「クロ、あのね、」
 膝枕を要求した俺に恥ずかしそうに頷いたは、太腿に乗った俺の頭を撫でながら、躊躇いがちに口を開いた。
「私、クロに恋したことない」
「……ふーん」
「初恋は、研磨」
「ちょっと待て聞いてねぇぞそれ」
 ガバッと身を起こせば、してやったりな顔をしたがくすくすと笑った。その頬を掴んでもぎゅもぎゅと変形させれば、が楽しそうな悲鳴を上げる。一通り気の済んだところで頬を離せば、真剣な目をしたが口を開いた。
「クロはきっと、私にたくさん酷いこと、したんだね」
「そうだな」
 今更否定することでもないので、素直に頷く。
「きっとこの先も、するかもしれないよ、ね」
「必要ならする」
「クロは、酷いよ。私、クロに恋できるとは、思わない」
「……ああ」
「でも、一緒に、いるね」
 返事の代わりに、を抱き締めた。が俺に恋心を抱けないのは、当然のことだと解っている。それでも一緒にいてくれるという言葉が、こんなに嬉しいとは思っていなかった。
にキスをした後、何故だか俺は泣いてしまって。はもう、小さかった頃の性格には戻れない。それでも、赤葦への恋心をとって俺の前からいなくなってしまうんじゃないかと思って、みっともなくに縋り付いて泣いた。お前がいないとダメなんだと。に散々お前は俺がいないと生きていけないと言っておきながら、本当は俺の方がずっと、の存在に依存していたのだと、見せたくなかった本心をさらけ出した。
「俺は、お前を幸せにする。お前の幸せ全部奪ってでも、お前を幸せにする」
「……うん」
 赤葦だろうが、他の誰かだろうが。が真っ当に恋して結ばれる幸せ全てを叩き壊してでも、俺に恋をしないを俺の手で幸せにする。それでいいと、が受け入れてくれたから、きっともう、これ以上は望まない。
が望むのなら、赤葦と一緒に変わっていけたはずだった。俺がいなければ生きていけないなんてこと、本当はない。けれど、そう自分にもにも嘘を吐き続けた。
「ありがとう、
 本当になった嘘を、大切に大切に胸の奥にしまい込む。これでいい。これで、は本当に俺のものになってくれた。けれどそれが悲しい気がしたのが不可解で、気のせいだと振り払う。優しく笑うと、静かに唇を重ねた。
 
160828
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