いるの!? いた!! 炎兄の言った通りだ!」
「おやまあ紅覇君……君にもルフの宅急便ですよぅ、速やかに受け取って疾く去んでくださーい」
「ちょっと、ってば僕に冷たいんじゃないの!?」
「歩くギロチンに見つかったら塩対応にもなりますよーう」
「ギロチンって何?」
「首を裁断する処刑器具でーす」
 なるほど、と紅覇は手に持った如意練刀を見下ろし頷く。それまでの興奮を忘れたかのように大人しくなった紅覇に、は革のポーチから鮮やかな桃色で宛名の書かれた封筒を取り出して差し出した。ちなみにここはまだ紅明の部屋で、押し入ってきた紅覇ももまったく声を潜める様子もなく通常通り喋っているのだが、紅明が目覚める様子は欠片もない。
「どうぞー、今なら大出血セールで受信無料でーすよー」
「受信有料の時っていったいいつあるの?」
 決まり文句に突っ込みを入れながらも紅覇はから封筒を受け取り、その場でさくっと封を開けた。白いルフが旋風のように巻き上がり、紅覇の濃い桃色の髪を揺らす。
「いっつも思うんだけどさぁ、」
「なんですー?」
 飛び去るルフと共に消えて行く封筒を見下ろしながら、紅覇がぽつりと呟いた。
「この封筒を開けると、嬉しくて、少し懐かしくてくすぐったくて、あったかくて幸せな気持ちになるんだよねぇ。殺したり嫌われたり気味悪がられたりの僕が、いったい誰にこんな気持ちを送ってもらってるわけ?」
「君を慕う人ー、君をおーさまと崇敬する人ー、君を我が子と慈しむ人ー、君に救ってもらったと感謝する人ー、いっぱいいるじゃあないですかぁ」
「……我が子?」
 その他の言葉は言われたら納得出来なくもないが、ひとつだけ看過できない言葉を紅覇は繰り返した。あの父親が人並みの愛情を紅覇に向けているとは思えないし、母親は――
「たとえ気が違ってしまっていてもー、その奥に息づいている感情があるんですよーう。そういうー、直接伝えられなくなってしまった思いを伝えるのもー、私のお仕事ですしぃ」
 紅覇の疑問を見透かしたかのように深緑の奥で銀色が光る。柔らかい笑みを浮かべるに、紅覇もニッと笑い返した。
「……ありがと」
「いえいえー、お仕事ですからー」
「ねぇ、、お礼に遊んであげるよ!」
 いい話だなで終わりそうだった空気が、やたらと眩しい笑顔を浮かべる紅覇の提案で一気に凍る。
「鬼ごっこしよう? 
「えぇー、お断りでーすよーう。私は勤務中でーす」
「そんな事言わずにさ……っ!」
 前振りも無しにザンッと振り下ろされた刃が床を裂いた。紅明が気の毒だ、と思いつつもひょいひょいと刃を躱す
を捕まえて炎兄のところに引き摺っていったら喜ぶだろうしぃ、ね?」
「私が嬉しくありませんー」
「大丈夫、の腕の一本や二本もぐことができたら僕が喜ぶから!」
「何が大丈夫なのかぁ、さっぱり理解できませんよぅ」
 眼光を鋭くギラつかせて次々とに斬りかかる紅覇。あちこちの物を壊しながら、二人は部屋の外へと飛び出して行く。紅明は、部屋の惨状も知らずに夢の世界に旅立ったままだった。
 
150719
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