姫と白龍皇子って禁断のカンケイ?」
 ピスティの言葉に真っ先に反応したのは、飲んでいたお茶を吹き出したヤムライハである。
「な、な、なんてこと訊いてるのよピスティ!」
 顔を真っ青にしての反応を窺うヤムライハだが、当のといえばただぱちくりと目を瞬かせただけだった。
「龍兄様と、ですか? 龍兄様は私のお兄様ですよ?」
「えー、でもさ、白龍皇子って姫のことすごく大事にしてるよね? 姫が一人でいるところ見たことないくらい、いつも一緒にいるし! 明らかに紅玉姫と扱いに差があるんじゃない?」
「ええと……私達兄妹と紅玉お義姉様は実の兄弟ではないんです」
「えっ、そうだったの!?」
「はい、私と龍兄様、それから白瑛というお姉様がいるのですが、私たち三人は現皇帝の兄である前皇帝の子供なんです。いろいろあって、現皇帝に養子として迎え入れられました」
「へぇー……どこの王族も複雑だね」
 何気ないように語っているとピスティだが、もしかしたら聞いてはいけないことを聞いてしまっているのではないだろうか。友誼を結んだとはいえ相手は一国の皇女である。ヤムライハは遠慮のないピスティの態度にハラハラとさせられていた。自身も王族であったが故の躊躇の無さなのだろうか。
「父が亡くなったあと、間をおかずに上の兄二人も夭逝したものですから……龍兄様は、残った肉親である私やお姉様をとても気にかけてくださっています。特に私は戦う術を持ちませんから、余計に心配をかけさせてしまっていて……紅玉お義姉様と違うように思えたのは、それ故かと」
「うーん……それにしたって白龍皇子、姫のこと大好きだなあって思うけどなあ」
「ちょっとピスティ、失礼よ」
「だってヤムも思うでしょ? 白龍皇子いっつも姫のことがっちりガードしてるし! 王様やシャルルカンならともかく、スパルトスやジャーファルさんですら威嚇してるんだよ!?」
「それはまあ、確かに心配性なお兄さんだなとは思ったけど。紅玉姫のことがあったから、シンドリアの男全体が信用されてないんじゃないの?」
「あははっ、なにそれ王様のせいじゃん!」
「あ、いえ、龍兄様は煌にいてもあのような感じですから、決してシンドバッド王のせいではないかと、」
 兄がすみません、決してシンドリアの皆さんに不快な思いをさせたかったのではないんです、と申し訳なさそうに頭を下げるに、ピスティとヤムライハは硬直する。
「え、あれが通常運転なの……?」
「それってお姉さんに対しても?」
「いえ、お姉様に対しても心配性なところはありますが、お姉様は将軍なのでそうも言ってられないみたいです」
「「………………」」
 暫しの無言の後、ピスティは隣のヤムライハの肩を掴み共にくるりと後ろを向く。突然背を向けられたは、首を傾げながらも出されたお菓子に手を伸ばした。
「(ねえどうしようこれ白龍皇子は本気だ。白龍皇子だけが本気だ)」
「(でも実の兄妹よ……? 妹離れが異常にできてないだけじゃない?)」
「(恋の前ではそんなこと気にかけない人もいるんだよ! 白龍皇子は兄妹であっても好きになったら盲目的に突き進む人だと見た!)」
「(でも姫はたぶん、皇子のことそういうふうには思ってないんじゃ……)」
 ひそひそと交わされる密談を疑問に思いながらも、お菓子を咀嚼する。だが、急にぐるんと振り向いた二人に、は驚いてきゅっと喉を詰まらせた。
姫! 姫はお兄さんのことどう思ってる!?」
「けほっ……龍兄様ですか? お慕いしていますよ?」
「えっ!」
「それって家族として? 一人の男性として!?」
「……すみません、私、恋をしたことがないので確かなことは言えませんが……おそらく家族としてだと、思います」
「そっかー……ごめんね、変なこと訊いて」
「ピスティ、それ結構今更な謝罪だと思うわ」
 呆れたようにピスティを窘めるヤムライハの頬を、ピスティがつつく。
「なによー、ヤムだって……」
「失礼するわぁ。ちゃん、いるかしらぁ?」
 断りと共に入室してきた紅玉に、ピスティの言葉は遮られた。
の姿を認め、紅玉の表情がぱっと華やぐ。
「ああ、やっぱりここにいたのね。ちょっとお話してもいいかしらぁ……あ、そういえば白龍ちゃんもちゃんを呼んでいたわよぉ」
「龍兄様が? お手数をおかけして申し訳ありません、お義姉様」
 立ち上がるは、先ほどまで話題に上げられていた白龍の名前に気まずげに視線を彷徨わせる二人に頭を下げた。
「お話の途中で申し訳ありませんが失礼します、ピスティさん、ヤムライハさん。お茶とお菓子ごちそうさまでした」
「あっうん、またねー!」
「また今度ゆっくり話しましょうねー」
 紅玉と連れ立って部屋を出ていくに、二人は慌てて返事をする。
ぱたん、と扉が閉じられると、ピスティとヤムライハは顔を見合わせた。
「……私たちが姫をお茶に誘いに行ったとき、白龍皇子もいたわよね」
「……いたよね。いつぞや無断で連れ出した時とは違って、皇子にも一言断ったよね」
 確かに日はだいぶ下がってきているが、そう長い時間は経っていない。
同性との友人付き合いにまで制限じみたことをしているのだろうか。
 しかしそこまであからさまな白龍の慕情に、肝心の本人が気付いていないようである。
ピスティは二人の仲を応援せんと決意を固め、ヤムライハはそんな友人の暴走を止めようと思いつつも、ピスティ同様二人の関係に心配の感情を抱いたのだった。
 
150522
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