作品ID:2037
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セブンスナイト ―少年騎士の英雄記―
小説の属性:ライトノベル / 異世界ファンタジー / 批評希望 / 初投稿・初心者 / R-15 / 連載中
前書き・紹介
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その瞳に宿すのは
前の話 | 目次 | 次の話 |
「おぉ! ブランドンさんが帰ってきたぞッ!」
『赤の騎士』であるブランドンが住まう街……エレノア。
その正門へと近づく馬車を見つけた衛兵は、誰が従者席に座っているのかを見て歓喜の声を上げた。
禍族や魔族と戦う正義の味方、『騎士』が帰ってきたのだから喜ぶのも仕方がない。
けれどきっと、街の衛兵さえもが喜ぶのはそれだけが理由ではないのだろう。
「おうガジルさん、今帰ったぜ!! お勤めご苦労さん!」
「いえブランドンさんこそ、お疲れ様でした!」
ブランドンは白く眩い笑みを浮かべ、温かみのある声と喋り方で衛兵を労う。
一つ一つの言動や行動だけで、街の人々から圧倒的信頼を得ていることは想像に難くなかった。
誰だって英雄が話しやすく取っつき易い存在だったら嬉しいものである。
「その方たちが新しく成った『騎士』とそのご友人ですか?」
不意に言葉を振られ、ウィリアムとエンテはびっくりして言葉を詰まらせながらも頷く。
そうですかと明るく温かい笑みで受け入れられ、どうしようもなく恥ずかしくなってしまう二人。
「では『騎士』の方たちとそのご友人をいつまでも待たせては申し訳ないので、どうぞ通ってください」
「良いのか、そんなんじゃ衛兵失格だぞ?」
「そんなこと言うんならブランドンさんだけ通しませんよ?」
げっと顔を急に歪めるブランドンに、衛兵はニヤついた顔で言葉を続けた。
「良いんですか? 愛しのご家族に会われなくて」
「ぐ、ぐぐぐ……。すまん。お前は衛兵の鏡だ、今後も続けてくれ」
「えぇ、ブランドンさんの頼みなら喜んで」
一連の流れを見ながらウィリアムとエンテの二人は思う。
あぁ、こんな性格の人だからこそ誰もが接しやすく、すぐさま受け入れられるのだと。
(自分が『騎士』だと驕らない……素晴らしい人格者だな、ウィリアムよ)
(俺も見習わないと)
今まで見た『騎士』の中で/とは言っても『赤』と『青』だけだが/ブランドンが一番の人格者のようにウィリアムは感じた。
ライアンも十二分に人格者ではあるが、彼はどちらかというと“上に立つ者として”の人格者だろう。
それとは別に、“下の者が接しやすい”という人格者がブランドンなのである。
「すまんが、お前ら降りてくれ」
「……? どうしたんですか?」
内心でバラムと決意を固めていたウィリアムは、ブランドンの言葉で我に返った。
どうやら降りてほしいらしいが、どうしてだろうかと首を傾げる。
意味も解らず降りたウィリアムとエンテに、衛兵が軽く頭を下げながら説明を行い始めた。
「すみません、ですが先日の町を禍族が襲撃した件で――」
「――かなり急いでたからな、馬車が壊れてないか確かめるそうだ」
「そういえばすぐ来てくれたもんな、ブランドンのおっさん」
ウィリアムは戦闘後すぐに気を失って知らないが、エンテには禍族が倒されて一時間後にはブランドンは到着していた記憶がある。
早馬を使い潰してもそんな早く到着するはずもないのだが、そこは『赤の騎士』の力で無理していたらしい。
「馬に方角だけ指示して、俺は後ろで火吹かしてたからなぁ」
「よく馬車壊れませんでしたね……」
当然、早馬だけでは間に合わない為ブランドン自身がファルガを展開し火を逆噴火していたらしい。
それによって馬の負担も減るし、速度もかなり早くなるがよくそれで馬車が壊れなかったなと溜め息をついてしまうウィリアム。
「ま、壊れるリスクがあったがそれ以上に人の命の方が大事だからな」
「――――」
ブランドンが使う馬車はかなり速度を重視している為、その分だけかなり金がかかっているはずだ。
下手をすれば人の命よりも。
けれど、それを知ったうえで彼は助けると言う。
(目標はデカい……か)
目の前の人こそが、ウィリアムやエンテが目指すべき背中なのだと再確認する。
「じゃあこの馬車と馬のことはこちらで」
「あぁ、頼むぜガジル」
ガジルと呼ばれた青年は「えぇ」と微笑んで頷き、街へと入る三人に向けて手を振って見送った。
「あらブランドンさん、お帰りなさい」
「おう、マーシャのおばさんも元気通りで安心したわ!」
「ブランドンのおじちゃん、また今度お話聞かせてよっ!」
「お兄さんだろォ! だが良いぜ、坊主。今回もいい話が転がり込んできたからな!」
「おぅブランドン! 今日は良い鹿が取れたんだ、また分けてやるよ!」
「いつもありがとなゼンの旦那! 後で取りに行くぜ」
大通りをブランドンが歩くだけで、その街は一気に盛んになる。
あまりの騒ぎに今日は何かの祭りではないかと思えるほど、人々はブランドンに話しかけていた。
(これは、すごいな)
予想以上のブランドンの人気っぷりに、ウィリアムたちは感嘆のため息をしか出ない。
まるで街全てがブランドンの帰りを喜んでいるかのように脈動している。
その中でウィリアムたち二人は借りてきた猫のように体を硬直させながらブランドンの背中を追う。
いつまで続くのだろうかと周りを見ていたら、不意に声が止んだ。
ブランドンが大通りを抜け住宅街に入った瞬間に声が消え去ったのである。
「びっくりしただろ? 二人とも」
「はい、すごく」
「そりゃびっくりしたけど、なんでいきなり静かになったんだ?」
当然のエンテの問いにブランドンは顔を苦笑で歪めた。
「さすがに住宅街まで騒いでたら迷惑だろ、そこらへんはちゃんと考えてくれてんのさ」
「……良い人たちですね」
住宅街まで行けば、病に倒れている人も居るだろうし夜間の労働に疲れ今も寝ている人がいるだろう。
起こしてしまっては不味いと街の人が遠慮しているそうだ。
正直そこまで関係が完成されていると、流石のウィリアムたちも驚きを越えて無感情になってしまいそうになる。
「ま、いい奴らだけどそれは置いといて――」
ブランドンは大きく伸びをすると、ウィリアムたちに半身で振り向き奥を指し示した。
大きな背中で隠れていた通路の奥には、周りより一回り大きな家が建っている。
屋敷ほどには大きくなく、普通の家ほど小さくも無い家。
「――ようこそ、これが俺の家だ。上がってってくれ」
これが、『赤の騎士』ブランドンの家だったのだ。
「今帰ったグフッ!」
「お帰りーー!!」
正面玄関の扉を、頬を緩ませてブランドンが開けた瞬間に何か小さな物体が腹に直撃するのを、後ろの二人は確認する。
高い声で叫びながらブランドンの腹に突撃したのは、小さな少女だった。
「あらあらお帰りなさい、貴方」
「おう、ただいまネリア」
騒ぎを聞きつけて、家の奥から顔を出したのは雰囲気柔らかそうな女性。
美人でもなく非常に可愛いこともなく、それでも暖かな雰囲気を漂わせる彼女の笑みにブランドンは頬を緩ませた。
確認するまでも無く分かる、彼女がブランドンの妻なのだと。
「パパ、ラネにはー?」
「お、悪い悪い。ラネ、ただいま」
「おかえりー!」
強く強くブランドンの体を抱きしめて、ラネと呼ばれた幼い少女は柔らかな顔を満面の笑みで描く。
暖かな雰囲気を持つ妻と、明るい雰囲気を持つ娘に迎えられるブランドン。
(“家族”、か)
(うむ、良いものだな)
(……あぁ)
きっと、本来の家族とはこういうものなのだろうとウィリアムは思う。
暖かくて諸手を上げて安心できる……そんな居場所なのだと。
「っと、紹介が遅れた。ネリア、ラネ、今日はお客さんがいるんだ」
「おきゃくさんー?」
ウィリアムとエンテは、一気にこちらに視線が向いたことを感じ硬い笑みで答えた。
「こっちの緑の坊主が『緑の騎士』と成ったウィリアム」
「初めまして、ウィリアムと言います」
「んで、こっちの茶色の坊主がウィリアムの友人のエンテ」
「ちわっす」
二人の若い少年を見てネリアは目を数回瞬きさせ……目を少し細め、すぐさま淡い笑みで「こんにちは」と挨拶を返す。
「どうぞ中へ、ごゆっくりしてくださいね」
「どうぞー」
ウィリアムは彼女が起こした一瞬の空白に疑問を覚えながら、エンテと共に家に入ったのだった。
なお、その後すぐウィリアムとエンテはラネに突撃され腹を抱えることになる。
時は過ぎ夜が訪れる。
久しく顔を合わせていなかったブランドンとネリアは、その時間を埋めるように酒を交わし合っていた。
今はウィリアムやエンテ、ラネも寝入り起きる気配はない。
一口、グラスに入ったワインを口に含んだネリアは、味を確かめるように下で転がすと音も無く飲み込む。
その目には淡い感情が流れていた。
「――貴方。ウィリアム君は、その……『緑の騎士』なのよね?」
歯切りを悪くしてそう問うネリアに、ただブランドンは頷く。
ただそれを見て、ネリアは顔を落とした。
「きっと戦うのよね、貴方と同じく」
「アイツらはもう戦ったし、戦うことは止めないだろうさ」
“アイツら”。
それだけで、もうウィリアムだけでなく『騎士』ですらないエンテも戦ったのだと察するネリア。
現実は酷いものだとネリアは思う。
また“彼と同じように”傷付く人が増えるのだから。
だから、だからせめて確認したかった。
「後悔はしてないのね、貴方?」
「あぁ、それに決めるのは俺らじゃないさ」
ブランドンの体が若干震えているのをネリアは見逃さない。
言葉の上で肯定していても、きっと心までは肯定しきれていないのである。
そっとネリアはブランドンを抱きしめた。
安心してほしいと、振るえなくてもいいのだと。
「私は死なない。私たちの娘も、ウィリアム君も、エンテ君も」
「……俺が、守って見せる」
二度と失うものか。
ブランドンの瞳に静かな火が宿った。
――否、違う。
初めから宿っていた火が、大きくなり始めたのだ。
誰にも……ネリアでさえも消すことは叶わなかった、“殺戮の赤”が。
『赤の騎士』であるブランドンが住まう街……エレノア。
その正門へと近づく馬車を見つけた衛兵は、誰が従者席に座っているのかを見て歓喜の声を上げた。
禍族や魔族と戦う正義の味方、『騎士』が帰ってきたのだから喜ぶのも仕方がない。
けれどきっと、街の衛兵さえもが喜ぶのはそれだけが理由ではないのだろう。
「おうガジルさん、今帰ったぜ!! お勤めご苦労さん!」
「いえブランドンさんこそ、お疲れ様でした!」
ブランドンは白く眩い笑みを浮かべ、温かみのある声と喋り方で衛兵を労う。
一つ一つの言動や行動だけで、街の人々から圧倒的信頼を得ていることは想像に難くなかった。
誰だって英雄が話しやすく取っつき易い存在だったら嬉しいものである。
「その方たちが新しく成った『騎士』とそのご友人ですか?」
不意に言葉を振られ、ウィリアムとエンテはびっくりして言葉を詰まらせながらも頷く。
そうですかと明るく温かい笑みで受け入れられ、どうしようもなく恥ずかしくなってしまう二人。
「では『騎士』の方たちとそのご友人をいつまでも待たせては申し訳ないので、どうぞ通ってください」
「良いのか、そんなんじゃ衛兵失格だぞ?」
「そんなこと言うんならブランドンさんだけ通しませんよ?」
げっと顔を急に歪めるブランドンに、衛兵はニヤついた顔で言葉を続けた。
「良いんですか? 愛しのご家族に会われなくて」
「ぐ、ぐぐぐ……。すまん。お前は衛兵の鏡だ、今後も続けてくれ」
「えぇ、ブランドンさんの頼みなら喜んで」
一連の流れを見ながらウィリアムとエンテの二人は思う。
あぁ、こんな性格の人だからこそ誰もが接しやすく、すぐさま受け入れられるのだと。
(自分が『騎士』だと驕らない……素晴らしい人格者だな、ウィリアムよ)
(俺も見習わないと)
今まで見た『騎士』の中で/とは言っても『赤』と『青』だけだが/ブランドンが一番の人格者のようにウィリアムは感じた。
ライアンも十二分に人格者ではあるが、彼はどちらかというと“上に立つ者として”の人格者だろう。
それとは別に、“下の者が接しやすい”という人格者がブランドンなのである。
「すまんが、お前ら降りてくれ」
「……? どうしたんですか?」
内心でバラムと決意を固めていたウィリアムは、ブランドンの言葉で我に返った。
どうやら降りてほしいらしいが、どうしてだろうかと首を傾げる。
意味も解らず降りたウィリアムとエンテに、衛兵が軽く頭を下げながら説明を行い始めた。
「すみません、ですが先日の町を禍族が襲撃した件で――」
「――かなり急いでたからな、馬車が壊れてないか確かめるそうだ」
「そういえばすぐ来てくれたもんな、ブランドンのおっさん」
ウィリアムは戦闘後すぐに気を失って知らないが、エンテには禍族が倒されて一時間後にはブランドンは到着していた記憶がある。
早馬を使い潰してもそんな早く到着するはずもないのだが、そこは『赤の騎士』の力で無理していたらしい。
「馬に方角だけ指示して、俺は後ろで火吹かしてたからなぁ」
「よく馬車壊れませんでしたね……」
当然、早馬だけでは間に合わない為ブランドン自身がファルガを展開し火を逆噴火していたらしい。
それによって馬の負担も減るし、速度もかなり早くなるがよくそれで馬車が壊れなかったなと溜め息をついてしまうウィリアム。
「ま、壊れるリスクがあったがそれ以上に人の命の方が大事だからな」
「――――」
ブランドンが使う馬車はかなり速度を重視している為、その分だけかなり金がかかっているはずだ。
下手をすれば人の命よりも。
けれど、それを知ったうえで彼は助けると言う。
(目標はデカい……か)
目の前の人こそが、ウィリアムやエンテが目指すべき背中なのだと再確認する。
「じゃあこの馬車と馬のことはこちらで」
「あぁ、頼むぜガジル」
ガジルと呼ばれた青年は「えぇ」と微笑んで頷き、街へと入る三人に向けて手を振って見送った。
「あらブランドンさん、お帰りなさい」
「おう、マーシャのおばさんも元気通りで安心したわ!」
「ブランドンのおじちゃん、また今度お話聞かせてよっ!」
「お兄さんだろォ! だが良いぜ、坊主。今回もいい話が転がり込んできたからな!」
「おぅブランドン! 今日は良い鹿が取れたんだ、また分けてやるよ!」
「いつもありがとなゼンの旦那! 後で取りに行くぜ」
大通りをブランドンが歩くだけで、その街は一気に盛んになる。
あまりの騒ぎに今日は何かの祭りではないかと思えるほど、人々はブランドンに話しかけていた。
(これは、すごいな)
予想以上のブランドンの人気っぷりに、ウィリアムたちは感嘆のため息をしか出ない。
まるで街全てがブランドンの帰りを喜んでいるかのように脈動している。
その中でウィリアムたち二人は借りてきた猫のように体を硬直させながらブランドンの背中を追う。
いつまで続くのだろうかと周りを見ていたら、不意に声が止んだ。
ブランドンが大通りを抜け住宅街に入った瞬間に声が消え去ったのである。
「びっくりしただろ? 二人とも」
「はい、すごく」
「そりゃびっくりしたけど、なんでいきなり静かになったんだ?」
当然のエンテの問いにブランドンは顔を苦笑で歪めた。
「さすがに住宅街まで騒いでたら迷惑だろ、そこらへんはちゃんと考えてくれてんのさ」
「……良い人たちですね」
住宅街まで行けば、病に倒れている人も居るだろうし夜間の労働に疲れ今も寝ている人がいるだろう。
起こしてしまっては不味いと街の人が遠慮しているそうだ。
正直そこまで関係が完成されていると、流石のウィリアムたちも驚きを越えて無感情になってしまいそうになる。
「ま、いい奴らだけどそれは置いといて――」
ブランドンは大きく伸びをすると、ウィリアムたちに半身で振り向き奥を指し示した。
大きな背中で隠れていた通路の奥には、周りより一回り大きな家が建っている。
屋敷ほどには大きくなく、普通の家ほど小さくも無い家。
「――ようこそ、これが俺の家だ。上がってってくれ」
これが、『赤の騎士』ブランドンの家だったのだ。
「今帰ったグフッ!」
「お帰りーー!!」
正面玄関の扉を、頬を緩ませてブランドンが開けた瞬間に何か小さな物体が腹に直撃するのを、後ろの二人は確認する。
高い声で叫びながらブランドンの腹に突撃したのは、小さな少女だった。
「あらあらお帰りなさい、貴方」
「おう、ただいまネリア」
騒ぎを聞きつけて、家の奥から顔を出したのは雰囲気柔らかそうな女性。
美人でもなく非常に可愛いこともなく、それでも暖かな雰囲気を漂わせる彼女の笑みにブランドンは頬を緩ませた。
確認するまでも無く分かる、彼女がブランドンの妻なのだと。
「パパ、ラネにはー?」
「お、悪い悪い。ラネ、ただいま」
「おかえりー!」
強く強くブランドンの体を抱きしめて、ラネと呼ばれた幼い少女は柔らかな顔を満面の笑みで描く。
暖かな雰囲気を持つ妻と、明るい雰囲気を持つ娘に迎えられるブランドン。
(“家族”、か)
(うむ、良いものだな)
(……あぁ)
きっと、本来の家族とはこういうものなのだろうとウィリアムは思う。
暖かくて諸手を上げて安心できる……そんな居場所なのだと。
「っと、紹介が遅れた。ネリア、ラネ、今日はお客さんがいるんだ」
「おきゃくさんー?」
ウィリアムとエンテは、一気にこちらに視線が向いたことを感じ硬い笑みで答えた。
「こっちの緑の坊主が『緑の騎士』と成ったウィリアム」
「初めまして、ウィリアムと言います」
「んで、こっちの茶色の坊主がウィリアムの友人のエンテ」
「ちわっす」
二人の若い少年を見てネリアは目を数回瞬きさせ……目を少し細め、すぐさま淡い笑みで「こんにちは」と挨拶を返す。
「どうぞ中へ、ごゆっくりしてくださいね」
「どうぞー」
ウィリアムは彼女が起こした一瞬の空白に疑問を覚えながら、エンテと共に家に入ったのだった。
なお、その後すぐウィリアムとエンテはラネに突撃され腹を抱えることになる。
時は過ぎ夜が訪れる。
久しく顔を合わせていなかったブランドンとネリアは、その時間を埋めるように酒を交わし合っていた。
今はウィリアムやエンテ、ラネも寝入り起きる気配はない。
一口、グラスに入ったワインを口に含んだネリアは、味を確かめるように下で転がすと音も無く飲み込む。
その目には淡い感情が流れていた。
「――貴方。ウィリアム君は、その……『緑の騎士』なのよね?」
歯切りを悪くしてそう問うネリアに、ただブランドンは頷く。
ただそれを見て、ネリアは顔を落とした。
「きっと戦うのよね、貴方と同じく」
「アイツらはもう戦ったし、戦うことは止めないだろうさ」
“アイツら”。
それだけで、もうウィリアムだけでなく『騎士』ですらないエンテも戦ったのだと察するネリア。
現実は酷いものだとネリアは思う。
また“彼と同じように”傷付く人が増えるのだから。
だから、だからせめて確認したかった。
「後悔はしてないのね、貴方?」
「あぁ、それに決めるのは俺らじゃないさ」
ブランドンの体が若干震えているのをネリアは見逃さない。
言葉の上で肯定していても、きっと心までは肯定しきれていないのである。
そっとネリアはブランドンを抱きしめた。
安心してほしいと、振るえなくてもいいのだと。
「私は死なない。私たちの娘も、ウィリアム君も、エンテ君も」
「……俺が、守って見せる」
二度と失うものか。
ブランドンの瞳に静かな火が宿った。
――否、違う。
初めから宿っていた火が、大きくなり始めたのだ。
誰にも……ネリアでさえも消すことは叶わなかった、“殺戮の赤”が。
後書き
未設定
作者:清弥 |
投稿日:2018/09/16 17:58 更新日:2018/09/16 17:58 『セブンスナイト ―少年騎士の英雄記―』の著作権は、すべて作者 清弥様に属します。 |
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