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作品ID:26
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バール ■ふしじろ もひと ■白銀 


ローバス戦記

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


第十一話 二刃乱舞

前の話 目次 次の話

 ローバス東方最大防衛拠点アフワーズ城。

 ローバス東部に位置するトーラス王国、東南に位置するカーン・ラー王国に睨む王都セレウキアに匹敵する堅城である。

 精鋭三万の騎兵と、歩兵七万を有する現存するローバス第二の兵力を保持している。その十万の大兵力と、東部防衛をレン大将軍、先代国王シュラー一任されたのはフィルガリア=バンクーバ将軍。この時、二十九歳。

 智勇兼備の名将として知られ、義に実直で、誠実で、清廉な人物であると、他国の者からも高く評価されていた。

 軍律に厳しく、軍規に違反するものに対しては容赦なく罰する厳格な人物であるが、それ以上に自分を厳しく律している。それがため、兵士達の信頼も厚い。

 そのフィルガリア将軍が待つアフワーズ城まであと一日の所までアリシア達は迫っていた。だが、その背後でレン大将軍率いる軍勢の先行部隊が差し迫っていた。

「追い付かれたか!」

 グリュードは舌打ちして敵軍を見つめた。

「なに、敵は数百、襲ってくることはしないだろうよ。最も、レン大将軍率いる本隊がしばらくすれば到着するがな。すでに回り込まれたかもしれん」

 シャルスは冷静に分析しつつ、先に急ぐ事を薦めた。

「ここは逃げの一手です、アリシア殿下。例え紅蓮騎士団が最強を自負していても、レン大将軍の采配にはかないますまい」

「そうですね、アフワーズ城まではもう、すぐそこです」

 アリシアが馬を進めようとしたその瞬間だった、アリシア達の目の前に突如騎兵のみの大軍が姿を現した。さらに、左右には弓を構えた歩兵が姿を見せた。

「シャルス! 囲まれたぞ!」

 グリュードは剣を構え、いつでも敵陣に強行突破する勢いでシャルスに迫った。

「慌てることはない。やれやれ、間に合ったか」

 シャルスは大きく溜め息を吐いた。

 しばらくすると、アリシア達の正面に現れた騎馬軍団から、三騎ほどアリシア達に進み出た。

「ご無事でなによりです。アリシア様」

 アリシアの目の前で馬を下りて臣下の礼を取ったのはフィルガリアだった。

 精悍な顔付きで、背も高く、目の鋭さは名将の威厳と威名を感じさせた。

「フィルガリア将軍、お久しぶりです」

 グリュードは一礼して、フィルガリアに頭を下げた。

「グリュード卿もご無事で何より。事情はある程度分かっているつもりです。レン大将軍率いる軍勢はこのまま引き返すでしょう。我らアフワーズ守備兵が護衛しつつ御送り致します」

 アリシアはこうしてフィルガリアに保護され、アフワーズ城に入城を果たすことになった。

 直前まで追撃を続けていたレン率いる軍勢は、アフワーズ兵が出てきた事を先鋒隊から知らされると全軍に突撃命令が出されようとしていた。だが、すぐさま届けられた一報がそれを中断させた。

「敵伏兵、後続の輸送部隊に襲撃! 救援を請うとのことです!」

 それは、シャルスが指示したエルク城兵達だった。

 シャルスはエルク城兵に輸送部隊に一撃を与えたならば、叛逆の罪を赦す。という約定をしていた。亡き城主の命令とはいえ、アリシアを襲撃したのだ。逆賊か、死か、どちらかを選ぶしかなかったエルク城兵は必死になって行動を起こした。

 レンは直ちに後続部隊の支援を指示、撤退を始めた。

「結局、アリシア皇女を捕らえる事はできませんでしたな。どうします?」

「まあ、先延ばしだな。…これで、ローバスは完全に東西分裂が確定した。これから先、忙しくなるぞ」

 西のローバス、東のローバス、それぞれの激突はレンの速やかな決断と撤退によって回避された。だが、それもただの先延ばしであり、来る日、ローバス王国の主導権を巡る大きな戦になる事を暗に示していた…。







 アフワーズ城の近くでローバス王国内紛の物理的勃発がギリギリの所で回避されていた頃、ホルス、ティア、リレイの三名はアフワーズ城へ向かう途上であった。

「暇だ」

 ホルスは欠伸を噛み殺しながらゆっくりと馬を進めていた。

「お兄ちゃん、アフワーズ城まであとどれぐらいかかるかな?」

 リレイは兄と共に旅が出来ることがよほど嬉しいらしく、常にホルスの傍にいた。ティアは一人っ子なので、その様子を微笑ましく見つめていた。

「ん? まあ、あと七日だろうな。少し遠回りするからな」

 ホルス達は東へ直進せず、少し南よりの道を進みながら進んでいた。無論、レンと鉢合わせにならないようにする為である。

 極力安全な道を選ぶのはリレイがいるという理由からだ。まあ、ティアがいるからでもある。自分一人ならば東へ直進し、レン率いる軍勢を振り切ってアフワーズに駆け込む自信がある。だが、二人も護りながらとなると、そうもいかない。ホルスの武勇にも限界があるのだ。それ以前にリレイを危険に合すことは絶対に回避したい。

 ホルスのささやかな願いであったが、それは十数騎の馬影によって破られようとしていた。

「三人だ。男は一人だな。あとは女子供だ」

「よし、やるぞ」

 それは盗賊の一団であった。彼らはホルス達を格好の獲物と見定めて襲撃を開始した。

「ちっ、盗賊か」

 突如背後から現れた一団にホルスは舌打ちした。

「ティア、リレイを頼む」

 ホルスは剣を抜いて、盗賊達に向かって突進した。

 普通、驚いて立ちすくむ獲物を相手にしてきた盗賊達は立ち向かってきたホルスに嘲笑を浮かべた。だが、それはすぐさま悲鳴と怒号に切り替わった。

 まず、先頭を走っていた男が切り結ぶことも無く一撃で首を刎ねられた。続いて二人同時にホルスに襲い掛かったが、これまた一撃で右腕と胴を切断された。

「な、何だ!? こいつ強ぇぞ!」

 盗賊達は焦りを覚えた。自分達に立ちはだかる真紅の鎧の男が、尋常な強さではない事を知ったのである。

「女だ! 女子供を人質にしろ!」

 盗賊にして素早い決断だった。ホルスに勝てないと判断した彼らはティア、リレイの二人を人質にしてホルスを動けなくしようとしたのだった。

「ちっ!」

 ホルスは二人を護ろうと馬を進めた。しかし、三人ほど妨害の為にホルスを囲んだ。

 ティアも近衛騎士の一人である。その強さは並ではない。だが、七名もの敵が自分の動きを妨害しながら背後にいるリレイを狙ってくるのである。流石のティアも苦戦を免れなかった。

 ついに盗賊の一人がリレイに差し迫ろうとしていた。ホルスがちょうど囲んでいた三人目を斬り捨てていた。

「お兄ちゃん!」

 リレイが悲鳴と助けを求める声を上げた。

「観念しな」

 盗賊がリレイに右手を伸ばした時であった。

「うぎゃあぁああああ」

 突然リレイに手を伸ばそうとした盗賊が馬から転げ落ちたのである。その盗賊の右手は無く、リレイの足元に転がっていた。

「娘、無事か?」

 覆面をした黒装束の男がリレイの傍に立っていた。その手には見たことも無い武器があった。

 片刃の剣で、まっすぐな刀身であった。厚さも無く、直に折れてしまいそうな細身な剣であった。

黒装束の男は切り落とした盗賊の右手を迫ってくる盗賊に蹴り飛ばした。

 一瞬怯んだ隙であった。黒装束の男は一撃で盗賊を切り殺すと、その馬を奪った。

「手伝おう」

 黒装束の男は馬を飛ばすと、ティアの妨害をしていた七名の内、四人を一瞬で切り倒した。ホルスも驚く素早い剣戟だった。しかも、その剣を折れず、恐るべき切れ味だった。

 盗賊達にとって人生最悪の瞬間だった。ホルスは馬を駆け、次々と盗賊と打ち倒した。黒装束の男も剣を振る。その剣は的確に盗賊の数を減らす。

 あっという間であった。ホルスと黒装束の二人は次々と盗賊を打ち倒し、最後の一人を黒装束の男が倒した。

「……」

 静寂。

 ホルスと黒装束は盗賊を打ち倒した瞬間、対峙した。

 いきなりの展開にティアとリレイは驚きを隠せなかった。つい、先ほど共に戦っていた二人が、いきなり剣を互いに向けたのである。

「名を聞こうか。俺はローバス王国紅蓮騎士団団長、ホルス=レグナール千騎長」

「・・・ほう、貴殿がシール王国随一の猛将、デルドを討ち取った男か」

 黒装束の男は歓喜の声を上げ、覆面を脱いだ。

 東洋の人間だった。

精悍な顔付きで、年齢はホルスと同じか、少し上ぐらいだろう。

「俺はラオ。ラオ=チェイン。強き剣士を打ち倒し、武を極めんとする求道者なり」

 ラオと名乗った男は剣を構え、ホルスを見つめた。

 殺気が周囲一面を覆い尽くした。

 一瞬の出来事だった。

 二人は同時に突進し、渾身の一撃を振り下ろしたのである。二人の動きは尋常な動きではなかった。腕力、威力ならばホルスが上だった。速さ、鋭さならば、ラオが上だった。だが、それもほとんど互角にしか見えない程度の紙一重の差だ。

 二人が一合と、また一合と、剣を交える度に火花が咲いた。

「グリュード以来だ! 俺と剣を交える事ができたのは!」

「最高だ! 貴様、全力を出せ! もっとだ! もっと! もっと! 本気で打ち込んで来い!」

 二人の戦士は狂喜していた。

 一人は互角の武勇を持つ親友と同じく、自分に匹敵する敵を得た事に。もう一人は、自分が今まで出会った中で最も恐るべき剣士に出会えた事に。

 剣を交える回数が五十を超えた時、二人はさらに加速した。

 一撃一撃が総じて必殺。

 剣が吼え、風を斬り、火花が散る。

 ホルスが必殺の一撃を放てば、紙一重でラオは捌き、すかさず反撃の鋭い一撃を放つ。ホルスも捌き、逆に反撃の鋭い一撃を放つ。ラオはその目にも止まらぬ一撃を避ける。

 二人の戦士の戦いは留まる事を知らなかった。だが、二人の戦いは突如中断された。

 二人が一度間合いを取り、再び突進しようとした瞬間、二人の間の地面に剣が突き刺さった。それは、ティアが投擲した剣だった。

「ティア! 邪魔するんじゃねえ!」

「女、我らの戦いを邪魔立てする気か!?」

 二人の戦士が同時に怒号を上げたが、ティアが怯む事は無かった。

「ホルス! 我らは一刻も早くアフワーズに向かわなければならない。ここで、時間を浪費する余裕は無い!」

ホルスは怒りに満ちた形相でティアを睨み付けると、大きく息を吐き出して舌打ちをすると剣を鞘に戻した。

「ちっ…。ま、そう言う事だ。ここはお預けだ」

 ホルスの言葉には苦々しさが入り混じっていた。「ホルス」としては、ここは一刻も早く立ち去るべきだ。だが、もう一人の「闘士ホルス」としては、どちらかが絶命するまで、例え全身の骨が砕け散りようとも、最後の最後、断末魔に至るまで戦い尽くしたいという衝動に動かされている。

「お前の事情なぞ、俺は知らん。どうした? 俺に勝てないとでも思ったのか!? 腰抜けめ!」

「慌てるな。また、お前とはどこかで出会えるだろう。その時は、都合さえ良ければ存分に相手をしてやるよ」

「……いいだろう。俺はお前の敵となり、次は必ず殺す」

 ホルスは返事をしなかった。ただ、黙って後ろを振り向き、馬に跨った。

 遠ざかる馬影を見送り、ラオはこれからどうするか思案した。

「さて、あのホルスとかいう奴。アフワーズに向かうとか言っていたな。ローバスは新たな国王が即位して間もないというのに、東で何かあるのかな?」

 レンの裏切りを知らないラオには今、ローバスが東西に分裂しようとしている事など想像の範疇を超えていた。ただ、東に急ぐと言う事は、東の護りを固める。と言う事ではないかと推測しただけに過ぎない。

「東といえばシール、トーラス、カーン・ラーの三カ国か。シールは大敗を喫したばかりだし、カーン・ラーは蒸し暑い。と、残るはトーラスか。また、戦えるかな? あの男と……」

 ラオは微笑みを浮かべると、アフワーズ城よりさらに東、トーラス王国へ向けて歩き始めた。

後書き


作者:そえ
投稿日:2009/12/06 21:05
更新日:2009/12/12 20:52
『ローバス戦記』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。

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