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作品ID:896
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レッド・プロファイル

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


1-1

前の話 目次 次の話

第一章



たとえ百人中九十九人が狂っていたとしてもまともなのは残った一人だ。









 確信したのは最近の話だが、今にして思えばストーキングらしきものが始まったのは一月ほど前になる。ちょっと視線を感じるとかなら思春期一流の自意識過剰で話が済むが、捨てたゴミが荒らされていたり、玄関の鉢植えやらの位置が変わっていたり、家族も怪しむような異変がどうにも立て続けに起きすぎていた。警察への相談も僕の個人的な事情があってし辛く、なんの対処も出来ずにいる。手詰まりではないが、少々長考を要する局面、ではある。



どうせなら妙手を打ちたい。僕が実家に暮らしている以上、ことは家族に関わってくる。『状況の好転』くらいでは少々物足りない。



どうせ打つなら大転換の一手。



いっそ王手をかけてしまえ。



勢いよく上段にかぶったセリフを打ったところで、高校生に出来ることなんてたかが知れていて、せいぜい友人に相談するくらいだ。



そんなもの普通、気休め程度にしかならない。



が。



 僕の、代見伏目《かわりみふせめ》の友人は一味違う。



 一味違って――一筋縄では行かなくて。四の五の言わない時がない、二進《にっち》も三進《さっち》もいきまくり、なくて七癖を振り回して、六道もからから笑って踏破してしまうような、もう存在からして何かの間違いだとしか思えないようなのが、一人いるのだ。認めたくないが。



彼女の名を片時赤色《かたときあかいろ》という。



名前もぶっ飛んでいるが中身もぶっ飛んでいる。(「そんな簡単なこと私にはわからないね」「2×2=5ってな具合も、チャーミングでキライじゃない」「私が皮肉屋さんなんじゃない。世の中が素直すぎるんだ、可愛い奴らめ」以上、ここ一年の赤色の発言から抜粋。)それに追随して服飾行動その他がハリネズミのようにとんがっていて、面識が出来て一年になるのというのに、僕にとっての片時赤色像はいまだ、まだまだ、筆舌に尽くしがたい。いい奴なんだがイイ性格してると言うか、悪人ではないが意地がワルいというか。まず見た目からして妖怪じみているというか。



まず薄笑いが絶えない。これはいつでも機嫌がいいという意味では無くて上機嫌だろうと不機嫌だろうと赤色は喜怒哀楽の全てを薄笑いの微妙な差異で表現する。まずもってこれがすでに不気味な要素だ。前にそんなことだから友達ができないんだと言うと「万死ッ!」という叫びと共に鼻っ面にゲンコを食らわされた。「ばかめ、私はこんなに暴力的だから友達が出来ないのさ」と誇らしげに言い放った奴の姿は夏の日差しの中不敵で無敵に輝いて見えたのを覚えている。僕はその後尋常ならざる鼻血のため保健室に向かった。



 さらには服飾のセンスもぶっ飛んでいて、片時赤色というその名に恥じない文字列鮮血の如き真っ赤なロングコートを、赤色は常々愛用する。それには猫の頭を模した(かつ、ちょっとパンクでホラーなデザインの)フードが付属し、その前あわせは大小ちぐはぐの飾りボタンで飾られている癖に実際にはファスナーで開け閉めを行う。私服登校が許されているにしても行き過ぎの、「おしゃれがんばってるチビ」として校内の畏怖をほしいままにしているのだった。



はっきり言って変な奴だ。



卒業したら七不思議のひとつになっちゃうんじゃないだろうか。



ただ、だからこそ、こういう状況ではあいつに限る。限るし、この出来事に関しては間違いなく、この愛すべき友人に持ちかけるのが最高の妙手のはずだった。



「と、いうわけで、お前が適任だな、と僕は思ったわけなんだよ」と僕は言い。

「へぇ、迷惑だね」と赤色は返した。「そんなことのために、私の睡眠時間を削ったのか。今ここがどこで、いったい何時かわかる? 七時前だよ――六時五十四分の、愛しい我らが高校の教室だ。三階東端の二年六組、ああそうさ、僕たち勤勉で善良な学生が毎日飽きずに来る場所だ。だからまぁ、場所には目をつぶる、つぶってあげよう寛大に寛容に涙が出るほどやさしいことに! ――なんせ今の私はさっさと目をつぶって夢の園へ旅立ちたくてうずうずそわそわたまらないからね、いつもならねちねちと辣言を連ねるそんなところをそんな事情を鑑みて寛大至極に許してやるさ。でもね、この時間はちょっといただけない、いただけないよ? 代見伏目。――確かに私はいつもこの時間には教室にいるけど、だからってそれは君の相談を聞くためじゃないし、むしろこの教室のど真ん中で『どれほど寝たって遅刻しない』っていうそういう幸せを感じるためで、何度もその意見は表明してるし君とは特に長い付き合いだからてっきりしっかり理解してくれてると思ったんだけどね。私はね、出来れば一日十六時間は寝てたくてそれを渋々嫌々生活と将来のために八時間に抑えてるってのにその八時間さえ君のそのすこぶるどうでもいい話のために削られるのか。悲劇だね。いっそ笑いたまえ、ほら私は寝不足だぞ。目的が達せられて満足だろうこの人でなしめ!」



 ここまで、息継ぎナシで。



「ひでぇな、そこまで言うかよ」



 そりゃあ眠たい人間の所業じゃない。



 そんな僕のダブルミーニングなツッコミにも、寝不足モードの赤色は気づけない、あるいはかまう気もないらしい。「言うさ。言わいでか」と普通な切り返しをして、これ以上は続けるつもりがないようだった。



日の光がまぶしいのだろうか、机に突っ伏しながらもコートのフードの端を握り締め目深なところまで無理やりに引っ張って目元を隠して、不機嫌極まる声色で「うくぅぅぅ……」と唸る。



「だいたいなぁ」



 と赤色は続けた。「君はどうせわかってるんだろう」



「自分でわかってることを他人に聞くな馬鹿馬鹿しい」

「どういうことだよ」

「そういうことだ」



 赤色はフードの端を両手で押さえて、日の光から隠れるように机に突っ伏す。「君、とっくに犯人の目星はつけてるんだろ。それで私に答え合わせさせるつもりだな」



「――なんだ」と、僕は頭を掻く。「ばれてたか」



「『ばれてたか』、じゃない、白々しい。――フン。まっとうに悩んでるならともかく人のことを参考書の回答集だかなんだかみたいに考えやがって。学校の宿題じゃないんだぞ、自分の人生の一大事くらい少しは真面目にやりたまえ」

「真面目も真面目だ。僕はキチンと問題を解いてから答えの本を読もうってんだから、褒められるこそあっても謗られる覚えはないぞ」

「君の人生が分厚く大儀なハードカバーなのは重々わかったから、私のような薄っぺらいおまけの回答編などほっとけ」

「それってつまり?」

「君は見るとこ開くとこ問題だらけ、ってことさ」



 そうして自分は正答だけで簡潔軽量、ってわけか。



やかましいわ。



「なにがやかましいもんか、人が寝てるところに突然やってきてわけのわからないことわめき散らすな。終いには安眠妨害、騒音公害で訴えてやるからな。最近はうるさいんだ、学校のチャイムだって気を使わないと何を言われるやらわからない時代――」と、そこまで赤色が喋ったところで、大きな音が僕たちの会話をさえぎる。



 七時丁度を示すチャイムの音が鳴った。



 なにか由来のあるらしい馬鹿でかい鐘が僕の学校にはあって、それがゴゥン、ゴゥン――と重厚に響く。それこそ近隣住民に配慮しないとまずいんじゃなかろうか、という音量で鳴り響くが、心配いらない。僕らの学校は周りに畑と駐車場しかない。



そして鳴り響く鐘の音の中で、片時赤色は仁王立ちしていた。



学校のあの板張りの、ちいさな学習椅子の上に、腰に手を当てて胸をそらして、お手本にしたいくらいの仁王立ち。



僕がチャイムの音に気をとられているその一瞬で、突っ伏した姿勢から疾風のように――実際、コートの裾が翻って起こした風が、僕の前髪を揺らすくらいのスピードで。片時赤色は仁王立ちして。



「おはよう! 伏目君ッ!」



 と、かくもさわやかに、挨拶をする。



 おめめパッチリ。



お肌もつやつや。



見るも見事に、完璧だった。



「……ああ、おはよう赤色。今日も元気だな」

「ありがとう、そして私はきっと明日も明後日も元気だ。期待していてくれたまえ」

「とりあえず目線を合わせようぜ、降りてこいよ」

「おっと、私としたことが失礼した。しかしまぁわかってくれよ、このくらいの無礼に非礼、私の親愛なる友人たる伏目君なら、きっと微笑一つで許してくれるだろう、という我侭ながら一つの信頼の上に成り立つヤンチャさ。そしてもちろん、私の知る伏目君なら東風にそよぐ柳の葉のようにさらりと許してくれるそのはずだ、そうだろう?」

「ああそうだよそのとおり、赤色サンの言うがままだ。だからさっさと座ってくれないか。僕だって頼れる友人を見上げっぱなしは心に答えるものがあるのさ」



と、そんな風に僕があからさまに適当な返しをしても、赤色はまるで気分を害した風もなく、いっそ本気で信じているかのようなそぶりまでみせながら椅子に座る。



「七時だよ伏目君。あったらーしいあーさがきたっ、きっぼーうのあさーっだっ! ふふふ、僕もそろそろ成長期の終わりだからね。本当は段々と必要睡眠時間も短くなってきてて、いまごろ五時間六時間になってるかもしれないけれども、まったくこのすがすがしさのために時間の無駄だと思いながらも八時間の睡眠を止められないね。私に言わせれば人間は毎朝目覚めるために生きているし、人の一日とは目覚めで始まってあとは下り坂を転がっていくそれだけしかないってもんさ!」

「ん、そいつはちょっと承服しかねるぞ赤色。僕はなかなか惰眠を貪る生活を愛しく思うんだ。出来れば一日十六時間は寝てたくて、それを将来と生活のために八時間で我慢しているようなそんなもんだぜ?」

「何だ何だいい若い者が、まったくもってもったいないことを言って。起きているこの瞬間の体の自由と比べれば睡眠なんてのは死亡と大差ないじゃあないか。君は一日が二十四時間ぽっちしかないことを知らないんじゃないだろうな、そんなことではユリウス帝に笑われるぞ!」



 なんて。



さっきまでの様子を見ていれば、まるっきり寝言としか思えないようなことを並べ立てる赤色。だがしかし、さっきまでの不機嫌そうなのがそれこそ寝言で。その上今は、単純に寝起きがいいからただテンションが高いだけ。人物としての本元本質は、あの時あの寝言こそに現れていて、やっぱり起き抜けに言うことこそが一番寝言に近い。



めんどくさい。



わかりづらい。



その上、わかってもほとんど意味はない――なにせこんなもの、赤色のイカレたところの片鱗ですらない。



面白可笑しくもないのに徹底的にオカシい。



『この人物はフィクションです』とでも注釈してやりたくなるような、変人っぷり。



 もう存在からして何かの間違いだとしか思えないような、僕の一味違う友人は、やっぱり今日この日の朝であっても何かの間違いとしか思えないままだった。



つか、これが間違えてないはずがないだろう。こいつ本当は誤植かなんかじゃないのか?



『気』とか『魔力』とかで戦える世界観の物語から、何かの間違いで印刷されちゃったんじゃないだろうな。



もちろんそんな危惧は【この世界がホントにフィクションだったら】みたいな以下にもガキっぽい空想が前提で、その上フィクションが、なんでもありが前提なわけだから必然的に赤色の存在も肯定されてしまうのだけど。――いや、誤植と言うものが存在する以上、やはり【なんでもあり】の【なんでも】に当たらないものがあるわけで――いかん、本当にフィクションと現実の折り合いが――区別がつかなくなってきた。



 これだから。



 そういう手の小説はあまり読みたくないのだけど。



 いやしかし、いくら昨日夜更かししてその手のものを読んだからってちょっとこのグラつき方はおかしい。



いつもならもうすこし耐久値というか甲斐性と言うか、そういうものに余裕があって。



いや、とにかく今は、思索思走のそれ以前に、目の前の赤色ときっちり会話するのを、優先させるべきだ。



僕は僕の悪い癖を無理におさえて、一見なんでもないかのように振舞いながら、赤色との会話を続けようとする。



赤色は、「えっと、七時まで寝てたんなら」どこまで聞いてたことになるんだ。「というか、あれか、何も話してないことになるのか。じゃぁ、また最初から話すけど――」





と、僕が喋りかけたところで赤色は僕の顔の前に手のひらを向ける。



「それには及ばないよ、伏目君」素直に黙った僕に対して、赤色は一つウィンクをして見せた。「ところで、こんな話を知っているかな? 人間の脳みそは意外と普段怠けていて――これは世間一般に流布してる『脳は普段30%しか使われていない』とかそういう話とはまた別にね――普通に起きて生活しているとき、実はゆるーくゆるく、実にぬらーりくらりと、本気と書いてマジと読むがんばり方で動ける速さから見て遥かに遅く温く鈍く回っているらしいんだよ。眠りの終わりと初め、高々五分あるかないかの時間にあれほど長い夢を見れるのは、普段の時間の流れを完全に無視して大冒険だって繰り広げられるのは、脳が全身全霊の大回転を見せて普段よりずっとずっと加速された世界を創造しているからだそうだ。ふむふむ、人間ってのは寝言を言ってるくらいの眠りの時には、むしろ十倍二十倍三十倍に脳の回転は速くなっているのかもしれないね」



 さて、とここで赤色は息をつく。



「私が寝ている間に随分面白迷惑な話を聞いた気がするんだ。【いっぱいいっぱい】考えたから安心してくれ」

「………………は」



 ははは、は。と僕は乾いた笑いを漏らす。「はは」ははは。「おまえ、赤色。なんだその、名探偵みたいなこと言いやがって」



「知らなかったのか。私は実はフィクションなんだ」



 もちろんそんなことはなくて、この世界はどこまでも現実だ。心配しなくても世界はちゃんと実在している。赤色も僕のストーカーももちろん僕こと代見伏目も実在していて事件自己組織人物といつでも関係してしまう、そういう危うい世界の上でなかなかながらの人生をしっかり送っていて、僕如きがどれほど疑ったところで、この現実はまったく作り物にはならない。なんとも頼もしいことに。



だがちょっと、僕の【悪い癖】――フィクションに触れると、すぐ現実があやふやになっちゃう悪癖にかこつけて、語り部の特権、時間軸の無視を行わせてもらう。





この日、片時赤色にストーカーについて相談したその日の放課後、僕の学校で殺人が起きる。





屋上で殺されたその人は、僕の友達だったのだ。





「さてと、実はまだ一時間目の予習をやってないんだ。悪いけどそろそろ自分のために時間を使わせてもらうよ」

「おいおい赤色そりゃないぜ、名探偵なんだからきちんと事件を解決してくれよ。ぼくは丸付けができないと気になってならない性質なんだ」

「私もいろいろ裏づけがとりたいしねぇ。解答編が間違えちゃ洒落じゃあないし、そうだな――

《今日の放課後》

《屋上辺りで》

《答えあわせだ》」

「よし、のった」



 ちなみに僕はお前がストーカーだと思ってんだぜ。



 いや、これホントに。

後書き


作者:あるるかん
投稿日:2011/10/26 02:01
更新日:2011/10/26 02:01
『レッド・プロファイル』の著作権は、すべて作者 あるるかん様に属します。

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