃地点に出撃する時間が惜しかった、報告を忘れた、でも勝利した」
見事、二十九文字。しかし、ダルトの視線はさらに鋭くなった。
「時間が惜しかった? 私への報告を忘れる程? 姫は敵の襲来を聞くや否や、この三名を呼び出して出陣したと聞きましたが? ……勝利した? それは結果であって、そのような事どうでも構いませんな」
エイシアの言い訳をダルトはバッサリ切り捨てた。
「私を軍政及び、軍監統括責任者に任命されたのは陛下です。陛下の御意に従い、私は職務に忠実で有ったと自負しているのですが、姫様はどのような権限でそれを蔑ろにされるのか。お聞かせ願えませんか?」
「わ、悪かった。反省している」
「反省? ええ、大いに反省して頂きたい。ところで姫様? 軍律という物をご存知ですか?」
「も、勿論全て把握している」
「ほう? 把握している? 把握しているという事は、分かっていて独断出撃された……という事ですな? 勝手な独断行動は厳罰に処す。王族であろうが、貴族であろうが、法は法です。お覚悟は宜しいですかな?」
「……え、あ、いや、その……あ、兄上には一言、言ったぞ?」
エイシアは脂汗を流した。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
これが、彼が権限を与えられている理由。国王に対しても、上司に対しても、部下に対しても厳しく接する。諫言をして憚らぬのである。こういった人物は必要ではあるが、大抵嫌われ役に収まる。しかし、彼が厳しいのは規則に関してのみであり、やるべき事を全て実行した結果の失敗に対しては寛容で、度々庇う場面も多く、助けられた将兵も多い事も確かで、彼の人望が揺らぐ事は無い。
「はい。ウォルス国王陛下からは報告を受けております」
「な、ならば……」
エイシアは一瞬だけ安堵の表情を浮かべたが、すぐに恐怖で顔を歪ませた。それは、ダルトが物凄い眼光をエイシアに向けたからである。
「だからと言って、物事には手順があります。……それを逸脱して、何の為の軍律か!」
「は、はい!」
ダルトが一喝すると、エイシアは背筋を伸ばした。
「非常時であればあるほど、この手順が重要になるのです! 現在、西側の諸国とは小康状態ではありますが、もし、エーベルンに対して出撃した直後、彼等が動いていたら何とされる! 姫様は自ら危機をお招きなさるか!」
「そ、それは、私も考えて……」
「考えて? 考えるだけならそこらの兵でもできます! 仮にも、筆頭将軍である姫様は、誰よりも軍律に厳しく、ご自身を律しなければならないのです! これは、ノートリアム全兵へ対しての模範となります。しかし、その模範が軍律を破れば、軍律を破る兵士に対して、どのように罰するのですか!」
「た、確かに、手順を飛ばしたのは誤りであったが……」
「エイシア=レンダーク!」
「は、はい!」
「軍政及び軍監統括責任者、ダルト=シャムシエルが命ずる! 本来ならば斬首に処す所ではあるが、陛下からのご温情と、陛下には報告していた経緯を踏まえ、独断出撃とは見なさぬが、統括への未報告の罪により、腕立て伏せ二百五十回! リリア=ヨーク! 傍付きでありながら何故注意しなかった! よって同罪ながら主責任者ではないとし、腕立て伏せ二百回!」
「に、二百五十!?」
「わ、私もですか!?」
エイシアとリリアが素っ頓狂な声を挙げると、ダルトはテーブルを、バンッ。と、叩いた。
「……はやくしなされ……」
氷のような目でダルトは容赦無く言い放つ。
『一! 二! 三! 四! 五! 六…………』
エイシアとリリアは、本当にそれぞれ命じられた回数の腕立て伏せをした。途中、倒れそうなると、容赦なくダルトは休むなと叱責を浴びせかける。説教では無い為、時間は短いが……苦痛だ。以前は、陣幕の外で正座させられ、八時間にも及ぶ説教だったが……はたして苦痛なのはどちらなのだろうか?
ノートリアム陣営は、決戦前とは思えないいつもどおりの光景だった。
両軍が対峙したのは、ハオル山の前哨戦から五日後、朝の事である。
デヴォン地方のハオル山から少し離れた街道に両軍は展開した。ただ、この街道は狭く、ノートリアム陣営は、道幅が一番大きく広がっている部分を占有していた。
「……本気で攻めるつもりか」
馬上の人エイシアは、眉を吊り上げてエーベルン勢を見つめた。
「どうやら、敵は戦が下手得であるようですな。兵が哀れだ」
その横に並ぶカシェルが目を鋭くしながら言うと、エイシアも頷いて同意した。
「ならば、こちらは作戦通りに動けば良い。ここで、敵主力を撃破すれば、撤退するだろう」
「……追撃するのですか?」
リリアが尋ねると、エイシアは目を閉じた。そして、暫く黙考した後、再び目を開けた。
「いや……。すぐには追撃しない。敵の第五軍。一万余が後方に控えている。……勘……なのだが、どうも……嫌な予感がする」
「嫌な予感……ですか?」
カシェルが尋ねると、エイシアは首を傾げた。
「なんとなく……そんな気がするのだ。……何か、見透かされているかの様な気分だ。それに、輜重隊などの守備も合わせて一万というのは多すぎる。逆撃を狙っているのか……。それとも……。それにしても、後方待機にしては、余りにも距離が離れすぎている」
リリアとカシェルは驚きを禁じえなかった。今まで、エイシアが見せた事が無い、不安に満ちた表情を見せたからだ。
エイシアが一番迷っていた原因。それは、第五軍が、決戦場から遠く、通常の行軍速度にして一日は要する距離ほど離れていたからだ。
「では、敵が撤退すれば追撃せず、隊列を整えて追撃できる状態にする……で宜しいですかな?」
「いや、ある程度は実施する。が、第五軍に迫る事はしない。……追撃できなくとも、敵を撤退させれば、我等は最低限の役目を果たせる」
カシェルが進言し、エイシアはそれを了承した。
エーベルンは前衛にノードン男爵率いる騎馬部隊一万八千を集中させ、左右に歩兵部隊を展開。その後ろに弓兵部隊、計二万五千。最後尾にバッカス大公爵率いる重歩兵部隊二万という構成であった。
一方。ノートリアムは、中央前衛にカシェル将軍率いる歩兵部隊、弓兵部隊、計二万。その左右に、カイ将軍、デネール将軍率いる騎兵部隊、各五千。中心にエイシア率いる近衛騎兵部隊五千という構成であった。
両軍の対決はエーベルンの騎馬隊の突撃から開始された。
大地を揺るがすその勢いは怒声と共に、ノートリアム軍中央部に向かって突撃した。
ノートリアム中央軍はその勢いに飲まれたかのように、徐々にゆっくりと後退し始めた。
エーベルン騎兵部隊は、そのままノートリアム中央軍を蹂躙するかのように突撃したが、その瞬間に異変が起きた。
次々とエーベルンの中央軍の手前で落馬していったのである。それは、ノートリアムが自軍前面に張り巡らせた落とし穴と、前衛歩兵部隊が、地面の茂みに隠していた長槍による迎撃であった。
ある者は落とし穴に落ち、さらにその上に味方の馬が圧し掛かって押し潰され、またある者は、愛馬を槍で貫かれ、落馬した所を狙われた。
悲鳴と、怒号、苦痛による叫び、助命を請う嘆きが、戦場に満ち始めた。
ノードン男爵はここで進撃を停止させ、すぐさま後退すべきであった。
「何をしている! 突破だ! 突破しろ!」
指揮官であるノードン男爵の指示で、エーベルン騎兵は槍も罠も恐れず突き進んだ。だが、同じ結果を繰り返すばかりで、地面はエーベルンの軍馬と兵で埋め尽くされた。
突如、ノートリアム兵は大きな木製の橋のような物を運び出した、それを地面に倒れたエーベルン兵の上、罠の上に被せた。
「前衛歩兵! 突撃せよ!」
ダルトの号令と同時に、『橋』を渡り、罠を越えて完全に勢いをなくしたエーベルン騎兵部隊に襲い掛かった。
騎兵部隊の長所は、その機動力にある。足を止めた騎兵部隊など役に立たない。ノートリアム兵はエーベルン騎馬兵に襲い掛かり、次々と馬上から引き摺り下ろした。
「わ、私は一度後退する! お前達は突撃せよ!」
ノードン男爵は、またしても前線で必死に戦う者達を見捨てて、戦場から逃げ出した。
ここで宿将たるカシェルが絶妙な機会で号令を言い放った。
「前衛が崩れた! 弓兵! 左右歩兵に三連斉射! 続いて敵中軍後方を断続的に攻撃せよ! 味方の頭を越えよ!」
左右から空を覆う矢の雨が降り注いだ。と、同時に左右騎兵部隊が、エーベルンの両翼に突撃を開始した。
それを見たエイシアは鞘から剣を抜いた。
「カイに伝令! 作戦通り、中衛歩兵をすり抜け、敵本陣へ吶喊せよ! 私は敵左翼後方を片付ける! 続いてデネールに伝令! 敵右翼を撃破した後、敵後方を突き抜けろ! カシェル、中央軍の指揮はお前に一任する! ダルトと連携して負傷兵を回収せよ!」
エイシアが叫ぶと、伝令兵と、カシェルがそれぞれ頭を下げた。
「聞け! ノートリアムの勇士達よ! 我等が祖国を土足で踏みにじる、エーベルンの愚か者共に、義の鉄槌を与えよ! 我に続けぇええええええええ!」
エイシアが陣頭に立ち、ノートリアム近衛騎兵部隊は、中央から右翼を廻って猛然と突入を開始した。
一方のエーベルン本営は呆然の一言であった。
敵中央軍を撃破し、蹂躙すると確信していた騎兵部隊が、一瞬にして壊乱状態に陥り、左右の歩兵部隊が敵騎馬部隊に蹂躙されつつある。救援部隊を出撃させようにも、戦場が狭すぎて派兵しようにも、出来ない状態であった。
「防げ! 防げ! 敵を防げ! 何をしている!? 兵力は此方が勝っているのだ!」
バッカス大公爵は狂ったように叫んだ。
圧倒的兵力で蹂躙するつもりであったのに、現実はまるで逆で、此方が圧倒的に蹂躙されつつある。
「一度、前衛部隊に後退の合図を! 重歩兵部隊を横隊に前面に押し出せば、まだ前線を維持できます! 時間を稼いでその間に再編成を……」
すぐさま意見を取り上げて、バッカス大公爵は決断すべきであった。しかし、重歩兵部隊を前面に押し出すという事は、本陣である自らの守りを崩すという事だ。左右両翼が崩壊しつつあるこの状況で、いつ敵が突っ込んでくるか分からない。
「死守だ! 死守せよ! 左右両翼は後退する事、相成らぬ! 死守だ! 死守だ!」
バッカスが叫びはすぐさま打ち消された。それは、カイ率いる『鴉軍』が中央軍に吶喊したからである。
「ま、守れ! ワシを守れ! ワシが死んだらそこで負けぞ!? ワシは後退する!」
バッカス大公爵はすぐさま共廻りのみ引き連れて、戦場を離脱し始めた。
「逃げるのか! エーベルンの大将! この俺と戦え!」
カイが飛び込もうとするが、十数人の重装歩兵にたちまち囲まれた。
「邪魔するな!」
カイの刃が敵兵に次々と食い込むが、エーベルンの兵達は恐れず戦った。
その間、バッカス大公爵は戦場から離脱する事に成功した。
総大将、戦場離脱。
その報告はすぐさま戦場に知れ渡った。
「敵総指揮官はすでに戦場から逃げ出したぞ! 行け、かかれ! 敵を殲滅せよ!」
デネール将軍は自ら剣を振るいながら味方を鼓舞し、敵右翼を完全に突破してそのまま敵中央軍へ攻勢を掛け始めた。さらに、エイシア率いる近衛騎兵部隊が、敵左翼を突破して第二陣として中央軍へ攻勢をかけた。
ノートリアム将兵は、文字通り戦場の捨て子同然の状態に陥り、完全に軍隊としての機能が瓦解したエーベルン軍に猛然と襲い掛かった。
戦闘は僅か半日で決した。
まさに鎧袖一触。
再び大地はエーベルン兵の死体と大量の血で埋め尽くされた。
ノートリアムは死傷者三千余名、エーベルン軍は二万を超える死傷者であった。
エイシアは深追いを避け、軍勢を整える事に専念した。
この行為が、エーベルン第四軍の壊滅を免れた唯一の出来事であった。
エーベルン第四軍、壊走。
その報告はすぐさま第五軍のリューネ達に伝わった。報告が早かったのは、第四軍最後尾でコッソリ尾行していたアルトの手勢からによる報告であった。
「……たった一日も持たなかったか」
伝令兵を前に、悠斗は溜息と共に感想を述べた。
「はっ! ノードン男爵、バッカス大公爵はご存命。残兵を率いて、此方に向かっています」
悠斗はそこで眉を吊り上げて、リューネを見つめた。
「どうした、キサラギ」
「……指示、出していいか?」
「ん? ああ、構わないが……」
「バッカス大公爵に伝令。第五軍へ敵追撃が襲い掛かると予想されますので、大公爵は此方へ来られず、そのままエーベルンへ脱出されたし。第五軍は殿として……大公爵御身をお守り申し上げます……とか、なんか、適当におべっか使って、大公爵がここに来ないようにしてくれ。邪魔だから」
途中から悠斗は面倒になったのか、はっきり本音を言い放った。
その言葉に、エドガーはツボに嵌ったのか、大笑いした。
「は、はぁ……。分かりました。と、とにかく、大公爵が第五軍に合流しないよう、伝えればいいのですね?」
伝令兵も面食らったのか、首を傾げながら悠斗に確認した。
「頼んだ。……ああ、一つ言っておく。もし、合流された場合、第五軍が壊滅すると思ってくれ。これは極めて重要に任務だ。君の責任は重大だぞ? 何しろ一万三千人の命が掛かっている」
「は、はっ! わ、分かりました! 失礼します!」
伝令兵が急ぎ天幕から離れると、悠斗はもう一度溜息は吐いた。
「呆れすぎて、感想の一つも思い浮かばん」
吐き捨てるように悠斗が言い、アルトとフェニルがそれに同意した。
「……さて、思ったより早く準備が済んでよかった。此処から俺達の戦だ」
悠斗は改めて地図を見直した。
「敵の現在地は此処。追撃しなかったのは、恐らく俺達の存在が原因だろう」
「なぜ、我々が原因なのだ?」
リューネが尋ねると、悠斗は外を指し示した。
「一万の予備兵力が控えている。逆撃される可能性を考えたのだろう。敵の目的はあくまで、エーベルン軍の迎撃であって、殲滅では無い。もし、敵が侵略軍で、此方が防衛軍であれば、追撃しただろうがね。まぁ、都合の良い勘違いをしてくれた。と、言うべきか……。それとも、勝利の余韻に浸る事無く、目的だけを果たしたからなのか……」
後者であれば、見事の一言に尽きる。
悠斗は、追撃する事を予想して、敵予想追撃路の森近辺に、三千の弓兵部隊を伏兵として待機させていた。敵が調子に乗って深追いしようものならば、一撃離脱の予定だったのだが……どうやら空振りしたようだ。
実際には、アリシアの勘によって失敗したとは、悠斗の想像の斜め上であり、範疇にも入らなかったのは、神ならぬ人では知る由も無い。
「やるべき事は全て実行した。あとは、士気か」
悠斗が言うと、エドガーが一歩前に出た。
「士気を高めればいいのだろう? 俺がやってやるよ」
エドガーの言葉を、悠斗は首を横に振って拒絶した。
「ただ、高めるだけならお願いするが、高める事も重要だが、目的がちょっと違う。全ての兵士に……。いや、俺がする」
悠斗はゆっくりと椅子から立ち上がると、リューネ、エドガー、フェニル、アルトを順に見つめた。
「全軍を集めてくれ。ちょっと演説する」
「演説だと? お前が?」
リューネが尋ねると、悠斗はゆっくりと頷いた。
「そうだ。たった一つだけ明確にしなければ成らない事がある。これが、最後の一手となる。とにかく全て集めてくれ。末端の兵士に至るまで」
「ちょっと待て。俺はお前をまだ完全に信用した訳じゃない。お前の作戦に乗りはしたが、兵の鼓舞まで任せるつもりは無い」
エドガーは悠斗の正面に立って睨み付けた。
「信用しろとは言ってない。だが、この一手が最重要だ。だから、俺がやる」
悠斗はエドガーに対して睨み返すと、両者の間に緊迫した空気が流れた。
「………………」
エドガーの右肩に手を置き、振り返ったエドガーに対してゆっくりフェニルは首を振った。
「エドガー殿。我々はキサラギ殿の作戦を受け入れました。最後まで受け入れて見ませんか?」
そう言ったのはアルトだ。
「……ちっ。わーったよ! 任せればいいんだろうが! 任せれば!」
エドガーは舌打ちを鳴らして腕を組んでそっぽ向いた。
こうして、エーベルン第五軍一万三千、その悉く本営前に集結した。
本営の前には、リューネ、エドガー、フェニル、アルトが並び、その背後に信繁、ヒエンが控えた。
突然の集合命令に兵士達は動揺したのか、酷く冷静を欠いていた。
「…………全軍注目!」
用意された壇上の上で、悠斗は大きな声で叫んだ。
暫くして声が静まると、一万三千人の視線が悠斗に注がれた。
「俺の名はユウト=キサラギ。この第五軍の軍師である。軍師として諸君等へ命令する事、お許し願いたい」
注目の目は一気に疑惑の目に変わった。見た事も無い若い男が、いきなり軍師と言い放ったのだ。それは当然の反応と言えた。
「さて、諸君達は分かっているだろうか? エーベルンは敗北した。完全なる敗退である」
兵の間でざわめきが広がった。敗北を告げる指揮官など普通居ないからである。
「残存兵、負傷兵を含めた三万余が、今、エーベルン目指して退却している。そして、我々第五軍は殿を任された。つまり、エーベルン五万を易々と打ち破ったノートリアム軍三万五千の軍勢に対し、僅か一万三千でその追撃を防ぎ、自分が逃げる時間を作れ。それがバッカス大公爵の命令だ」
動揺は一気に広がった。怒りに伴って様々な罵声と怒声が一気に悠斗に降りかかった。
「ふざけるな! 俺達に死ねっていうのか!」
「お前等はいつもそうだ!」
「どうせ死ぬなら、バッカスを殺してからだ!」
さらには石を投げ付ける者もいた。そのいくつかが悠斗に当ったが、悠斗はただジッと耐えた。
危険と判断したリューネが飛び出して止めようとしたが、その腕を信繁が掴んだ。
「ここは耐えだ。悠斗殿も耐えられている」
信繁の言葉にリューネは足を止めた。信繁が唇を噛み切っていたからである。
「……全軍聞け!」
降りかかる罵声と怒声に耳を傾けていた悠斗が一喝すると、ゆっくりと声は止んだ。
「……君達には帰る場所がある! それは、父であり、母であり、兄であり、弟であり、姉であり、妹であり、息子であり、娘であり、愛する妻であり、愛しい恋人であり、親しい友である。君達には、帰りを待ちわびる人が居る!」
悠斗は一歩、前に進んだ。
「君達は真なる兵に成って欲しいと、俺は思っている。真なる兵とは何か? 多数の敵兵を蹴散らす強い兵か? 違う! 死兵となって死を恐れず戦う兵か? それも違う!帰りを待ちわびる人の為、絶対に生き残る兵だ!」
更に一歩、前に進み出る。
「将に同行し、戦場へ、次なる戦場へ、また次なる戦場へ赴く兵こそ、真なる兵である。将の役目は、君達を全員一人も残さず帰りを待ちわびる人の元へ帰す事だ! 俺の指示に従い! 将の指示に従い! 帰りを待ちわびる人の為に戦え! 俺は、君達を一人として見捨てない!」
悠斗は手に持っていた棒で床を突いた。
「本国の連中の中には、王の為に、国の為に命を捧げろというほざく阿呆がいる! ふざけるな! 君達の命は君達の物だ! どのような汚名、どのような屈辱を受けようと、俺は君達を待ちわびる人の元へ帰す! バッカス大公爵に逆らう結果になってもだ! 私はここに全軍に対して厳命を下す! 生き残れ! 命令に逆らうな! そして、戦が終わり、家に帰った時、帰りを待ちわびる人を力一杯抱きしめろ! 策は既に我が手にある! しかし、これは誰一人として作戦遂行を遵守する事が前提である! どうするかは君達次第だ! 返答は如何!?」
静寂が続いた。
『……おお』
その声は徐々に大きくなった。
『うおおおおおおおおおおおおおお!』
一万三千人の歓声が響く。
それは地鳴りのようで。
雷雨に響く雷鳴のようで。
悠斗が明確にした事はたった二つである。
それは、生き残る事。
そして、国や王や権力者の為では無く、帰りを待つ人の為に戦う事。
殿は命を賭けて味方を逃がすのが役目である。だが、悠斗はそれを真っ向から否定した。命を賭けずに生き残れと断言したのである。
リューネは暫し呆然と、右拳を天高く突き上げる悠斗の背中を見つめた。
「……このためにバッカス大公爵の合流を阻止したのか」
アルトは驚愕した。それは、バッカス大公爵を受け入れて命令系統が混乱させないようにする。それはアルトも予想がついた。だが、まさかバッカス大公爵に悪役を押し付けるとは!
「……兵の目が……変わった」
フェニルが呟く。
「帰りを待ちわびる人の為に戦え……か」
エドガーは大きく息を吐き、悠斗を笑いながら見つめた。
「これより、我々はノートリアムから脱出する! しかし、逃走を続ける三万余の生き残り兵にも、帰りを待ちわびる者がいる! 故に、少しだけ時間を稼ぐ! 各部隊長は全ての兵に命令伝達を徹底せよ! 以上である! 解散!」
悠斗はそれだけ言うと、ゆっくりと壇上から去り、天幕に戻る。
「……諸将に命令する。これより、ノートリアム撤退作戦を実行に移す。命令内容は以前話した通りだ。今一度、尋ねる。誇りや面子如きの為に、敵に一矢報いようなどという者は居ないか? 居れば今すぐ出撃してくれ。ただし、一人で」
『………………』
リューネ、エドガー、フェニル、アルト、そして、信繁、ヒエン。誰も反論しなかった。一同の顔には笑みがあった。
「……さて、と。そろそろ……やせ我慢、止めていい? さっき、石をぶつけられた箇所が痛い」
悠斗が力尽きた様に情けない顔で座り込む。
「おいおい。軍師がそんな様子でどうする」
エドガーがゆっくりと悠斗に肩を貸す。
「帰りを待ちわびる人……か。そんな事を考えた事はなかった」
リューネが悠斗に言うと、悠斗はリューネを見つめる。
「リューネ。君は将だ。武人ではなく、武将で、武将とは命の預かるという事だ。その命とは、兵だけではない。その後ろに控える民の命も預かる事になる」
「あ、ああ。それは理解できる」
「戦そのものが極大の悪である。それを理解してくれ。人一人殺せば刑に罰せられるのに、なぜ、数万の人間を殺した奴が讃えられる。……大きな矛盾だ。だが、戦わなければ守れない物もある。それは覚えていてくれ」
悠斗はエドガーによって椅子に座らせられると、その右手に持つ棒で地図を指し示した。
「まず、第一手。……始めるぞ」
如月悠斗がこの世界に来て初めて、自ら練り上げた作戦の実行が始まった。
ハオル山の惨敗から、エーベルン将兵の士気は著しく低下していた。
寡兵の敵に惨敗しただけでは無く、元々何の為に戦うのか。戦争の目的が当初から個人の欲から発生しただけに、戦う必要性それ自体に疑問を持ち始めたのが原因だった。
個人の欲にしても、それが国王で絶対的な指導の元、征服などであればまだ士気も上がりもするが、ただ鉱山を手に入れるため、という小さな目的であるが故に、士気が上がり難いというのは必然と言えた。
この状況を打開すべく、バッカス大公爵は側近達、各下士官、アルト、エドガー、フェニル、リューネを集め、演説を始めた。
「諸君! 我等は何の為に遥々ここノートリアムに攻め入ったのか!? 国王陛下の領地を増やし、鉱山を手に入れ、エーベルンが千年王国となる礎の為である!」
……お前の都合だろ。
口には出さないが、下士官達はそろって同じ言葉を頭に浮かべた。
そもそも何故戦う必要性があるのか。遠征までして手に入れる必要性があるのか。
疑問は尽きない。
「愛国の勇士諸君達が獅子奮迅の働きをすれば、ノートリアムなど恐れぬに値せぬ! しかも、敵はノートリアムの王女、エイシア=レンダーク! 齢二十歳にも満たない小娘だ! 何を恐れる事があるだろうか!? 我等は五万、敵は増援が到着したとは言え、僅か三万五千という。ハオル山では、卑怯な敵の奇襲攻撃にて惜しくも敗れたが、未だに兵力は圧倒的である! 我等は敵陣にエーベルンの誇りと武威を持って攻め立て、ノートリアムの陣営を蹂躙する事、疑う余地が無い! 我等は必ず勝利するだろう!」
バッカス大公爵が高々と右手を上げると、天幕の者達は形だけではあったが、大きく叫びながら右手を上げた。
僅かでも理性と知識があれば、何を根拠に勝利できると言っているのか疑問に思う。
兵力が勝っているから勝てると叫ぶが、すでに寡兵の敵に惨敗していて何故それが根拠になるのか?
「我本隊はこれよりエーベルン軍へ攻める。先陣はノードン男爵! 先日の汚名を返上せよ!」
「はっ! 父上と国王陛下のご威光を轟かせてご覧に入れましょう!」
ノードン男爵は大袈裟に喜ぶと、バッカス大公爵に恭しく頭を下げる。
これで兵を見捨てて逃げ出した行為を帳消しにするつもりなのだろうが……。
「エドガー、フェニル、アルト、リューネの四名は後方にて待機。我等の凱旋を待て」
『はっ!』
四人の指揮官は同時に頭を下げた。
「いざ、決戦だ! 皆に神のご加護を!」
バッカス大公爵の号令の下、エーベルン軍は進撃を開始した。
一方の援軍が到着したノートリアム陣営は、勝利の余韻は微塵も無く、異常なまでの静けさであった。
兵士一人一人が、丹念に鎧や兜、剣や槍、弓と矢の手入れ。馬を黙々と丹念に世話する者も居れば、自らの武勇を高める為に訓練に励む者も居る。
それは、ただ一人の将軍が到着した直後、勝利の余韻に浸り、浮ついた将兵を怒鳴りつけたからである。その瞬間、ノートリアムの将兵から勝利の余韻は一瞬にして消え去り、次の戦いに向けて、各自準備を始めていた。
「……さて、姫様。言い訳を聞きましょう。簡潔に願います。三十文字以内で」
ノートリアム軍本営に到着早々、ノートリアム軍政及び軍監統括責任者にして、次席将軍ダルト=シャムシエルは、その鋭い眼差しで指揮官を見つめた。
ノートリアムが誇る四人の名将の内、一番大柄な男である。四十六になるノートリアムの『歩く秩序と規律』は、畏怖をもってエイシア以下、全将兵達を統括している。彼が部隊の視察に訪れる時、その部隊の兵士達は、指揮官に対して『葬送曲』を口笛で鳴らすとまで言われるほど厳しい。個人にここまで権限を与えられるのは稀である。しかし、一切の私心が無く、公平で知られる彼だからこそ、その信頼故に任じられている。だが、それだけが理由では無い。
「え? さ、三十文字!? えーと……。迎撃地点に出撃する時間が惜しかった、報告を忘れた、でも勝利した」
見事、二十九文字。しかし、ダルトの視線はさらに鋭くなった。
「時間が惜しかった? 私への報告を忘れる程? 姫は敵の襲来を聞くや否や、この三名を呼び出して出陣したと聞きましたが? ……勝利した? それは結果であって、そのような事どうでも構いませんな」
エイシアの言い訳をダルトはバッサリ切り捨てた。
「私を軍政及び、軍監統括責任者に任命されたのは陛下です。陛下の御意に従い、私は職務に忠実で有ったと自負しているのですが、姫様はどのような権限でそれを蔑ろにされるのか。お聞かせ願えませんか?」
「わ、悪かった。反省している」
「反省? ええ、大いに反省して頂きたい。ところで姫様? 軍律という物をご存知ですか?」
「も、勿論全て把握している」
「ほう? 把握している? 把握しているという事は、分かっていて独断出撃された……という事ですな? 勝手な独断行動は厳罰に処す。王族であろうが、貴族であろうが、法は法です。お覚悟は宜しいですかな?」
「……え、あ、いや、その……あ、兄上には一言、言ったぞ?」
エイシアは脂汗を流した。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
これが、彼が権限を与えられている理由。国王に対しても、上司に対しても、部下に対しても厳しく接する。諫言をして憚らぬのである。こういった人物は必要ではあるが、大抵嫌われ役に収まる。しかし、彼が厳しいのは規則に関してのみであり、やるべき事を全て実行した結果の失敗に対しては寛容で、度々庇う場面も多く、助けられた将兵も多い事も確かで、彼の人望が揺らぐ事は無い。
「はい。ウォルス国王陛下からは報告を受けております」
「な、ならば……」
エイシアは一瞬だけ安堵の表情を浮かべたが、すぐに恐怖で顔を歪ませた。それは、ダルトが物凄い眼光をエイシアに向けたからである。
「だからと言って、物事には手順があります。……それを逸脱して、何の為の軍律か!」
「は、はい!」
ダルトが一喝すると、エイシアは背筋を伸ばした。
「非常時であればあるほど、この手順が重要になるのです! 現在、西側の諸国とは小康状態ではありますが、もし、エーベルンに対して出撃した直後、彼等が動いていたら何とされる! 姫様は自ら危機をお招きなさるか!」
「そ、それは、私も考えて……」
「考えて? 考えるだけならそこらの兵でもできます! 仮にも、筆頭将軍である姫様は、誰よりも軍律に厳しく、ご自身を律しなければならないのです! これは、ノートリアム全兵へ対しての模範となります。しかし、その模範が軍律を破れば、軍律を破る兵士に対して、どのように罰するのですか!」
「た、確かに、手順を飛ばしたのは誤りであったが……」
「エイシア=レンダーク!」
「は、はい!」
「軍政及び軍監統括責任者、ダルト=シャムシエルが命ずる! 本来ならば斬首に処す所ではあるが、陛下からのご温情と、陛下には報告していた経緯を踏まえ、独断出撃とは見なさぬが、統括への未報告の罪により、腕立て伏せ二百五十回! リリア=ヨーク! 傍付きでありながら何故注意しなかった! よって同罪ながら主責任者ではないとし、腕立て伏せ二百回!」
「に、二百五十!?」
「わ、私もですか!?」
エイシアとリリアが素っ頓狂な声を挙げると、ダルトはテーブルを、バンッ。と、叩いた。
「……はやくしなされ……」
氷のような目でダルトは容赦無く言い放つ。
『一! 二! 三! 四! 五! 六…………』
エイシアとリリアは、本当にそれぞれ命じられた回数の腕立て伏せをした。途中、倒れそうなると、容赦なくダルトは休むなと叱責を浴びせかける。説教では無い為、時間は短いが……苦痛だ。以前は、陣幕の外で正座させられ、八時間にも及ぶ説教だったが……はたして苦痛なのはどちらなのだろうか?
ノートリアム陣営は、決戦前とは思えないいつもどおりの光景だった。
両軍が対峙したのは、ハオル山の前哨戦から五日後、朝の事である。
デヴォン地方のハオル山から少し離れた街道に両軍は展開した。ただ、この街道は狭く、ノートリアム陣営は、道幅が一番大きく広がっている部分を占有していた。
「……本気で攻めるつもりか」
馬上の人エイシアは、眉を吊り上げてエーベルン勢を見つめた。
「どうやら、敵は戦が下手得であるようですな。兵が哀れだ」
その横に並ぶカシェルが目を鋭くしながら言うと、エイシアも頷いて同意した。
「ならば、こちらは作戦通りに動けば良い。ここで、敵主力を撃破すれば、撤退するだろう」
「……追撃するのですか?」
リリアが尋ねると、エイシアは目を閉じた。そして、暫く黙考した後、再び目を開けた。
「いや……。すぐには追撃しない。敵の第五軍。一万余が後方に控えている。……勘……なのだが、どうも……嫌な予感がする」
「嫌な予感……ですか?」
カシェルが尋ねると、エイシアは首を傾げた。
「なんとなく……そんな気がするのだ。……何か、見透かされているかの様な気分だ。それに、輜重隊などの守備も合わせて一万というのは多すぎる。逆撃を狙っているのか……。それとも……。それにしても、後方待機にしては、余りにも距離が離れすぎている」
リリアとカシェルは驚きを禁じえなかった。今まで、エイシアが見せた事が無い、不安に満ちた表情を見せたからだ。
エイシアが一番迷っていた原因。それは、第五軍が、決戦場から遠く、通常の行軍速度にして一日は要する距離ほど離れていたからだ。
「では、敵が撤退すれば追撃せず、隊列を整えて追撃できる状態にする……で宜しいですかな?」
「いや、ある程度は実施する。が、第五軍に迫る事はしない。……追撃できなくとも、敵を撤退させれば、我等は最低限の役目を果たせる」
カシェルが進言し、エイシアはそれを了承した。
エーベルンは前衛にノードン男爵率いる騎馬部隊一万八千を集中させ、左右に歩兵部隊を展開。その後ろに弓兵部隊、計二万五千。最後尾にバッカス大公爵率いる重歩兵部隊二万という構成であった。
一方。ノートリアムは、中央前衛にカシェル将軍率いる歩兵部隊、弓兵部隊、計二万。その左右に、カイ将軍、デネール将軍率いる騎兵部隊、各五千。中心にエイシア率いる近衛騎兵部隊五千という構成であった。
両軍の対決はエーベルンの騎馬隊の突撃から開始された。
大地を揺るがすその勢いは怒声と共に、ノートリアム軍中央部に向かって突撃した。
ノートリアム中央軍はその勢いに飲まれたかのように、徐々にゆっくりと後退し始めた。
エーベルン騎兵部隊は、そのままノートリアム中央軍を蹂躙するかのように突撃したが、その瞬間に異変が起きた。
次々とエーベルンの中央軍の手前で落馬していったのである。それは、ノートリアムが自軍前面に張り巡らせた落とし穴と、前衛歩兵部隊が、地面の茂みに隠していた長槍による迎撃であった。
ある者は落とし穴に落ち、さらにその上に味方の馬が圧し掛かって押し潰され、またある者は、愛馬を槍で貫かれ、落馬した所を狙われた。
悲鳴と、怒号、苦痛による叫び、助命を請う嘆きが、戦場に満ち始めた。
ノードン男爵はここで進撃を停止させ、すぐさま後退すべきであった。
「何をしている! 突破だ! 突破しろ!」
指揮官であるノードン男爵の指示で、エーベルン騎兵は槍も罠も恐れず突き進んだ。だが、同じ結果を繰り返すばかりで、地面はエーベルンの軍馬と兵で埋め尽くされた。
突如、ノートリアム兵は大きな木製の橋のような物を運び出した、それを地面に倒れたエーベルン兵の上、罠の上に被せた。
「前衛歩兵! 突撃せよ!」
ダルトの号令と同時に、『橋』を渡り、罠を越えて完全に勢いをなくしたエーベルン騎兵部隊に襲い掛かった。
騎兵部隊の長所は、その機動力にある。足を止めた騎兵部隊など役に立たない。ノートリアム兵はエーベルン騎馬兵に襲い掛かり、次々と馬上から引き摺り下ろした。
「わ、私は一度後退する! お前達は突撃せよ!」
ノードン男爵は、またしても前線で必死に戦う者達を見捨てて、戦場から逃げ出した。
ここで宿将たるカシェルが絶妙な機会で号令を言い放った。
「前衛が崩れた! 弓兵! 左右歩兵に三連斉射! 続いて敵中軍後方を断続的に攻撃せよ! 味方の頭を越えよ!」
左右から空を覆う矢の雨が降り注いだ。と、同時に左右騎兵部隊が、エーベルンの両翼に突撃を開始した。
それを見たエイシアは鞘から剣を抜いた。
「カイに伝令! 作戦通り、中衛歩兵をすり抜け、敵本陣へ吶喊せよ! 私は敵左翼後方を片付ける! 続いてデネールに伝令! 敵右翼を撃破した後、敵後方を突き抜けろ! カシェル、中央軍の指揮はお前に一任する! ダルトと連携して負傷兵を回収せよ!」
エイシアが叫ぶと、伝令兵と、カシェルがそれぞれ頭を下げた。
「聞け! ノートリアムの勇士達よ! 我等が祖国を土足で踏みにじる、エーベルンの愚か者共に、義の鉄槌を与えよ! 我に続けぇええええええええ!」
エイシアが陣頭に立ち、ノートリアム近衛騎兵部隊は、中央から右翼を廻って猛然と突入を開始した。
一方のエーベルン本営は呆然の一言であった。
敵中央軍を撃破し、蹂躙すると確信していた騎兵部隊が、一瞬にして壊乱状態に陥り、左右の歩兵部隊が敵騎馬部隊に蹂躙されつつある。救援部隊を出撃させようにも、戦場が狭すぎて派兵しようにも、出来ない状態であった。
「防げ! 防げ! 敵を防げ! 何をしている!? 兵力は此方が勝っているのだ!」
バッカス大公爵は狂ったように叫んだ。
圧倒的兵力で蹂躙するつもりであったのに、現実はまるで逆で、此方が圧倒的に蹂躙されつつある。
「一度、前衛部隊に後退の合図を! 重歩兵部隊を横隊に前面に押し出せば、まだ前線を維持できます! 時間を稼いでその間に再編成を……」
すぐさま意見を取り上げて、バッカス大公爵は決断すべきであった。しかし、重歩兵部隊を前面に押し出すという事は、本陣である自らの守りを崩すという事だ。左右両翼が崩壊しつつあるこの状況で、いつ敵が突っ込んでくるか分からない。
「死守だ! 死守せよ! 左右両翼は後退する事、相成らぬ! 死守だ! 死守だ!」
バッカスが叫びはすぐさま打ち消された。それは、カイ率いる『鴉軍』が中央軍に吶喊したからである。
「ま、守れ! ワシを守れ! ワシが死んだらそこで負けぞ!? ワシは後退する!」
バッカス大公爵はすぐさま共廻りのみ引き連れて、戦場を離脱し始めた。
「逃げるのか! エーベルンの大将! この俺と戦え!」
カイが飛び込もうとするが、十数人の重装歩兵にたちまち囲まれた。
「邪魔するな!」
カイの刃が敵兵に次々と食い込むが、エーベルンの兵達は恐れず戦った。
その間、バッカス大公爵は戦場から離脱する事に成功した。
総大将、戦場離脱。
その報告はすぐさま戦場に知れ渡った。
「敵総指揮官はすでに戦場から逃げ出したぞ! 行け、かかれ! 敵を殲滅せよ!」
デネール将軍は自ら剣を振るいながら味方を鼓舞し、敵右翼を完全に突破してそのまま敵中央軍へ攻勢を掛け始めた。さらに、エイシア率いる近衛騎兵部隊が、敵左翼を突破して第二陣として中央軍へ攻勢をかけた。
ノートリアム将兵は、文字通り戦場の捨て子同然の状態に陥り、完全に軍隊としての機能が瓦解したエーベルン軍に猛然と襲い掛かった。
戦闘は僅か半日で決した。
まさに鎧袖一触。
再び大地はエーベルン兵の死体と大量の血で埋め尽くされた。
ノートリアムは死傷者三千余名、エーベルン軍は二万を超える死傷者であった。
エイシアは深追いを避け、軍勢を整える事に専念した。
この行為が、エーベルン第四軍の壊滅を免れた唯一の出来事であった。
エーベルン第四軍、壊走。
その報告はすぐさま第五軍のリューネ達に伝わった。報告が早かったのは、第四軍最後尾でコッソリ尾行していたアルトの手勢からによる報告であった。
「……たった一日も持たなかったか」
伝令兵を前に、悠斗は溜息と共に感想を述べた。
「はっ! ノードン男爵、バッカス大公爵はご存命。残兵を率いて、此方に向かっています」
悠斗はそこで眉を吊り上げて、リューネを見つめた。
「どうした、キサラギ」
「……指示、出していいか?」
「ん? ああ、構わないが……」
「バッカス大公爵に伝令。第五軍へ敵追撃が襲い掛かると予想されますので、大公爵は此方へ来られず、そのままエーベルンへ脱出されたし。第五軍は殿として……大公爵御身をお守り申し上げます……とか、なんか、適当におべっか使って、大公爵がここに来ないようにしてくれ。邪魔だから」
途中から悠斗は面倒になったのか、はっきり本音を言い放った。
その言葉に、エドガーはツボに嵌ったのか、大笑いした。
「は、はぁ……。分かりました。と、とにかく、大公爵が第五軍に合流しないよう、伝えればいいのですね?」
伝令兵も面食らったのか、首を傾げながら悠斗に確認した。
「頼んだ。……ああ、一つ言っておく。もし、合流された場合、第五軍が壊滅すると思ってくれ。これは極めて重要に任務だ。君の責任は重大だぞ? 何しろ一万三千人の命が掛かっている」
「は、はっ! わ、分かりました! 失礼します!」
伝令兵が急ぎ天幕から離れると、悠斗はもう一度溜息は吐いた。
「呆れすぎて、感想の一つも思い浮かばん」
吐き捨てるように悠斗が言い、アルトとフェニルがそれに同意した。
「……さて、思ったより早く準備が済んでよかった。此処から俺達の戦だ」
悠斗は改めて地図を見直した。
「敵の現在地は此処。追撃しなかったのは、恐らく俺達の存在が原因だろう」
「なぜ、我々が原因なのだ?」
リューネが尋ねると、悠斗は外を指し示した。
「一万の予備兵力が控えている。逆撃される可能性を考えたのだろう。敵の目的はあくまで、エーベルン軍の迎撃であって、殲滅では無い。もし、敵が侵略軍で、此方が防衛軍であれば、追撃しただろうがね。まぁ、都合の良い勘違いをしてくれた。と、言うべきか……。それとも、勝利の余韻に浸る事無く、目的だけを果たしたからなのか……」
後者であれば、見事の一言に尽きる。
悠斗は、追撃する事を予想して、敵予想追撃路の森近辺に、三千の弓兵部隊を伏兵として待機させていた。敵が調子に乗って深追いしようものならば、一撃離脱の予定だったのだが……どうやら空振りしたようだ。
実際には、アリシアの勘によって失敗したとは、悠斗の想像の斜め上であり、範疇にも入らなかったのは、神ならぬ人では知る由も無い。
「やるべき事は全て実行した。あとは、士気か」
悠斗が言うと、エドガーが一歩前に出た。
「士気を高めればいいのだろう? 俺がやってやるよ」
エドガーの言葉を、悠斗は首を横に振って拒絶した。
「ただ、高めるだけならお願いするが、高める事も重要だが、目的がちょっと違う。全ての兵士に……。いや、俺がする」
悠斗はゆっくりと椅子から立ち上がると、リューネ、エドガー、フェニル、アルトを順に見つめた。
「全軍を集めてくれ。ちょっと演説する」
「演説だと? お前が?」
リューネが尋ねると、悠斗はゆっくりと頷いた。
「そうだ。たった一つだけ明確にしなければ成らない事がある。これが、最後の一手となる。とにかく全て集めてくれ。末端の兵士に至るまで」
「ちょっと待て。俺はお前をまだ完全に信用した訳じゃない。お前の作戦に乗りはしたが、兵の鼓舞まで任せるつもりは無い」
エドガーは悠斗の正面に立って睨み付けた。
「信用しろとは言ってない。だが、この一手が最重要だ。だから、俺がやる」
悠斗はエドガーに対して睨み返すと、両者の間に緊迫した空気が流れた。
「………………」
エドガーの右肩に手を置き、振り返ったエドガーに対してゆっくりフェニルは首を振った。
「エドガー殿。我々はキサラギ殿の作戦を受け入れました。最後まで受け入れて見ませんか?」
そう言ったのはアルトだ。
「……ちっ。わーったよ! 任せればいいんだろうが! 任せれば!」
エドガーは舌打ちを鳴らして腕を組んでそっぽ向いた。
こうして、エーベルン第五軍一万三千、その悉く本営前に集結した。
本営の前には、リューネ、エドガー、フェニル、アルトが並び、その背後に信繁、ヒエンが控えた。
突然の集合命令に兵士達は動揺したのか、酷く冷静を欠いていた。
「…………全軍注目!」
用意された壇上の上で、悠斗は大きな声で叫んだ。
暫くして声が静まると、一万三千人の視線が悠斗に注がれた。
「俺の名はユウト=キサラギ。この第五軍の軍師である。軍師として諸君等へ命令する事、お許し願いたい」
注目の目は一気に疑惑の目に変わった。見た事も無い若い男が、いきなり軍師と言い放ったのだ。それは当然の反応と言えた。
「さて、諸君達は分かっているだろうか? エーベルンは敗北した。完全なる敗退である」
兵の間でざわめきが広がった。敗北を告げる指揮官など普通居ないからである。
「残存兵、負傷兵を含めた三万余が、今、エーベルン目指して退却している。そして、我々第五軍は殿を任された。つまり、エーベルン五万を易々と打ち破ったノートリアム軍三万五千の軍勢に対し、僅か一万三千でその追撃を防ぎ、自分が逃げる時間を作れ。それがバッカス大公爵の命令だ」
動揺は一気に広がった。怒りに伴って様々な罵声と怒声が一気に悠斗に降りかかった。
「ふざけるな! 俺達に死ねっていうのか!」
「お前等はいつもそうだ!」
「どうせ死ぬなら、バッカスを殺してからだ!」
さらには石を投げ付ける者もいた。そのいくつかが悠斗に当ったが、悠斗はただジッと耐えた。
危険と判断したリューネが飛び出して止めようとしたが、その腕を信繁が掴んだ。
「ここは耐えだ。悠斗殿も耐えられている」
信繁の言葉にリューネは足を止めた。信繁が唇を噛み切っていたからである。
「……全軍聞け!」
降りかかる罵声と怒声に耳を傾けていた悠斗が一喝すると、ゆっくりと声は止んだ。
「……君達には帰る場所がある! それは、父であり、母であり、兄であり、弟であり、姉であり、妹であり、息子であり、娘であり、愛する妻であり、愛しい恋人であり、親しい友である。君達には、帰りを待ちわびる人が居る!」
悠斗は一歩、前に進んだ。
「君達は真なる兵に成って欲しいと、俺は思っている。真なる兵とは何か? 多数の敵兵を蹴散らす強い兵か? 違う! 死兵となって死を恐れず戦う兵か? それも違う!帰りを待ちわびる人の為、絶対に生き残る兵だ!」
更に一歩、前に進み出る。
「将に同行し、戦場へ、次なる戦場へ、また次なる戦場へ赴く兵こそ、真なる兵である。将の役目は、君達を全員一人も残さず帰りを待ちわびる人の元へ帰す事だ! 俺の指示に従い! 将の指示に従い! 帰りを待ちわびる人の為に戦え! 俺は、君達を一人として見捨てない!」
悠斗は手に持っていた棒で床を突いた。
「本国の連中の中には、王の為に、国の為に命を捧げろというほざく阿呆がいる! ふざけるな! 君達の命は君達の物だ! どのような汚名、どのような屈辱を受けようと、俺は君達を待ちわびる人の元へ帰す! バッカス大公爵に逆らう結果になってもだ! 私はここに全軍に対して厳命を下す! 生き残れ! 命令に逆らうな! そして、戦が終わり、家に帰った時、帰りを待ちわびる人を力一杯抱きしめろ! 策は既に我が手にある! しかし、これは誰一人として作戦遂行を遵守する事が前提である! どうするかは君達次第だ! 返答は如何!?」
静寂が続いた。
『……おお』
その声は徐々に大きくなった。
『うおおおおおおおおおおおおおお!』
一万三千人の歓声が響く。
それは地鳴りのようで。
雷雨に響く雷鳴のようで。
悠斗が明確にした事はたった二つである。
それは、生き残る事。
そして、国や王や権力者の為では無く、帰りを待つ人の為に戦う事。
殿は命を賭けて味方を逃がすのが役目である。だが、悠斗はそれを真っ向から否定した。命を賭けずに生き残れと断言したのである。
リューネは暫し呆然と、右拳を天高く突き上げる悠斗の背中を見つめた。
「……このためにバッカス大公爵の合流を阻止したのか」
アルトは驚愕した。それは、バッカス大公爵を受け入れて命令系統が混乱させないようにする。それはアルトも予想がついた。だが、まさかバッカス大公爵に悪役を押し付けるとは!
「……兵の目が……変わった」
フェニルが呟く。
「帰りを待ちわびる人の為に戦え……か」
エドガーは大きく息を吐き、悠斗を笑いながら見つめた。
「これより、我々はノートリアムから脱出する! しかし、逃走を続ける三万余の生き残り兵にも、帰りを待ちわびる者がいる! 故に、少しだけ時間を稼ぐ! 各部隊長は全ての兵に命令伝達を徹底せよ! 以上である! 解散!」
悠斗はそれだけ言うと、ゆっくりと壇上から去り、天幕に戻る。
「……諸将に命令する。これより、ノートリアム撤退作戦を実行に移す。命令内容は以前話した通りだ。今一度、尋ねる。誇りや面子如きの為に、敵に一矢報いようなどという者は居ないか? 居れば今すぐ出撃してくれ。ただし、一人で」
『………………』
リューネ、エドガー、フェニル、アルト、そして、信繁、ヒエン。誰も反論しなかった。一同の顔には笑みがあった。
「……さて、と。そろそろ……やせ我慢、止めていい? さっき、石をぶつけられた箇所が痛い」
悠斗が力尽きた様に情けない顔で座り込む。
「おいおい。軍師がそんな様子でどうする」
エドガーがゆっくりと悠斗に肩を貸す。
「帰りを待ちわびる人……か。そんな事を考えた事はなかった」
リューネが悠斗に言うと、悠斗はリューネを見つめる。
「リューネ。君は将だ。武人ではなく、武将で、武将とは命の預かるという事だ。その命とは、兵だけではない。その後ろに控える民の命も預かる事になる」
「あ、ああ。それは理解できる」
「戦そのものが極大の悪である。それを理解してくれ。人一人殺せば刑に罰せられるのに、なぜ、数万の人間を殺した奴が讃えられる。……大きな矛盾だ。だが、戦わなければ守れない物もある。それは覚えていてくれ」
悠斗はエドガーによって椅子に座らせられると、その右手に持つ棒で地図を指し示した。
「まず、第一手。……始めるぞ」
如月悠斗がこの世界に来て初めて、自ら練り上げた作戦の実行が始まった。
後書き
作者:そえ |
投稿日:2010/03/27 17:15 更新日:2010/03/27 17:38 『アルバイト軍師!』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。 |
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