「白龍お前さ、何で妹ちゃんの脚斬ったんだよ」
結局今日のところは部屋に閉じこもることを承諾したを自室に送って、危ないから絶対に一人で出歩くな、と隣で聞いているジュダルがうんざりするほどに言い聞かせて部屋から出てきた白龍にジュダルは問いかけた。白龍に黙れと言わないどころか困った笑顔を浮かべるだけのにジュダルはいっそ尊敬じみた感情すら浮かぶ。が白龍に脚を奪われることを拒否しなかった理由は――理解できたかどうかは別にして――本人の口から聞いたが、白龍の動機を聞いていなかったなと言葉を重ねる。
「危ない危ない言うけどよ、そもそもお前が脚斬らなきゃ良かった話だろ? 妹ちゃんだって魔法使えるんだしよ、ある程度なら自分くらい守れるだろ。わざわざハンデ背負わせたのは何でだよ?」
「……仮に脚を斬らなかったとしても、俺はに部屋に閉じこもっていてほしかったし、それか俺の傍に四六時中置いておきたかったのに変わりはない」
「んだよそれ」
「そうだな、は魔法を使える。自分の身くらい守れる。だが俺がそうさせたくないんだ。俺が守っていたい、は何もしなくていいと言い聞かせる口実のようなものだ」
「……お前らって似てるよなー」
論理が通ってるようで崩壊してるところが特に、とジュダルは杖で浮かんだ体勢のまま頬杖をつく。
「結局は俺の甘えだ。何をしてもには許される、受け入れてもらえる、それを確かめたかっただけなのかもしれない」
或いは、贖罪か、刑の執行か。白龍の火傷を重くする一因となったことに、白龍が左腕を無くすことを防げなかったことに、愛した母親を殺す手助けをしたことに、ずっとずっと自身を呵責し続けて、目も当てられないほど憔悴していたから、それ以上は自身に罰を与えずともよいのだと、白龍の手で罰の代わりに消えない傷を与えた。
「お前って妹ちゃんのどこが好きなんだ?」
「……最初は、庇護欲だな。俺は兄上たちに守られてばかりだったから、そんな俺に縋るが不可思議で、でも気付いたら手放せなくなっていた。大火の後はなおさらだ。を守ることで、なけなしの自尊心を保っていたのかもしれない。こちらへ引きずり込もうとしてどんなにの心の中を引っかき回しても、俺のせいでどんなに心を痛めてもは俺に笑うんだ。俺を独りにするまいと、あの綺麗な手で躊躇なく俺の醜いところに手を伸ばして触れようとする。あんなに泣き虫なのに、俺の孤独に触れようとして、愛らしいだろう」
「でもそれって、お前に守られてくれて、お前のいうこと何でも聞いて笑ってくれて、お前のこと受け入れてくれて、お前を独りにしないやつなら他のやつでも良かったんじゃねえの?」
「それは結果論だな。仮にそうだとしても、だけが俺を受け入れて独りにしなかった。他の誰も……姉上ですら、俺を拒んだ。誰もが俺たちのことを間違っていると言っただろう、ジュダル。条件さえ合えば代替が成り立つというような益体もない仮定はそもそも好かないが……がそうだったということだけが今の俺にとっては真実だ」
そう、他の誰かにその可能性があったかどうかは関係ない。白龍にとってはがそうであったか否かということだけが全てだ。
「今度妹ちゃんにお前のどこが好きなの? って訊いとくわ」
「……あまりを困らせるなよ」
「お前だって気になるんだろ?」
「いや、だいたいは予想がつく」
確実に「優しい」ことと「を守り必要とした」ことがの好意の礎になっているに違いなかった。言ってみればそれこそその条件を満たす者ならば誰でも――紅明だって良かったわけだ。けれどは白龍を選んだ。もしもの未来など今に関わりはない。今は白龍の隣にいる、の隣には白龍がいる、それだけの話だ。
なんだよつまんねえの、とぼやくジュダルにそんなことよりも働け、と言って白龍は足を速める。紅炎たちを討ったら、の左脚も斬ろう。きっとはまた泣いてしまうから。大好きなきょうだいを見捨てて白龍を取ったことを後悔せずとも、それでも痛む柔い心を抱えた可愛い妹だから。きっと罰を求めるに、罰だと言って白龍のエゴをぶつけることこそ罪だろうか。
(でも両脚とも動けなくしてしまえば、きっとはおとなしく部屋にいてくれるし、抱えて歩いても嫌がらないだろう)
その日が楽しみだ、と口許を緩めた白龍に、ジュダルが気持ちわりー顔してんぞ白龍、と余計な一言を発し、殴られて殴り返して小規模な喧嘩へと発展。結局その後二人ともの魔法の世話になることになった。
150730