小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説投稿室

小説鍛錬室へ

小説情報へ
作品ID:897
「レッド・プロファイル」へ

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「レッド・プロファイル」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(52)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(155)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)


レッド・プロファイル

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


1-2

前の話 目次 次の話







 赤色は放課後までお預けだと言って予習を始めようとしたが、そうされてしまうとわざわざ早起きしてやってきた僕が手持ち無沙汰になる。(始業まで何とびっくりの一時間四十分)僕も昨日は本を読んでいたから予習をしていないが、そもそも僕と赤色は別のクラスなのだ。物理の教科書を取り出した赤色は理系選択だから有意義と言うか切羽つまった予習なのだろうけど、文型選択の僕は一時間目の生物にそれ程のモチベーションを感じなかった。大体からしてこんな時間に学校に来たことなんてないから、そもそも何をしたらいいのかがいまいちわからない。しばらく赤色の予習するのを見ながら雑談をしていた。



「そういえばさ」



 と僕は物理の教科書を眺める赤色に聞く。



「ストーカーについて物証とか何にも集めてないから、放課後僕と話しても推理の裏打ちとか出来ないかもしれないぜ。それでもいいのか?」

「ふむ。――気遣いはうれしいけれど。それには及ばないよ伏目君。

「ところでこんな話を知っているかい? 推理小説における一種のパターンとして、読者はこういう分類をすることが出来る。

「すなわち三つ、『ワイダニット』『ハウダニット』『フーダニット』――高校生ならこのくらいの英文わかるだろ?

「『何故やったか?』『どうやったか?』『誰がやったか?』という訳になるわけだ。

「主にこの三つの疑念が推理小説の骨子となるんだが、一つが問われる時もあれば二つ組み合わさるケースがあり、三つ全てが問われる場合もある。圧倒的に多いのはハウダニットとフーダニットの組み合わせだね。ワイダニット《動機探し》はどうもミステリーの中では、犯人を明かすその瞬間につけあわせみたいに語られることが多いジャンルで――私はそこがちょっと気に食わないんだけどね。というのも、実際の物事を推理するとなると、このワイダニット《犯行動機》が重要になってくるんだよね。

「何故やったか?

「なんで犯したか。

「そこにはそうなるべき何かがあるわけだ。まず犯行時刻のアリバイがない人間を世界中からリストアップするよりも、【そうあれかし】と強く願う《べき》立場の人間をまず絞って、そこからもろもろの理論で減数していくほうが、絶対に効率はいいからね。

「犯罪の立証とは間引きの繰り返しから始まるんだよ。伏目君。

「だから僕たちはまずこう考えるべきなんだ。【いったい誰が、伏目君を付回して得をするだろう】【誰がそうしたいと思うだろう】

「まずはこうして考えて、そこから絞っていけば早晩、犯人の正体が白日に晒されるさ。

「ん? 私に動機がわかるかって?

「生憎だが、私に他人の気持ちなんてわからないなぁ――」



 と、まぁ。こんな風にのべつ幕なしにまくりたてるのが、片時赤色の対話スタイルである。単に会話の下手なやつとも言う。(僕は「動機がわかるか?」なんて問いかけてない、赤色が勝手に察した風を装って好きなことを言っただけだ)



なんていうのか、古い推理小説の解答編みたいな喋り方をするやつだった。



鍵括弧が連続して、一章分くらい探偵役が喋り続けるタイプのあれ。



小説で読むと展開が速く感じられて気持ちがいいけれど、実際にやられてみると、どうしても置いてけぼりにされている感は否めなかった。



「しかし動機か――ストーキングの動機ってなんだろうな。誰かの恨みでも買ったか? 僕」

「一番テンプレートなのは色恋沙汰だと思うけど、その可能性をはなから排除している辺り謙虚なのか自虐的なのかわからないね。嫌味とも言える」

「色恋、はちょっとないだろ。僕から一番縁遠い言葉じゃないか」

「そうか? 君って随分背も高いし、顔だって悪いわけじゃないんだ。意外と知らないところで、知らない人間の興を買ってるかもよ?」

「知らないやつが僕の名前を知ってるのかよ」

「気味が悪いね」



 有名になるなんて怖気がする。と赤色は笑う。「しかし君の背が高いのも事実だ。人ごみの中だと潜望鏡みたいだぞ」



「身長ね……。これのせいで柔道やめたから、あんまり好きくはないんだけど。待ち合わせのときとかランドマーク扱いされるし」

「ちなみに今何センチ?」

「175……弱、くらいかな」



 大分長いこと計ってないから、もうちょっと伸びてるかもしれないけど。



しかしここまで伸びてくるとそろそろ使い道がなくなってくる。背が高いことによる日常のアドバンテージって待ち合わせくらいしかないし。



高校から文芸部に入って、いよいよ無駄遣いしている感じだ。



「そーやって無駄遣いしてるから、どこかで知らない不興を買ってるのかもな……」

「君がそう思いたいなら私はそれでいいけどね」

「なんか鼻につく言い方だな」

「別に。別に、別に、べーつにー。伏目君がもてようがもてなかろうがどうでもいいし。だいたい君、間違っても人を好きになったりしなさそうだしね。腹の底で世界人類を見下しながら悪人のいない新世界を作って神になる計画とか進めてそうだよ」

「君の中の僕のイメージは夜神さんちの息子さんなのか……」

「そういえばさ、あの話って結局夜神さんちの息子さんの何が間違えてたんだい?」

「斬新な意見だな!」

「私を差し置いてああしようとしたのが強いて言えばミスだよね」

「お前は腹の底で世界人類を見下してるのか!?」



 お前は神か。



 友人として、余りに恐ろしすぎる事実だった。



「はは、冗談。それに私に言わせれば、あの話の中で夜神さんちの息子さんはミスは一つもしてないだろ。ただ間違いを重ね続けただけだ」

「ミスと間違いって同じものじゃないのか?」

「似て非なるよ。間違いは正せるけど、ミスは取り返しがつかないからね。だから夜神さんちの息子さんは負けたんだろうね」



 少し赤色は悩む顔をする――会話の内容じゃなくて、多分物理の問題集のことを考えているのだろうけど。



「取り返しのつかないことならば彼は手前で気づけただろうに。『なんとかなる』『このくらい大丈夫』を重ねすぎて気がついたら限界値に到達しちゃったんだろ」

「限界値って?」

「人生の」



 人生の限界値。



なんだそれ――。と僕が聞く前に、手元に視線を落としたままの赤色に「話を戻そう」とさえぎられてしまって、僕は舌先で言葉を飲み込む。「君が冷血で毒舌で高慢だから人を好きにならないって話」



「お前さ、実は僕のことが嫌いなんだろ」



 言っとくけどな、僕だって傷つくんだぞ。



言葉の暴力は手を上げ返せないから手に負えないと思う。



「いやいや君の事は大好きさ。天地神明にかけて百花繚乱のべつまくなし数限りなく大好きだよ」

「そこまで言われると逆に胡散臭いな」

「信じられないなら胸くらい揉ませてあげてもいいよ――と、言っても君は冷血で以下略だから、絶対私のことなんか意識しないし、夜中に思い出して困ったりしないだろうね」

「うん」



 即答だった。



「タイプじゃないし」



 正直に言ってみた。



赤色が(自分が言わせたくせに)本当の人でなしでも見る目で見てきた。



どうしろというんだ……。



「大体、揉むほどないじゃんか」とも言ってやりたかったが、さすがに怖いので我慢。



「話を戻そう。僕が冷血で毒舌で高慢だから人を好きにならないって話」

「そうだね、君が冷血で毒舌で高慢で人の気持ちを何も考えないから人を好きにならないって話だ。君が同級生女子の胸にも反応しない人間だって話だよ。女の子が胸を揉んでもいいといっても真顔で断るチキン野郎だって話だよ。フン、そんな人間がいったいどうして恋をするというんだ。恋をする人間なんて突き詰めれば素直なスケベかムッツリスケベの二種類しかいないというのに」

「言いすぎだ」



 極論過ぎるわ。



世界中のカップルに謝れ。



「極論なのは認めよう。だが撤回はしないぞ!」

「そんなに強固に保持するべき説なのか、それ」

「極論だから保持するんだよ。正論と極論でバランスとらないと」

「その理屈こそ極論じみてるよ」

「そうかな? 私はこれを人生の極意の一つに数えているんだが」



 まぁいいか。と赤色はつぶやく。「そのうち語ることもあるかもしれないけどねぇ。朝っぱらから偉そうに話す内容じゃないし」



「もう十分偉そうだけどな」

「恥を忍んで正直に言うと、私は君にだけは偉そうに出来る自信がないんだけどね……。身長的な意味で。どうがんばっても君を見下すのは物理的に無理だろ。175ちょいだっけ? 私はぎりぎり150だ。それも身体測定でコンディションが悪いとそれを切るぞ。――変な顔をするなよ。コレ、本当の話。髪の毛のボリュームとか、その日の骨盤の下がり具合とかでだいぶ違うんだから」

「そんなノウハウを……」

「涙ぐましい努力だろう?」

「そして伸ばした身長分だけ座高で絶望を味わうのか……」

「万死ッ!」



 赤色の右拳がのびのびと僕の鼻柱を捉えた。



 シャーペンの握りこみつき。



 朝から転げまわるリノリウムの床は冷たかった。



「ハハハやだな代見君。そんな椅子から転げ落ちてのたうちまわるような殴り方はしてないだろ? 擬音で表せば『ぽか!』とか『ぱこん!』ってな具合じゃないか」

「断じて否定する!」



 僕は立ち上がって叫んだ。



 ドグ! とかグシャ! とかそういう擬音が格闘漫画みたいな字体で踊り狂ったわ!



校内暴力反対!



「何いってるんだ、ギャグ漫画でこのくらいの暴力は茶飯事だろうが」

「僕の日常ってギャグ漫画だったのか!?」

「日常の一コマというやつだ」

「いや、見開きを使って大胆に描かれた衝撃のシーンだった」

「それはいけない。私の登場シーンで三段ぶちぬきなんて大技を使っているのに、コレではページ稼ぎだと思われてしまう」

「三段……も、ぶち抜けるのか? 踏み台持ってこようか?」

「も一発イっといたほうがいいみたいだね」

「なんで自分への悪口にはそんなに過敏なんだよ。絶対お前のほうが僕より苛烈に口悪いのに」

「知るか。背がちっちゃいから心もちっちゃいんじゃないの?」

「びっくりするほど嫌な奴だなお前!」

「背の大きい伏目君だったらきっと大きい心で優しく許してくれるんだろう? あーありがたいなぁ涙が出そう。ああそうだ、ちょっとハンカチを貸してくれないか。燃やすから」

「お前って冷血で毒舌で高慢だな!?」



 わかっていて何度も茶化す僕も悪いんだけれど、結構頻繁に手を上げてくる赤色のほうが圧倒的に悪いんじゃないか。知り合ってからもう何度も何度もいい角度のパンチをもらっているけれども――いや、それでも懲りない僕のほうがやっぱり悪いのか。



でもな、赤色に口で勝てるのってこのネタのときだけだからな。



積極的に狙っていきたい。



 とはいえ事ここに限ってはちょっとやり過ぎたかもしれない。仏の顔も三度まで、しかも相手は一度ごとにいい感じに沸騰する赤色さんだ。予習するといったのに僕とくっちゃべって思うように進んでいないようだし、朝置きぬきのすがすがしさも薄れて、いわゆるイライラというか、なんか目に見えないゲージがたまっている気がする。マックスになったらとんでもないことになっちゃうんじゃないだろうか。超必というか、凶器とか。(赤色の握るシャーペンがギラリと光って僕は戦慄する)



戯画的に表現すると、『ズギャアアアアン!』みたいな。



ふむ。



僕は赤色の横顔をじっと見つめた。



「なんだ」

「うん。ちっちゃいな、と思った」

「死ぬか」

「怖ぇ」



 怖くねぇ。



 だって面白いんだもん。

後書き


作者:あるるかん
投稿日:2011/10/27 02:34
更新日:2011/10/27 02:34
『レッド・プロファイル』の著作権は、すべて作者 あるるかん様に属します。

前の話 目次 次の話

作品ID:897
「レッド・プロファイル」へ

読了ボタン


↑読み終えた場合はクリック!
button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS