「好きです、紅明お兄様……!」
 それはにとって、自分の想いの全てを懸けた愛の告白だった。ありったけの勇気を振り絞った、慕情の吐露。ぎゅううっと小さな拳を握り締めて、白く柔らかい頬を真っ赤に染めて。小さな少女が全身全霊で訴える恋情は、文字にすればたった一文であろうとも、少女の全てが込められていたのだ。しかしが全力で恋い慕う従兄は、涼し気な表情のままさらりと答えた。
「ええ、私もあなたが好きですよ、。妹のように、家族のように、大切に思っています」

「う、ひっく……」
 ぐすぐすと膝を抱えて泣いているに、何か悟ったような表情の紅覇がそっとハンカチを差し出す。途切れ途切れに礼を言ってハンカチを受け取ったを、プリプリと憤慨している紅玉と苦笑いを浮かべた白瑛が慰めていた。
「し、んけんに……っ、告白、したんです……!」
「ええ、そうですよね。あなたはよく頑張りましたよ、
「お兄様ってばひどいわぁ、ちゃんは本気なのに……!」
「わたし、ほんとうに紅明お兄様がすき、なのに……妹、なんて……」
 失恋に打ちひしがれるの肩を、紅覇がぐっと掴んで顔を上げさせる。真っ赤な目に諦めきれない紅明への恋心を浮かべているに、にこりと紅覇は微笑みかけた。
「大丈夫だよ、。そんなに泣くくらい、明兄のこと本気で好きなんでしょ? なら伝わるまで伝え続けなきゃじゃん!」
「紅覇お兄様……!」
「一回や二回の失敗で、諦めるようなじゃないでしょ~? 僕たちもこのくらいで応援止めたりしないから、まだまだ頑張ってみようよ」
「お兄様のおっしゃる通りよ、ちゃん。こうなったら紅明お兄様がわかってくれるまでアタックあるのみよぉ!」
「私たちがついています、。諦めずに戦い続けましょう」
「紅玉お姉様、瑛姉様……はい、私諦めません! 紅明お兄様に一人の女の子として見てもらえるまで、がんばります!」
 失恋するのなら、妹としてではなく対等な、一人の人間としてがいい。そうでなくては諦めがつかない。ぐっと拳を握り締めて決意を固めたはもう既に一人の立派な女の子なのにと、紅覇は次兄を少しだけ恨めしく思った。

「紅明、さん!」
「おや、どうしたんですか
「…………」
 まずお兄様呼びをやめてみようよ、と指摘されそれもそうだと納得したは幾許かの羞恥を抱えていつもと違う呼び方で紅明を呼んでみたものの、あまりに通常運転な紅明の返事にさっそく心が折れそうになる。一つ上の兄と同じく豆腐並に脆い心を紅覇たちからもらった言葉でなんとか支えながら、は深く息を吸って口を開いた。
「紅明さん、先ほどの話の続きなのですが……」
「先ほどの話とは?」
「わ、私が紅明さんを……好き、だという話です!」
「…………」
「私、ちゃんと伝えきれなくて……兄のような人とか、家族としてではなくて、紅明さんを一人の男性としてお慕いしているんです……!」
「……ええと、」
「ライクじゃなくてラブです! 私、紅明さんと恋人になりたいという意味で好きなんです……!!」
「……、」
 静かに名前を呼んだ紅明に、真っ赤な顔のはハッと口を閉じた。煩わしく思われてしまっただろうか、と急に不安がこみ上げてきてぽろりと溢れた涙が火照った頬を伝う。それを指先で優しく拭って、紅明は心底気遣わしげにを見下ろした。
「かわいそうに、……こんなに泣いてしまって……今度はジュダルですか? 紅覇ですか?」
「……え?」
「また恥ずかしい罰ゲームでも押しつけられたのでしょう。私が気付かなかったばかりに、二度も告白の真似事をさせてしまってすみません」
「ちが、います、紅明さん、」
「……無理をしなくていいんですよ、。あの二人にはよく言っておきますから」
「本当に違うんです、私本気で……!」
 必死にが言い募るも、よしよしとの頭を撫で回す紅明はが罰ゲームで告白をさせられているのだという誤解を解いてくれない。あうあうと泣き出したを抱え、紅明はを家に送ろうと足を踏み出すのだった。

「………………」
 机に突っ伏して力尽きているを、紅覇たち三人は遠巻きに見守る。朴念仁だとは思っていたがあまりにも手強いと、彼らは先行きに不安を感じてしまうのだった。
 
160502
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