「紅明君はー、万年寝太郎でーすねー」
パンッと、耳元で破裂音がして軍議明けの紅明は叩き起された。
「はぁい、こんにちわぁ。ルフの宅急便でーすよーう。今なら大出血セールで受信無料でーすよー」
「ああ、ですか……そこに置いといてください……」
「だーが断るー、家に帰るまでが遠足なのと同じくぅ、手渡しするまでがお届け業務でーすよーう」
耳元で跳ねる独特な声に、これまでの経験からも受け取らない限りはずっと緩慢に喋り続けるのだろう、と悟った紅明はさっさと受け取ってさっさと二度寝しよう、と諦めて目を開ける。思っていたよりも至近距離で、深緑の空に浮かぶ銀の星がきらめいた。
「紅明君はぁ、お疲れですねぇ、勤労は美徳ですよぅ。どこぞのサボり魔にも見習わせたいー」
「褒めてくれなくていいですから、はやいとこ眠らせてください」
「紅明君のー、その自分の欲求に忠実なところぉ、結構好きでーすよぅ。はい、それでは確かにお届けしましたぁ」
「あなたのその口調何とかならないんですか……力が抜けます」
紅炎のものよりやや黒が強い紅のインクで宛名が書かれた封筒を受け取りながら、紅明が欠伸をする。
「紅明君は元からー、海月のごとく骨無しのくせにぃ。私は人間じゃあないのでー、話すのが下手なーんでーすよーぅ」
「……人間じゃないんですか?」
「元は醜い鳩の子でしたぁ。偉大なるお方のご慈悲でー、この姿と名前と至上の職務を賜りましたー」
「……鳩、」
「なぁんちゃってぇー、信じましたあ?」
が鳩だと聞いて途端に瞳を輝かせた紅明に、は瞳の星を散らせる。
「嘘なんですか」
「君が嘘だと思うなら本当でー、本当だと思うならぁ、嘘でーすよー」
「…………」
謎かけめいた言葉に深く考えることをやめた紅明は、封筒を握り締めて目を閉じる。手の中の封筒は白い無機質な紙であるのに何故かほんのりと暖かく、今夜はよく寝られそうだ、と紅明は口の端を持ち上げた。
150719