俺は昔から、大切なものは机の引き出しに奥深くしまっておく人間だった。キラキラ輝くスーパーボール、河原で拾った綺麗な石、お気に入りのプラモ、と研磨と三人で映った写真。
大切にしまい込んだ箱を時たま取り出して、人目につかないところで眺めてにやにやする。
そんな俺を変だと笑う奴らもいたけれど、俺にしてみればそいつらの方が変だった。大切だと言いながらその辺に持ち出して、傷付いたり壊れたりなくしたりすれば泣き喚いて。そんなに泣くくらい大切なのに、自分以外の手の届くところに置いておくなんて、俺はおかしくて不可解で仕方なかった。
 今になってもそれは根本的なところで変わっていない。
大切なものは、大事に大事に手元にしまい込んでおく。それは、俺という人間に深く根を下ろした性質らしかった。
 だから、のことも大切に大切にしまい込んできた。
箱の中とはいかないが、ひとりの人間の世界を閉ざしてやるのは、ぞっとするほど簡単だった。
 が「研磨以外友達できない……」と泣きついてきた日の胸の高鳴りを、俺は今でも鮮明に思い出せる。
本当は、本来のは、多少人見知りではあったものの、卑屈なまでの内気でも、他人に声をかけられないほどの臆病な性格でもなかった。
それをあたかもそうであるように少しずつに刷り込んでいった。お前は他人が怖いんだって、俺がいないと誰にも話しかけられないような人間なんだって、そうゆっくり何度も言い聞かせてに思い込ませた。
研磨は時々何か言いたげな目で見てきたが、俺は知らないフリをした。
大切なものは、大切にしまっておかないと、どこかへ行ったり壊れたりしてしまうのだ。
「なぁ、うちの子に何してんの赤葦」
 俺より背が低くて、の音駒や予備校の知り合いじゃなくて、黒髪のくせっ毛で、そこそこの顔面偏差値。そいつが今、顔を真っ赤にしたの腕を掴んでいる。今日は部活が早く終わったから、とを予備校まで迎えに来てみれば。
 ああ、なんだ、赤葦だったのか。
「先日告白したので、その返事を催促してたところです」
 しれっと言ってのける赤葦がの腕を掴んだままなことにイラついて、反対側の腕を取る。の顔に浮かんだのが安堵だったことに内心ホッとした。
「そういうのやめてくんない? うちのちゃん繊細なんだよ」
 言いながらの腕をぐっと強く引けば、赤葦は意外にもあっさりと手を離す。
「……またね、さん」
「あ、うん、またね赤葦くん」
 ああ、やっぱり大切なものは大切にしまっておかなきゃいけない。
の頬がうっすら赤く染まっているのを見て強く思う。
じゃないと、誰かの無遠慮な手に掴まれて、ばらばらに壊されてしまう。
 俺の、大切なが。
「帰るぞ、
 強く強く腕を引く。も箱にしまい込めたらいいのに、そんなことを思った。
 
150607
BACK