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『鉄鎖のメデューサ』
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / お気軽感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
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第17章
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石でできた剛腕が木の扉を打ち抜き、引きはがした。室内から悲鳴と怒声が上がった。あたりの野次馬たちがどよめいた。
喧騒の中、それがゆっくりと身を起こした。人の背の三倍近い丈の石でできた人形、ストーンゴーレムだった。石を切り出しただけの体躯は不細工ながらも力と重量感にあふれ、顔の部分には動きを制御する呪文を受ける赤い文様が描かれているのが、夜の大通りを照らす両脇の壁の松明の光でもはっきり見て取れた。
「なんて乱暴な! ホワイトクリフ卿っ!」
アーサーが怒りに震える声で金髪の青年にくってかかったが、相手は切れ長の青い瞳に侮蔑を浮かべ振り向いた。
「なにを熱くなっている? スノーレンジャー」
「無茶苦茶です! 住民の家を破壊するなんて!」
「なぜあれが住民だと断言できる? 仮にもメデューサを捕まえてこのスノーフィールドまではるばる運んできて、しかも隠していたのだぞ。単独犯のはずがないだろう。周辺にいる者は仲間と考えるのが妥当だ。ここはスラムなのだぞ。まともな人間の住む場所じゃない」
「それは決めつけです!」
「住民たちの間に隠した例なんていくらでもありますわっ」
「そもそも、あれじゃ住民たちを盾にしてるも同然です!」
「せめてもっと穏当な方法がっ」
「ならばどうする? おまえたちが戸口にいって訊ねてみるつもりならば止めないが、開けたとたんに石化されるのが関の山だ。同じ失敗を繰り返す気か? スノーレンジャー」
痩身の若きナイトは悔しそうに沈黙した四人に背を向けると、二本の道の両側からそれぞれ次の家に向かうゴーレムたちの黒い影に手をかざした。
「心配するな。スノーフィールドを乱す化け物などは、この私が必ず退治してやる。おまえたちの仕事はあの有像無像から下手人を割り出すことだ。まあ、せいぜい頑張ることだな」
----------
「まさか、こんな無茶な手でくるとは……っ」
細く開けた扉の隙間から、表を窺ったラルダが呻いた.
「ゴーレム自体は動きが遅い。かわしてすり抜けるまでは難しくない。でも、その後ろに野次馬がびっしりだ。たちまち身動きがつかなくなってしまう」
「……どうするの? クルルを隠す?」
「こんな相手だ。むろん家探しするだろう。ベッドの下ではどうにもならない。一かばちか、野次馬を蹴散らせないかやってみるしかないだろう」
ラルダはロビンとクルルの旅装束を整えながら続けた。
「少しでも敵がとまどうよう同時に反対へ走ろう。私とクルルは右。ロビンは左だ。右へ行くと川に出るが細い道を抜けていけるからゴーレムも馬も入れない。左は市街だが、ロビンならなんとか追っ手を捲けるだろう。もし捕まったら人質にされたといって押しとおせ。あとはなりゆき任せだ。大声で脅しをかけるから、それを合図に全力で走れ!」
ラルダは小柄な妖魔を抱き寄せ震える肩を軽く叩くと、頭巾の奥からロビンの顔を覗き込んだ。ロビンも精一杯の決意を込めて見返した。
「いくぞ!」
扉を蹴り開けて跳び出したとたん全ての視線が集まった。間髪を入れずラルダは自分の頭巾をむしり取ると、黒髪を振り乱して叫んだ。
「おまえたちっ。石になりたくなければどけっ!」
虚を突かれた群集がどよめいたとたん小さな影が弾けたように飛び出した。得体の知れない姿が駆け込んでくるのを見た人々は恐慌に陥り、人垣が大きく崩れた。
右に飛び出した妖魔の前に巨大な腕が振り下ろされた。たたらを踏んだその眼前の石畳に剛腕がめり込むや、その腕を踏み台に小さな影は跳躍した。
だが背後を振り向いたラルダの目は、脇を走り抜けるロビンを無視して近づいてくる別のゴーレムの姿を捉えた。
「見分けているのかっ」
ラルダは妖魔の方へぎこちなく体の向きを変える石の巨体の脇をすり抜け後を追った。すると、先を走るクルルの脚が鈍った。前方はもう河で、舟が二槽浮かんでいた。うち一槽には男が仁王立ちになっていて、ただ者ならぬ眼力で小柄な妖魔を射すくめたらしかった。
「止まるな! 曲がれば川べりへ逃げ込める!」
追いついたラルダがいったとたん、屋根から投げられた大きな投網が彼らをひとまとめに絡め取った!
喧騒の中、それがゆっくりと身を起こした。人の背の三倍近い丈の石でできた人形、ストーンゴーレムだった。石を切り出しただけの体躯は不細工ながらも力と重量感にあふれ、顔の部分には動きを制御する呪文を受ける赤い文様が描かれているのが、夜の大通りを照らす両脇の壁の松明の光でもはっきり見て取れた。
「なんて乱暴な! ホワイトクリフ卿っ!」
アーサーが怒りに震える声で金髪の青年にくってかかったが、相手は切れ長の青い瞳に侮蔑を浮かべ振り向いた。
「なにを熱くなっている? スノーレンジャー」
「無茶苦茶です! 住民の家を破壊するなんて!」
「なぜあれが住民だと断言できる? 仮にもメデューサを捕まえてこのスノーフィールドまではるばる運んできて、しかも隠していたのだぞ。単独犯のはずがないだろう。周辺にいる者は仲間と考えるのが妥当だ。ここはスラムなのだぞ。まともな人間の住む場所じゃない」
「それは決めつけです!」
「住民たちの間に隠した例なんていくらでもありますわっ」
「そもそも、あれじゃ住民たちを盾にしてるも同然です!」
「せめてもっと穏当な方法がっ」
「ならばどうする? おまえたちが戸口にいって訊ねてみるつもりならば止めないが、開けたとたんに石化されるのが関の山だ。同じ失敗を繰り返す気か? スノーレンジャー」
痩身の若きナイトは悔しそうに沈黙した四人に背を向けると、二本の道の両側からそれぞれ次の家に向かうゴーレムたちの黒い影に手をかざした。
「心配するな。スノーフィールドを乱す化け物などは、この私が必ず退治してやる。おまえたちの仕事はあの有像無像から下手人を割り出すことだ。まあ、せいぜい頑張ることだな」
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「まさか、こんな無茶な手でくるとは……っ」
細く開けた扉の隙間から、表を窺ったラルダが呻いた.
「ゴーレム自体は動きが遅い。かわしてすり抜けるまでは難しくない。でも、その後ろに野次馬がびっしりだ。たちまち身動きがつかなくなってしまう」
「……どうするの? クルルを隠す?」
「こんな相手だ。むろん家探しするだろう。ベッドの下ではどうにもならない。一かばちか、野次馬を蹴散らせないかやってみるしかないだろう」
ラルダはロビンとクルルの旅装束を整えながら続けた。
「少しでも敵がとまどうよう同時に反対へ走ろう。私とクルルは右。ロビンは左だ。右へ行くと川に出るが細い道を抜けていけるからゴーレムも馬も入れない。左は市街だが、ロビンならなんとか追っ手を捲けるだろう。もし捕まったら人質にされたといって押しとおせ。あとはなりゆき任せだ。大声で脅しをかけるから、それを合図に全力で走れ!」
ラルダは小柄な妖魔を抱き寄せ震える肩を軽く叩くと、頭巾の奥からロビンの顔を覗き込んだ。ロビンも精一杯の決意を込めて見返した。
「いくぞ!」
扉を蹴り開けて跳び出したとたん全ての視線が集まった。間髪を入れずラルダは自分の頭巾をむしり取ると、黒髪を振り乱して叫んだ。
「おまえたちっ。石になりたくなければどけっ!」
虚を突かれた群集がどよめいたとたん小さな影が弾けたように飛び出した。得体の知れない姿が駆け込んでくるのを見た人々は恐慌に陥り、人垣が大きく崩れた。
右に飛び出した妖魔の前に巨大な腕が振り下ろされた。たたらを踏んだその眼前の石畳に剛腕がめり込むや、その腕を踏み台に小さな影は跳躍した。
だが背後を振り向いたラルダの目は、脇を走り抜けるロビンを無視して近づいてくる別のゴーレムの姿を捉えた。
「見分けているのかっ」
ラルダは妖魔の方へぎこちなく体の向きを変える石の巨体の脇をすり抜け後を追った。すると、先を走るクルルの脚が鈍った。前方はもう河で、舟が二槽浮かんでいた。うち一槽には男が仁王立ちになっていて、ただ者ならぬ眼力で小柄な妖魔を射すくめたらしかった。
「止まるな! 曲がれば川べりへ逃げ込める!」
追いついたラルダがいったとたん、屋根から投げられた大きな投網が彼らをひとまとめに絡め取った!
後書き
未設定
作者:ふしじろ もひと |
投稿日:2021/10/26 01:33 更新日:2021/10/26 01:33 『『鉄鎖のメデューサ』』の著作権は、すべて作者 ふしじろ もひと様に属します。 |
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