「!!!」
目覚めた時、まだ意識もハッキリとしていないにがばりと抱き着いてきた温かい何か。呼ばれたのが、自分の名前であるということも数秒は理解できなくて。
「よかった、、本当に良かった……!!」
温かい。ずっと焼けるような痛みに苛まれていたにとって、その温もりはひどく安心できるものだった。ぎゅっと縋るように伸ばした手は、目の前の温かいものを力無く抱き返す。それがすぐ上の兄であると気付いたのは、ぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔で白龍がを覗き込んでようやくのことだった。
「お前が……ッ、までいなくなってしまったら、俺は……!」
「……りゅう、にいさま」
「もう痛いところは無いか? 俺は、魔法が使えるようになったんだ……痛いところがあったら、俺が治してやるから、」
包帯や布でぐるぐる巻きにされたを、大切に大切に、全身で包み込む。怪我も火傷も負っていない白龍の様子に、白龍はあの惨事に巻き込まれなかったのだと、は安堵に目元を緩めた。
「……まほう、」
「ああ、俺が必ずお前を守るから」
父も、二人の兄もいなくなってしまった。白龍も、そして白瑛も、おそらく母の正体を知りはしない。きっと、がそう言っても信じられないだろう。だって、疑う気持ちの方が強いのだ。
を抱き締める白龍の腕の中で、は思い悩む。白徳たちがいなくなった今、皇位は誰が継いだのか。順当に行けば白龍のはずである。けれど、それを憔悴した様子の白龍に直接訊くのもはばかられて。
(お母様に、訊かなければ)
優しく、美しい母に、白雄たちを殺してなどいないと、そう否定してほしかった。
「お母様、」
「どうしたの? 。お菓子をもっと持ってこさせましょうか? それとも絵本を読んであげましょうか?」
目覚めたを泣きながら抱き締めてくれた母は、が好きなお菓子をたくさん並べて手ずから食べさせてくれた。そして、ぽつりぽつりとこれからのことを語った。煌は戦争によって統一された軍事国家であり、幼い白龍が帝位に就いては国が瓦解する恐れがあること。白徳の弟である紅徳が新たな皇帝になったこと。玉艶は紅徳と結婚し、たちは紅徳の養子として迎え入れられたこと。優しくを抱き締めて、白雄たちの死を悲しむ玉艶が、絶対にを守ると儚く笑う玉艶が、白雄たちを殺したなどと、信じたくなくて。
「……雄兄様が、おっしゃっていたんです。雄兄様たちを殺したのは、お母様だって……」
「…………」
「嘘ですよね、お母様……! お母様がお兄様たちを殺したなんて、嘘ですよね? お母様はそんな酷いこと、なさらないですよね……!」
白雄が嘘をつくなんて考え難い。けれど、玉艶のことを信じたい。板挟みになり泣いて縋るの髪を、玉艶は優しい手付きで梳いた。
「……そう。知ってしまったの……」
「え……?」
「白雄も酷いわね……小さな可愛いに、そんなものを託してしまって……まあ、それしか無かったのでしょうけれど」
「お母様……?」
美しい笑顔を浮かべてを撫でる玉艶の言葉に、は自分の耳を疑う。それではまるで、そうだと認めているようではないか。
「そうだと、言ったらどうしますか?」
「!?」
背後からを抱きかかえた玉艶が、後ろからの小さな手を掴んだ。
「この手で私を殺す? それとも白瑛たちに言う? いいえ、そんなことにはできないわ。できるはずがないもの。誰よりも優しくてか弱い、可愛い小さな……」
見上げた玉艶の笑顔は、美しいのにおぞましく歪んでいた。の喉が、引き攣った音を立てて軋む。
「可愛い可愛い、何もできない可哀想な。そんなことを教えてしまった白雄を恨むといいわ。あなたは私の、可愛いでいるほかないのだから」
「……!!」
ぎゅっと、強い力で抱き込まれる。ガタガタと震えるを見下ろして、玉艶は艶やかな笑みを浮かべた。
151219