「……一体何が目的で此処まで……」

 嗚呼、頭痛がする(否、傀儡である自分が痛みを感じることは無いが、精神的に)。思わず目許を指先で押さえつつ、この現状に溜息を吐き捨てる。そうするしかあるまい。他に如何仕様も無い。
 デイダラがうつ伏せになって床に転がっている。其の上に折り重なる様にしてが仰向けに倒れている。二人共あちらこちらに生傷をこさえていて、今すぐにでも風呂場に突っ込んでやりたくなる位に汚れていた。の右の鼻の穴から血が出ている。デイダラの腕に大量の青痣が出来ている。

「終わった様だな」

 イタチが俺の背後で串団子を食みながらまばたきをした。ということは、コイツは一部始終を目撃していたということだ。其れならば何故止めないのか。床にこびり付いた血痕や散らばった忍具を足で踏みそうになる様なこの状態、誰が如何見たって良いものでは無い。俺は面倒なことは嫌いなんだ。後片付けをさっさとしろ、餓鬼共。
 眉間に皺が自然に寄るのを感じながら、俺はデイダラの髷との二の腕を引っ掴んで、とりあえずソファーに座り込んだイタチに投げ付ける。避けるだろうと思っていたが、イタチは意外にもデイダラとを受け止めて、器用にも団子を咀嚼しながらソファーに寝そべらせた。

「朝からずっと暴れていたからな……暫くは目を覚まさないだろう」
「何で止めねェんだ」
「止めたさ。だがコイツらが聞く耳を持っていると思うか」

 イタチは団子の串を部屋の片隅に置いてあるゴミ箱に投げ捨て、床に散乱している忍具を集め始めた。イタチに何を言ったところで無駄だ。俺は仕方無く忍具を掻き集める。本来ならばデイダラとがやるべきなのだ。嗚呼苛々する。
 忍具を集め終わって一息吐く。どろどろになっているとデイダラの為に手当てをしてやった(勿論イタチにも手伝わせた)。何故俺がこんなことをしなければならないんだ。意味が分からねェ。目が覚めたら殴り付けてやる。
 苛立ちながら包帯を名前2の腕に巻きつけていると、僅かにが身動ぎをした。

「ぎゃ」

 目玉を真ん丸にして大袈裟には驚いたリアクションをすると、何故だか分からんが俺に勢い良くしがみ付いて来た。鬱陶しいので引き剥がすと、は何時もの様に唇を尖らせて不満げな顔をしているだろうと思っていたのだが、今回はただ唖然と俺を見つめているだけだった。

「……何か変なもんでも食ったか」

 思わずそう聞いていた自分に呆れる。わざわざ問い質してやる必要など無いのだ。俺は何故無駄な行動を起こしている? 自分のことだが全く分からない。

「サ、サソリさん」
「あァ?」

 まるで泣きそうな顔をしたの両腕が俺の首に絡み付いた。ぎゅうと音がする位に抱き締められて、迂闊にも俺は息を呑んで固まってしまった。普通に考えてがこんな風に俺に接することは無いから、正直に言えば驚いた。認めるのは癪に障るが、俺は餓鬼では無い。
 しかし固まっていても現状は変わりゃしねェ。の首根っこを引っ掴んで、ソファーで未だ意識を飛ばしているデイダラの上へ投げ捨てた。ソファーが二人分の体重を受けて沈み、嫌な音を立てた。イタチは饅頭を食んでいる。太るぞ。
 デイダラの呻き声がした。目を覚ましたのだろう(寧ろ目を覚まさなくて良いがな)。が額を押さえてデイダラの上で蹲っている。

「か、顔が近ェんだよバカヤロー! うん!」

 起きるなり五月蝿い奴だ。思わず俺は眉間に皺を寄せた。が何かデイダラに言い返して二人ともぎゃあぎゃあと喚き始める。嗚呼、頭痛がする。誰かこの餓鬼共を静かにしてくれ。
 そう思っていたら、ぴたりと声が止んだ。行き成り如何したのかと思って二人を見やると、デイダラの手には粘土細工、の手には木彫りで、蠍を模した作品があった。

「「お帰りなさい!」」

 ……頬が少し緩んだなんて、嘘だ。




 サソリさんが帰ってくる前に何か二人で作品を作ろう、と言い出したのはわたしでは無く、デイダラだった。サソリさんと何時も喧嘩しているデイダラだけど、本心では同じ芸術家として尊敬しているのをわたしは知ってる。そしてわたしも芸術家として二人を尊敬している。其処で、何かサソリさんに贈り物をしようと言うのだ。
 はっきり言ってデイダラは頭が可笑しくなったんじゃないかと思ったが(だって日頃の行動を考えれば明らかに矛盾している)、デイダラは照れた様に「何だかんだでオイラもお前も世話になってるじゃねェか、うん」と言ったから、何だかんだでデイダラもサソリさんが好きなんだなあと分かった。勿論わたしも。
 何を贈ろう?サソリさんは人傀儡だから食べ物は必要無いし、他に特に好きなものがある訳でも無さそうだ。

「そうだ、オイラ達の芸術作品にしよう、うん!」
「あ、其れ良いね。戦闘で使えるものなら嫌がらないよね、サソリさん」

 武器になるものなら「くだらねぇ」と受け取って貰えないなんてことは無い。何時も馬鹿なデイダラの癖に、やけに頭が働くなあと関心していたら、デイダラがわたしの心を読んだのか如何かは知らないけど、じっとり睨み付けてきた。
 わたしは大蛇丸の実験体のお零れで、木遁忍術が使えるので、蠍の木彫りを作ることにした。
 デイダラは早速手のひらの口に粘土を含ませている。楽しげな表情を浮かべているなあと見ていたら、デイダラは鼻歌まで歌い出した。機嫌良過ぎ。そう思いながらチャクラを練る。勿論、わたしも自然と笑みが浮かんでいることには気付かないでいる。

「サソリさん、喜んでくれるかな」
「当たり前だろ、うん」

木苺の友情

100220|はるのさん、リクエストありがとうございました