、」
 熱に浮かされ涙を零すの名前を呼んで、白龍はに顔を近付ける。宥めるように何度も口付けを落とせば、こわばっていたの体がだんだんと弛緩していった。
「りゅうにいさま……」
 涙の膜が張った潤んだ瞳で、が白龍に手を伸ばす。白龍の首に触れたの手は、そこにも残る火傷の痕を確かめるようになぞる。その手を上から押さえ付けて、白龍はふっと口角を吊り上げた。可哀想な妹、可愛い妹。自分に兄弟愛しか抱いていないのに、情愛などそこにはないのに、いくつもの罪悪感に縛り付けられて。白龍の肌の色が違う箇所を見る度に、灰色にくすんだ瞳を見る度に、泣きそうな顔をするが愛おしい。
(お前は何も悪くないのに)
 白龍のために、負わなくてもいい全ての罪を背負いこんだ妹。これから白龍が犯すだろう罪を全て、一緒に背負うことを決意した哀れな妹。身を内から食い破るような激しい怒りなど持っていないは、本当は向こう側で生きられるのだ。アリババたちと手を取り合って、正しい光の中で生きられる。その手を絡めとって捕まえて、こちら側へと引きずり込んだ。手を離してやればは救われるだろうに、白龍にその手を離してやる気は欠片もない。この怒りに寄り添って生きていくと、は言った。たとえそれが情愛からでなくても、罪悪感に引き摺られたものでも、それでもに白龍を想う心がある。ずっと一緒にいるというの言葉を得た以上、もうそれが兄弟愛だろうが親愛だろうが構わなかった。たとえ奈落の底に堕ちることになっても、この手だけは離さない。絶対に離さずに、共に地獄の果てまで連れて行く。
「あっ、」
 だいぶ力の抜けたの体を揺さぶれば、艶めいた声が上がった。それを恥じてすぐに口を塞いでしまうに、声を我慢するなと言いながら、白龍はの小さな白い手をそっと剥がし、自らの手を重ね合わせて指を絡める。
「もっと声が聞きたい、
「、んっ……」
 全てを知ってもなお、復讐の道に進む白龍を拒まずにいてくれた愛しい妹。白龍を拒む道など全て絶たれてしまっていることに気付かなかった哀しい妹。薄々は解っていた、子供の頃から知っていた、が白龍を拒まない理由も。シンドリアで開きかけた未来を閉ざしたのも、最終的に白龍の手を取ったのも、こうして体を求めても震えながらも拒まない理由も。それは全部、白龍への罪悪感と、贖罪と、無力なを一番強く求め続けた白龍への感謝と報い。
「あいしてる、
「わた、しも……っ、あいしてます、おにいさま、」
 もう、錯覚でも何でもいい。が自分を愛していると言うならば、何だって、どんな形だって。溶けそうな藍色の瞳で、見上げるが愛おしい。その瞳に揺れる熱は確かに白龍を求めていると信じた。突き上げる度にこぼれ落ちる涙を掬って口付ける。
「痛くないか、
 つい先程まで破瓜の痛みに泣いていたを慮って、白龍はできるだけ腰の動きを抑えていた。本能は求めるままに最愛の妹を食らい尽くしてしまいたいと訴えていたが、への愛しさが理性となってそれを押しとどめる。
「……いたく、ないです、」
 ふるふると頭を振ったの頬を撫でて、そうか、と白龍は微笑みを浮かべる。の処女を散らした時は陥れるようにして手に入れたことへの罪悪感の方が大きかったが、今はそれもほとんど消え、ただただ嬉しくて嬉しくて仕方がない。大好き、愛してる、そんな言葉では足りないほどに愛おしい、白龍だけの可愛い可愛い最愛の妹。繋がったそこがくちゅ、と水音を立てるのを見下ろして、白龍は笑った。無垢な妹を汚して、純潔を奪った。もうは白龍だけのものだ。幼い頃からずっと想い続けて、ようやく手に入ったのだ。血の繋がった実妹であると体を重ねる背徳感と、求め続けた唯一の存在に受け入れられたことに募る愛しさと幸福感。りゅうにいさま、と熱に浮かされ舌足らずな口調で白龍を呼ぶが愛しくて愛しくて、白龍はその華奢な白い体をかき抱いた。の中に収まっている熱が質量を増し、がびくっと肩を揺らす。
(もうそろそろ、限界だな)
 これ以上は耐え切れないと、思っていたよりも大きかった胸の膨らみを触って繋がったそこから気を逸らしてやりながら、白龍は少しずつ腰を前後させる速度を上げていった。上ずった声をあげて言葉にならない荒い呼吸を繰り返すの唇を食む。
「ん、……っ!!」
「、っ」
 びくんと跳ねたの体を押さえつけ、白龍も何度か激しく奥へと自身を打ち付けると小さく呻いて熱を放った。熱いそこにどろりとした感覚が広がって、の胸は重石を入れられたかのようにずんっと沈む。
(龍兄様と、お兄様と、私は……)
 ひどく優しかった白龍のおかげで、ほとんど痛みは感じなかった。最中はずっと、ただ熱いという感覚に囚われていて。重なったままの唇から、吐息と共に熱が漏れ出ていく。だんだんと冷えていく頭で、実兄と契ったことが実感を伴っていくにつれ、はぼろぼろと涙を溢れさせた。今この胸の中に渦巻く感情が一体なんなのか解らない。悲しいのか、嬉しいのか、虚しいのか、満たされているのか。そのどちらでもあって、どちらでもない気がした。熱い、とは現実逃避のように思う。いまだ離されない唇も、繋がったままのそこも。ひどく熱かった。
(ごめんなさい)
 誰に何を謝りたいのか、それすら解らない。
それでもは一心に謝り続けた。白龍がそっと唇を離しても、慈しむようにの頬を撫でても、名残惜しそうにの中からずるりと自身を抜いても、はただ心中で謝り続けた。それ以外に、言葉が浮かばなかった。
涙を流すに、自嘲的な笑みを浮かべ繋いだ手を解こうとする白龍。しかしその繋がれた手を、がぎゅっと握り返した。
?」
「……もう少し、こうしていたいです、龍兄様」
 は俯いて白龍へと縋る。それに白龍は目を見開いた。白龍の手を握り返す小さな柔らかい手に、こみ上げた感情に何という名前を付けたらいいのだろう。
「ああ、。ずっとこうしていよう」
 の手を握ったまま、白龍は幸せそうな笑みを浮かべての隣に身を沈める。寄り添って眠ろう、と笑う白龍の表情は、それまで見せていた翳りや不穏な色は何一つ無く、年相応のあどけない笑顔で。それを見て力無く微笑んだの表情もしかし、悲しいほどに晴れやかだった。
 
150723
BACK