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雪原の鮮血
小説の属性:一般小説 / 異世界ファンタジー / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
ENDING
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刹那、暖かい液体が頬を伝った。しかし、既に彼には首を動かす力も残っていず、それは無常に零れ落ちる。しかしまた一滴。いくらでもいくらでも流れ落ちるその液体は、彼の頬に一筋の川をつくった。
力を振り絞った彼は身体を仰向けに回転させ、空を見上げる。泣いている。青い空が、透き通る、深い青空が涙を流している……。
「……どうして、戻ってきた……?」
もう二度と、音を発することが無いと思われた彼の口から言葉が搾り出される。涙で目を真っ赤にはらした彼女は何も答えず、ただ、ただ、涙を流し続ける。
「逃げろと、言ったのに……」
虚空を仰いだ彼の瞳はゆっくりと彼女を捉え、しばらく見つめ合った二人は、すべてを理解した。
地面が震えている。そしてその揺れは段々と近付いてきている。彼女はおもむろに彼を抱き起こし、自分の肩に彼の腕をまわして歩き始める。
彼はもう何も言わなかった。そして、彼の目からも涙が零れ落ちた。しかし、もう彼女は泣いていなかった。ざくざくと雪を掻き分けながら、しっかりとした足取りで彼女は歩き続けた。彼も、今やほとんど力が入らないのだが、少しでも彼女の負担を軽くしようと雪を懸命に踏みつける。
奴らの雄叫びが聞こえた。仲間を大勢殺めた人間を、彼らは許す気はないらしい。
「……ごめんな」
彼は天を仰ぎ見るように言った。
「ううん。私、今も怖いけど、あなたが『先に逃げろ』って言ったときの方が、もっと怖かったから」
彼女は固い決意を示した凛とした目を残し、彼に笑顔を見せた。真っ直ぐと前だけを見据え、後ろは決して振り向かない。それは彼女の生き様そのものであり、彼が彼女に惹かれた一因でもあった。
「……。なぁ」
「ん?」
「今度また、一緒に海を見に行こう。遠く、ずっと向こうの水平線に沈む夕日を……見に行こう」
彼らの向かう先には沈みかけた太陽。山際にまさに入り込もうとしている太陽と、周りに広がる一面の銀世界が、彼らの望む海の景色に似ていた。後ろから覆い被さろうとする波に揉まれながらも彼らは進む。安楽の地を求めながら、どこまでも、歩き続けるのだ……。
後書き
作者:遠藤 敬之 |
投稿日:2009/12/01 23:58 更新日:2009/12/06 20:27 『雪原の鮮血』の著作権は、すべて作者 遠藤 敬之様に属します。 |
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