作品ID:2310
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『鉄鎖のメデューサ』
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
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第3章
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右手の建物の陰の路地から小さな人影が一つ、次いで大きな人影が二つ飛び出してきた!
「助けて! あいつら人殺しだ!」
そう叫んだ小さな人影が妖魔の方を見た。そして反対方向へと駆け去りざまにまた叫んだ。
「そこの裏路地で! おばちゃん逃げてっ!!」
「畜生っ、クソ餓鬼!」
「面倒だ、先にババアを畳んじまえっ」
我先にと大きな人影が二人駆け寄ってくるや、振り上げた手の握る血染めの得物が赤光りした!
妖魔は混乱していた。最初の人影は大きさがそれまで見てきた人間の半分しかなかった。だから人間ではないと思った。しかし人間の言葉で叫んだ。ではやはり人間か。ところが後ろの人間に追われている。ならやっぱり人間ではないのか。それとも人間は人間も追いかけるのか。
パニックをおこしたまま体が勝手に反応し、脚が蹴りを放ったが、軸足が凍った石畳に滑った!
おかげで男は命拾いした。爪で腹を芋刺しされるかわりに踵が胸を蹴り上げ、背後の仲間もろとも石畳に叩きつけられた。昏倒した二人はそれきり動かなくなった。だが体の軽い妖魔も反動で路上に叩きつけられ、瞬時に意識が遠のいた。
「おばちゃん!」
ロビン少年は倒れた老婆に駆け寄った。だが見下ろした鳶色の目が驚愕に見開かれた。
はだけた粗布から顔から胸にかけての部分が覗いていた。それは人間ではなかった。髪の毛のかわりに蛇みたいなものが生え、緑の鱗が胴体ばかりか顔の一部まで覆っていた。
なのに、その顔は二年前に病死した姉とそっくりだった。
ロビンは孤児だったから、魔物に関する知識は全くなかった。だからそれが何者なのかわからず、ただ絶句したまま呆然とその顔を見つめていた。
だしぬけに彼は、その首に鎖が巻きついているのに気づいた。どこからか逃げてきたのだと直感した。
そのとき頭上の窓が開き、誰かが叫んだ。
「人が倒れてるぞ!」
ロビンの足元の何者かが目を見開き飛び起きた。怯えた視線が周囲を見回し一瞬ロビンを見たが、蛇のような髪が伸び上がるやロビンの背後を探った。背後から迫る蹄の音にロビンも気づいたとたん、姉の顔をしたそれは身を翻し駆け出した!
「待って!」
少年も駆け出したが、相手の姿はもう見えなかった。
小柄な妖魔は全力でひた走った。何人かの人間にも出会ったがかまわず駆け抜けた。顔が剥き出しになっているのはわかっていたが、もはや頭を覆って視界を遮る恐怖には耐えられなかった。とにかくここから逃げ出したかった。その一念に突き動かされた妖魔はただまっしぐらに大通りを走り抜けた。
遂に視界が開けた。出口だと思った。だが、そこに見えたものに妖魔の心は挫かれた。
大きな橋がかかっていた。だから視界が開けたのだ。だがその向こうにはいままでの建物よりもずっと大きな建物が果てしなく重なり合っていた。まるで連山のごとき巨大な巣窟だった。
妖魔は悟った、巣の中心部に来てしまったのだと。
やがて、背後に人間たちの気配が集まってきた。馬の蹄の音もあちこちから聞こえた。橋の上に出るしかなかった。
けれど行く手の巨大な巣窟に威圧され、橋の真ん中で動けなくなった。渡りきることなどできるはずがなかった。橋の上から下を見下ろしたが、星明りだけでは様子がわからなかった。相当な高さがあることを、吹き抜ける風の強さに感じただけだった。
引くも進むもならぬまま、巨大な橋の上で立ち往生した小柄な妖魔の心をじわじわと絶望が覆いつくしていった。
「助けて! あいつら人殺しだ!」
そう叫んだ小さな人影が妖魔の方を見た。そして反対方向へと駆け去りざまにまた叫んだ。
「そこの裏路地で! おばちゃん逃げてっ!!」
「畜生っ、クソ餓鬼!」
「面倒だ、先にババアを畳んじまえっ」
我先にと大きな人影が二人駆け寄ってくるや、振り上げた手の握る血染めの得物が赤光りした!
妖魔は混乱していた。最初の人影は大きさがそれまで見てきた人間の半分しかなかった。だから人間ではないと思った。しかし人間の言葉で叫んだ。ではやはり人間か。ところが後ろの人間に追われている。ならやっぱり人間ではないのか。それとも人間は人間も追いかけるのか。
パニックをおこしたまま体が勝手に反応し、脚が蹴りを放ったが、軸足が凍った石畳に滑った!
おかげで男は命拾いした。爪で腹を芋刺しされるかわりに踵が胸を蹴り上げ、背後の仲間もろとも石畳に叩きつけられた。昏倒した二人はそれきり動かなくなった。だが体の軽い妖魔も反動で路上に叩きつけられ、瞬時に意識が遠のいた。
「おばちゃん!」
ロビン少年は倒れた老婆に駆け寄った。だが見下ろした鳶色の目が驚愕に見開かれた。
はだけた粗布から顔から胸にかけての部分が覗いていた。それは人間ではなかった。髪の毛のかわりに蛇みたいなものが生え、緑の鱗が胴体ばかりか顔の一部まで覆っていた。
なのに、その顔は二年前に病死した姉とそっくりだった。
ロビンは孤児だったから、魔物に関する知識は全くなかった。だからそれが何者なのかわからず、ただ絶句したまま呆然とその顔を見つめていた。
だしぬけに彼は、その首に鎖が巻きついているのに気づいた。どこからか逃げてきたのだと直感した。
そのとき頭上の窓が開き、誰かが叫んだ。
「人が倒れてるぞ!」
ロビンの足元の何者かが目を見開き飛び起きた。怯えた視線が周囲を見回し一瞬ロビンを見たが、蛇のような髪が伸び上がるやロビンの背後を探った。背後から迫る蹄の音にロビンも気づいたとたん、姉の顔をしたそれは身を翻し駆け出した!
「待って!」
少年も駆け出したが、相手の姿はもう見えなかった。
小柄な妖魔は全力でひた走った。何人かの人間にも出会ったがかまわず駆け抜けた。顔が剥き出しになっているのはわかっていたが、もはや頭を覆って視界を遮る恐怖には耐えられなかった。とにかくここから逃げ出したかった。その一念に突き動かされた妖魔はただまっしぐらに大通りを走り抜けた。
遂に視界が開けた。出口だと思った。だが、そこに見えたものに妖魔の心は挫かれた。
大きな橋がかかっていた。だから視界が開けたのだ。だがその向こうにはいままでの建物よりもずっと大きな建物が果てしなく重なり合っていた。まるで連山のごとき巨大な巣窟だった。
妖魔は悟った、巣の中心部に来てしまったのだと。
やがて、背後に人間たちの気配が集まってきた。馬の蹄の音もあちこちから聞こえた。橋の上に出るしかなかった。
けれど行く手の巨大な巣窟に威圧され、橋の真ん中で動けなくなった。渡りきることなどできるはずがなかった。橋の上から下を見下ろしたが、星明りだけでは様子がわからなかった。相当な高さがあることを、吹き抜ける風の強さに感じただけだった。
引くも進むもならぬまま、巨大な橋の上で立ち往生した小柄な妖魔の心をじわじわと絶望が覆いつくしていった。
後書き
未設定
作者:ふしじろ もひと |
投稿日:2021/10/04 00:50 更新日:2021/10/05 03:36 『『鉄鎖のメデューサ』』の著作権は、すべて作者 ふしじろ もひと様に属します。 |
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