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作品ID:47
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ライト・ブリンガー I ?蒼光?

小説の属性:ライトノベル / 現代ファンタジー / 批評希望 / 中級者 / R-15 / 完結

前書き・紹介


第三部 第五章 「真実、全てを知る時」

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 第五章 「真実、全てを知る時」





 誰もいない部屋の中、シェルリアは一人バスローブ姿で立っていた。濡れた髪が灯りの放つ光を反射して煌めく。仄かに火照った身体とは裏腹に、シェルリアの心は冷めていた。

 シェルリアの潜伏用に手配されたホテルの部屋は、彼女一人が使うには広過ぎる。今までと違い、今回の潜入工作は期間が短い。

 そのため、今まではいたシェルリアの親という役割を持たされた仲間もいない。親役と言っても、実質上の立場はシェルリアの方が上だ。普通の外国人の少女としての生活を周囲にアピールするためのものに過ぎない。だから、不自然にならぬよう、シェルリアは親しくなったと感じてくれるクラスメイトを家に招待したりもしてきた。

 だが、今回はそれもない。

 大きな理由は、ヒカルへの対処と、その後のVANの動きに関するものだ。ヒカルへの対処が成功するにしろ失敗するにしろ、VANの次の行動は既に決定している。シェルリアの部隊はその際、本部にいるように指示が出されている。

 夏休み明け数日で転校という事になる。

「……」

 シェルリアは濡れた金髪を拭く事もせず、大きなベッドに腰を下ろした。

 シャワーを浴びたが、気分は晴れない。

「……私、負けたのね」

 誰もいない部屋に、シェルリアの呟きが小さく響いた。

 吸収適応能力、いわゆる相手の具現力をコピーするという能力で、ヒカルを倒す事ができなかった。シェルリアの持つ能力も、あまり数の無い具現力ではある。

 加えて、普通の能力者は一つの具現力しか持たない。ヒカルのように、閃光型の能力と力場破壊の力を持つというのは極めて珍しいタイプだ。

 シェルリアはVANの中で多くの能力者と模擬戦を行った。

 その中で負けたのは、特殊部隊に属する上位の能力者ぐらいだ。特殊部隊の能力者は忙しく任務で動いているが、その中で戦った事がある人物は第一特殊機動部隊長ダスク・グラヴェイトと、その腹心リゼ・アルフィサスの二人だ。特殊部隊の者と手合わせをした事があるのはその二人だけだ。そして、シェルリアは二人に勝てなかった。

 ヒカルで三人目だ。

 同じ能力同士のぶつかり合いにおいて重要なのは応用力だ。どこまで力を効果的に使う事ができるかが決め手になる。ダスクやリゼのようにクセのある具現力においては、やはり使い込んでいる者に利がある。

 だが、二人の力に比べてクセの無い具現力を持つヒカルに、シェルリアは負けた。

 単純に、シェルリアが引き出せる限界を超えた力をヒカルは引き出していた。

 オーバー・ロードとはああいうものなのだろう。

 能力をコピーするシェルリアには、オーバー・ロードという知識はあっても実際に使う事ができない。オーバー・ロードのためには強い感情、もしくは凄まじいまでの精神集中を必要とする。能力をコピーして、どう相手を出し抜くかを考えて戦って来たシェルリアには、オーバー・ロードをするだけの感情の昂りも精神集中も存在しえなかったのだ。

 そして、躊躇う事なく、寿命を削るかもしれないオーバー・ロードを使うだけの覚悟もない。

 冷静に負けた理由を分析して、シェルリアは首を横に振った。

「私にも原因がある」

 そう、相手がシェルリアよりも上だったというだけではない。シェルリアの方にも問題はあった。

 シェルリアは全力でヒカルを殺そうとしていただろうか。否、後半は全力で戦おうとしていたが、待ち伏せした直後は考えを決めかねていた。

 少なからず、ヒカルに好意を抱き始めているシェルリアがいる。

「これも、運命なのかしら……?」

 ヒカルは、シェルリアの考えを認めてくれた。

 神の存在、運命というものの存在を認めてくれた。肯定もしなければ否定もせず、ヒカル自身の考えとは別に、そういう考え方もある、と言ってくれたのだ。

 シェルリアはそこにヒカルの真っ直ぐな態度を感じ取った。

 自分だけでなく、他人にも正直に、明確な意思を持った人物なのだと。

 ヒカルのような考えができる者達がもっと多ければ、VANの存在も必要なかったのかもしれないとすら思えるほどに。

 相手の意見が望んだものではなくても、そういった意見もあるのだと認める事ができれば、きっと多くの問題が解決するはずだ。宗教戦争や、それに近い民族の紛争、テロといった、争いはほとんどなくなるのではないだろうか。

 VANの発足は、能力者を排斥する非能力者の動きが発端になっている。迫害され、居場所を奪われた能力者達が、自らの居場所を作り出すためにVANを作った。

 相手を認める心をもっと多くの人が持っていれば、能力者の存在も認められたのではないだろうか。そうなれば、能力者達は居場所を失わずに済んだかもしれない。

「けれど、ヒカルは……」

 その心のために厳しい立場にいる。

 VANの存在も認める事ができるのに、ヒカルはそれを認めるわけにはいかない。自分自身の信念のために、VANが振り撒く火の粉を払わなければならない。

 相手を認める事ができるから、自分の生活を保ちたいから、VANに自ら攻撃をするような事はしない。だが、VANはヒカルへと攻撃の手を伸ばす。その度に、彼は辛い思いをしてきたのだろう。

 理解できる相手を振り払わねばならないのは、辛い事だ。

「……こういう事なのね」

 シェルリアはにわかに理解した。

 相手の事を考えれば、自ずと共感できる。それが思いやりや、優しさとなっていくのだろう。

「カソウ・ヒカル、か……」

 その名を呟き、シェルリアは目を細めた。





 光は耳を疑った。

 孝二が克美と結婚するというのか。

「……本当に?」

 思わず、口を突いてその言葉が出ていた。

「ああ、本当だ」

 孝二が頷く。

 光は一瞬、言葉を失った。

 何も考えられず、その場にへたり込みそうになる。

 最悪の事態だ。

 VANの人間が家族と結び付いてしまう。

「俺は、反対だ」

 口を突いて出てきた言葉に、光は動揺していた。

 本音が出てしまった。克美の前で言うべきではない、言葉を。

「光……?」

 孝二が驚いて光を見つめる。

「あ……いや、だって……香織さんは……?」

 慌て、焦りながら、光はどうにか言葉を繕った。

「私と孝二君、香織の三人の時に出た結論よ。彼女も知っているわ」

 克美が言った。

 光が反対した事に対する様子の変化は見受けられない。だが、恐らくはこれで光が克美の正体がVANの人間だと知っている事がばれてしまったかもしれない。

「……じゃあ、叔父さんは香織さんの事どう思ってたの?」

 光は克美から視線を孝二へと戻した。

 克美より、香織の方が共に過ごした期間は長い。何故、彼女と結婚しようとは思わなかったのだろうか。光の目には不自然に映っていた。はっきりとそう尋ねるつもりはなかったが、香織に対する思いを聞きたいのは本当だった。

「……あいつも結婚相手ぐらい自分で探せるさ」

 孝二は苦笑する。どこかぎこちなく。

「――嫌いじゃなかったんでしょ?」

「まさか」

 咎めるような光の問いに、孝二は視線を逸らした。

「じゃあ、何で……」

「光は克美が嫌いなのか?」

「……!」

 孝二の言葉に、光は眉根を寄せる。

「そんな事、関係ないよ……」

「なら、どうしてお前は僕と克美の結婚に反対なんだ?」

「それは――」

 ――克美が敵だからに決まってるじゃないか!

 叫びそうになる自分を抑え、光は別の言葉を選ぶ。

「――香織さんの方が、好きだから。今まで、沢山世話になったし……」

 少しずつ、声量が落ちていくのが判る。

「光……」

 孝二が目を細める。どこか哀しげな表情にも見えた。

「……孝二君、私はどちらでも構わないわよ。あなたが後悔しないようにして欲しいわ」

 克美が孝二に言う。どこか含んだような笑みを向けて。

「いや、僕は克美と結婚するよ」

 微かに孝二の表情が翳ったようにも見えた。

 やりとりをする孝二と克美の表情に、何か裏があるのではないかと推測しようとする自分がいる。そうあって欲しくないという願望から来るものなのだろう。裏があってくれた方が、光には気が楽かもしれないのだから。

「……香織さんは、何て言ったの?」

 孝二は首を横に振った。

「香織は認めてくれたわよ」

 克美が言った。

 その瞬間、光は駆け出していた。

 孝二と克美から視線を逸らし、光は玄関で靴に足を押し込んで家を飛び出した。香織のいるアパートへ向かって。

 夏の日没は遅い。まだ、日は沈み切っていなかった。

 香織のアパートは徒歩五分ぐらいの距離にある。走れば三分、自転車なら一、二分で辿り着ける。

(……聞けなかった)

 光は唇を噛んだ。

 孝二に克美と結婚する理由を、答えてもらえなかった。問いを返されて、はぐらかされてしまった。何かあったのではないか、と聞く事ができずに、家を飛び出してしまった。

 だが、感情を抑え切れなかった。

 あのまま、あの場にいたら克美に襲い掛かっていたかもしれない。

 家の中で戦うのだけは厭だった。両親が残した、光の家をVANの人間の血で汚したくない。

 だから、光は走った。

 抗うために。

 光はアパートの香織の部屋の前に辿り着き、扉を開けた。チャイムも鳴らさずに。

 鍵は、かかっていなかった。

「香織さん!」

 光は呼んだ。鍵が開いているという事は、香織は家の中にいるはずだ。

「光、君……?」

 驚いた表情の香織が奥の部屋から顔を見せた。

「どうしたの? そんなに慌てて……」

「叔父さんが克美さんと結婚するって、聞いたんでしょ?」

 光は荒い呼吸のまま、香織に尋ねる。

「……ええ」

 香織が目を伏せた。

「克美さんは、香織さんが認めたって言ってたけど、本当なの?」

 光の言葉に香織は静かに頷いた。目を伏せたまま。

「何で!」

 光の叫びに、香織が顔を上げた。

 目を見開いて、光を見つめる香織に、言葉が詰まる。

「香織さんは、叔父さんと結婚したかったんじゃないの?」

「それは……」

「だって、香織さんはいつも叔父さんと一緒にいたじゃないか!」

「光君……」

「父さんと母さんが死んで、叔父さんと暮らすようになる前から一緒にいたんでしょ?」

 香織を無視して、光は言葉をぶつけた。

 孝二が光と晃を引き取って、光達の両親が残した家に住むようになってから直ぐに、香織は顔を出すようになった。孝二とは昔からの付き合いだと直ぐ判る態度で接し、光達にも良くしてくれた。

「叔父さんの事、何とも思ってなかったんなら、一緒にいるはずないじゃないか!」

 光の言葉に、香織が押し黙る。

「叔父さんだって香織さんと――」

「――やめて……!」

 香織の放った言葉に、光は口を噤んだ。

「これは、大人の問題なの」

 香織はそう告げた。辛そうな表情を見せて。

「でも、いつも一緒に……!」

「それがいけなかったのかもしれないわね……」

 香織が呟いた。

「私と孝二はいつも一緒にいた。だから、孝二君にとっては私は妹みたいな存在にしか見えなかったのかもしれないわ」

 孝二と香織は幼馴染だった。年齢は香織の方が一つ年下なのだが、年度という枠で見れば同年代になる。香織の誕生月は三月だった。対する孝二は四月生まれだ。

 同じ学年で過ごしていても、これだけ期間が開けば年下の妹のような存在に思えても仕方がない事なのかもしれない。

「何度か、告白した事はあったのよ」

 香織が言う。

 中学を卒業し、高校に入学してから一度、香織は孝二に告白したのだと、香織は言った。

「でも、その度にはぐらかされて、一度もまともに答えてくれなかった」

 香織が目を伏せる。

「私とは友達以上に付き合ってくれてるクセに、ね……」

 哀しげな香織を見て、光は確信した。

 やはり、香織は孝二の事が好きなのだ。何度か告白した事があったというのがその証拠だ。そして、今もその想いを振り切れていない。本当は孝二と結婚したいと思っているに違いない。

「だからって……!」

 妹のような存在だとしても、それは大切にしているという点においては同じだ。血縁の妹では勿論ないのだから、結婚だってできる。

「孝二は私の想いを知った上で克美を選んだのよ!」

 香織が声を強くして言った。

 告白したという事は、香織の想いを孝二は知っているという事だ。それでも、孝二は香織を選ばなかった。

「それとも、私に同情してくれているの?」

「違う……! 俺は……!」

 香織の言葉に、光は首を横に振った。

「同情ならいらないわ。昔から、孝二は私と結婚してくれないって判っていたのにね……」

「そんな事ない!」

「優しいのね……」

 哀しげに微笑む香織の目には、諦めの色が浮かんでいた。

「俺は、家族になるなら香織さんの方がいい!」

 光の訴えに、香織は背を向けた。

「……そんな事言うもんじゃないわ、光君」

「だって……!」

 その先は言えない。光は奥歯を噛んだ。

「孝二の選んだ、克美の事を悪く言っては駄目よ。これから家族になるのは、彼女の方なんだから」

「それが、俺は厭なんだ……!」

 克美はVANの人間だから。その言葉が言えない。言うわけにはいかない。

「我侭を言わないで! これは孝二の問題なのよ!」

「香織さんの問題でもあるじゃないか!」

「言ったでしょ、これは大人の問題なの! あなたには解らない事が沢山あるの!」

「じゃあ、香織さんは納得してるのか!」

 光の言葉に、香織の肩が震えた。

「出てって!」

 香織が叫んだ。

「くそっ!」

 光は駆け出した。

 開け放たれた香織の部屋から、微かに「ごめんね……」という声が聞こえた気がした。

 自分の家にも、香織のところにもいられない。

 光は居場所を奪われたも同然だった。

 克美は最初からこれを狙っていたのだろうか。いや、狙っていたのだろう。彼女が言っていた、第二段階というのは恐らく、この事態を引き起こすのが目的だったのだろう。光の家族に接触する事で、光の動向を探ると同時に、身分がばれたならプレッシャーをかける。そして、孝二に告白する事で家族の内部に入り込む。

 光が克美の正体に気付いているならば、これほど効果のありそうな状況はない。

 冷静な判断を失わせ、慌て、焦り、行動を起こす光を叩く。

「くそっ……くそっ……!」

 息が乱れても、光は走るのを止めなかった。

 日の沈み切った暗い空の下を、一人、ひたすら走り続けた。

(どうすれば良い! どうすれば……!)

 光の精神がぐらついている。

 今攻撃されれば、うまく立ち回る事ができないかもしれない。

 相手が攻撃できない場所に身を隠すしかない。だが、家も、香織のアパートにも、光の居場所はないのだ。

 ――全てが思い通りに行く事なんてない。

 光の父、光一の言葉が思い出された。

 ――だから、少しでも近付けようとするんだ。

 最も印象深く記憶に刻まれた言葉。

 今まで、光の一部を支えていた言葉だ。

 全てが思い通りに行くとは限らない。むしろ、思い通りにならない事の方が多いだろう。だが、それでも人は思い通りの結果を望む。そのために、動く。

 理想へと結果を近付けるために。

(そうだ、乱されたら駄目だ……!)

 この状況を打開するために、何をすべきか。

 孝二と克美の結婚を食い止める必要がある。そして、克美を倒さねばならない。

 光は足を速めた。

 落ち着けと、自分自身に言い聞かせて呼吸を整える。走るリズムに合わせて、息を調節する。

 そして、光はサイクリングロードに飛び出した。

 周囲の気配を読み、誰もいない事を確認してから具現力を解放する。

 拡大された身体能力を使い、光はサイクリングロードを駆けた。人間の限界を超えた速度で、一気に目的の場所へと駆け抜ける。

 マンションが見えた時、光は思い切り地面を蹴飛ばした。マンションの四階通路へと向けて。四階の通路の手すりを右手で掴み、身体を引き寄せる。地面を蹴った、跳躍時の慣性を、右手を中心に移動させ、床に両足を付けた。それも、音も無く。

 能力を閉ざすと同時に、光は左手でマンションの呼び鈴へ、右手でドアノブへと手を伸ばしていた。

 呼び鈴を押してドアを開ける。

「――修っ!」

 目的の人物へと声を投げ、光は部屋の中に足を踏み入れた。

「……光?」

「今晩泊めてくれ!」

 光の言葉に、修が目を剥いた。

「……え、光さん? どうしたんですか?」

 部屋の奥からエプロン姿の有希が出てきた。

「……何か、あったんだな」

 真剣な表情の光を見て、修はそう呟いた。光への確認の意味もあったのかもしれない。

 ただ、光が修の家にこれほど真剣な面持ちで現れた事はない。修でなくても、何かあったのだと気付く事はできるだろう。だが、それを問いではなく、呟きとして口に出せるのは、修ぐらいかもしれない。

「……色々、考えたい。それに、お前の意見も聞きたい」

 光は肯定の言葉として、そう告げた。

「まぁ、とりあえず上がれ」

 修の言葉に応じ、光は靴を脱いで部屋の中に入った。

「麦茶でいいですか?」

「あ、うん」

 有希の言葉に頷いて、光はリビングで腰を下ろした。

 テーブルの上に夕食が用意されていた。食事中だったらしく、食べ掛けだ。

「それにしても、お前も無粋な奴だな」

 修がテーブルに座り、食事を再開する。

「ねぇ、有希?」

「そんな事言っちゃ駄目ですよ」

 そう言って麦茶を差し出す有希に、光は礼を言ってコップを受け取った。

「……で、どうしたんだ?」

 修が焼き魚をつつきながら問う。

「……叔父さんが、克美と結婚するって言ったんだ」

 修の手が止まった。

「結婚ですか! それはおめでとうございます!」

 有希が目を輝かせて両手を合わせる。

「違うんだ……克美は、VANの人間なんだ」

 苦々しげに告げられた光の言葉に、有希が目を丸くする。

「叔父さんの幼馴染の香織さんは、大人の話だって諦めてるみたいでさ」

 光は麦茶を一気に飲み干した。

 動き回った後の冷たい麦茶は美味しかった。

「あれじゃあ、俺、家にいられねぇよ……」

 光は目を伏せる。

 VANの克美と、何も知らない孝二と晃のいる家では、光はまともに過ごす事ができない。今まではどうにか耐えてきたが、結婚するというところにまで発展した現状では、自己制御が難しい。

「それで、家出か……」

 修が呟いた。

「考えようによっちゃ、むしろその方がいいかもしれないぞ?」

「……どういう意味だ?」

 修の言葉に、光は顔を上げる。

 孝二と克美の結婚の方に何か利点があるとでも言うのだろうか。

「VANの人間が家族になるって事は、常に身近に監視が付くって事だろ。状況を聞く限りじゃ、克美がお前をどうこうしようって事は言って来てないわけだよな?」

 頷く光を見て、修が言葉を続ける。

「って事は、もしかしたら、克美がいる事で逆に平穏な生活ができるかもしれないって事だ」

 修の言葉を、光は吟味する。

 つまり、克美が光を身近な家族の立場から常に監視する事で、光への攻撃が無くなる可能性があるというのだ。常に監視し、動きを把握され続けた時、光が何も攻撃行動を起こさねばVANからの襲撃も無いかもしれない。光がVANにとって無害である事を見せ続ければ、VANも手出しをしない可能性がある。

「それに、長期間、お前がVANに攻撃をしない中立の存在だと示し続ければ克美も組織に戻るかもしれない」

 VANに無害だと光を示し続ければ、やがて克美も組織に戻るだろう。

「……厭だな、それ」

 光は言った。

「VANの存在を家族の中に認めろってんだろ? そんなの不快だ」

 光は吐き捨てるように言った。

 家族の中にVANは要らない。

「平穏な生活ができても、か?」

「俺は俺の望む生活が欲しいんだ」

 修の言葉に、光はそう切り返した。

 光が望むのは、具現力に覚醒する前と同じ生活だ。そこにVANやROVの存在は必要ない。いや、むしろ無い方が良い。VANの存在をそこまで許容して平穏な生活を送る事は、今まで命を奪って来た相手に対しても失礼だ。

 それに、VANを許して得た平穏な生活など、いつ崩されるか判らない。油断した時に奇襲を受けて殺される可能性だってあるのだ。

 中立だと伝えた後に、光へ攻撃を仕掛けてくるような組織を信用などできるはずがない。

 美咲の死を無駄にしないためにも、VANには抗い続けなければならない。

「相変わらず、我侭だな」

 修が笑った。

 嫌味などではない、自分に正直な光を認める笑みだった。

「そんなもんだろ?」

 光も笑みを返す。

 VANは認めない。

 VANも、ROVもない、平穏な生活こそが光の求めるものだ。同時に、光が求めなければならない事でもある。そのために、光は戦って来たのだ。光の生活から、VANの干渉を無くすために。

「それで、どうするつもりなんだ?」

 修が問う。先に光の意見を聞こうと言うのだろう。

「……先に攻撃を仕掛けようと思ってる」

 光は言った。

 もう、先手を打たれてしまった。

 将棋で言えば、飛車角取りを食らっているようなものだ。光が家族に隠していた能力者としての自分を明かすか、VANの人間を家族に迎えて耐えて生きるか、どちらか一方を取るしかない。光が選ぶのは、前者だった。

 どちらを捨ててもまだ生きていく事はできる。だが、一方のみを決断する事はそれだけ光にとっては厳しいものだ。

「デメリットの方が多い気もするな」

 修が言う。

 光が能力者であるとバレた時、家族はどう反応するだろうか。一般人と同じレベルで考えれば、まず光に対して様々な感情を抱くだろう。恐怖し、光を疎外するかもしれない。そこから家族が内部崩壊を起こす危険性すらある。

 大して、克美を家族に迎え入れた時のデメリットは少ない。光が耐えさえすれば、能力者である事は知られずに過ごして行けるだろう。もっとも、それも克美が光の事をばらさなければの話だが。

「そうでもないさ。俺のストレスは減る」

 光が自らの存在を家族に明かした時、能力者である事を隠し続けるために抱いてきたストレスや疎外感は消える。同時に、今感じている克美に対してのストレスも消失するはずだ。

「まぁ、一番の理由は別にあるけどな」

 光の言葉に、修は微かに目を細めた。

 心に誓った力の使い道は、降りかかる火の粉を払うため、だった。自らの欲望のために使う事でも、復讐のために使う事でもない。

 守るために使うと決めたものだ。

 自分と、家族と、親友と。大切なものたちを守るために振るうと決めた力だ。

 そのために、克美を倒す。彼女は家族に害を及ぼす危険性の高い存在だ。VANの人間であるというだけで、光の家族を抹殺しようとする理由は存在しているはずだ。

 火の粉を払い、家族を守るために、光は克美を倒す事を決意した。たとえ、光が能力者だという事が家族に知られてしまうとしても。

「修はどう思う?」

「俺も近くにVANの奴がいるのは気に食わないな」

 光の言葉に修は食事を続けながら答える。

「積極的に俺達、っつっても主にお前だけど、に干渉してくるVANの能力者はお引取り願いたい所だな」

 修が光の言葉を肯定する。

 明らかに光と修に対するあてつけのようにも思えてくる。そんな存在が身近に、しかも親友の家族の一員になろうとしているのは阻止したい。それが修の本音だろう。

「けど、修は今回戦わない方がいいかもしれない」

 光は呟いた。

 克美を倒すという事は、孝二や晃に能力者である事を知られると見てまず間違いない。家族の光はともかく、修まで巻き込むのは申し訳なかった。

「……別に、気にしねぇよ」

 修は言った。

「むしろ、俺が戦って光が戦わない方がいいんじゃないか?」

 修が戦えば、修が能力者だと気付かれる。だが、孝二や晃にとっては光が能力者である事を悟られるよりもその方がいいかもしれない。家族が能力者であると知った時の反応を恐れている光が安心できる方法でもある。

「俺は一人暮らしだし、有希は能力者だからな」

 どの道、両親の耳に修が能力者である事が知られても、修自身にとってはさほど困る事ではないのだ。愛の無い家族から逃れる理由としては、むしろ十分過ぎるかもしれない。

「いや、俺は戦うよ」

 光は微かに首を横に振った。

 これは光の戦いだ。光を狙って来たVANの構成員が克美だ。ならば、それに対処するのは光であるべきだ。修が攻撃をするならば、確かにそれは有効な先手となるかもしれない。だが、代わりにVANの内部に置ける修の危険性を高めてしまう結果になる。

 今のところ、修は目立って地位の高い能力者を倒していない。ランクの高い敵は常に光や、ROVの人間が仕留めてきた。

 能力自体は知られてしまっているかもしれないが、実質的に高ランクの能力者を倒していないのだから、戦闘力自体はそれほどあるとは考えられていないのではないか。それが光の推測だった。

「お前には有希がいるだろ?」

 有希を狙う者がいないとは言い切れない。

 もしかしたら、光の知らないところで有希は狙われているのかもしれないのだ。彼女を守るのは修の役目だ。出来る限り光も力になってやりたいとは思うが、有希は修を、修は有希を選んでいる。

「今、俺が守らなきゃならないのは、家族だから」

 薄く笑みを浮かべ、光は告げた。

 修はただ一度、頷いた。光の意思を尊重するかのように。

 両手を後方の床につけ、上体を少し後ろへと倒す。天井を見上げて、光は大きく息を吐いた。

 修と会話し、だいぶ落ち着く事ができた。

 家では克美の存在が光を焦らせ、香織とは口論に近い事をしてしまった。落ち着いて、冷静に考えられる場所がなかったと言い換えても良い。

 心を許せる親友、修の家に来て、ようやく落ち着けた気がした。

 修が心を許した相手である有希なら、会話を聞かれても構わない。彼女が能力者である事を考えれば、仲間だと言っても良いだろう。

「……なぁ、俺にも飯、くれないかな?」

「あれ? 食ってなかったのか?」

 光の言葉に、修が驚いたように目を丸くした。

「結構腹減ってんだぞ」

「あ、ご、ごめんなさい! 直ぐに用意しますね!」

 有希が謝り、白米のご飯を用意する。

「あ、ついでにおかわり頼める?」

「はい、大丈夫ですよ」

 有希から椀を受け取り、光は近くにあったコンビニの買い物袋の中にあった割り箸を取り出して食事を始めた。おかずはほとんど修によって食べ尽くされていたが、味噌汁と一緒に胃袋に納めた。

 味噌汁ぐらいしかなかったが、それでも有希が料理上手である事は判った。薄過ぎもせず、濃過ぎもしない、丁度良い味付けだ。長年食べてきた香織の料理の腕前に匹敵するかもしれない。

「いいなぁ、料理上手で……」

「ふはは、羨ましかろう」

 光の一言に、修がふんぞり返る。有希はというと照れて顔を赤くしていた。

「おかわりとか、大丈夫ですか……?」

「ああ、足りたよ、大丈夫。ありがとう」

 不安げに尋ねる有希に、光は笑みを返した。

「意外と少食なんですね」

「力を使いまくってたらもっと食うけどね」

 光は肩を竦めた。

 腹七、八分目ぐらいだが、自分の家ではないのだから、贅沢を言うわけにもいかない。光の方が押しかけてきたのだから、貰えただけありがたいと思うべきだ。

 本当は、シェルリアと戦っている。だが、オーバー・ロードによる反動のせいかいつもより食欲がなかった。

「ご馳走様でした」

 手を合わせて修が告げる。

 食事を終えた修は有希と一緒に食器を片付け始めた。台所のスペースの都合上、光がそこに並ぶ事はできない。

「そういえば、こっちから打って出るにしてもいつ攻撃するつもりなんだ?」

 台所から修が光へ言葉を投げた。

「今直ぐにでもやれるけれど?」

 光は答える。

 この後、直ぐに攻撃を仕掛ける気力はある。修が手伝うと言ってくれるのなら、彼の都合も考えたい。

 克美は部隊長だ。光が攻撃を仕掛けた後、克美は部下を呼ぶだろう。第二特殊特務部隊ともなれば、それなりの人数がいるはずだ。隊長を倒せば部隊が崩壊するとはいえ、複数の部下の支援を受けながら戦う克美を光一人で仕留めるのは難しい。部下のほとんどを引き付け、光と克美の戦いを一対一の状態に保ってくれる味方の存在は必要だ。

 たった二人でどこまでやれるか判らない。光が大部隊の隊長と戦った際には、常にROVがいた。VANとROVの衝突の中で、光は戦って来たのだ。

 だが、今回はROVとの共同戦線ではない。光と修の二人で戦わなければならないのだ。

「今は止めといた方がいいな」

「何故?」

「お前が家を飛び出してきた事から、相手は直ぐに仕掛けてくるかもしれないと考えるはずだ」

「そうか……」

「だったら、明日の方がいい。もし、克美が戦闘前に部下を呼んで配置していたなら、敵を確認した上でその陣形を崩すように奇襲した方がいいだろ?」

 修の言葉に頷き、光は息を吐いた。

 こういう時こそ焦るべきではない。

 今直ぐに攻撃をした方が奇襲になるかもしれないと思っていたが、光の行動を考えれば修、つまり仲間を呼びに行ったと考えられてもおかしくはない。感情的になっていた事を考えれば、克美が準備を整えて待ち構えている可能性もある。

 一日置いて、光と修も作戦を練った方が良い。二人だけでできる事はそれほど多くないが、何もせずに突っ込んで行くよりはマシだ。

「じゃあ、シャワー浴びて来ますね」

「あいよー」

 有希と修の遣り取りを見て、光は薄く笑みを浮かべていた。

 いつか、光にも二人のように自然に遣り取りできる相手ができるのだろうか。美咲はそうなる前に、光の前からいなくなってしまった。光自身も、彼女に応える事ができなかった。

「……悪かったな、いきなり来て」

「ん、気にすんなよ」

 光の言葉に、修は言った。

 その後、有希と入れ替わりに修がシャワーを浴び、適当に時間を潰して眠る事となった。有希は修と同じ部屋で寝る事になっており、光はリビングの床で眠る事にした。

 薄い掛け布団を修から借りて、光はリビングで横になっている。

 夏場であるため、布団一式が必要なほど寒くは無い。むしろ、暑いぐらいだ。

 修と有希は眠っただろうか。

 同じ部屋で寝ていると修に言われた時、妙な想像を仕掛けたが、修自身がそれを止めた。有希に「まだ」駄目だと言われたのだそうで、お預けを食らったままのようだ。

 ふと、光は考えていた。

 今後、家族に接触するVANが現れた時、光はどう対処すべきなのだろうか。光が能力者だとばれた後なら、正直に話せば解ってくれるかもしれない。だが、克美を上手く誘導して家族にばれずに処理できたなら、今後の行動はもっと慎重に行わなければならない。どんな形で家族に接触してくるかも判らない。今回は偶然、克美が孝二の知人だったから今の状況になっているのだろうが、関係ない人物が接触してきた時は光の知らないところで事態が変化してしまう可能性もある。

 今回の事で、能力者の存在を孝二達に明かしてしまった方がいいかもしれない。

「そうなったら、俺、一人暮らしかな……いや、駄目か」

 溜め息を付く。

 一人暮らしを始めて、家から離れたら家族を守れなくなってしまう。どんなに疎まれようとも、家を出て一人暮らしなんてするべきではない。

「難しいな、守るのは……」

 もう一度溜め息をついた。

 光の選んだ道は険しい。

 ROVのように自らVANを倒そうと戦っているわけでもなく、ただ守り続ける事が光の戦いだ。修を巻き込んだ事もあった。美咲を死なせてしまった。そして、今は家族が危ない。

「どこまでできるかな、俺……」

 暗い部屋の中、光は右の掌を天井へと掲げた。

 光が死ねば全て解決してしまうかもしれない。少なくとも、光は今の戦いから解放され、同時に家族はVANの攻撃対象から外れるだろう。だが、既に覚醒している修は狙われたままだ。

 修を放っては置けない。修の覚醒が光の覚醒に影響されたものであるのなら、尚更だ。ただの親友ではなく、共に戦う戦友でもある修を一人残して死ぬわけにはいかない。

 共に最後まで戦うと決めた。

 限界まで抗い続けると。

「いや、やれるだけやるんだ……!」

 掲げた右手を握り締め、顔の前へと持ってくる。

 どこまで戦えるのかを心配するよりも、自分の力を全て出し切れるように考えるべきだ。心配が不安となり、敗因となる。前を向き、しっかりと意思を持つ。

 大きく深呼吸し、光は目を閉じた。

 まずは、しっかりと身体を休めるために。



 翌日、日が沈んでから光と修は行動を起こした。有希は修のマンションで待機している。万が一、光や修、孝二たちに怪我人が出た場合は修の能力で有希の所へ転送する手筈になっていた。

「修、俺が克美を家の外に引き摺り出す。そしたら、いつもの河原まで転移させてくれ」

「解った」

 光は修と言葉を交わし、サイクリングロードの分かれ道から自宅へと走った。

 呼吸が乱れない程度の速度を保ち、周囲の気配を探る。かなり遠いが、複数の視線を感じた。部下が集まって来ている。恐らく、克美が戦闘態勢に入った時、光へと一斉に攻撃を仕掛けるつもりだろう。

 その前に修が河原に飛ばしてくれるはずだ。

 光は無言で玄関の戸を開け、中に入る。

 靴の数から、香織までいると判った。

「光! 昨日どこに行ってたんだ! 心配したんだぞ!」

 顔を見るなり、孝二が光に駆け寄った。怒ったような、それでいて心配そうな表情を顔いっぱいに浮かべ、光の両肩に手を置いている。

 光は叔父の顔を見上げ、リビングの香織へと視線を向けた。香織は光と目が合った瞬間、視線を逸らした。微かに哀しそうな顔をして。

「光が帰って来たのか!」

 晃が階段を駆け下りてくる。

「何考えてんだよお前!」

 無言の光を晃が肩を掴んで揺らした。

「結婚に反対だからって家出だなんて我侭過ぎるぞ!」

 何も知らないからそんな事が言えるんだ。昨日の光ならそう反論していただろう。

 だが、今の光は落ち着いていた。

 これからの行動を成功させるためには、冷静でいなければならない。精神を落ち着けた状態の光は、無表情を少しだけ哀しげに歪めて晃から視線を逸らした。

 そして、光は最後に克美に視線を向けた。克美は自然体で座っていた。

 何か言いたげな晃と孝二を振り切って、光は克美の前まで歩いて行く。

 視界がブレる。具現力を身体の外側に出さずに解放する。防護膜を出さず、見た目を変えずに力を発揮させた。具現力解放時本来の身体能力と力場は使えないが、身体能力だけは常人以上のものになる。

「何かしら?」

 首を傾げる克美を見て、光は拳を握り締めた。

「私に文句を言うのは間違いよ?」

 これは孝二君の問題なんだから、克美が口元に笑みを浮かべる。

 気付かれている。光はそう結論付けた。

 外で感じた気配からも予想していたが、克美は自分の正体がばれている事に気付いていたのだ。その上で孝二との結婚話を持ちかけたのだろうか。

「ちょっと、ついて来てくれないかな?」

 光の言葉に、克美は驚いたようだった。孝二や香織も驚いている。

 克美はそれでも頷き、光の後について玄関まで言った。靴を履き、光は玄関に手をかけた。

「どこに行くつもりだ、光!」

 孝二が慌てたように叫んだ。

「決めたんだ」

 振り向かず、光は口を開いた。

「俺はもう、隠さないって」

 戸を開けると、光は克美の腕を掴んで半ば強引に外へ押し出した。

「サイクリングロードの付近にいるから」

 それだけ告げると、光は外に出て戸を締めた。

 瞬間、周囲の景色が変化する。

 修の空間破壊能力だ。

 光と克美のいた周囲の空間と、サイクリングロード横の河原までの空間を破壊して繋げたのだ。瞬間的に移動した光の隣に、修が立つ。

「上手く行ったみたいだな」

 修の言葉に、光は首を横に振った。

「まだ、これからだ」

 克美へと視線を向け、光は告げる。

「少し不意を突かれたわね。油断してたわ」

 克美はそう言って目を閉じた。

 そして、開いた時には彼女の虹彩の色は変化していた。日本人特有の茶色の瞳から、くすんだ緑色の瞳へ。

「本当は、気付いた直後に殺したかったよ」

 光は告げ、力を解放した。蒼白い光が視界を満たす。

 修も力を解放する。黒い瞳が闇色の光を帯びる。

「今からでも遅く無いわ。VANに来ない?」

「俺はVANの人間を何人も殺してるんだぞ?」

「家族に、ばれるわよ?」

「いいんだよ、それで」

 挑戦的な表情を浮かべたままの克美に、光は挑発的な笑みを見せた。

「居場所がなくなるかもしれないのに、よくやるわ」

「その時はその時だ。これからお前らが同じような手に出た時への対処にはなる」

 能力者の存在を知り、光が家族も狙われている事を教えれば、孝二達は自衛の手段を考えるようになる。それだけも効果はあるのだ。周囲の人間全てに対して警戒する事にも繋がりかねないのは解っている。それでも真実を知っていた方がいざという時に光の言葉に耳を傾けてくれるはずだ。

「愚かな選択ね」

 克美が鼻で笑う。

「俺に言わせりゃお前らの方がよっぽど愚かに思えるけどな」

 中立を宣言し、戦いたくないと告げた光へと攻撃をするVANが、憎たらしい。何も干渉してこなければ、光からも行動しないと決めていたのに、VANは攻撃を仕掛けてくる。

 光は修と視線を交わし、踏み込んだ。

 一気に加速し、克美へと接近する。

 克美は笑みを浮かべ、掌を光へと向けた。直後、光は衝撃を感じて吹き飛ばされた。

「うぁっ!」

「光っ!」

 修の足元の砂利が爆ぜた。

 何か爆発のような衝撃が命中したかのように見えた。

 舌打ちし、光は修と共に後方へ跳んで距離を取る。

 克美の攻撃が見えなかった。恐らくは具現力を使ったのだろうが、力場を捉えられなかった事に光は動揺していた。本来ならば力場に包まれた空間が攻撃力を持つのだ。だが、克美は光や修へ力場を伸ばさずに攻撃を行った。

 相手の手の内が見えない。

「光、ここは俺が……!」

 修が前に出ようとした時だった。

「なに、あれ……!」

 香織の声が聞こえた。

 河原の脇にあるサイクリングロードに孝二と晃、香織の姿があった。香織は手で口元を押さえ、光と克美を見て目を大きく見開いている。まるで、信じられないものを見ているかのように。

 晃も同じだった。光が防護膜に包まれた姿を見て目を見開いている。

「……光、お前――」

 孝二が頬を引き攣らせて呟いた。

 光は哀しげな笑みを返した。

 俺は普通の人間じゃない。そう伝えたくて。

 だが、孝二の次の言葉を聞いて光は耳を疑った。

「――覚醒していたのか……!」

後書き


作者:白銀
投稿日:2009/12/12 04:24
更新日:2009/12/12 05:07
『ライト・ブリンガー I ?蒼光?』の著作権は、すべて作者 白銀様に属します。

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