やっと一息吐いてフロイド先輩作の賄いであるサーモンの冷製パスタをフォークに絡めながら、片手間に雑誌を捲る。
「ご一緒して良いッスか」
視線を上げれば、ギャルソンエプロンを纏ったままのラギー先輩が、同じく賄いの皿を持って隣の椅子へと腰を落ち着けた。フロアのざわめきを無意識に拾ってしまうのか、大きくてふわふわした耳がひょこひょこと動く様子が愛らしい。
「何見てんの?」
「エースがくれた雑誌です。もう読まないからって」
「ふうん。星占い?」
偶然開いていたページだったが、意外にも彼が興味を示したので、よく見えるように位置をずらした。皿の上のトマトを掬って咀嚼して、先輩と同じようにその文字列を眺める。
「えーっと、牡羊座はァ」
もごもごとパスタを頬張る彼は星座占いを半目で見ているが、信じるタイプには見えないなあと思っていると「監督生はすーぐ顔に出るッスね」と頭を鷲掴みにされ、わしわしと揉まれた。心地良い力加減だったので大人しくしておく。
己の星座を尋ねられて口から零れたのは「帰れる日でも分かるなら真剣に読むんですけど」可愛げのない失笑だった。言わなきゃ良かったなとすぐ後悔して、奥歯で噛み締めたサーモンを飲み込んで、ライムの沈んだ水を口に含む。
「……監督生がいつ帰るか分かったら、前日にお祝いしてあげるッスよ」
何が良い? 首を傾げるラギー先輩は「上等なステーキ? 果物がぎっしり乗ったケーキとか?」意外にも後輩を甘やかす準備は万端のようで、垂れた眦がこちらの様子を伺っている。寂しさの色合いを探られている。
「ラギー先輩のドーナツが良いです。揚げたての」
「まァた、もっと欲張らないと損ッスよ」
時が満ちるのを待っているだけでは、この世界では生きていけない。
「特別を強請っているんですよ」
ブルーグレーがまるくなる。狡猾で完璧な切り札は、最後に出してこそだ。