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アルバイト軍師!

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前書き・紹介


第八話 辿り着けば結局は己が何をしたいか……だと思います!

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   第八話 辿り着けば結局は己が何をしたいか……だと思います!



 ノートリアム侵攻戦から帰還後、悠斗は驚きに包まれた。

 それまでバルバロッサや、リューネに取り入った奴という評価が残っていた、シンヴェリルの全ての将兵を納得させるに十分だった。

 ノートリアム撤退戦で発揮された悠斗の軍略は、全将兵に認められた。と、同時にシンヴェリル全軍を指先一つで動かす軍師の誕生の瞬間でもあった。

 廊下を歩く度、すれ違った誰もが頭を下げ、敬礼をするような状態であった。

「……はぁ」

 私室で新たな戦略構想を練りながら溜息を吐く。

 そもそも悠斗は、ただエイシアの追撃から必死で逃げただけであって、局地的勝利した訳でも、戦略的勝利をした訳でも無い。

 はっきり言って、惨敗だ。

 大敗北だ。

 完全に叩き潰された。

 対処の仕方一つ誤れば、殲滅させられていた。

 それを、まるで勝利したかのように喜ぶ周囲を見ると、甘い認識だと言わざるを得ない。

 特にその事に関しては、撤退完了後にリューネ、ヒエン、信繁、そして、エドガー、フェニル、アルトを集めて十分語った。

「今回の戦。間違っても喜ばないで下さい。我々はただ逃げた。ひたすら親の説教から逃げ回る子供に限りなく近い。その認識を持ってください。もし、これが勝利ならば、エイシアと本気で戦闘を挑む時、我々は一人に残らず討ち取られるでしょう」

 悠斗の苦言とも言うべき、言葉だった。そして、それは半分、自分自身への戒めでもある。

「溜息を付く悩みでもあるのか?」

 悠斗が声の主に顔を向けると、そこにはリューネが呆れ顔で立っていた。

「……何時からそこに?」

「ん? 何度もノックをしたぞ? 気付かなかったのか?」

「……すまん。考え事をしていた」

「お前はいつも考え事をしているな」

「それが仕事だからね」

「……隣、いいか?」

 悠斗が頷くと、リューネは悠斗の隣の椅子に腰掛けた。

「で? 何の御用で?」

 悠斗が尋ねると、リューネは背中側に隠していたワインとグラスをテーブルの上に置いた。

「たまにはお前と飲もうと思ってな。後からヒエンも来る。誘ったのだが、まだ少し仕事が残っているそうだ」

「そうか。……うん、たまにはいいね」

 リューネは微笑むと、コルクを開けグラスに注ぐ。銘柄を見てもさっぱり分からないが、たぶん、それなりのワインだろう。

「……これは何の酒だ?」

 悠斗が尋ねると、リューネはグラスを手に取り、一つを悠斗へ差し出した。

「生きて帰って来た祝いだ」

「それは、呑まざるを得ない」

 グラスを受け取った悠斗は、掲げるリューネと軽く乾杯の音を鳴らす。

「……此処に帰って来たら、お前に尋ねたい事が幾つかあったんだ」

 リューネが真剣な眼差しで悠斗に問う。

「……何でしょう? 我が主殿」

「まず、エイシア姫……いや、エイシア将軍の事だ。お前、直接話したのだろう?」

「ああ。少しだけだが……とても充実した会話だった」

「……どんな人物だった?」

「う?ん。そう……だな……。とても美人だった。胸は大きすぎず、小さすぎず、美乳だな。アレは」

「オイ」

 軽蔑の眼差しがリューネから悠斗へ注がれる。

「冗談だよ……」

「冗談にしては、少し欲望が漏れすぎてないか? 本音も少し入っているだろう。というか、悪かったな! どうせ、小さいよ! 私は! だ、だが、女の価値は胸の大きさではないぞ!」

「落ち着け。悪かった。俺が悪かった。冗談が過ぎた。だから落ち着け」

 興奮冷めやらぬリューネを宥め、悠斗はコホンと、一つ咳払いをした。

「真面目に答えよう。エイシア将軍……か。凄かったよ。俺の計算をひっくり返したよ。あの、決断力、統率力。俺の予想の遥か上をさらに超えていた。彼女の称号。優れた武将に値する称号は数あれど、彼女には相応しくない。アレは戦女神か軍神か、それ以上の存在だ。今でも恐れている。畏怖と言うべき……か」

「……畏怖……か」

 悠斗の言葉を反芻するかのように、リューネが呟く。

「だが、対抗策はある」

「え? あるのか!?」

 悠斗の発言はリューネにとっては意外な事だった。五万の軍勢を完膚なきまでに叩きのめした人物に対して、恐れ、畏怖する相手に対して、対抗できると悠斗は言い放ったのだ。

「まずは戦わない事。常に一定の距離を保ち長期戦の膠着状態に持ち込む。攻めて来ても此方は徹底的に防衛に徹すればいい」

「……それは対抗と言えるのか?」

 案外単純な回答に、すこし疑惑の目をリューネは向けた。しかし、悠斗は言葉を続ける。

「勿論。次は戦えない状況に追い込む事」

「……ん? 戦えない状況?」

「そう。例えば、ノートリアムの西側の連中。それを動かす。そうなれば、エイシアはエーベルンと戦えない。少数精鋭の部隊を編成し、糧食を焼き払うなどの工作を行う。各地の食料貯蔵庫を破壊する。例え精強な軍勢を率いていたとしても、空腹では戦えない。食料が無ければ戦えない。後方の輜重隊の重要性はここにある。以前話したと思うが、補給は軍の生命線であり、進軍可能な限界点を決定する」

「なるほど」

「……そうだな、あとは同盟という手段がある。または停戦条約を締結する。もし破ればノートリアムに非があるのは明らかだ。これは国家間の問題となるので、現段階では実用的では無いな」

「……私はてっきりエイシアを撃退する策でも準備していると思ったぞ」

「それは、最終手段だな。まずは無用な戦闘を回避する事。それが一番重大で重要な事だ」

「ふむ……」

 それは難易度が最大級の大問題ではあるが……。一つ、考えている。

 たが、悠斗はそれを口にはしなかった。今現在考えているエイシア迎撃作戦はまだ研究段階であり、とてもまだ作戦と呼べる類では無く、草案止まりだからだ。

 しかし、不思議と自信があった。エイシアに勝つ自信では無く、負けない戦いをする自信だ。

 それと同時に、一つの確信が悠斗を困惑させていた。もし、エイシアと激突した際、両軍に大多数の戦死者が生まれる事になるだろう……と。

「エイシアは確かに強い。強いが、ただそれだけだ」

「……強いが……それだけ?」

「そうだ。彼女は国主では無い。周辺諸国を無視できるほどの兵力を持っている訳でもない。それを最大限に利用する。それが、戦略だ」

「……そういう物か」

 リューネはいつも悠斗の考えの大きさに驚かされる。これほどの知識をどうすれば学べるのか?

「俺は原則、勝つ戦略では無く、負けない戦略を構築する。絶対的勝利を掴む戦術では無く、如何なる状況にも対応できる不敗の戦術を考える。それは、勝利を目指すというのは、結果だけを求めるのであって、その過程を無視する事になりかねない。即ち、犠牲となる兵士の命を無視するという事だ」

「兵士の……命」

「そうだ。兵とは民。そして、彼等にも愛する妻、恋人、息子、娘、兄弟、友がいる。俺は、悲しい事が嫌いだ。哀しむ人を見るの嫌いだ。そして、それは回避できないからには、その覚悟を決める。それは、遺族から命を奪われても仕方が無いという覚悟だ」

「悠斗! お前……」

「それが軍師の覚悟だ!」

 リューネが言いかけたのを悠斗が叫んで止めた。

「俺は戦の最中は兵を人として見ない。駒だ。駒として見る。俺は効率を重視する。疲れや感情など二の次だ。悪魔のような存在だ。人の命を弄ぶ行為に限りなく近い。死んだら確実に地獄行きだ。だが……それでも……」

 だが、それでも、哀しむ人が減るならば、どのような汚名を着ようと委細構わない。

 最後まで悠斗は続けなかった。悲壮なる決意……かもしれない。だが、軍師としてこの場に居続ける以上、責任を持たなくてはならない。

 命を犠牲にした責任。

 哀しませた責任。

 その結果をより良き物とする責任。

「……リューネ。これだけは覚えておいてくれ。軍は合法的な暴力を行使する存在だ。その暴力とは何だ?」

「ぼ、暴力!? ち、違う! 私は暴力を振るっている訳では……」

「リューネ。剣を振る。槍を突き出す。つまり、敵である他人を傷つける事。それが暴力だ。その敵にも家族がいる。友人がいる。だが、それを気にしていては戦えない。でも、それは心得ていて欲しい。軍隊の暴力は大抵、支配と権力の為に使われる。もしくは、解放。しかし、悲しいかな。解放の為に暴力が使われる事は余り多くない。解放どころか、罪の無い、そして、力も無い人々を屈服させ、平伏せ、その誇りを踏みつける為に使われる。これは、事実で覆しようが無い」

「……む、難しいな」

 リューネが悩み、その仕草に悠斗は笑った。

「そんなに小難しく考えなくても良いよ。ただ、軍の存在理由。そして、その力を何の為に行使するのか? それを常に頭の片隅に入れてくれ」

「……あ、ああ。お前、いつもそんな事考えているのか?」

「時々。ただ、歴史を学び続けていると、どうしても歴史は戦いの歴史となる。そして、そこには人々の醜悪な考えが、劣悪な思想。権力と権威に塗れ、他者を貶め、国家を滅ぼす存在が常に居る。勿論、逆も居る。高い理想を持ち、人々を如何にして守るか考え、権威や権力、名誉や誇りではなく、人々の平穏と平和な生活を守る為に命を捨てて戦った人物もね。俺はどちらかと言えば、後者で居たい。だが、結局その方法は両者とも同じなのだから心に堪える」

 悠斗はそこで言葉を切り。大きく息を吸った。

「我ながら、矛盾しているな。言葉も、理想も、その方法も。暴力を防ぐ為に暴力を振るう。暴力を利用して己の地位、名声を高めようとする奴もいる。俺はそれを人として最悪の害虫だと思っている。が、一方で、俺は地位や名声など不要だが、兵を操っている点で言えば、その害虫と何も変わらない。他人を苦しめている。そうして苦労して築き上げた物は、十数年後、数百年後、最悪の害虫が存分に利用されて人々を苦しめる。では、何もしなければ良いのか? しかし、それでも、十数年の平穏であっても、人々が平和に暮らせて、平穏が訪れるのならば……」

 矛盾。というより、無限ループ。

 人は欲望を抑えられないのか? 動物と違う点。それは、理性と知識。

 だが、それでも歴史は繰り返す。

 過去を学んでも、実際に同じ事が起きていても、それでも人は同じ過ちをひたすら繰り返す。

 人間の限界点なのだろうか?

 しかし、人間は成長する生き物である……と願いたい。

「つまり、その……アレだろう? 目の前の敵を叩きのめせばいい。考えるのはその後だ!」

「……………………」

 リューネの珍解答に悠斗は絶句した。

 だが。

 真理かも知れない。

 全ては結果論である。

 自分に火の粉が掛かる。

 ならば。

 打ち倒せ!

 薙ぎ倒せ!

 叩きのめせ!

 善悪の審判を下すのは、後世の歴史家、大衆であって、その当人では無い!

 何が正しく、何が誤りであったのか?

 それは結果であって、過程では無い。

 ただ。

 ただ一つ。

 この世に『善』があるならば。『善』と呼ばれるに相応しいモノが在るならば。

 それは、おそらく『神』と呼ばれる存在では無い。『悪魔』と呼ばれる相対的な存在でも無い。

 人間が考える利己的な事。

 それ、即ち。

 大半の人間にとって、利益に成る事が『善』である。

 そして。

 大半の人間にとって、利益に成らない事が『悪』である。

 所詮、人間は動物であり、獣である。その本質は変えられない……という事なのか?

 だが、これに疑問を抱けば、本質を変える事だ。それこそ、神の為せる業に匹敵する。いや、超える。

 何故か悠斗は頭がスッキリとした気分になった。

 自分のやりたい事は?

 バルバロッサ、リューネ、ヒエンを守る。

 シンヴェリルの人々を守る。

 その為に軍師になった訳では無いが、軍師という手段を自分は選んだ。

 きっと自分は大勢の人間を殺すだろう。

 大勢の仲間を死へ追いやる事なるだろう。

 それが正しい事なのか?

 間違っている事なのか?

 仕方が無い事なのか?

 それを考えるのは自分では無く、他人だ。

 倫理など知った事か!

 守る為に、策を練り、実行する。

 ただ、それだけだ。

 ずっと、悠斗は迷っていた。

 本当に自分に人を殺す作戦が考えられるのか?

 本当に人の命を左右する事を実行できるのか?

 ノートリアム侵攻戦の前、一度決意したのに、ノートリアム撤退戦で心が揺れた。

 あの作戦は本当の恐怖を教えてくれた。

 人の命を左右してしまう恐怖。

 人の命を単なる数字にしてしまう恐 怖。

 人の尊厳を踏みにじってしまう恐怖。

 人の人生を奪い去る事への恐怖。

 奪った命に対する報復を受ける恐怖。

 だが。それも今宵限りにしよう。

 これから戦うのは、巨大な勢力だ。

 北方の騎馬民族。

 そして、何倍もの国力を持つ東のドゴール王国。

 天才、エイシアを擁するノートリアム王国。

 南方も油断は出来ない。

 まさに四方を敵に取り囲まれている。

 しかも、自分は国家の中枢に居る訳では無く、一領主の軍勢の軍師。

 大勢の人間を殺すだろう。

 大勢の無関係な人間を殺すだろう。

 そして、それを数字として認識してしまうだろう。

 全ての『業』を背負う事。

 それが、『軍師、如月悠斗』の役目である。贖罪では無い。その程度で償える罪では無い。

 永遠に背負い続ける『厳罰』は地獄で背負う事になる。

 特に、味方の兵士達に対して残酷になるだろう。

 なぜならば、自分は知っている。

 孫子の知識として。

 きっと自分は味方を苦境の極みの状況へ追い込むだろう。

 人は危険すぎる状況に居れば、開き直って危険を恐れない。

 人は、あまりにも危険な状況にはまりこんでしまうと、もはや危険を恐れなくなる。

 どこにも行き場がなくなってしまうと、決死の覚悟を固める。

 逃げる事が用意でき無い場所であれば一致団結する。

 逃げ場の無い窮地に追いやれば、奮戦力闘する。

 自分たちで進んで戒め合う。

 口に出して要求しなくても、期待通りに動く。

 諍いを禁ずる約束を交わさせなくても、自主的に親しみ合う。

 軍令の罰則で脅かさなくても、任務を忠実に果たす。

 そういう事を知ってしまっている。

 ならば、それを実行する勇気のみ。

「なぁ、悠斗。お前は……その……元の世界に戻りたいか?」

「ん? ……そりゃ、まぁな」

 リューネの突然の問いに即答できず、少し考えながら答えた。

「その……ずっとこの世界に留まれないか?」

 リューネの提案は悠斗にとって、とても魅惑で、魅力的で……。

「いや、お前、元の世界に戻ったらただの学生なのだろう? ここならば、我が側近として……」

「リューネ。そういう問題じゃない」

 悠斗は少し怒ったようにリューネの言葉を塞いだ。

「……すまん」

 リューネは素直に謝罪の言葉を口にした。

「いいさ。気にしていない」

 悠斗は笑いながら答えるが、リューネの反応に驚く。以前はもっと、自分の我が侭を押し通す事を平気でしていたのだが……?

 しかし、でも、まぁ、それもアリ……といえばアリなのかも知れない。

 人の縁というのは実に不思議なもので。

人との出会いなんて、どこにでもある普通の出来事。

 だが、その出会いこそが一つの奇跡であり、故に、縁という考えが生まれた。……できれば、そう思いたい。

「悠斗? どうした?」

「いや……。それも……悪くないかもしれない」

 悠斗は言いながらワインを口にする。

「ま、とりあえず落ち着くまではここに居るよ。君の傍に。そして、思いっきり悩んで、何か良い案を捻り出すよ。それが、俺の仕事だからね」

「……ああ、期待しているぞ。我が軍師!」

 リューネは笑うと、ワインを飲み干した。

 そして、悠斗は改めて軍師としての自分の立場と、責任を考え始める。

 たぶん、永遠に、軍師という役目を仰せつかった以上、考え続けなければ成らない事だろう。

 そして、考える事を止めたその瞬間。

 自分は最低最悪の存在へと変貌する事になるだろう……。

 それは、軍師としては、最高の存在であっても、人として最低の存在。

 悠斗は思う。

 最高の軍師なんてまっぴらゴメンだ。

 如月悠斗という人間を維持したまま、軍師として戦いたい。

 悠斗はゆっくりとグラスを掲げた。

 不遜なる自分に乾杯!

後書き


作者:そえ
投稿日:2010/07/02 22:18
更新日:2010/07/02 22:31
『アルバイト軍師!』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。

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