ぷるぷると、短い刃の柄を握るの手が震える。燃えるような赤と、眩しい黄色。その間に溶けるような橙。朽葉色。柔らかな落ち葉の上に腰掛けてを抱き寄せる美しい姉の胸にあてがった短刀を、どうしてもそれ以上動かすことができなかった。
「大丈夫ですよ、。何も怖くありませんから」
「でも、でも……瑛姉様を、……っ、」
「私がついていますから。死出の旅路を、独りで歩かせなどしませんよ」
 優しい姉のたおやかな掌が、のまろい頬を撫ぜる。白く美しい指にぽろぽろと涙を零して、は首を横に振った。
「逝くことが怖いのではないのです、愛しいお姉様を、美しいお姉様を、死で穢してしまうことが、ただおそろしいのです」
「あら、可愛いことを言うのですね」
 ぱちぱちと瞬きをした白瑛が、よしよしと豊かな胸に愛しい妹の、涙に濡れた頬を抱き寄せる。ぽんぽんと優しくの背中を叩いた手には、もう一振りの銀色が握られていた。
「どうか私を穢してください、。愛し合うことすらままならない世の中で生を終えるなら、あなたの手で幕を引いてほしいんです。死によって結ばれるのなら、殺められる痛みすら愛おしい。私と同じ罪を背負って逝きましょう、
「瑛姉様……、」
 ぽろりと零れ落ちた涙が、の手の中の銀色に落ちて刃を濡らす。極彩色の視覚の中でなお色褪せない珊瑚色の唇が、震えるの薄紅色に重なった。
「ずっと一緒ですよね? いなくなったり、しないですよね……?」
「ええ、ずっと一緒です。何度朝が来ても、幾度夜を迎えても、永劫に」
 縋るようなの問いに、深い慈愛の笑みを浮かべた白瑛が頷く。ぬるい涙を呑み込んだが、意を決したようにぎゅっと両手で柄を握り直した。
「あいしてます、おねえさま……!」
 ドスッと、柔らかい肌を貫いた感触。それがの手を震わせるのとほぼ同時に、白瑛の持つ銀色が鈍くきらめいての背中に突き立てられた。
「私もあいしてます……、」
 燃ゆる色を映す秋の片隅で、幾つかの紅い華が咲き誇る。安らいだ笑顔を浮かべて、二人の瞼は閉じられた。
 
160201
文字色:赤朽葉色/背景色:鳥の子色
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