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ローバス戦記
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前書き・紹介
第五話 ハイム前夜
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ローバス歴二四五年十二月十日。
雪の神が全てを支配しているかのように、ハイム平原は一面雪で覆われていた。そして、ローバス王国西方における重要な戦略上の拠点である。
ローバス軍は陣を構え、ローバス軍首脳部が集った軍議が開かれた。
シュラー王、アリシア皇女、レン大将軍、ノース副将軍。ローバス十将軍であるカルドロ将軍、リーバイラ将軍、バストーン将軍、エッカ将軍、ベルドバ将軍、グリュード将軍が集った。
最も、アリシア皇女は部屋の隅で見学という形であるが……。
この場に集えなかった十将軍の内、ガドウェン将軍、ウェーマン将軍は王都セレウキアの守備、フィルガリア将軍はローバス南東部の守備の為、アフワーズ城にそれぞれ就いており、ハルドー将軍は外交と武者修行の為に、遥か東、絹の国へ旅立っている。
ホルスはただの護衛である為、参加する事はなかった。
「では、まずどのように戦うか決めよう」
シュラーがまず第一声を言うと、レンが前に進み出た。
「この戦いは短期で終わらせる。一つ、季節は冬であり、将兵にとって辛く、輸送にも士気にも影響する。二つ、シール王国は動けないが、他の周辺諸国の動きが無いとは限らない。三つ、我が軍は敵の兵力を圧倒している。四つ、大兵力ゆえに、長期戦となれば食料問題が発生する。以上、四つの点から短期決戦が良いと考えます」
レンが言うと、シュラーは頷いた。
「陛下。我が軍は三十万の兵力があります。しかし、敵の兵力は推定十万とまでしか掴めていません。今は、すぐには動かず、まず、偵察により敵の戦力を把握する事が肝要と考えます」
グリュードが立ち上がって言うと、向かいの席にいたベルドバ将軍は笑った。
顎鬚を蓄え、尚武のローバス王国将軍とは思えない小太りの男だ。彼は名門中の名門クルダス家の当主であり、宰相にして王弟であるガーグに重用され、ガーグの推薦でシュラー王にも重用されている。ただ、自らの武勲で将軍になった他の十将軍達からは忌避されている。
「グリュード卿、それは少々臆病というものだ。敵は推定十万。これは多く見積っての話だ。こちらは三十万。例え策略があっても、力で粉砕すればよい。それに、偵察はすでに済ませておる」
ベルドバは立ち上がって地図を指し示した。
「我が軍の正面に敵は陣を構えております。敵は騎兵一万から三万。歩兵六万から八万。増員した恐れはありますが、多く見積っても二万です。陛下、ここは一気に敵を撃滅するのが宜しかろうかと」
「ベルドバ卿の偵察か正しいかどうか分かりませんが、ここはどうか御再考を! 悪戯に兵を失う必要がありますでしょうか」
グリュードがさらに言うと、レンが声をあげた。
「グリュード卿の言う事も一理ある。だが、慎重し過ぎて敵に遅れをとり、先手を打たれることはあってはならん。陛下、ここは兵力を分け、この私に別働隊を率いる事をお許し下さい」
「レン、何か策があるのか?」
シュラー王が言うと、レンは頷いた。
「我が直属部隊一万騎と歩兵二万五千を率いて、ノースと共に敵の左背後を突きます。敵の兵力が多かろうが、前面と後背を突けば敵は脆くも崩れ去れましょう。さらに、有事に備え、ベルドバ卿に騎兵一万を率いさせ、待機させます」
「レン見事である!」
シュラーが叫ぶと、レンは恭しく一礼した。
「グリュード卿、そちには名誉ある先陣を申し付ける。騎兵三千を率いて全軍の先頭に立て。諸将も勇敢なる戦いを期待する。明朝、夜明けと共に作戦を開始する」
シュラーの号令の下、ローバスに名だたる勇将達はシュラー王に一礼した。
夜、まぶしいほどの膨大な松明の光の下、ホルスはアリシア皇女護衛の為、アリシアのテント前にある木に背中を預けて休んでいた。
テント内では、同性であるティアが警護している。
「四千の精鋭騎兵と、護衛の近衛騎士一人と紅蓮騎士一人の二人」
ホルスは独り言のように言うと、目の前に広がるローバスの大軍勢を眺めた。
騎兵十万、歩兵二十万。実にローバス全軍の三分の二の戦力が集結している。
ホルスは頭の中で実際に戦場で動ける戦力を弾いた。
近衛騎士団五千騎は国王の傍にいる。アリシア皇女率いる四千騎の精鋭も動かないだろう。伝令騎兵部隊が千騎。後方の食料庫の守備に歩兵三万、騎兵一万。レン大将軍が率いる別働隊が騎兵一万と歩兵二万五千。ベルドバ将軍が率いる予備の騎兵一万。
前面で戦えるのは騎兵六万、歩兵十四万五千。
約二十万の兵力だ。それでも当初より敵の倍の兵力で戦う事になる。
「何を考えているのですか?」
ホルスが考えに耽っていると、いつの間にかアリシア皇女が隣に座って顔を眺めていた。アリシアの背後にはティアの姿もあった。
「皇女殿下、外は寒いです。どうぞテントの中でお休み下さい」
ホルスは立ち上がってアリシアに一礼して、テントに戻るように言った。
「私は大丈夫です。戦前の緊張でしょうか? 少し、眠れないのです」
アリシアはローブを身体にかけ直すと、ホルスを見つめた。
「それより、ホルス。あなたに尋ねたい事があります。神聖ロンダリウス帝国とはどのような国なのですか?」
「…………私もおおそよしか分かりませんが、それでも宜しいですか?」
ホルスが言うと、アリシアは頷いた。ティアも興味があるのだろう、耳を傾けている。
「神聖ロンダリウス帝国は、宗教国家というべきでしょう。彼らは唯一の神を信じています。彼らが行うのは正義の施行であり、行う事は全て正しい行いであり、それに反抗する者、敵対し、逆らう者は全て神に逆らう悪の手先です。彼らは逆らう者に対して一切容赦しません」
「神は一人しかいないのですか?彼らの国には」
「ええ、そのようです。異教徒である我らは悪の手先のようです」
「誰が決めたのですか?神が一人だと」
「……さて、誰でしょうな?ともかく、彼らには神の類は一人しかいません。逆らう者はすべて悪。それに関する物全てです。文化の否定とも言うのでしょうか?」
「逆らった国、人々はどうなります?」
「……十五年前、西方にノルシア王国というのがありました。ノルシア王国は我がローバスと同じく多神の国でしたが、宗教の自由を認めていました。国王も良い治世敷き、豊かな国だったと聞いています。彼らがそんなノルシア王国に行った処置は……」
ホルスはそこで言葉を区切った。少し間をおいた後、ホルスは口を開いた。
「……虐殺です」
「っ!」
「ノルシアでは老若男女問わずに虐殺が行われました。ノルシア王国は当初、外交により、降伏して統合される道を選んでおりました。しかし、彼らはそれを拒否し、神に逆らう悪の国として断罪。一方的に侵攻したのです。攻め込まれた村々、町、都市では死体が積み上げられ、女は犯され、子供は火に投げ込まれ、赤子は槍で串刺しにされました」
「そのような事、許されることでは!」
「彼らは、平和を築き、平穏の世を施行する正義の国なのです。悪を断罪し、平和を脅かす悪の手先を殺しただけです。何が許されないのです? 平和を乱す悪を一掃し、平和を築き上げる事に一体何を疑問に考えるのです」
ホルスの狂信めいた言葉にアリシアもティアでさえ、言葉を失った。
「…………彼らは、このローバスでも同じような事をするつもりなのですね」
しばらく重い空気が流れた後、アリシアが声を絞り出すように言った。
「恐らくそうでしょうな」
ホルスは淡々と言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、冷えてきました。皇女は体調を崩さないよう、テントの中でお休み下さい。明朝、戦いが始まります」
「……ええ、分かりました」
アリシアは力なく立ち上がると、自分のテントへ戻って行った。
「皇女殿下の傍にいなくていいのか?」
ホルスが言うとほぼ同時にティアの剣の刃がホルスの首に当てられた。
「貴様、何度この私に言わせる? 無礼者め……!貴様などに何故皇女殿下の護衛なぞ!貴様がどれほどの腕前か知らぬが、姑息な手段でも使って敵を屠ったのであろう」
「……言いたいのはそれだけか?」
ホルスは小さくあくびを噛み殺してティアを睨み付けた。
一触即発の空気が流れたが、それも長くは続かなかった。
「ホルス!ティア殿、そこまでだ」
二人の背後から声を掛けたのはグリュードである。
「…グリュード」
「グリュード卿、何故ここへ?」
二人が言うと、グリュードは肩をすくめた。
「俺が親友の為に毛布を持って来ては駄目か?」
グリュードは手に持っていた毛布をホルスに投げ渡した。
「……ああ、すまない。グリュード」
ホルスは少し驚きを隠せなかった。
怒っている。
グリュードは基本的に誰にでも優しく、滅多な事が無い限り怒る事は無い。そのグリュードが今、怒っている。
「明朝、戦が始まる。戦いを始める前に味方同士で殺し合いをするつもりか?それも、皇女殿下の護衛同士が」
「あ、いや、……そ、そんなつもりはないさ。俺はただ」
グリュードはホルスを無視してティアに向きあった。
「ティア殿」
「は、はい。……グリュード卿」
「ホルスは知っての通り、平民出身だ。その為、儀礼的な事は何も知らない。戦場で数多くの敵を屠り続け、今の地位にいる。この私もホルスに何度か命を救われた事がある。ホルスを信頼していただきたい。ホルスはローバス屈指の勇者です。この私でも一対一ではまず勝てないでしょう。彼を侮辱するのはこの私にツバは吐きかけると同じだと御理解下さい」
グリュードはそれだけ言うと、その場をさっさと立ち去った。
暫く呆気に取られていた二人だったが、ホルスが毛布を被って横になると、ティアもアリシアのテントに戻って行った。
夜は深く、より闇を深くし、寒さに耐えながらローバス将兵は朝を待った。
雪の神が全てを支配しているかのように、ハイム平原は一面雪で覆われていた。そして、ローバス王国西方における重要な戦略上の拠点である。
ローバス軍は陣を構え、ローバス軍首脳部が集った軍議が開かれた。
シュラー王、アリシア皇女、レン大将軍、ノース副将軍。ローバス十将軍であるカルドロ将軍、リーバイラ将軍、バストーン将軍、エッカ将軍、ベルドバ将軍、グリュード将軍が集った。
最も、アリシア皇女は部屋の隅で見学という形であるが……。
この場に集えなかった十将軍の内、ガドウェン将軍、ウェーマン将軍は王都セレウキアの守備、フィルガリア将軍はローバス南東部の守備の為、アフワーズ城にそれぞれ就いており、ハルドー将軍は外交と武者修行の為に、遥か東、絹の国へ旅立っている。
ホルスはただの護衛である為、参加する事はなかった。
「では、まずどのように戦うか決めよう」
シュラーがまず第一声を言うと、レンが前に進み出た。
「この戦いは短期で終わらせる。一つ、季節は冬であり、将兵にとって辛く、輸送にも士気にも影響する。二つ、シール王国は動けないが、他の周辺諸国の動きが無いとは限らない。三つ、我が軍は敵の兵力を圧倒している。四つ、大兵力ゆえに、長期戦となれば食料問題が発生する。以上、四つの点から短期決戦が良いと考えます」
レンが言うと、シュラーは頷いた。
「陛下。我が軍は三十万の兵力があります。しかし、敵の兵力は推定十万とまでしか掴めていません。今は、すぐには動かず、まず、偵察により敵の戦力を把握する事が肝要と考えます」
グリュードが立ち上がって言うと、向かいの席にいたベルドバ将軍は笑った。
顎鬚を蓄え、尚武のローバス王国将軍とは思えない小太りの男だ。彼は名門中の名門クルダス家の当主であり、宰相にして王弟であるガーグに重用され、ガーグの推薦でシュラー王にも重用されている。ただ、自らの武勲で将軍になった他の十将軍達からは忌避されている。
「グリュード卿、それは少々臆病というものだ。敵は推定十万。これは多く見積っての話だ。こちらは三十万。例え策略があっても、力で粉砕すればよい。それに、偵察はすでに済ませておる」
ベルドバは立ち上がって地図を指し示した。
「我が軍の正面に敵は陣を構えております。敵は騎兵一万から三万。歩兵六万から八万。増員した恐れはありますが、多く見積っても二万です。陛下、ここは一気に敵を撃滅するのが宜しかろうかと」
「ベルドバ卿の偵察か正しいかどうか分かりませんが、ここはどうか御再考を! 悪戯に兵を失う必要がありますでしょうか」
グリュードがさらに言うと、レンが声をあげた。
「グリュード卿の言う事も一理ある。だが、慎重し過ぎて敵に遅れをとり、先手を打たれることはあってはならん。陛下、ここは兵力を分け、この私に別働隊を率いる事をお許し下さい」
「レン、何か策があるのか?」
シュラー王が言うと、レンは頷いた。
「我が直属部隊一万騎と歩兵二万五千を率いて、ノースと共に敵の左背後を突きます。敵の兵力が多かろうが、前面と後背を突けば敵は脆くも崩れ去れましょう。さらに、有事に備え、ベルドバ卿に騎兵一万を率いさせ、待機させます」
「レン見事である!」
シュラーが叫ぶと、レンは恭しく一礼した。
「グリュード卿、そちには名誉ある先陣を申し付ける。騎兵三千を率いて全軍の先頭に立て。諸将も勇敢なる戦いを期待する。明朝、夜明けと共に作戦を開始する」
シュラーの号令の下、ローバスに名だたる勇将達はシュラー王に一礼した。
夜、まぶしいほどの膨大な松明の光の下、ホルスはアリシア皇女護衛の為、アリシアのテント前にある木に背中を預けて休んでいた。
テント内では、同性であるティアが警護している。
「四千の精鋭騎兵と、護衛の近衛騎士一人と紅蓮騎士一人の二人」
ホルスは独り言のように言うと、目の前に広がるローバスの大軍勢を眺めた。
騎兵十万、歩兵二十万。実にローバス全軍の三分の二の戦力が集結している。
ホルスは頭の中で実際に戦場で動ける戦力を弾いた。
近衛騎士団五千騎は国王の傍にいる。アリシア皇女率いる四千騎の精鋭も動かないだろう。伝令騎兵部隊が千騎。後方の食料庫の守備に歩兵三万、騎兵一万。レン大将軍が率いる別働隊が騎兵一万と歩兵二万五千。ベルドバ将軍が率いる予備の騎兵一万。
前面で戦えるのは騎兵六万、歩兵十四万五千。
約二十万の兵力だ。それでも当初より敵の倍の兵力で戦う事になる。
「何を考えているのですか?」
ホルスが考えに耽っていると、いつの間にかアリシア皇女が隣に座って顔を眺めていた。アリシアの背後にはティアの姿もあった。
「皇女殿下、外は寒いです。どうぞテントの中でお休み下さい」
ホルスは立ち上がってアリシアに一礼して、テントに戻るように言った。
「私は大丈夫です。戦前の緊張でしょうか? 少し、眠れないのです」
アリシアはローブを身体にかけ直すと、ホルスを見つめた。
「それより、ホルス。あなたに尋ねたい事があります。神聖ロンダリウス帝国とはどのような国なのですか?」
「…………私もおおそよしか分かりませんが、それでも宜しいですか?」
ホルスが言うと、アリシアは頷いた。ティアも興味があるのだろう、耳を傾けている。
「神聖ロンダリウス帝国は、宗教国家というべきでしょう。彼らは唯一の神を信じています。彼らが行うのは正義の施行であり、行う事は全て正しい行いであり、それに反抗する者、敵対し、逆らう者は全て神に逆らう悪の手先です。彼らは逆らう者に対して一切容赦しません」
「神は一人しかいないのですか?彼らの国には」
「ええ、そのようです。異教徒である我らは悪の手先のようです」
「誰が決めたのですか?神が一人だと」
「……さて、誰でしょうな?ともかく、彼らには神の類は一人しかいません。逆らう者はすべて悪。それに関する物全てです。文化の否定とも言うのでしょうか?」
「逆らった国、人々はどうなります?」
「……十五年前、西方にノルシア王国というのがありました。ノルシア王国は我がローバスと同じく多神の国でしたが、宗教の自由を認めていました。国王も良い治世敷き、豊かな国だったと聞いています。彼らがそんなノルシア王国に行った処置は……」
ホルスはそこで言葉を区切った。少し間をおいた後、ホルスは口を開いた。
「……虐殺です」
「っ!」
「ノルシアでは老若男女問わずに虐殺が行われました。ノルシア王国は当初、外交により、降伏して統合される道を選んでおりました。しかし、彼らはそれを拒否し、神に逆らう悪の国として断罪。一方的に侵攻したのです。攻め込まれた村々、町、都市では死体が積み上げられ、女は犯され、子供は火に投げ込まれ、赤子は槍で串刺しにされました」
「そのような事、許されることでは!」
「彼らは、平和を築き、平穏の世を施行する正義の国なのです。悪を断罪し、平和を脅かす悪の手先を殺しただけです。何が許されないのです? 平和を乱す悪を一掃し、平和を築き上げる事に一体何を疑問に考えるのです」
ホルスの狂信めいた言葉にアリシアもティアでさえ、言葉を失った。
「…………彼らは、このローバスでも同じような事をするつもりなのですね」
しばらく重い空気が流れた後、アリシアが声を絞り出すように言った。
「恐らくそうでしょうな」
ホルスは淡々と言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、冷えてきました。皇女は体調を崩さないよう、テントの中でお休み下さい。明朝、戦いが始まります」
「……ええ、分かりました」
アリシアは力なく立ち上がると、自分のテントへ戻って行った。
「皇女殿下の傍にいなくていいのか?」
ホルスが言うとほぼ同時にティアの剣の刃がホルスの首に当てられた。
「貴様、何度この私に言わせる? 無礼者め……!貴様などに何故皇女殿下の護衛なぞ!貴様がどれほどの腕前か知らぬが、姑息な手段でも使って敵を屠ったのであろう」
「……言いたいのはそれだけか?」
ホルスは小さくあくびを噛み殺してティアを睨み付けた。
一触即発の空気が流れたが、それも長くは続かなかった。
「ホルス!ティア殿、そこまでだ」
二人の背後から声を掛けたのはグリュードである。
「…グリュード」
「グリュード卿、何故ここへ?」
二人が言うと、グリュードは肩をすくめた。
「俺が親友の為に毛布を持って来ては駄目か?」
グリュードは手に持っていた毛布をホルスに投げ渡した。
「……ああ、すまない。グリュード」
ホルスは少し驚きを隠せなかった。
怒っている。
グリュードは基本的に誰にでも優しく、滅多な事が無い限り怒る事は無い。そのグリュードが今、怒っている。
「明朝、戦が始まる。戦いを始める前に味方同士で殺し合いをするつもりか?それも、皇女殿下の護衛同士が」
「あ、いや、……そ、そんなつもりはないさ。俺はただ」
グリュードはホルスを無視してティアに向きあった。
「ティア殿」
「は、はい。……グリュード卿」
「ホルスは知っての通り、平民出身だ。その為、儀礼的な事は何も知らない。戦場で数多くの敵を屠り続け、今の地位にいる。この私もホルスに何度か命を救われた事がある。ホルスを信頼していただきたい。ホルスはローバス屈指の勇者です。この私でも一対一ではまず勝てないでしょう。彼を侮辱するのはこの私にツバは吐きかけると同じだと御理解下さい」
グリュードはそれだけ言うと、その場をさっさと立ち去った。
暫く呆気に取られていた二人だったが、ホルスが毛布を被って横になると、ティアもアリシアのテントに戻って行った。
夜は深く、より闇を深くし、寒さに耐えながらローバス将兵は朝を待った。
後書き
作者:そえ |
投稿日:2009/12/06 20:48 更新日:2009/12/12 20:52 『ローバス戦記』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。 |
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