「やっぱ色気だろ」
 容赦なくビシッとを指差して、ジュダルは言った。
「優等生すぎんだよお前。真面目に制服きっちり着込んで、一部の隙もねーとか全然手ェ出す気にならねーよ」
「隙、ですか……?」
 自分の格好を見下ろして、は首を傾げる。膝丈のスカートと真っ黒なタイツ、第一ボタンまでしっかりと閉められたブラウス。兄同様規定の服装を守っているだけなのだが、これが問題なのだろうか。戸惑うは、唐突にジュダルにスカートを捲られて悲鳴を上げた。
「きゃあっ!? ジュダル殿、何をなさるのですか!?」
「お前のスカート長ぇんだよ。短すぎて尻見えてても萎えるけどな、ちょっとは女子高校生らしく上げろ! せめて紅玉のババアくれーに!」
「ババアなんて、また紅玉お姉様に怒られますよ!」
「いいから折れ! イモくせーんだよ!」
 真っ赤な顔をしたとおかしな方向に熱の入ったジュダルが、きゃんきゃんと仔犬のように言い合う。ガッとホックに手をかけたジュダルにこのままスカートを下ろされるか短くするか選べと言われ、渋々観念したであった。

「……まあ、こんなモンだろ」
 一通りジュダルに弄り倒されたは、短くされたスカートの裾をぎゅっと握り締めて真っ赤な顔でジュダルから視線を逸らした。お前の武器はそのつるぺたには存在しないと言われた挙句、魅せるなら脚だとスカート丈を上げられて、タイツからニーハイソックスへと変えさせられて。それだけで心が折れそうだったのに、ブラウスのボタンを開けるかどうか思案したジュダルが、「こんなまな板見せてもな」とそこには手をつけなかったことに完全にトドメを刺された。無論積極的に開けたいわけではないが、まだ成長の余地があると信じたいバストを扱き下ろされれば傷付くのは乙女心である。
「これであの朴念仁も、妹ちゃんのこと意識すんだろ。今日の放課後は紅明と図書館行くんだろ? しっかり落としてこいよ」
 ニヤニヤと楽しそうなジュダルの前から、脱兎の勢いで逃げ出したであった。

「…………」
「…………」
 カリカリと、シャーペンがノートの上に文字を描く音だけが図書館に響く。真面目に勉強に取り組んでいるように見える紅色と藍色。けれどの方はと言えば、内心気が気でなく勉強どころではないのだった。
(全く何も指摘されないということは、気付いていないのでしょうか……それとも気付いていてもスルーされているのでしょうか……)
 隣の席に腰掛けている紅明は、椅子の上で剥き出しになっているの太腿などまったく意識していないようだった。涼しい顔で参考文献を読み進める紅明の表情に、がむしろ気を取られすぎている。がこの場において得られているのは、スースーする脚を晒している羞恥だけであった。
もぞもぞと居心地悪げにが身じろぎする度に、白く柔らかい太腿が周囲の人間(主に男)の目を惹きつける。気配に敏感な紅明がチラチラと隣の可愛い従妹に向けられる視線を訝って本から顔を上げ、そこで初めてその視線がの絶対領域へと向けられた。
「……、」
 声量を気にしてか囁きに近い低い声で名を呼ばれ、はビクッと肩を揺らす。どぎまぎとしながら紅明を見上げたの脚に、紅明は自分が膝に掛けていたカーディガンを掛けてやった。
「そんなに脚を出していると、風邪を引きますよ」
 その夜が自分の部屋で号泣したのは、言うまでもない。

「……はぁ、」
「どうした紅明、今日は一段と腑抜けた顔をしているな」
「疲れた顔と言ってくださいよ……兄上なら大体の察しはついているのでしょう?」
「どうせのことなんだろう、この朴念仁もどき」
「またジュダルがに困ったことを吹き込んで……私だって一人の男ですよ、あんなふうに無邪気に煽りに来られたら自制するので精一杯です」
「……お前は馬鹿なのか、阿呆なのか」
「何で私が罵られるんですか」
「こんな愚弟を好きになったに同情する」
「そこまで言われる筋合いは……ああちょっと兄上、言い逃げしないでください」
 
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