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作品ID:1992
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輪廻のセンタク

小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


前の話 目次 次の話

 心当たりがありすぎて、わたしは呆然と神様を見つめる。
「わたしは、猫に生まれる予定だったのですね。」
 肯定するように、沈黙ができた。
「……どうして。」
 気がついたら、神様の肩を揺さぶっていた。
「どうして、そんなことになったのです。どうして。どうして!」
 わたしが猫に生まれていれば、両親が苦しむことも、わたしが悩む必要もなかったのに! 
 泣きながら肩をゆすったり、拳で叩いたり。神様に対する礼節なんて捨て去っていた。それでも神様はなにも言い訳せず、「すまなかった。」とくり返した。
 泣きつかれて拳を下したとき、はたと気がついた。手が。
「猫になってる。」
 黒い毛並みと肉球が目の前にある頭を下げたままの神様も、大男に変わっていた。いや、わたしが小さくなったんだ。びっくりして飛びのくと猫らしい俊敏さでかなり後ろのほうまでふっとんだけれど、しりもちをついたのは人間の体で。
「痛い。」
「ここでは肉体は存在しないから、魂が本来の形をとる。お前はどちらの姿になればいいのか、魂が迷っているのだろう。」
 やっと顔を上げた神様は、どうしても目線が合わせられないのかうつむいていた。
「終わってしまったことを変えることは、わたしにもできない。だが、この先のことは別だ。猫に生まれるか、人間に生まれるか、お前が自由に決めればいい。わたしはその通りにお前の魂を振り分けよう。」
「……当然です。」
 わたしは憮然と言い放った。
「選択を任せてくれることには感謝します。だけど……だけど、わたしは、あなたを絶対に許しません。」
 またぼろぼろと涙がこぼれた。どうしても止まらなくてわんわん泣いている間、神様はじっと動かずにそこにいた。
 
 それから、どれだけの時間が経ったのだろう。
 ここには時間の感覚がない。ただ、神様が仕事をしている時とそうでないときが朝と夜のような時間の区分を担っていた。
 神様、なんてもう呼んでいない。カンさんというあだ名はわたしがつけた。こんな人を神様と呼ぶだなんて癪でしょうがなくて、最初の頃はずっと怒っていた。
 その怒りが収まって、冷静になって、あんなに怒ることもなかったかな、とちょっと反省したりもした。そのころにはカンさんと呼ぶのが当たり前になっていて、いまさら変えるのもなんだかな、と、そのままずるずると呼び続けている。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2018/05/15 12:33
更新日:2018/05/15 12:33
『輪廻のセンタク』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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