「……お前は執事か?」
「そうですけど」
「ち、違いますよ?」
ラウンジに食事をしにやって来た紅炎が、白龍とを見て思わず呟く。の焼き魚の骨を一本残らず処理している白龍がしれっと肯定し、兄にそんなことをさせるなど、と慌てているがそれを否定した。
「俺は思うんですよ、SSとはシークレットサービスでもありサーヴァントサービスでもあるって」
「パロディ元が変わりそうな発言は止めろ」
だいたいそっちは執事は関係ない、と溜息を吐いた紅炎は白龍からへと視線を向ける。
「、一週間もしない内に新学期だが……辛くなったらいつでも俺達を頼れ。そのための妖館だ」
「……はい、ありがとうございます」
「俺がいるから心配は要りませんよ」
「……お前もだ、白龍。学校に通ったことがないのは二人とも同じだからな」
複雑そうな面持ちの紅炎に適当に返事をして、白龍はの口を開かせる。あーんとその口にほぐした焼き魚を放り込んで、白龍はに向けて蕩けるような笑みを浮かべた。
「龍兄様……こんなに良くしてもらっていたら、私一人じゃ生活できなくなってしまいます」
「そうか。俺はそれもいいと思うが」
「えっと……」
「……程々にしておけ」
ニコニコとへの給仕を続ける白龍に、紅炎が何度目かの溜息を吐いた。
「龍兄様、あの、」
「どうした? 」
「……龍兄様は、せっかく外に出られたのに、私のことばかりで……もっと自由に過ごしてほしいです」
「? 俺は自分の好きなことをして過ごしているんだ、がそんな風に気に病む必要はない」
白龍だって初めての学校生活なのだ。友人を作って交流を深めたり、クラブや部活動を満喫したり、好きなことをしてほしいと思う。けれど白龍は、登校から下校までの傍にいることを第一優先に予定を立てていて。自分のせいで白龍は未だに不自由なのではないかと、そう不安げにするに白龍はきょとんと首を傾げた。
「仮に俺が不自由なのだとしても、俺はお前のいない世界でどこにでも行ける自由などいらない。お前が隣にいる不自由こそが俺の幸せなんだ」
「龍兄様……」
「お前と一緒にいられるのなら、自由も不自由もさしたる問題ではない。そんなものに意味など無いんだ。お前の傍にいられるかどうか、それだけが俺にとっての全てだ」
風呂上りで裸足になっていたの足を取り、白龍はその爪先に接吻する。真っ赤になっておろおろと慌て出すににこりと微笑み、白龍は言葉を重ねた。
「だから、お前が決めてくれ。俺が幸せか不幸か、俺は俺の全てをお前に委ねる。俺は正直、さえ隣にいてくれるのなら居場所はどこだって良いんだ。あの家だろうが、ここだろうが。ただ、お前が外を望むのなら俺も外を望む……それだけなんだ、。それが俺の、幸せなんだ」
「……?」
「今はまだ、わからなくていい。いつかお前が自分の望む幸福を理解できるようになったら、その時に決めてくれ」
「は、い……」
「そう、今はそれでいい。その時まで、俺はずっと待っているから」
今はただ、一途な忠誠を妹に捧げていよう。白龍は未だどこか虚ろな藍色へと熱い視線を注ぐ。白く柔い足をそっと手放し、白龍は就寝前の飲み物を用意するべく立ち上がった。尽くすのは何も、女だけの特権ではない。はきっと、白龍の愛にいつか応えてくれる。その確信があるから、今はただ待っていられるのだ。
(兄上たちよりも、近くて深いところに)
そこにいるのは自分だと、胸を張って言える。何があっても、に仕え守り続ける。それが自分の幸せであり、そしていつしかの幸せにもしてみせる。その思いを胸に、白龍は静かに微笑んだ。
160301