「ほら、白龍、こっちだぞ!」
「ま、待ってください、蓮兄様、雄兄様!」
「待てと言われて待つ者もいないだろう」
両親が見守る中、庭ではしゃぐ五人の兄弟。
白雄、白蓮と白龍は鬼事に興じ、白瑛はと共に花冠を編んでいた。
「おにいさま、ころびそうです」
「あら、本当ですね」
白龍たちを見守りながら、花の輪を完成させる。何事にも素直に教えを受ける姉妹の編んだ花冠は、ところどころ歪さが残るものの、立派なものだった。
「あっ、」
「白龍、転んでしまいましたね」
うわああん、と声を上げて泣き始めた白龍をあやす白蓮たちに近付いていく姉妹。白瑛はその手に持った花冠を泣き止まない白龍の頭に乗せてやり、は白龍に大丈夫かと問いかけ、力強い頷きが返ってきたのを見て安心する。ぐすっと鼻を啜りながらも落ち着いたらしい白龍に安堵の笑みを漏らすと、その頭に乗っている白瑛の花冠を見て数秒思案した後、くるりと振り向いて手に持っていた花冠を白雄に差し出した。
「ゆうにいさま、どうぞ」
「俺にくれるのか? ありがとう、」
「えー、俺だけもらえないのか」
不満をこぼす白蓮をよそに、白雄は地面の花を摘み、手早く小さな輪を編み上げていく。
やがて出来上がった小さなそれを、白雄はの手を取りその指に通してやった。
「ゆびわだー! ありがとうございます、ゆうにいさま!」
「もらったなら、礼をしなければな。白龍、泣いていては礼はできないぞ」
「そーだぞ白龍。お兄様が教えてやるから、お前も白瑛に何かやれ」
「うぅ……はい、姉上、兄上、ありがとうございます」
涙の跡を擦りながら、白蓮に手を引かれ花冠を編み始める白龍。その危うげな手つきをハラハラとした面持ちで見守る白瑛。彼らの様子に笑みをこぼした白雄は、つんつんと着物の裾を引っ張る末妹に気づくと、そっと膝を折り、その大きな瞳に視線を合わせた。
「どうした、」
「わたし、大きくなってもずっとゆうにいさまと一緒にいたいです、またゆうにいさまのために、お花のかんむりを作ります! ですから、大きくなったらとけっこんしてください!」
「ええっ、ちがいます雄兄様、はぼくとけっこんするんです!」
の発言に白雄よりも早く反応を示したのは白龍で、その目にはまた大粒の涙が浮かんでいる。それを見た白瑛はふふ、と微笑んで言った。
「は引く手数多ですね、白蓮お兄様」
「……修羅場の予感しかしないぞ」
作りかけの花冠を置き末妹に抱きつきに走ろうとする白龍の首根っこを掴んで止めながら、白蓮は白瑛に答えた。ここで笑ってみせる妹は将来大物になるだろうと思いながら。
「おや、俺でいいのか? 」
「ゆうにいさまがいいんです!」
憤慨したように声を張り上げると、の発言に衝撃を受けとうとう涙を零してしまった白龍。その二人以外は皆、のそれが幼子特有のものだと解っていた。離れたところで見守る両親や家臣たちも、微笑ましそうに笑っている。
「そうか。ならば大きくなったら、は俺の妃だな」
「はい! はゆうにいさまのきさきになります!」
ままごとのような約束を交わすと白雄に、白龍を除いた周囲の人間はにこにこと笑っていた。白龍が泣きながらにしがみつき、考え直すように言い募る。雄兄様と結婚したいんです、と笑うとその言葉に大泣きする白龍の横で、微笑ましさにくすくすと笑う白雄と白瑛が何事か言葉を交わしていた。と白龍の頭をわしゃわしゃとかき回して、白蓮が笑う。
「良かったな、。煌で一番のいい男が嫁の貰い手で」
「はい、れんにいさま!」
「……父上が一番じゃないんですか?」
「父上には母上がいるから対象外だ」
首を傾げた白龍に、真顔で白蓮が応える。
「じゃあ、ぼくが一番になったら、はぼくとけっこんしてくれるんですか?」
「無理じゃないか?」
「~~~ッ!!」
僅かな希望を胸に問いかけた白龍に、ばっさりと笑顔で応えた白蓮はぼたぼたと涙を零して泣き出した白龍の頭を撫でてやる。ぶんぶんと首を振ってその大きな手を振り払いながら、白龍はぎゅっとに抱き着いた。きゃっと小さな悲鳴を上げたの腹に、ぐりぐりと頭を押し付ける白龍。白瑛の作った花冠がずり落ちたのを拾って、白龍はそれをの頭に被せてやる。作りかけの花冠の続きは白蓮でなくに教えてもらおうと、白龍はの手を引いて起き上がった。
「、すきだ」
おもむろに好きだと言った白龍に、は目を瞬かせる。その指を飾る花の輪を見下ろして、ぎゅっと白龍は眉を寄せた。
151007