紅い。
どこか興奮状態にあった頭が少し冷えて意識がはっきりした時に、まず目に飛び込んできたのは焼け付くような紅色だった。
「……、」
 白と青。それがこの綺麗な少女の色だった。無垢でまっさらな白と、澄み渡る清浄な青。貴く美しい、純粋な姫宮。
、どうした。返事をしろ」
 細い肩を掴んで揺さぶると、瞬く間に紅が広がった。白を染め上げて穢していく、目に痛いほどの紅。暗闇の中でも不思議とよく見えるその色が、紅炎の目を惹き付けて離さない。穏やかな青さえ染め上げて、紅がを覆っていた。
唯一赤に染まっていない瞳の藍色は、しかし澱んだ海のように暗く濁っていた。きらきらと明るく澄んで輝く藍色が、この少女の色であったはずなのに。しかし紅炎は思う。赤色に穢され澱むの姿は、なんて、なんて――
 きれいだ。
 紅炎はずっと不安だった。自分が愛しているのは、の表層だけなのではないか。愛らしく可憐なの、無垢で純粋なの、その目に見える部分だけを美しいと、愛しいと思っているのではないかと。
しかし違った。腹の中身を全て引きずり出され血の海に沈み赤黒く染まり、血の気の失せた頬と生気を無くし濁った瞳でいるの、くるくると変わる表情も愛らしい声も全てなくしたの、その姿さえ、綺麗だと、愛しいと、心の底からそう思えるから。
「よかった」
 自分はを愛している。嘘偽りなく愛している。のすべてを愛している。その存在を丸ごと引っ括めて細胞の一つ一つすら愛していると、その証左は立てられたのだ。
「……?」
 どんなに呼びかけても、返事はない。ぐにゃりと柔らかい体は熱を失い、冷たくなっている。
「死ぬのか。死んだ、のか……そうか」
 その脈が止まっているのを確認すると、紅炎はあっさりと自らの心臓にを殺した剣を突き刺した。
「ならば、俺がそちらに行こう」
 お前の全てを愛していると、ようやく得た答えを伝えるために。吹き出した赤色が、床に溜まる赤にどろりと混じった。
 
161013
ネタ提供:心中シリーズの続き(紅兄弟編)
文字色:赤錆色/背景色:紫黒
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