悲しみがあるなら強くなれるなんて言っても、そもそも弱いままでいることを許される人間が、悲しみを知るわけがない。
は弱い人間だ。戦う術は碌に持たず、自分を傷付ける相手にすら攻撃することを躊躇うような臆病さを持ち、泣き虫で、諍いが苦手で、甘さと紙一重の優しさがその性情を占めていて。それでも、は確かに悲しみを知る人間だった。深い深い悲しみが強くしたのは、彼女の奥深くの芯の強さとも呼べる部分だったのだろうと白龍は思う。どれほど傷付けられてもなお、世界の優しさを信じると、笑顔で言い切れるだけの強さを持った人間だった。
「龍兄様は、とても優しい人です」
世界の優しさを信じない白龍を、は誰よりも優しいと言う。或いはにとっては世界とは白龍の代名詞であるのかもしれなかった。白龍のせいで苦しい思いをしたのも一度や二度ではないだろうに、今もまだを慈しむと共に苦しめているのは白龍であるというのに、は白龍を優しいと言って笑う。白龍が信じる優しさはだけであったから、その言葉にいつもどうにも居心地の悪い気持ちになった。
実際白龍はに対して優しくあろうとしているが、それでもの愛を乞うためににいろんなものを捨てさせてきた。自ら戦う術を身に付ける機会や未来の可能性を全て奪い、母親への情や、きょうだいたちを慕う心、異国でできた友人との絆、それらを自分の手で切り捨てさせて。白龍以外の存在をの内に認めない愛の求め方は決して優しいものではなく、にたくさんの痛みをもたらしてきただろうに、それでもは白龍の手を握って笑うものだから、白龍は時折どうしようもなくに許しを請いたくなった。
「龍兄様は、優しい人なんです」
白龍の頭をその頼りない胸に抱き寄せて、は柔らかい声で言う。白龍が兵士たちの脳を壊したことを、ジュダルがに得意気に語っていたのは昼間のことだった。にはあまり知られたくないことだったのに、と慌ててジュダルを黙らせたが、予想に反しては白龍を責めることも恐れることもなく。ただ、もしいつかその必要が無くなったら、自分に彼らを治させてほしいと眉を下げて微笑んだ。
「優しいのは、お前だろう……」
の胸に縋りながら、白龍はぽつりと呟く。とくんとくんと微かに聞こえる鼓動に胸が安らいだ。足を奪われても、非道な行いを知っても、白龍だけを選んだはその瞳に慈しみをたたえて白龍を受け入れる。盲目的ではない。愚かではない。それこそがの強さであるのだと思った。白龍の全てを受容するの、そのルフが未だに真っ白でいるらしいことが不可解で、けれど同時にひどく納得できる。間違いに間違いを重ねてこんな絶望の果てにまで引きずり落としたのに、最愛の妹は悲しいほど澄んだ瞳で白龍を愛した。
「愛してます、龍兄様」
白龍のためだけに何もかもを捨てて白龍に応えた。白龍が望んだ愛に応えて、白龍にその全てを差し出した。それを可哀想だとは思わない。ただ、愛しいと思う。から全てを奪ってもまだ足りないと、醜い手を伸ばして求め続ける自分に微笑むに許してほしかったけれど、白龍が謝らずともその過ちを全て最初から許しているに、罪悪感を覚えるべきなのに湧き上がった感情は安堵と愛しさだった。
「、愛してる」
ぎゅっと縋りつけば軋んだ華奢な体躯を押し倒して組み敷く。連日のように限界まで酷使されている体はあまりに頼りない細さで、こんな体のどこにあれだけの強さを抱えているのだろうかと思う。収まらない欲のままに求め続けても文句一つ言わないの、その薄い腹をそっと撫ぜた。
「んっ、あ……はぁっ、」
うつ伏せに寝かせた状態で、背後から覆い被さるようにを抱え込んでぐりぐりと腰を押し付ける。狭い膣内を擦られて、反射的に白龍の陰茎をぎゅうぎゅうと締め付けたに白龍は吐息混じりに笑った。
「、締めすぎだ……っ」
「ごめ、なさい……あッ……」
耳元に吹きかけられた息にまた内壁が収縮し、強く締め付けてしまったそれの硬い感触にさえ感じてはびくんと震える。
「可愛いな」
火照った背中に舌を這わせて白龍は笑う。背骨に沿って白い肌を舐めていけば、背中も弱いは面白いくらいにびくびくと震えた。きゅうっと締まる中にせがまれているような心地よさを覚えて、緩やかに腰を押し付けていた動きを激しい前後の動きに変える。
上がる甘い嬌声が掠れ始めているのに気が付いて、そろそろ休みを挟まなければ抱き潰してしまうな、と最近ようやく加減を覚え始めた白龍は、それでもこの一回は終わるまでやってもいいか、と悪びれもせずに腰を打ち付けた。
が白龍の言いつけ通り部屋でおとなしくしていることが多いのは、脚がどうとかよりも単純に底無しの白龍に付き合った結果体力を著しく削られて昼まで動けないことがほとんどだからだ。朝からてきぱきと動く白龍はいったいいつ休んでいるのだろうとは心配していたが、それを口に出せばちゃんと寝ている、むしろお前こそもっと休めと逆に心配されてしまう始末で。
白龍が子供を望んでいないのは薄々も感じ取っていて、それでも明け方近くまで及ぶことの多い情交や躊躇いなく中に出されるそれに、は疑問を持ったもののそれを尋ねることはしなかった。どうしようもなく不合理で迂遠で本人ですら説明がつけられない、そういったものもまた愛という感情であるのだと知ったからだ。
「龍、兄様……」
「なんだ?」
「すきです」
の体の前面に回って胸を触っていた白龍の手に縋って言えば、白龍はぴたりと動きを止めて、ずるっと自身を抜くとの体を持ち上げて引っくり返した。
ぼんやりと蕩けた表情で見上げてくると視線を合わせ、だいぶ滑りの良くなったそこに再び挿入すると、きゅっと声をこらえたの手を握って請う。
「もう一回言ってくれ」
「すきです」
「もう一回」
「すきです、りゅうにいさま、すきです、おしたいしています、あいしてます」
「~~~ッ!!」
上気した頬を緩めて微笑むの口から溢れ出す睦言に、たまらず白龍はその華奢な体を強く強く抱き締めた。中で質量を増した熱に驚いたの上ずった声にすら、募る愛しさは増す。
「すまない、」
「……?」
「休ませてやれそうにない」
これでいったん終わろうとしていた腰の動きを再開させる。休みを挟む余裕はどこかへ吹き飛んだ。激しく揺れる体に熱は高まるばかりで、欲を抑え込む器が全然足りない。どんなに貰っても、満たされれば満たされるほどにもっと欲しくなる。それでも笑って差し出すに溢れる愛しさを吐き出すように、の中に熱をぶちまけた。
「は、あ……、愛してる」
「わたしも、あいしてます……」
本当に止まらなくなりそうで、白龍は小さな唇を自分の唇を重ねて塞ぐ。言葉も熱も、甘い毒のようだと言うにはあまりにも愛らしかった。
150827