開いた扉から入ってきたのは白龍で、はビク、と肩を揺らして白龍を見上げた。
「なんだ、早かったな白龍」
「……」
白雄の声を無視して歩み寄ってきた白龍は、激しく息を切らしていて。ただひとりの人と慕う白龍が来てくれたことが嬉しくて、けれど白雄と致している現状や、大きく衣服を肌蹴られて乱れた姿を見られたことに恐怖にも似た感情を覚えては顔を青ざめさせた。普段ならヒートの間は熱に浮かされているせいで意識がほとんど飛んでしまっているだが、抑制剤で幾分かヒートが緩和されていて意識はいつもよりしっかりしている。けれど意識がはっきりしていることが、却ってを苛んで。
ぽろぽろと涙を零すの頬をそっと撫で、白龍がを抱き上げようとの体に腕を回す。けれどそれを引き止めて白雄が笑った。
「まだしている途中だ、後で出直せ」
「……あんなメールを送っておいてそんなことを言いますか」
白龍はを離さずに白雄を睨みつける。白雄からがヒートだと、仮にも番にするつもりでいる相手の不調にも気付かないなんてが可哀相だなどと、挑発じみた文面を見た白龍が冷静でいられるわけもなく。
「、俺の言うことをちゃんと聞くんだろう?」
白雄がそっとの腕を掴む。掴まれた場所から全身にざあっと寒気が走って、は身を震わせた。首を横に振ってこの手を払いのければ、後でもっと怖いことになる気がして、けれど本当は白龍のぬくもりに縋っていたい。抱かれるなら白龍だけがいい。だが、もしここで白雄から逃げれば、またいつかの夏の夜のように犯されるかもしれない。番を結ぶという白雄の言葉がどこまで本気かわからないし、禁止した当人がそれをすれば白龍はもちろん他の家族も白雄を批難するだろう。けれど番は、一度結んでしまえばもうどうにもならないのだ。白雄から番を解消してもらえたとしても、アルファと違い二度と番を持てないオメガであるは白龍と結ばれることもできずに、不安定なヒートに苛まれる体を抱えて生きていくことになる。そして白雄はすると決めたらが泣いて懇願しても構わずそうするだろう。幼いを犯したあの日のように。
「龍兄様、」
もう、どうしたらいいのか解らなかった。ただ怖くて、抱きしめてくれている白龍に縋った。白龍だけのものでいたいのに、優しいはずの長兄がそれを脅かす。には白雄の考えがわからなかった。どうしてこんなことをするのか、訊くことさえも怖くて。
「……、」
低い声で、の名前を呼んだのが白龍なのか白雄なのか、には判らなかった。
の腕を掴んだままの白雄と、を抱き上げている白龍が視線を交わす。読めない笑みを浮かべている白雄に舌打ちをして、白龍がそっとをベッドに下ろした。けれどそのまま立ち去ることもなく、白龍はの頬をそっと撫でる。
「……俺は退きませんよ」
「それでも構わない。には少し負担をかけることになるが……、もう少し頑張れるな?」
白雄が、掴んだの手のひらにキスを落とした。二人のアルファの欲情にあてられて、抑制剤を飲んでいるはずのの頭がグラグラと揺れる。二人がに求めていることを朦朧とする頭で理解して身を竦ませただったが、白龍に唇を重ねられ、白雄に内腿をするりと撫でられて、火のついたような熱が再びぶり返すのを感じた。強い媚薬によく似た作用を催すヒートにの理性は焼き切れそうになって、ぽろりと涙がこぼれる。けれどそれをも舐め取った白龍の瞳に浮かぶ愛欲の色を直視してしまえばもう、火照る体を抱えて逃げることもできなかった。
「……、上手だな、いい子だ」
「んッ……ふ、ぅ、」
ベッドの上ではうつ伏せにされ、頭を白龍に抱きかかえられて白龍のものを咥えていた。後ろからは白雄がの細い腰を片手で抑え、繰り返し中に突き入れる。奥を突かれる度に、ずるりとそれを引き抜かれる度に、欲情し切った体はもっと、とねだるように悦んでビクビクと跳ねた。
空いた片手での胸に手を伸ばして、白雄が口を開く。
「、こっちにも集中してくれないか」
拙い奉仕に上手だと笑んでくれる白龍にはにかんだ笑みを返したことが気に入らないのか、白雄がの胸の突起をクリクリと弄りながら奥を抉る。きゅうっと締まった胎を愛でるように腰を抑えていた手で薄い腹を撫でた白雄は、ビクビクと抽送の度に震えるを見下ろして微笑んだ。
「可愛いな、」
「…………、」
ぐっとの喉奥に陰茎を押し付けた白龍に応えて、は懸命に奉仕を続ける。家族のほぼ全員と体を重ねているせいで否が応にも上手くなってしまった口淫に、白龍は複雑な気持ちで眉根を寄せた。抱え込んだ頭を優しく撫でると、熱に潤んだ藍色の瞳がふっと和らぐ。
「んっ、う、」
白雄の腰の動きが速くなり、の顔が苦しそうに歪んだ。けれどそれでも白龍のものを丁寧に舐めて吸い上げるの姿が健気で愛らしくて、白龍のそれはむくりと大きさを増す。ますます呼吸を阻害されて苦しそうなをそれでも離してやれない自分を内心で嗤いながら、白龍はの口内に射精した。
「?」
「……ん、ぅ、」
ごくんと、は自ら喉を動かして苦い白濁液を飲み下す。更には誰に教え込まれたのか白龍の陰茎から精液を舐め取るようにぺろぺろと舌を動かして、驚いてを見下ろした白龍を少し不安そうな目で見上げた。
「……っ、」
健気な仕草に、白龍のものを咥えたままの不安げな上目遣い。意図的ではない愛らしさに胸を撃ち抜かれた白龍は、思わずの口から陰茎を引き抜き、上体を抱き起こして小さな唇に噛み付くように口付ける。体勢的に苦しいかと一瞬後悔が過ぎったが、白雄もを抱き起こして背面座位の形に移行していたためすぐにその不安は消えた。自身の精液が舌に絡むことなど厭わずに深く深くの口腔を貪れば、の肩越しに白雄が笑う。
「まったく……妬けて、しまうなっ、」
グチュグチュとの膣を下から掻き回し、子宮口を突き上げながら白雄はの控えめな胸を包み込むように揉みしだく。固く立った乳首が転がされて、重なったの唇から押し殺した嬌声が漏れた。それが面白くなくて、白龍はの陰核に手を這わせていきながら舌をより深く絡め合わせる。ぷくりと存在を主張する陰核を、愛液を絡ませた指先で擦れば背筋を反らせたの喉奥から嬌声が溢れてくる。それでもの後頭部をしっかりと片手で押さえ付けてディープキスを続けながら、白龍はの陰核を指先で擦ったり摘んで揉み潰したりを繰り返した。
「……っ、」
白龍の背筋までぞわりと震わせるような色を孕んだ低い声が、白雄の口から漏れる。兄二人に愛撫されてぎゅうぎゅうに白雄の陰茎を締め付けたの柔らかい襞に耐えかねて、精液を奥に叩き付けたようだった。はぁっと熱の篭った息を吐いた白雄に、をようやく口付けから解放した白龍は冷たい視線を向ける。
「終わったのなら早く抜いてください、兄上。だって俺に挿れて欲しがっているんですから」
「……そう急くな、白龍。も名残惜しいだろう?」
ぼんやりと意識が飛びかけているの肌を優しく撫でながら、いつもはああ言っておきながら平然と中に出した白雄を白龍は睨み付ける。性別にそぐわない、無駄に艶のある笑みを浮かべた白雄がのうなじに唇を落とし、白龍は反射的にの矮躯を自らの方へと抱き寄せた。
「っ、兄上……!」
「どうした白龍、そんなに怖い顔をして」
いっそ殺気立って犬歯を剥き出しにし、小さな妹を庇うように抱き竦める白龍を見ても白雄は笑みを崩さない。の処女を白龍から奪った白雄が、番の座さえも奪おうとしているのがありありと解って白龍はフーッと息を荒らげる。の白いうなじを自分の手で覆い隠して、白龍はぐったりしている最愛の妹の頭を自分の胸に埋めさせた。
「……は、俺の番になるんです」
「どうだかな」
「兄上に、もうから何も奪わせません……!」
くす、と余裕のある笑みが白雄の口から漏れる。安心しろ、と呟いた白雄は、ゆっくりとの腰を撫でた。
「少なくとも、無理矢理番にしたりなどはしない。の一生に関わることだからな」
「…………」
「そうだな、仮にと番を結ぶとしたら……がお前に愛想を尽かした時だな」
「……なら、兄上がと番を結ぶことはありませんね」
「今はまだ、そう思ってもらって構わない」
続きをしよう、そう微笑んだ白雄が這うような手付きでの割れ目に手を伸ばす。その手を払った白龍が、白雄に向けていた鋭い目を和らげてを見下ろした。未だ熱に苛まれる可哀想な妹を静かに押し倒し、ぐちゅりと音を立てて自らの熱を突き立てて。白龍との結合にうっすらと幸せそうに微笑んだに、白雄が眉を寄せたことが白龍の不安を煽る。白雄の言葉はどこまで本当なのかが白龍には推し量れない。の頭を膝の上に抱えて口付けた白雄を、押し退けてしまいたかった。
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ネタ提供:愛は愛に、オメガバースパロのどうしようもならない~の続き