「ったぁぁぁ！！」

　元気よい声が快晴の下のグラウンドに響いた。



『2-Ａ男子生徒アウト！！』

「よしっ！」

　右手で拳を作り、ガッツポーズをとる、麻生 弓。

　その持ち前の運動神経で非凡さを表していく弓に味方であるはずの女子たちも軽く引いていた。

　というより男子がちょっぴり情けなく感じてくるぐらい。寧ろ同情を誘う。

　だけど、弓を怒らせた……んじゃなくって弓にこのドッヂに参加させる気にさせたのは、あの男子三人組なので、私たち〈俺たち〉は悪くないと心中で首を振る全学年。



「ふんっ！

　やっぱりアンタたち残ったわね！！」

　鼻で笑って、弓は大きく腰に手を当てる。

　それに残りの男子三人組――あの弓をドッヂに参加させる気にさせた――が白線の向こうで弓をまっすぐに見返していた。



「まったく。女の子っていうことを理解してるんですか？　貴女は」

　溜息をついて、頭を抱える少年……柊 詩穏が、その茶髪混じりの黒髪を自分の細い指でもてあそぶ。



「詩穏。弓には何いっても無駄だろ。

　言っても実践したことなんてないんだからな」

　弓の幼馴染である、月波 槍が、詩穏に言葉をはさむ。

　風に靡いた槍たちが着ている1年指定の鮮やかな青色のジャージが揺れた。

　晴れ渡る空の下、行われているのは全学年合同ドッヂボール。

　男子は既に、槍たちのみ。女子は弓と村森 ユキだけ。



「槍が言うなら……ホントなんだろうな」

　眠そうに欠伸を噛んで、槍に言葉をかける少年。

　どこか詩穏に似ている。

　それもそのはず。

　彼は柊 琥音と言い、詩穏の弟にあたる二卵性双生児の片割れ。



「ちょっ！！　あんたたち言わせておけばぁ……！！」

　いらだたしさを隠すことなく、その言葉に乗せて発した。

　それをなだめたのは、槍と同じ部活である長槍部所属唯一の女子、村森ユキだ。



「ゆ、弓。そんな怒らなくても」

　恐る恐る、問いかけるユキの黒い両目にはちょっと涙が浮かんでいた。



「ユキ！？　あのね！　こいつらには1回痛い目を見させないと仕方ないの！！」

　ドッヂボールを握った右手が細かく震える。

　よほど、怒っているのだろう。

　右手の震えから、全身まで震えている。



「とにかく！　あんたたちをアウトにしてこっちの勝利よ！」

　弓は言いながらドッヂボールを投げつける。

平均女子がだすスピードではないと思いつつ、それをキャッチしたのは槍だった。



「いい加減、この剛速球にも慣れてきたよ……！」

　槍も平均男子が出すスピードを超えたボールを弓に向かって投げる。

　しかし、それをキャッチしたのは弓ではなかった。



「槍。弓だけじゃないんだからね？

　私だって、居るんだから」

　弓と槍、詩穏や琥音たちの視界で明るいブラウンが動いた。



『の、残り男子生徒アウト！！

　よって、今回の全学年合同ドッヂボール優勝は女子全学年となります！！』

　審判役の放送局員が驚きつつ、マイクに向かって宣言した。