「主と俺の、墓を作っているんだ」
 庭でざくざくと穴を掘る鶴丸国永に何をしているのかと問えば、そんな答えが返ってきた。骨喰は穴の外にうず高く積まれた土を穴の中へ蹴り戻した。
「主さんの前で、嘘泣きする練習」
 目薬を差す明石国行にどこか悪いのかと問えば、そんな答えが返ってきた。骨喰は明石に目潰しを食らわせた。
「主さんを脱がせる時に、一番映える色はどれかなって」
 真剣な顔で着物を選ぶ乱藤四郎に何を悩んでいるのかと問えば、そんな答えが返ってきた。骨喰は乱の腕を掴んで店から連れ出した。
「私のお父さんとお母さんが、くれたものだそうです」
 矯めつ眇めつ眺めるように白い封筒を持っていたにそれは何かと尋ねれば、そんな答えが返ってきた。政府から送られてきた手紙を、が形を確かめるようにぺたぺたと触る。読んでもらえないかと差し出された手紙を開いた骨喰は、目を見開いて凍り付いた。
は父親の顔も、母親の顔も知らない。世界から切り離されたような少女は明るく優しいが、深い孤独を抱えていて。それでも孤児院の家族や、顔も知らぬ両親のために祈るの姿は尊く美しかった。骨喰はが好きだった。
 を捨てた両親。その男女から今更どんな言葉が送られてきたのかと文面に目を通せば、そこに綴られていたのは浅ましい金の無心。いったいどこから聞きつけたのか、そもそも本当にの両親なのか。疑えばきりがないが、もしこれが本当にの両親からの手紙であれば救いがないと、骨喰は唇を噛み締めた。
人とはここまで醜いものなのか。自らの都合で子を捨てておきながら、その子が財を持っていると判った途端に自らの所業に対する謝罪もなくその財に集るとは。
「骨喰?」
 不思議そうに首を傾げたに、骨喰はハッと我に返る。表情があまり表に出ない性質であることに感謝した。手紙も読めないほどの弱視であるはしかし、骨喰たち人ならざるものの姿は良く見えてしまうから。
「……息災かと。健やかであればそれでいいと、幸せを願っている」
 思わず告げた嘘の内容に、は顔を綻ばせて微笑んだ。その笑顔はあまりに美しくて、骨喰は胸が締め付けられるような思いだった。
「文箱に、仕舞ってくる」
 が少し残念そうな顔をしたが、あまり強くものを言わないは足早に去る骨喰を黙って見送った。庭で焚き火をしている鯰尾を見つけて、ぐしゃりと握り潰した手紙をその火中に投げ込んだ。
「何燃やしたの?」
 鯰尾の問いに、骨喰は答える。
「取るに足らない、落書きだ」
 ふーん、と鯰尾は大して興味もなさそうに芋を焚き火の中に入れる。その芋はどちらのものかと問うた骨喰に、鯰尾は笑顔で答えた。
「あっちの」
 骨喰は、まだ生焼けの芋を火から取り出して鯰尾の口に捩じ込む。熱い不味いと騒ぐ兄弟分に、何故か心が安らいだ気がした。
 
161024
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