「はぁい、ルフの宅急便でぇーす」
 ひらりひらりとバック転しながら、ジュダルの目の前に現れた宅配業者に、ジュダルは気だるげだった赤い瞳をきらりと輝かせた。今なら大出血セールで受信無料でーすよー、と踊るように回ったから差し出された、赤の縁取りがされた黒で宛名が書かれた封筒をひったくるようにして受け取ると、に斬りかかる紅覇に加勢して氷の槍を至近距離で撃ち出す。それを側転で躱すと、は溜め息を吐いてキャスケットを掠めた紅覇の刃からひょいっと身を引いて避けた。
「ほんとー、君たちは戦闘民族ですねぇ、ファナリスの皆さんの方がまだ平和的ですよぉ」
「なあ、遊びに来たんだろ? 今日こそ殺してやるよ!」
 ぼやくの言葉も無視してどかどかと氷を撃つジュダルに、ちょっと邪魔しないでよぉ、と不機嫌そうに眉をひそめる紅覇。
「どこにもいない人間をどう殺すのかお聞かせ願いたいものですけどぉ、」
 紅覇の刀とジュダルの氷で無残に破壊されていく城内を見ながら、はくるくると身を踊らせるようにそれらをかわし続ける。苛立ったようにジュダルが雷を落とせば、その影から紅覇が金属器を巨大化させて叩きつける。
「何で反撃しねーんだよ! かかってこいよ!」
「どこにもいない人間がぁ、そこにいる人間に危害を加えられるわけがないでしょうよーぅ」
「意味、わかんねー……よっ!」
 それをも躱すを挑発しても、返ってくるのは気だるげで曖昧な言葉のみで、ジュダルは舌打ちして一際大きい氷を落とした。
 これはさすがに避けられないだろう、と笑ったジュダルだが、しかし次の瞬間に目を見開く。庭に突き刺さった氷塊のてっぺんで、が緑の黒髪をなびかせ懐中時計を開いて立っていた。
「すみませんねー、紅覇君、ジュダル君。そろそろお時間なのでぇ、お二方と遊んであげられるのはここまででーすよーう」
「えー、もっと遊んでいきなよー」
「そうだよ、もっと遊んでいけよー」
 ぶーぶーとブーイングする二人にはふっと笑う。深緑にきらめいた銀色に、ジュダルは初めてあの瞳を目にした時からずっと、あの星を抉り出したいと思っていたことを思い出して口角を吊り上げる。
「なあ、お前の目って綺麗だな」
「どうもー、ありがとうございますぅ」
 素直に褒めてやったというのに、こちらに視線を寄越しもしないが少し腹立たしい。懐中時計を開いてしまったら後は何を言っても遊びに付き合ってはくれないと理解している紅覇はさっさと踵を返す。なおも下から話しかけ続けるジュダルに緩慢な口調で返事を返しながら、は盤上を見つめていた。黒い霧を纏った赤い星がふらふらと揺れている。その星に一番短い針と二番目に短い針が重なった刹那、はぱちんとそれを閉じた。
「ちゃあんと読んでくださいねぇ、ジュダル君。それではまたいつかぁ、お会いしましょうー」
「わかってるよ、じゃあなー」
 ジュダルの言葉が終わるや否や、瞬く間に姿を消したにジュダルは舌打ちをする。ジュダルの手の中で冷たいのにどこか温かいぬくもりを持つ封筒が存在を主張して、ジュダルはそれを力の限りに握り潰した。
 
150721
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