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作品ID:1996
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輪廻のセンタク

小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


前の話 目次 次の話

 わたしは新しい居場所で、カンさんの仕事場、魂の流れが徐々に遠のいていくのと、この間来た男の人の担当らしい川が近づいてきているのをぼんやりと眺めて過ごした。
 前にいたところよりも明るいと感じていたのは最初だけだ。このあたりはたまに輝く粉が舞い上がっているような気がしていたけれど、もしかしたら幻覚だったのかもしれない。そう話すと、カンさんはいつもより少し真面目な顔をして、「次に見ても、それには近づくなよ。」とわたしに釘をさした。
「どうして?」
「それは洗われた魂から零れ落ちたものだからな。汚れのようなものだ。触ってもいいことはない。」
「へえ。そうなんだ。」
 猫の姿だと追いかけたくてたまらなくなってしまうことは言わないでおこう。
 相変わらずのわたしたちを、たまに男の人が見に来た。わたしを見てはこれ見よがしにため息をつくその人のことはもちろん好きになれない。
 ふん、とそっぽを向いてカンさんの後ろに隠れる。
「愛想のない猫だ……。」
「こういうやつだ。ほっとけ。」
 確実にわたしに向けてではない言葉に、抗議の猫パンチを二、三発つっこんでおく。
 カンさんだって人のことは言えないはずだ。だって顔見知りがどんなに一方的に話そうと面倒そうに相づちを打つだけなんだもの。こういうやつだって言われても反論できないでしょう。
 いや、カンさんなら言葉を返すのも面倒だからとやらないに違いない。
 ふと思い出したように、男の人が手を叩く。
「そういえば、別の持ち場で迷魂が出たらしいぞ。」
「――いつだ。」
 珍しく、カンさんが興味を示した。
「それが、ずいぶんと前らしい。伝わるまでに相当時間がかかっているだろうから、もしかしたら消えてる頃合いじゃないか。」
「遠いのか。」
「さすがにここまで迷いこんだりはしないだろう。」
 ああ、また話についていけない。
 この二人が喋っていることは大体が仕事のことで、わたしにはさっぱり理解できない。退屈だからそのへんをぶらぶら歩きまわった。
「あまり遠くに行くなよ。」
「はあい。」
 わたしだって、怖くてカンさんの見えない場所には行けない。カンさんはわたしを見つけることなんて簡単だろうけど、わたしはカンさんを見つける自信がない。そもそも自分がどこにいるのかわからなくなるような空間で人を探せっていうほうが無茶な相談だ。
 しばらくぶらぶら歩いて、カンさんたちの姿がぼやけてきたら少し引き返して方向転換。円を描くように、あてもなく進む。
 このくらいの距離では、魂の位置が変わることもない。
 そのとき、どん、と何かにぶつかった。そんなことはカンさんが目の前にいる以外ありえなくて、わたしは叫び声と共に飛び退く。
 しっぽをピンと立ててそちらを見れば、きょとんとした目がこちらを見返してきた。
「……ねこだ。」
「……ひと、だ。」
 保育園に通っているぐらいの男の子。その姿はどこか輪郭があいまいで、体のいたるところが黒ずんでいる。
 普通のケガじゃないことはすぐにわかった。
 黒ずんだ部分はまるでひび割れのように皮膚が割れているけれど、血は一滴も流れていない。
 この空間で魂の形をしていないだけでもこの子が普通じゃないってことはわたしでも理解できる。
「こんなところで何してるの?」
 男の子は首を傾げた。
「わかんない。」
 今度は逆に質問されてしまった。
「ねえ、なんで猫なのにおしゃべりできるの?」
「――それは。」
 ふっと一歩踏み出すと、目線が変わった。男の子が目を見開いて、わっと声をあげる。
「ああ、ごめんね。びっくりしたね。」
 わたしがなだめてもおびえたようにこちらを見るばかり。ここ最近は姿の変わり目をなんとなくわかるようになってきたのだけれど、まだ読みが甘いなあ。
 そんなことを考えていたら、男の子がだっと走り出した。わたしから離れるように、魂の廻りとも離れるように、暗闇にゆらゆらと消えていく。
 わたしは後ろを振り返った。これ以上離れるとカンさんが見えなくなってしまう。
 仕方ない。とりあえずカンさんに報告しに行こう。
 人の姿のまま、走ってカンさんのところに戻る。いつの間にやら男の人はいなくなっていた。
「カンさん!」
「――なんだ。」
 声をかけると、寝ころんでいたカンさんがけだるげにこちらを向く。そして、いつにない速さで起き上がった。
「カンさんあのね、さっきそこで――。」
「なにがあった!?」
 それを説明しようとしていたのに、という文句は飲みこんだ。あまりにもカンさんの剣幕がすごかったから。
 勢いのままに立ち上がったカンさんが、わたしの腕をとる。突然二の腕をつかまれたわたしは、自分を見て言葉を失った。
 痛みがなかったから、気がつかなかった。
「……なんで。」
 ぞわり、と背中を嫌なものが駆けぬける。
 絶句しているわたしたちは、わたしの服から見えている手足に這う無数の黒いひび割れを、ただただ見下ろしていた。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2018/05/24 00:26
更新日:2018/05/24 00:26
『輪廻のセンタク』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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作品ID:1996
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