ある晴天の日、少年は下を向いて歩いていた。髪は黒で肩ぐらいまで伸ばしており、ところどころ寝癖ではねている。下を向いているその顔は不機嫌ですと言わんばかりで、ポケットに手を突っ込み、顔、姿ともに不良を連想させた。

　そんな少年に一人の厳つい男がぶつかった。

　「痛ぇな、おい、糞餓鬼。待てよ」

　男も機嫌が悪かったのか少年を呼び止めた。少年は、あ？といいながら顔をあげる。

　「……何」

　その顔を見るなり男の表情をみるみる青ざめていき、震えだした。

　「お、お、お、お前は……し、死にが――ラルク・マキアート！！」

　男は少しずつ後ろに下がる。

　「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ」

　男は一目散に逃げていった。その声を聞き、事態に気づいた人たちが少年――ラルクを見、そっと足取りを早くし立ち去っていった。

　ラルクの周りは誰もいなくなった。

　その様子を一通り見ると、ラルクは小さくため息をつき、また歩き出した。



　ラルク・マキアート。異名、死神。勿論、この異名をラルク自身は気に入っていない。

　今でこそ諦めているが、以前はその名前を呼ばれムカつき、名を呼んだ奴の頬を一発殴ったことがあったが、そのせいで噂は広まり、さらに死神の名が知られてしまったこともあった。

　そもそも、何故『死神』という名がラルクについたか。今思えば、いろいろなことが重なってしまったとラルクは思う。

　マキアート家は今はボディ・ガードとして働いているが、マキアート家はラルクの叔父の代まで殺し屋を営んでいた。ちなみに、ラルクは一応一七代目である。よく教科書などに出てくる偉人の暗殺はほとんどマキアート家がしていたといっても過言ではない。

　しかし、今では殺し屋も中々雇われることが無く、生活をしていく為、父の代で殺し屋を辞めたが、それは中々世間には受け入れられない。父はもともと社交的だったのもあり、今では中心都市で誰か偉い人の護衛を続けている。しかし、世間は父を受け入れたわけではない、恐れているのだ。父だって殺し屋として人を殺したことがある。人々からの恨みを買っている。

　そのしわ合わせのように人々の恨みや憎しみは全てラルクのほうへと注がれた。知らない人に突然呼び出され、殴られることもしばしば合ったが、それらを全てラルクは叩き潰していった。

　そのせいもあり、皆ラルクには近づかなくなった。怯え、憎しみのこもった目で遠くから睨み続ける。陰口はもう何を言われたか覚えきれないほどだ。今ではもうその視線にも慣れたが、昔は辛くてつらくてたまらなかった。学校に行っていたとき、当たり前のように友達はいなかった。先生でさえ怖がっていたので、怒られることは1回も無かった